60話 早起きさせられた
後書きのハーフリングに追記。
朝、それも早朝に誰かが部屋を訪ねてきた。
俺にしがみついて寝ているコルキスを剥がす事が出来ず、俺はコルキスを抱っこしたまま部屋のドアを開けると粉雪の眠り亭のオーナーさんが立っていた。
「このような時間に申し訳ありません。アルファド様とお約束されたと言う3名のEランク冒険者がやって参りまして。時間が時間ですのでお断りしたのですが、頑なに会わせてくれと繰り返すもので……」
申し訳ない顔でオーナーさんが伝えてくれる。まったくグレスの奴、朝とは言ったけどまだ夜明け前じゃないかよ。
「すみません、俺の客です。まさかこんなに早く来るなんて。通してもらって構いません」
「分かりました」
オーナーさんはグレスを呼びに言ってくれる。俺はそのあいだにコルキスを揺さぶり起こした。
「なぁに兄様、まだ太陽の気配は感じないよ」
俺の肩に顔を置いているコルキスが耳元で不満を溢す。ついでに言うと、ディオスとグルフナも俺に引っ付いている。こんな俺を見ても一切話題にしなかったオーナーさんは流石だ。
「グレスが来たんだよ。たぶん仲間と一緒だ。すぐこの部屋に来るから準備しないといけない」
「迷惑犬」
ははは、グレスはクソ犬から迷惑犬に改名か。
「グレス達が帰ったらまた寝ような。アイテムの説明はコルキスじゃないと出来ないから起きてくれよ」
昨夜は結局500個くらい卵を作った。最後にコルキスがふざけて数百匹の蝙蝠をシャドーバットの魔法で出したせいだ。当然アイテムの名前や詳細を覚えるなんて俺には不可能で、グレスにはコルキスが説明する事になっていた。
ドゥーマトラがまた怒るってアクネアが文句を言ってきたけど、好きなだけお酒を買っていいと言うとあっさり引き下がった。
「兄様、頭撫でて」
「ああ」
言われた通りコルキスの頭を撫でると、コルキスが俺の頬に頬ずりしてきた。
「コルキス?」
「ちょっと吸うね」
そう言って俺の首に齧り着くコルキス。首の痛みで俺も眠気が晴れていく。
「よー、アルファド! 約束通り来たぞ! 何を売ってく――」
勢い良くドアが開けられグレスが入って来た。何だ? 俺達を見て固まっている。
「わ、悪い。出直すよ」
「いやいや、待ってグレス! もう起きたからいいよ、すぐ用意するから座って待っててくれ」
俺はソファを指すとコルキスたちを連れて寝室に戻った。
「コルキス、ちょっとだけだろ」
未だに俺の血を吸ってるコルキスを嗜めてベッドに降ろす。
「うー、もっと欲しいのに」
「ちょっとずつじゃないと血が足りなくなるだろ。ほら、早く着替えろ」
「大丈夫なのに、ケチ」
コルキスはちょっと拗ねたような声を出すとおずおずと着替え始めた。
「アクネア、昨日売るって決めたアイテムを出しといてくれ。着替えたらコルキスのアイテムボックスに入れるから」
『うぃー』
まだちょっとお酒が残ってるのか、アクネアはよろよろと浮かび上がった。
「お待たせグレス」
準備を済ませてリビングに戻ると、興奮気味に部屋を見ていたグレスたちがビクッとする。
「あ、おはようアルファド、コルキス。悪いな我慢できなくて早く来ちゃって」
何だかグレスがどぎまぎしている。
「おはよう。そっちの2人はグレスのパーティーメンバー?」
俺が視線をやると、妙に畏まった様子で俺とコルキス見ていた蜥蜴獣人と小柄な女の子が息を飲んだ。
「そ、そうなんだ。蜥蜴獣人のジャイルとハーフリングのグィドーナだ」
「早くに申し訳ありません!」
「あ、ありがとうございます!」
ビシッという音が聞こえてきそうな勢いで礼をされてしまった。
「あ、いや、そんなに畏まらないでよ。普通でいいから普通で」
「どうでもいいから早くしようよ。ぼく眠たい」
俺が普通でいいと言うとホッとした顔になったのに、コルキスの一言でまたジャイルの表情が強張ってしまった。
「グレスから聞いてるかもしれないけど、俺はアルファドだ。こいつは弟のコルキス。商人としてはジュエルランクだけど、俺たちは冒険者でもあるから本当、普通にしてくれ」
「は、はい」
「そこは、うんでしょジャイル」
ジャイルと違ってグィドーナの緊張は解けたみたいだな。
「私たちの代わりにグレスとアイスブック採集をしてくれたのよね。本当に助かったわ、ありがとう」
「ありがとうござ……いや、ありがとう」
グィドーナとジャイルがお礼を言ってくたけど、あれがあったからコルキスがグリンホーンフェンリルの尻尾を手に入れたんだ。
「いや、俺の方こそありがとう。凄く良いことがあったから気にしないでくれよ」
俺がグレスの尻尾を見て、コルキスの狼獣人姿を思い出していると、グィドーナとジャイルがハッしたような顔でグレスの方を見た。
「いや、いやいやいや! 俺は貞操を守ったぞ! 尻尾は触らせてない! そうだよなアルファド!?」
コルキスが並べていくアイテムをワクワク顔で見ていたグレスは、2人の視線に気付くと慌てて否定し始めた。
「ああ、グレスの尻尾はモフってないな」
「ほらな、だからそんな顔で見るな!」
真っ赤な顔で否定しているけど、そんなむきになると逆に怪しいんじゃないか?
ジャイルもグィドーナもいまいち信用してない。仕方ないな、グレスを助けてやるか。
「コルキス、ちょっとあの姿になってくれ」
「えー? いやだよ。ぼくの狼獣人姿は兄様しか見ちゃダメなの」
アイテムを並びを終えたコルキスは、俺の横に来て恥ずかしそうにしだした。俺しかって言うけど、アクネアもティザーだっていたし使い魔の2人だって見てただろ。拘るポイントが分からないな。
「狼獣人姿?」
今度はグレスが俺を汚い物を見るかのような目で見てくる。
「その目を止めろグレス。コルキスの固有スキルで変身できるようになったんだよ。グリンホーンフェンリルの尻尾は最高だった」
「グリンホーンフェンリル!?」
グレスたち3人がどういう事だと、やいのやいの言い出してしまった。
「兄様が余計な事言うから」
「……ごめん」
結局、騒ぐ3人を落ち着かせるのに20分近く時間を使ってしまった。
「これはラグドスの骨だよ。こっちはマグザドグザの核」
落ち着きを取り戻したグレスたちにコルキスがアイテムの説明をしている。
卵から出てきた中で希少な物はユリアンヌ、バスコブーツ、ルシュカの牙を選んでおいた。他は薬草類やそこそこの武具、そして魔物の素材だ。
基本的にメネメス国では手に入り難い物を中心に選んである。そのせいか、グレスたちも知らない物が多くコルキスが質問攻めに合っていた。
「凄いなアルファド。たった半日足らずでこんなに仕入れたのかよ」
「それにとっても安いわ。ジュエルランクの商人って皆こうなのかしら?」
「俺、どれにするか決められないよ」
3人は目を輝かせながら商品を吟味している。
値段も相場の半値位にしてある。グリンホーンフェンリルの尻尾に巡り合わせてくれたお礼だ。
「あ、安いのはグレスたちだからだよ」
「本当か? 助かるよアルファド、ありがとな」
グレスが嬉しそうに尻尾を左右に揺らす。
「本当に何も無かったのかしら……」
それを見たグィドーナがボソッと呟きジャイルと視線を交わす。
「何もねーよ。それにアルファドにはコルキスがいるじゃん。噂通りだよ」
グレスは否定しながら気になる事を言った。
「噂って何だ?」
「ああ、ジュエルランクの商人は少年しか愛せないってな。好みの少年を連れて行けば大幅な値引きをしてくれるって噂になってるぞ」
何!?
何だよその噂は。確かにコルキスは誤解を招く言い方をしてたけど、ちゃんと兄弟である事を伝えてたよな。何でそんな噂になるんだよ、それに値引きなんてしてない。
「あーあ、兄様。これでまた結婚が遠のいたね、くふふふ」
コルキスは嬉しそうに笑っている。悪戯が成功して喜んでいるなコルキスめ。
「結婚!? アルファドは結婚したいの!?」
何だ何だ、グィドーナが急に俺の方へ近付いて来た。
「兄様って、これまで一杯あった結婚話を全部失敗してるんだよー」
ちょっ、コルキスくん!?
嘘は言ってないけど、それじゃまるで俺が駄目人間みたいに聞こえるじゃないか。
「そうなの? アルファドって見た目もいいし、若いジュエルランクの商人なんて皆飛び付くでしょ? どうして……あ!」
グィドーナはコルキスを見ると何か納得したようだ。その納得は断じて認められない。
「言っとくけど、噂は間違ってるからな。コルキスが変な事言うからだぞ」
自然と溜め息が出てきた俺はコルキスの顔を見た。
「兄様、ぼくの事嫌いなの?」
コルキスは悲しみに満ちた顔をしている。
「いや、そんな訳ないだろ。コルキスは大好きだよ。ただ変な噂は困るじゃないか」
そう言ってコルキスの頭を撫でると、コルキスは一変して満面の笑顔になった。
「残念だね、グィドーナ。アルファドはグィドーナに興味なさそうだ」
ジャイルが笑いながらグィドーナの肩を叩く。
「グィドーナが狼獣人なら違ったかもな」
グレスも笑ってグィドーナの頭をポンポンし始めた。
「何よ。2人なんか恋人がいた事も無いくせに生意気よ」
ああ、だからか。グレスが貞操がどうのとか言ったり、真っ赤な顔になってたのは。
確か初めて出来た恋人に尻尾を触らせるのが狼獣人の純潔の証だったっけ。それ以降は仲が良ければ尻尾を触らせるくらい何でもないって例の図鑑に書いてあったな。
「3人とも、戯れるもいいけど何を買うか決めてくれよ」
さんざん迷ってから、3人は共有費ですべての薬草類といくつかの魔物の素材を買ってくれた。
個人ではグレスがルシュカの牙、ジャイルがマグザドクザの核、グィドーナはカリキオンナイフを買ってくれた。グィドーナは最後までカリキオンナイフとバスコブーツで悩んでいたけど、予算を考えてバスコブーツは諦めたらしい。
「皆の話題がアルファドで持ちきりになる訳だぜ」
「こんなに安くて本当にいいのかな?」
「絶対赤字でしょこれ。やっぱりグレスが初めてを捧げたのよ」
3人は俺とコルキスに見送られた後、少し離れた辺りでそんな風に話していた。声が大きくて俺の所まで聞こえてきたのはご愛嬌って感じだった。
なんだかんだ楽しい時間を過ごした数時間後、俺たちはメネメッサの町を出発した。
~入手情報~
【蜥蜴獣人】
蜥蜴の獣人。
全身が鱗に覆われており、長い尻尾を持っている。気温の変化に弱く体調を崩しやすい。リザードマンという魔物に間違われやすいが、服を着ているかいないかで判別される事が多い。
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【ハーフリング】
人間によく似た小柄な種族。
背が低い以外は人間によく似た容姿をしている。しかし、寿命は人間より遥かに長く若い期間もすこぶる長い。素早く細かい作業が得意で魔力も高めだが、やや考え方が幼い面もある。結婚願望の強い種族であり、いつでもパートナーを探している。そのせいか重婚も厭わないため、家族関係が地獄の複雑さと化すことも多い。
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【名 称】ラグドスの骨
【分 類】魔骨
【属 性】水/火
【希 少】☆☆☆☆
【価 格】テラテキュラ銀貨250枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
海に生息する大きな魚型の魔物ラグドスの骨。
武器や防具に加工してもいいけど、基本的には錬金術等の材料にするのがおすすめかな。水中が怖くなくなったり、水圧や呼吸を気にしないでよくなる魔法薬の主原料だからね。それが銀貨250枚で買えるだなんて破格だと思わない?
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【名 称】マグザドグザの核
【分 類】擬似魔核
【属 性】マグザドグザ先天属性と同じ属性
【希 少】☆☆☆☆☆☆
【価 格】テラテキュラ金貨31枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
上級魔法特化型ゴーレム、マグザドクザの核。
強力な上級魔法で侵入者を排除するゴーレムの核だよ。遺跡やダンジョンの奥深い場所で遭遇するあれだよ。核が自分と同じ先天属性だったら、食べちゃえばいいよ。数日間は強烈な腹痛に襲われるけど魔法を1つ習得できるよ。習得できる魔法の等級は上級魔法30%、中魔法55%、初級魔法15%の確率だよ。
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【名 称】ユリアンヌ
【分 類】魔鞭
【属 性】風
【希 少】☆☆☆☆☆
【価 格】テラテキュラ金貨6枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
風の力を宿した鞭。
同時に5つの軌道から敵を打ち付けられるよ。慣れないと避けるのが難しいだろうからその間に敵を倒そうね。基本的に鞭本体以外の軌道は自動で死角から現れるみたいだよ。岩も簡単に砕く威力だって。使いこなしていけば簡単な下級風魔法くらいなら鞭から打ち出せるんじゃないかな。
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【名 称】バスコブーツ
【分 類】身体強化靴/簡易飛翔靴
【属 性】雷
【希 少】☆☆☆
【価 格】テラテキュラ銀貨120枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
跳躍力が上がるブーツ。
装備したの跳躍力が8倍になるよ。あと、1回の跳躍につき2回だけ空中でさらに跳躍できるんだよ。移動に使ってもいいけど、戦闘中に踏みつけるようにキックするのもおすすめかな。
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【名 称】ルシュカの牙
【分 類】ドラゴンファング
【属 性】装備者先天属性と同じ属性
【希 少】☆☆☆☆☆☆
【価 格】テラテキュラ金貨80枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
中型のドラゴン、ルシュカの牙。
ドラゴンの牙って強力な武器になる物がほとんどだよね。この牙もそうだよ。装備者と同じ先天属性の魔力を牙から発生させることができる便利さんだよ。しかもそれを打ち出し遠距離の魔法攻撃だってできるんだからね。え? ダメだよ。これ以上まけないからね。
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【名 称】カリキオンナイフ
【分 類】マジックナイフ
【属 性】土/水/氷
【希 少】☆☆☆☆☆
【価 格】テラテキュラ金貨67枚
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
カリキオン鉱石で作られたナイフ。
深海だけに存在する鉱石のカリキオンに魔力を注ぎながら鍛造してて、水属性と土属性の力を秘めているよ。でも毎日水や土に触れさせないと力が弱まっていくから気を付けね。ええ? だからこれ以上まけないって――あ、でも3人を吸血していいなら1人金貨10枚まけてもいいよ。兄様には内緒だからね。こっち見てないから今のうちだよ。
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【名 称】ヒョウカイーネカンソウ
【分 類】未知の魔法
【属 性】闇
【効 果】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【詠 唱】不要
【眠たいコルキスくんのゆっくり解説】
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