69話 やっと兄様と会えた
後書き修正
ぼくは今、すっごく怒ってる。ダンテがぼくに光魔法を使ってきたからね。
「悪かったって、ヴァン君。無視してないで何か言ってくれよ」
返事なんてしてあげないもん。ディオスとドロップ品を集めてるんだからあっち行ってよね。
ドロップ品のほとんどは蜘蛛型魔物のものだけど、何個かは蜘蛛に擬態した小さい鳥型の魔物のスモールヨタックやスパイダースライムの物もあった。
「なー、頼むよ。俺の鱗を好きなだけあげるからさ」
しつこいな、もー。ダンテの鱗なんかいらないよ。
「おいダンテ、そんなにしつこいと余計に嫌われるだけだぞ。あと、ヴァンもそろそろ許してやれ。ほら、ダンテは向こう側のドロップ品を拾って来い」
「ピポル、そう言って俺を追っ払った後でお前がヴァン君の隣でドロップ品を拾うんだろ? 俺は見たんだからな、キューティースレイショーで具現化した中にヴァン君がいたのをな!」
「な、なんの事だか分からないな……」
そのまま2人は言い合いを始めちゃった。あー、もう本当に面倒臭いな。
アネットはアネットで、少し離れた場所でディオスに触る機会を伺ってるし、エリンはまだ気を失ってる。マーティは蜘蛛型魔物のドロップ品なんか触れないってエリンの側にいる。
「もー! 早く拾い集めてよ! 喋ってばっかりで全然集めてないよね? ドロップ品が要らないなら、ぼく先に行くからね!」
ぼくは欲しいと思ったヒュージトライスパイダーの魔核と少し大きめの魔石だけ確保できたから他は要らない。雪原の輝きのためにドロップ品を集めてあげてたのに、やってられないよ。もう拾うのを止めてダンジョンの出口へ行こう。
「あ、待って! ちゃんと集めるから一緒に居よう!」
「俺ももう少しヴァンの話を聞きたいんだ、悪かった。ちゃんと集める」
2人は慌てたようにぼくを引き止めると、真面目にドロップ品を集め始めた。
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「ふぅ、凄い量のドロップ品だったな。しばらくは金に困ることはないな」
ピポルがほくほく顔で言ってる。
「俺たちのアイテムボックスに入らない分はヴァンが持って行ってくれ」
本当は要らないんだけど、一応もらっておくことにしたよ。もしかしたら兄様が欲しい物もあるかもしれないしね。
「ヴァン君、スパイダーガーデンの中に入るなんて無茶、もうしては駄目よ。あなたが強いのは分かってるけど、私は気を失うほど心配だったんだから」
平気なのに。
それにちゃんとヒストリアで中に厄介な魔物がいないかも見てたから大丈夫だよ。だけど、ヒストリアのことは言っちゃダメだから、とりあえず分かったって言っておいた。
「……ディオスに触れない」
アネットは隙を見てディオスに触ろうとしてるけど、ディオスはコピーされたくないみたいでアネットを避け続けてる。
「じゃあ、遺跡に行くよ。遺跡に転移装置があればそこでバイバイだからね」
今度こそ、ぼくたちはマクルリアの遺跡に向かって歩き始めた。
「おいピポル」
「あぁ、分かってる」
ダンテとピポルがこそこそ話をしてるけど、知らんぷりだよ。どうせ、ぼくをパーティーに誘いたんでしょ。
「わぁ、すごーい!」
マクルリアの遺跡は石でできた綺麗な庭園みたいになってて、沢山の火精霊が楽しそうにしてる。所々、溶岩が涌き出てたり、色鮮やかな火が草花の形をしてて暑いけど、寒いよりは断然いいと思う。
「火精霊がこんなに沢山……アネットとダンテは先天属性が火なんだし、誰か契約してくれないかな。もちろん俺たち全員と契約してくれたら1番だけど」
マーティはさっきまでと違って、生き生きしながら遺跡を見回してる。
「……でも私達に興味無さそう」
アネットの言うとおり、火精霊は遺跡に入って来たぼくたちをチラッと見ただけであとは無関心を貫いてる。
というより、遺跡の奥の方に関心が向いてるみたい。エリンも遺跡には興味があるみたいだけど、暑さに辟易した顔をしてる。
「脱出できるかだけでも、教えてくれないもんかね」
ピポルは火精霊に話しかけてるけど、無視され続けて少し悲しそう。仕方ないな、ぼくがヒストリアで調べてあげるよ。
「あ!」
「お、どうしたヴァン君?」
ダンテがぼくの様子を伺ってくるけど関係ない。
「え、待ってヴァン君! 1人でいっちゃ危険よ!」
兄様だ! 兄様がついさっきまでここにいたみたい。ぼくの到着が遅いからって様子を見に来てくれたんだ。だから火精霊が気にしてたんだね。早く追いかけなくちゃ。
「待てヴァン! くそっ、ここではぐれるのは不味い! 追いかけるぞ!」
「兄様ーーー! 待って兄様!!」
「コルキス!?」
ぼくは声に気付いて振り返った兄様に思いっきり抱き付いた。
「冷たいよコルキス」
兄様は水の膜に覆われてたけど、それを突っ切ってびしょびしょのまま兄様にくっついたんだ。
「いいの!」
「はあ……いいのか。それにしても遅かったじゃないか」
兄様はそう言ってぼくの頭をぽんぽんしてくれる。くふふ、やっぱり兄様だと落ち着くなぁ。
『本当だぜ! アルフが迎えに行くって聞かねぇから、バカ暑いのに来てやったんだぞ』
『まったく、何をしておったんじゃ。コルキスなら昼前には儂等の所まで来れたじゃろうに』
感じの悪い人形に入ったアクネアとティザーが 、ぼくの頭を瓶でコツコツ叩いてきた。グルフナもそれに便乗したけど、ディオスに絡めとられてる。
「あのね、変な蜥蜴獣人達に追いかけられちゃって遅くなっちゃったんだ。ごめんなさい」
「追いかけられた!? 大丈夫か、何もされなかったか!?」
兄様は凄く心配そうに聞いてくれた。
「うん、足手まといだったけど――」
『ん、何か来るぞい』
『ちっ、しょうがねぇな』
アクネアが、ぼくの後ろの方に持ってた瓶を投げつけた。
「な!?」
「きゃっ」
「うわぁ!」
「がばごぼ……」
「……水?」
『何だ何だ? テメェらがコルキスを追っかけ回したっていう蜥蜴獣人か?』
ガラの悪い口調でアクネアが問い詰め始める。振り返るとダンテとマーティが水の壁の中に閉じ込められてた。
「あ、待って。マーティは悪くないから」
ぼくは兄様から離れて、アクネアを止めた。ディオスもティザーと兄様にちょっと待つようにってしてくれる。
「この人達はね……」
ぼくはここに来るまでの事を兄様達にお話しした。その間はティザーがピポル達を土魔法で隔離してたけど、事情が分かるとすぐ解放してくれた。
『これはコルキスが優しくなった喜ぶべきか、機会を逃したと悲しむべきか……』
ティザーが複雑そうな声でそう呟いた。機会ってなんだろう。
『まあいいんじゃねぇのか? ヴォルキリオの分身と戦わせなくてもコルキスは成長したみてぇだしよ』
ヴォルキリオの分身!? なにそれ、すっごく興味があるんだけど!
「あの、ヴァン?この人は一体……」
ピポルがおずおずと聞いてくる。
今はヴォルキリオの分身の方が気になるんだけど、さっきからどうして良いか分からないなって雰囲気のピポルたちを放って置くのも何だか悪くて答える事にした。
「ぼくの兄様だよ。ここで待ち合わせしてるって言ったでしょ」
「兄様?一応聞くけど、あれは素顔じゃないよな?」
ちなみに兄様は今、可愛い兎の被り物をしてる。念のために顔は見せないんだって。
「そんなわけないでしょ。兄様は間抜け面だから皆に見せるのが恥ずかしいんだって」
「おい」
兄様が抗議の声を挙げたけど今は無視しよっと。あー、でもピポル達には何て説明しようかな。
「始めまして、皆様。私はジュエルランク商人のアルファドと申します。弟のコルキスがお世話になりました。特にマーティ様には鱗を提供していただいたとか。ありがとうございました」
ぼくが考えてたら、兄様が勝手に話し始めた。むー、ぼくが説明したかったのに。
『ここはアルフに任せとけよ。アルフはヴァロミシアに鍛えられてっから口は達者なんだぜ』
アクネアがククって笑いながらぼくを下がらせた。
「お礼と言っては何ですが、皆様には格安でアイテムを販売させて頂きます。ここには仕入れで訪れたのですが、なかなか良い物が手に入りましてね。あぁ、帰りに必要な火と氷の魔石と上級マジックポーションは無料でお譲り致しますのでご安心下さい」
王族仕込みの優雅な仕草で話す兄様に圧倒されたピポル達は、畏まって頷いてる。
『コルキス、ヒストリアで頼むぞ。ここに来るまで9つのダンジョンを通って来たんじゃが、ドロップ品や宝箱が多くてな。調べるのが面倒でそのまま回収したんじゃ』
あ、でも今はピポル達はアイテムボックスが満杯だから買ってくれないかも。
「そ、それは有難いんだが、俺達は今はドロップ品でアイテムボックスがぱんぱんなんだよ」
「……一度地上に戻ってからにして欲しい」
やっぱりね。兄様どうするんだろう。
「では、商品はコルキスに持たせましょう。一緒に地上に戻り、アイテムボックスに余裕を作った後で是非お買い求め下さい」
ええっ!?
「やだ!! ぼくもう兄様と離れないからね!!」
やっと兄様の所に来たのに、何でまたすぐに別々にならなきゃいけないの!?
『お、おいコルキス?』
アクネアが新しい瓶を取り出しながら驚いてる。
「ぼく絶対やだからね!」
急に大声を出したぼくを皆が見てるけど、やなものやなの。
「我儘な弟で申し訳ありません。では、御一緒させて頂いても宜しいですか?」
「助かる。あと、地上には別のメンバーも居るんだ。そいつらにも売ってもらえるかな?」
ブレインとレギオだっけ? 確か、グラディエーターとバロネスピエロって言ってたなぁ。
「もちろんでございます」
「確かあなたって冒険者でもあるのよね? 悪いんだけど、冒険者として話してくれないかしら。ちょっと慣れなくてむずむずするのよ」
くふふふ、兄様ったら絶対いい格好しようと思ってあの喋り方したんだろうけど、止めてって言われてる。
「……分かった。これでいいか?」
「えぇ、ついでに素顔も見てみたいわね」
一瞬固まった兄様をぼくは見逃さなかったよ。口は達者って言ってもそこまでじゃないんじゃないかな。
『まぁ、問題ないじゃろ』
『もしバレても俺が何とかしてやるろ』
あ、アクネアってばお酒を飲み始めてる。
「じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど……」
兄様、絶対そんな風に思ってないんだろうな。エリンとアネットが自分に見とれるって考えてそう。
「やだ、凄いじゃない……」
「……私と付き合って」
皆には分からないだろうけど、兄様はご満悦って感じだよ。あとでからかっちゃおうっと。
「じゃあ、早くさっきの所へ戻ろう。分かりにくいけど、石像があるから。ぼくに着いてきて」
ぼくは皆を率いて来た道を戻った。
「なぁ、本当の名前はコルキスっていうんだな。可愛い名前だ」
ピポルが小さな声で言ってきたけど無視したよ。
地上に戻って来ると、もう夜になってた。結局、お店やさんは明日お昼頃ってことになった。
~入手情報~
【名 称】魔核
【分 類】迷宮石
【属 性】魔物の先天属性またはダンジョンの属性と同じ属性
【希 少】☆~
【価 格】-
【コルキスのヒストリア手帳】
ダンジョンの魔物だけが持つ核。
魔石によく似てるけど決定的な違いは落とした魔物の性質が宿ってることだよ。例えばヒュージトライスパイダーの魔核には麻痺毒の含まれた糸を発生させる力があるね。物によって違うけど、たいていの物は数回使用すると消滅しちゃうね。当たり前だけど、強い魔物や珍しい魔物の魔核は希少も価格も高くなるよ。
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【種族名称】
スモールヨタック
【先天属性】
必発:水
偶発:火/風
【適正魔法】
必発:水
偶発:風/氷/火
【魔核錬成】
詳細不明
【初期スキル】
高速啄み
【固有スキル】
蜘蛛擬態/スパイダーフェロモン
【通常ドロップ】
嘴/羽
【レアドロップ】
魔核/蜘蛛避け羽/蜘蛛寄せ羽
【コルキスのヒストリア手帳】
小さな鳥型の魔物。
スパイダーガーデンにだけ生息している魔物で、そうそう出会うことはないんじゃないかな。蜘蛛型の魔物に擬態しているだけじゃなくて、固有スキルを使うことで、周囲の蜘蛛型魔物に仲間だと思わせてるんだって。共食いの標的になることも無いし、好きなだけ蜘蛛型魔物を補食しているGランクの魔物だよ。
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【種族名称】
スパイダースライム
【先天属性】
必発:氷
偶発:土/水/植物
【適正魔法】
必発:氷
偶発:水/植物/影
【魔核錬成】
詳細不明
【初期スキル】
不眠/消化液/偽糸粘液
【固有スキル】
知覚阻害/瞬間捕食/蜘蛛の心得
【通常ドロップ】
偽糸粘液/解毒ポーション/粘りスラ肉
【レアドロップ】
魔核/蜘蛛変身薬/スパイダーエキス/小さな恨み
【コルキスのヒストリア手帳】
蜘蛛の形をしたスライム。
スライムの上位種で、自然界だと蜘蛛型魔物が多い場所に生息してるよ。スパイダーガーデンの中にいる個体は少し特殊なんだ。固有スキルのお陰で周囲の蜘蛛型魔物から認識されなくなっているんだよ。孵化直後の蜘蛛型魔物が好物だけど、成体も普通に補食しているFランクの魔物だよ。




