65話 兄様と合流したいのに
後書き修正
ぼくと一緒に寝ていた母様は分身体だった。
本物の母様は、ぼくを喜ばせるため夜中に出かけたっきり戻って来てないってディオスが教えてくれた。
「母様はどこにいるの?」
「コルキス、私はミュトリアーレに向かうわ。おやつをたくさん作っておいたから持っていってね」
分身体の母様はそう言ってぼくを抱き締めると消えちゃった。おやつは嬉しいけど、母様ともっと一緒にいたかったのに。
「ディオス、母様行っちゃった。ミュトリアーレに行くって……ぼくまた失敗しちゃったのかな」
ディオスは、ぐにゅぐにゅした体で一所懸命ぼくを慰めてくれる。ぼくは気を取り直して、テーブルの上に山盛りになってる母様のおやつを仕舞うと、兄様の所を目指した。
「ねぇディオス、兄様は入り口にあるベレーザと火精霊の石像にヒストリアを使えって言ってたよね?」
ディオスが肯定するのを見てヒストリアを使うと、兄様たちはマクルリアの町に来る途中で見かけた丘陵地帯に行くって言ってるのが見えた。
くふふ、おどおどしながら石像に話しかけてる兄様の顔って間抜けでおかしいな。ぼくも母様みたいに感覚共有できたらディオスにも見せてあげられるのに、残念。
ついでに、このベレーザの石像があのヴォルキリオによって作られたと分かってびっくりしちゃった。しかも、ここの下に遺跡もあるなんて。
それにベレーザが召喚した火精霊がヴォルキリオだってことも。でもこの火精霊って確か――
「うわっ……何?」
「よう坊主、お前今ここから出てきたよな?」
「そうだけど何なの?」
ぼくが兄様の間抜け面を見て楽しい気分だったのに、汚い格好をしたおじさん達に囲まれちゃった。
あ、昨日の山羊獣人もいる。
「ちょっとオジサン達とお話しようぜ。お前可愛いからいいこともしてやるぞ。な、いいだろ?」
無精髭の生えた涎ゴブリンみたいなオジサンが、穢らわしい笑顔でぼくの手を掴んできた。
「やだ! オジサン臭い、あっち行け!」
「ギャハハハ! フルパ、お前臭いってよ!」
オジサンの仲間が笑い始めた。皆、醜い顔してるなぁ。
「うるせえよ! おら、さっさと行くぞ!」
うー、何だよこの人達、ぼく急いでるのに……そうだ! ちょうどいいから霧化を使ってみよっと。
既にオジサン達の死角から攻撃しようとしていたディオスを止めるとぼくは霧になった。
「な!?」
凄いや、あっという間にオジサン達を無力化できちゃった。母様にお稽古してもらった時も思ったけど、スピードも霧を広げられる範囲も前とは段違いだ。
「魔物以外は殺しちゃダメって言われてるから、死なない程度に血は残してるからね。あと、ちゃんとお風呂に入った方がいいよ。オジサンたちって血まで臭いんだもん」
奪った血を捨てると、ぼくはディオスも霧にして丘陵地帯へ向かった。
もう、兄様ってば地面に潜るなんて何を考えてるの。ぼくは影魔法しか使えないから、ティザーみたいにできないのに。兄様が言ってた丘陵地帯に来てヒストリアを使ったら、寒いからって地面に潜って行く兄様たちが見えた。
「どうするディオス? ぼく地面に潜れる魔物って吸血したことないんだよね」
不完全変身するためには吸血しなきゃいけない。でもぼくはワーム系とかモール系の魔物は血を吸いたくならないんだ。だって美味しくなさそうなんだもん。
ぼくが困っていると、ディオスがベレーザの石像の形になった。
「えー、遺跡に行くの? 兄様達が遺跡にいるかも分からないのに?」
するとディオスは、何もない所からとっても小さなディオスを2つ出した。可愛いなぁ、こんなこともできるようになったんだ。この子たちはミニディオスって呼ぼう。
ディオスは本体を目の形にしてミニディオスを見てるから、ヒストリアを使えってことなのかな。どうしてジェスチャーなんだろ?
1つ目のミニディオスは、メファイザ母様を尾行してた。
「母様、受け付けにいた蜥蜴獣人から話を聞いてる……」
それだけじゃなくて、ぼくが寝てる間に町で青髪の男を探してた。何で母様がミュトリアーレへ行くのか不思議だったけど、ディオスのお陰で分かったよ。
ぼくと一緒にいたのがシュナ兄様かミラ兄様かもしれないと考えたんだと思う。2人とも青髪じゃないけど、何かあると大抵ぼくとペアにされるから。
ミラ兄様は物静かでつまんないけど、シュナ兄様は同腹の兄弟がいない同士で仲が良いんだ。
途中で母様に気付かれそうになったところで、ミニディオスの歴史は終わってた。
2つ目のミニディオスは兄様と一緒にいたみたい。
へぇー、冷たい魔法金属にヴォルキリオの封印かぁ。グルフナが壊した壁の向こうはマクルリアの遺跡ってティザーが言ってる。それにティザーが兄様を眠らせた後で、遺跡を通ってここまで来いってミニディオスに言ってた。
ぼくが歴史を見終わるとミニディオスは消えちゃった。
「ありがとうディオス。でもさ、もっと早く教えてくれたらよかったんじゃないの?」
ぼくがディオスをじっと見つめると、少し慌てた様子を見せてそっぽ向いた。たぶん、忘れてたんだな。
ぼくは急いでマクルリアの町に戻って買い物をした。
マクルリアの遺跡に行くには、先ずベレーザの祈り亭でやらなきゃいけないことがあるからね。火の魔石と上級マジックポーションはすぐ買えたけど、肝心の蜥蜴獣人の鱗はどこにも売ってなかった。
「な、なあ……お前ってヴァンパイアハーフの冒険者だよな? Eランクの。蜥蜴獣人の鱗が欲しいのか?」
仕方ないからそこら辺にいる蜥蜴獣人に鱗をもらおうと思ってたら、若い蜥蜴獣人の男が話しかけてきたよ。
ぼくのことを知ってるみたい。どこかで会ったのかな?
ヒストリアで確認すると、さっきのオジサン達とのことを見てたって分かった。
「うん。ぼく、どうしても蜥蜴獣人の鱗が必要なんだ」
「そうか……お、俺ので良かったら1枚やってもいいぞ」
「本当に? ありがとう」
「あ、ちょっと待て!」
ぼくが鱗を剥がそうとしたら、慌てて止められちゃった。
「くれるんじゃないの?」
「か、可愛い……あ、いや何でもない。鱗って剥がすとき痛いからさ、優しくな、優しく」
なんだろう、ちょっと気持ち悪いなこの人。ディオスも警戒気味になってる。
「うん……」
「ダンテーーー! お前何やってる!?」
「なんなのーもー」
あとちょっとで鱗が剥がせるとこまで手を伸ばしたのに、今度は別の蜥蜴獣人がぼくを抱えて、ダンテって蜥蜴獣人から引き離した。
「お前、さっきもこの子を見て不穏な事を言ってたよな。何しようとしてたんだ!」
どうでもいいから早く鱗ちょうだいよ。
「ち、違う! この子が困ってたから手助けをだな……」
「嘘言うんじゃない! 優しく優しくって気持ち悪い顔で言ってたじゃないか!?」
「そ、それは痛いのは嫌だろ?」
「痛いだって!? お前、本当に……」
痛いのはぼくなんだけど。この人、力一杯ぼくを抱き締めてるからお腹が圧迫されてるよ。
「ねぇ、離してよ。ぼくは鱗をもらおうとしてただけなんだよ。何もされてないからいい加減離して!」
「そ、そうだ! お前ばっかりその子を抱き締めてズルいぞ!」
「ダンテ、お前って奴は……」
また、2人が言い合いを始めちゃったよ。
「もー! ぼく急いでるの!」
「いだぁーー!!」
面倒臭いからこいつのでいいや。
「あぁぁぁぁ!! 何でマーティの鱗を!?」
「鱗ありがとね。痛いの痛いの飛んでけー」
ぼくはマーティって呼ばれた蜥蜴獣人の手をオーラで治してあげてその場を後にした。ダンテって人が何か言ってるけど無視だよ無視。
「急がなくっちゃ」
ベレーザの祈り亭は高級宿なのと、少し外れた場所にあるから人通りが少ない。
「今なら誰も見てないかな」
ヒストリアで見たとおり、蜥蜴獣人の鱗を火精霊の手に、火の魔石はベレーザの石像の手に置く。後は上級マジックポーションを両方の石像の手に溢れるくらい注ぐと、地下のダンジョンまで転送してくれる。
「おーい、ヴァンパイアハーフくーん!」
げ、またさっきの蜥蜴獣人だ。ダンテとマーティ、それにあと何人かがこっちに走って来てる。
あー、違った。皆がダンテを追いかけて来てるんだね。面倒臭そうだからさっさと上級マジックポーションを注でにげちゃおう。
「せっかくだから俺の鱗ももらってよ!」
「「「ダンテーー!」」」
急いだんだけどな……間に合わなかったみたい。皆一緒にダンジョンまで転送されちゃった。
もう!
ぼく急いでるって言ったのに何なのこの人!?
~入手情報~
【名前】フルパ
【種族】人間
【職業】誘拐団員
【年齢】40歳
【レベル】39
【体 力】132
【攻撃力】141
【防御力】67
【素早さ】103
【精神力】29
【魔 力】40
【通常スキル】
誘拐/誘惑/捕縛術/短剣術
【固有スキル】
スメルイリュージョン/忘却接吻
【先天属性】
土
【適正魔法】
無し
【異常固定】
オルルアンラッキー
~~~~~~~~~
【名前】ダンテ
【種族】蜥蜴獣人
【職業】冒険者/プリーストファイター
【年齢】19歳
【レベル】26
【体 力】109
【攻撃力】267
【防御力】45
【素早さ】178
【精神力】221
【魔 力】292
【通常スキル】
格闘/祈り/鼓舞/説法
【固有スキル】
獣化/冬眠/麻痺毒/子供好き/テールアタック/ライトアンシェヌマン
【先天属性】
火
【適正魔法】
火魔法-下級/光魔法-中級(条件付きで使用可)
~~~~~~~~~
【名前】マーティ
【種族】蜥蜴獣人
【職業】冒険者/ウォーロック
【年齢】18歳
【レベル】28
【体 力】82
【攻撃力】24
【防御力】31
【素早さ】38
【精神力】666
【魔 力】516
【通常スキル】
召喚/消費魔力微減/短縮詠唱/影耐性
【固有スキル】
獣化/誓約破り/テールアタック/シニスタープレイ/エンチャントデビル
【先天属性】
風
【適正魔法】
風魔法-中級/火魔法-下級/影魔法-下級(条件付きで使用可)
~~~~~~~~~
【名前】ディオス
【種族】リキッドマナストーン
【職業】使い魔
【年齢】0歳
【レベル】40
【体 力】505
【攻撃力】2813
【防御力】1439
【素早さ】1185
【精神力】206
【魔 力】5007
【通常スキル】
甘える/硬化/滅多打ち/隠形
【固有スキル】
氷耐性増/土耐性増/水耐性増/魔力栄養化/変形/飛行/分裂/自然界魔素吸収/影属性吸収/物理ダメージ吸収
【先天属性】
無
【適正魔法】
無魔法-中級/影魔法-中級/氷魔法-下級/水魔法-下級
~~~~~~~~~
【種族名】涎ゴブリン
【形 状】病魔ゴブリン型
【危険度】D
【進化率】☆☆☆☆☆☆☆
【変異率】☆☆☆☆☆☆☆
【魔力結晶体】
変異種にのみ発生
【棲息地情報】
世界各地の湿地帯、森林、洞穴等
【先天属性】
必発:土
偶発:火/水/風/氷/雷/毒
【適正魔法】
必発:-
偶発:土/火/水/風/氷/雷/毒
【魔物図鑑抜粋】
常に涎を垂らしている汚く醜いゴブリンでそこそこ強い。涎が体内に入ると痺れしまい、数日後には酷い湿疹と高熱にうなされる。涎ゴブリン専用の解毒ポーションを使用しなければ、最悪死にいたるだろう。変異種や上位種も多く確認されており、上位種はAランクの個体も存在する。ゴブリン族と呼ばれる亜人とは全く別の生き物である。
~~~~~~
【名 称】火の魔石
【分 類】魔石
【属 性】火
【希 少】☆☆
【価 格】共通銅貨5~
【コルキスのヒストリア手帳】
火の魔力が結晶化したもの。
魔道具や装備品に用いられる事が多いよ。先天属性が火だった場合、この魔石を吸収して魔力の回復や一定時間火魔法の威力を上昇させることができるよ。品質によってピンからキリまであるよ。
~~~~~~~~~
【名 称】ベレーザと火精霊の石像
【分 類】魔動具
【属 性】火/氷
【希 少】☆☆☆☆☆☆☆
【価 格】-
【コルキスのヒストリア手帳】
ベレーザの祈り亭の入り口にある大きな石像。
両手を開いて祈る姿のベレーザと、彼女に何かを手渡す仕草の火精霊の石像。いつでも弱々しい赤い光をまとってるよ。内緒なんだけど、これって火精霊ヴォルキリオが作り出した転送装置なんだって。ベレーザの手に火の魔石、火精霊の手に蜥蜴獣人の鱗を置いて、上級マジックポーションでお互いの手を満たすと、地下にあるダンジョンへ転送してくれるんだよ。元々は別の場所にあったんだけど、ベレーザの祈り亭の主人が買い取ってり入り口に飾ってるよ。
~~~~~~~~~
【名称】蜥蜴獣人の鱗
【分類】鱗
【属性】個体によって様々
【希少】-
【価格】-
【コルキスのヒストリア手帳】
蜥蜴獣人の身体を覆っている鱗。個体によって色が微妙に違う。
~~~~~~~~~
【誘拐団芳しい誘惑】
メネメス国で指名手配されていた犯罪集団。
冒険者崩れのフルパを筆頭に少数精鋭の誘拐を専門にしていた。金になりそうだと思えば老若男女構わず連れ去り、身代金をふんだくる手口。それぞれの団員の能力が高いこともあり長年捕まっていなかったが、コルキス・ウィルベオ・クランバイアの誘拐に失敗し投獄された。
~~~~~~~~~
【裏話『ヴァンパイアハーフの少年を目た獣人』】
「お、おい見たか今の?」
「おう、あの子供ヴァンパイアだったのか」
「いやヴァンパイアハーフだって。メネメッサでEランク登録になったルーキーって噂になってるだろ」
「あぁ、ジュエルランク商人の愛人っていう。あんな子が愛人だなんて羨ましいぜ」
「は? お、お前……」
マクルリアの町で誘拐団芳しい誘惑が捕まったこの日、蜥蜴獣人の冒険者が、パーティー内で厳重警戒され始めたことはあまり知られていない。




