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59話 人だかりが凄かった

後書き修正

 商業ギルドを後にして朝食を買った俺達は、粉雪の眠り亭に帰って来た。早速、浴室に移動してハイクリナのサンドイッチとネジルドックを半分こして食べた。


 コルキスは「美味しいね兄様」と御満悦だったけど、浴室は血塗れ。猟奇殺人の現場に見えてしまう。勿論、俺とコルキスが犯人だ。


「コルキス、このまま汚れを落とそう」


「えー? 兄様とお風呂に入るの? 変な事しないでよ」


 コルキスが不完全変身を使い狼獣人の姿になって俺を揶揄う。


「する訳ないだろ、まったく」


「そんな事言ってるけど、もうぼくの尻尾を触ってるよ兄様」


 は!!


 無意識だった。恐るべしグリンホーンフェンリルの尻尾。


「い、今のは無しだ。元に戻れよ」


「やだー!くふふふ」


 コルキス笑いながら服を脱いでさっさと身体を洗い流し始めた。俺もコルキス隣に座りお湯で身体を洗う事にした。


 浴室を出ると、コルキスがディオスに浴室にある血塗れになった服を綺麗にするよう言い着替え始める。


「兄様、商業ギルドで狼獣人を見てもモフモフしたくならなかったでしょ」


「ん? ああそうだな。何でかそんな気が起こらなかったな」


 俺も着替えながら答えると、コルキスはまた勝ち誇ったような表情をした。


「今度一緒にお風呂に入った時は、ぼくの頭を洗ってもいいよ兄様」


「あ、ああ、ありがとう」


 頭を洗ってもいいとは一体……コルキスにとってそれは何か意味があるのか?


「あ、そうだ。さっきコルキスにジュエルランクの商人について聞いたんだけど、希少な物も売らなきゃいけないんだよな。何かあったっけ?」


 そもそも何であの塔を選んだのかコルキスに聞くと、ジュエルランク専用で、ジュエルランクは何処でも自由に無料でお店を出していいからだと言った。


 俺達はお金と商品に困ることはないし、王族の俺達なら商業ギルドの審査も余裕だろうと思ったとか。申請用紙の問題と、出てきたお茶とお菓子をどうするかが審査のポイントだったらしい。


『特大の魔石とジルコニードルでいいんじゃないか?』


 未だに昨夜のお酒の空瓶を愛でながらアクネアが答えた。どんだけ気に入ったんだよ、そのお酒。


「ぼくは今から一杯卵を作ってみたいな」


『それじゃ意味ねーだろ。物を減らしたいのに増やしてどうすんだよ』


「うー」


 アクネアの正論にコルキスは黙ってしまった。


「ジュエルランクの商人って事で皆期待してたよな。普通の物を売って買ってくれるのか?」


『それは大丈夫だろ。普通って言ってもそこそこの物だってあるしよ。なんなら本当にありふれた物はオマケで付けてやればいいじゃないか、全部無料(タダ)で手に入れたようなもんだろ』


 多分、魔石はどの大きさでも直ぐに売れるだろう。普通の武器や防具、薬草類も少し安めにすれば冒険者が買ってくれるかもしれない。


 ただ、そこそこの物は用途に困る物が多かった気がする。スクリュードメイルとかメイクアップソードなんて買う人いるのかな。個人的にはピピナの枝が1番謎の武器だ。


「まあ、何とかなるか」


「ぼくが倒したビックホワイトベアーとガイラカンとかも売ってね」


 あ、そうか。昨日コルキスが倒した魔物もあるのか。


「でもそれって解体してないから冒険者ギルドに持って行った方がいいんじゃないか?」


「いいの! 売るの!」


「そうか」


 売れるといいな。売れないとコルキスが不機嫌になりそうでちょっと不安だ。


 とりあえず、売り物とその値段を決めてから俺は粉雪の眠り亭のオーナーに話をしに行く事にした。いくらジュエルランクが何処でも自由にお店を出していいとは言っても、他人の場所を使うなら話をしなきゃいけないだろう。


 小さ目の魔石を幾つか持ってオーナーに話すと、驚くほどあっさり了承してくれた。


「私もジュエルランクの商人が扱う商品が気になります。宜しければ、宿の者を何人か使いますか?」


 と笑って応援してくれるほどだった。


 コルキスはお昼も食べずにせっせとお店の準備をしている。ディオスとアクネアを見張りに立て、商品の説明書きや並びをあーでもないこーでもないと確認していた。


 そして昼の終わり頃に急拵えの、何でも屋アルコル――コルキス命名――が開店した。


「見ろ、ジルコニードルがあるぞ!」


「何だあの大きさの魔石は!?」


「見た事ない武器や防具が一杯あるわ!」


「安い、掘り出し物もあるんじゃないか?」


「ガイラカンがあるよ!」


「おい! あの小さい子可愛いな!」


 実は開店前から人だかりが出来ていた事もあって、今お店は混乱を極めている。2人では到底捌く事は出来ず、粉雪の眠り亭から人を借りる事になった。


 コルキスは看板娘ならぬ看板息子の扱いで、色々な人から様々なアプローチを受けている。その度に「ぼくは兄さんの物なんだよ」なんて言うもんだから在らぬ誤解が広まっていく。


 かく言う俺も沢山声を掛けられたけど、全てお断りさせてもらった。それが一層誤解を招いているなんて気付きもしなかった。


『大盛況だぜ! これでドゥーマトラも少しは落ち着くだろ』


『だいぶ目立ってしもうたがのう。まあ良いか』


 日が沈み始める前には店じまいにした。


 幾つか売れ残った物もあったけど、ほぼ売れたと言っていいだろう。クランバイア白金貨1枚の値段をつけた特大の魔石が売れた時には(どよ)めきが走った。


 でも、それより俺はピピナの枝が売れた事に驚きだ。何に使うんだろう。


「あああ! もう終わったのか!? ってアルファドじゃんか!」


 片付けも終わり、宿に入ろうとしていたらグレスがやって来た。


「やあグレス、悪いんだけどもう店じまいしたんだよ」


「そ、そんな……粉雪の眠り亭でジュエルランクの商人が良いものを安く売ってるって聞いて急いで来たのに。アルファドは手伝いか? 頼む、ジュエルランクの商人に会わせてくれよ!」


 ジュエルランクの商人が別に居るって勘違いしてるな。


「あー、グレス。そのジュエルランクの商人って俺なんだよ」


「なんだと!? アルファドって一体何者なんだよ。あ、でもそれならいいだろ! 俺にも売ってくれ、尻尾を触っていいから!」


 何でそんなに必死なんだろうか。


「そうは言っても、残り物しかないんだけど……」


「それでもいい! 見せてくれ!」


 どうしよう、残った物は本当にありふれた物なんだよなあ。グレスは間違いなくガッカリするな。


「悪い、やっぱり今日はもう終わりだ。その代わり明日の朝もう1回来てくれ。これから仕入れに行くからさ。俺達は明日の昼に出発する事にしたから、それまでならグレスの好きなだけ見ていいよ」


「本当か!? ありがとう……冒険者仲間がすっごい自慢してたんだよ。ジルコニードルが格安だったって。アルファドが知り合いで良かったよ。明日楽しみしてるからな!」


 グレスは尻尾が千切れるんじゃないかってくらい振りながら帰って行った。


 グレスを見送った後、粉雪の眠り亭に入るとオーナーがにこにこ顔でお礼を言ってきた。俺は気付かなかったけど、魔石や薬草類を沢山買ってくれたらしい。


 手伝ってもらった宿の人の賃金を渡そうとすると「かなりお得な買い物をさせて貰ったから、私が払いますよ」と言ってくれた。そんなに安くしたつもりはないんだけど、オーナーは凄く満足していたからお言葉に甘えさせてもらった。


 自室に戻るとコルキスとディオスが売上金を数えていた。


「ゾンビ、グール、腐乱死体、ゾンビ、グール――あ、兄様! 今日はとっても楽しかったね。ぼくまたやりたいな」


 なかなか個性的な数え方だな。深く聞くのは怖いから触れないでおこう。


「そうだな。人が凄くて疲れたけど、皆嬉しそうだったし、またやろう」


 コルキスは売上金をディオスに任せると、俺の横に来てもじもじし始めた。


「あのね兄様、ぼくお昼ご飯食べてなかったらお腹空いちゃったんだ。兄様の血を吸ってもいい?」


「いいぞ、約束しただろ」


 俺は、上目遣いで聞いてくるコルキスの頭を撫でてしゃがんでやった。首に痛みが走る。何度体験してもこの痛みには慣れないんだよなあ。


「けぷっ、ありがとう兄様。今日もすごく良かった美味しいかったよ」


 口元を拭いながらコルキスがお礼を言ってくる。本当、俺に対する態度が変わったよなコルキス。


「そうだ、さっきグレスが来たんだけど、明日の朝にアイテムを買ってくれる事になったんだよ。だからこれから卵を一杯作らないか?」


 今朝コルキスは卵を作りたいと言っていた。あの時はアクネアが駄目と言ったけど、今日はコルキスのやりたい事に付き合う約束だったからな。


 グレスが来た時に丁度いい口実ができたと思ったんだ。


「いいの!? 兄様とアクネアが楽しそうにしてたから、ぼくもやってみたかったんだ」


「いいぞ。珍しい物が出るといいな」


「うん!」


 俺とコルキスは晩御飯まで卵を作り続る事にした。コルキスは消費魔力の少ない、シャドーバットを使っていた。


 最後の方で小さな木片のネックレスが出てきた時のコルキスのはしゃぎっぷりは凄まじかった。それが何か教えてくれなかったけど、そんなに喜ぶならとコルキスにあげた。


 お礼と言ってコルキスが尻尾を出してくれたけど、俺がミステリーエッグを発動しっぱなしだったせいでそれも卵になってしまい、2人で大笑いしてしまった。卵が尻尾柄だったからだ。


 余談だけど、売上金を見てアクネアとティザーが『新しい酒がたんまり買える』と笑い、ディオスとグルフナが必死に守ろうとしていたのが微笑ましかった。

~入手情報~


【名 称】スクリュードメイル

【分 類】魔酒鎧

【属 性】水/植物

【希 少】☆☆

【価 格】テラテキュラ銀貨20枚

【コルキスくんの鑑定書】

酒樽で出来た鎧。

使い古した酒樽を魔法で鎧にしてるよ。装備したら泥酔状態になっちゃうけど、水属性のダメージを軽減する効果があるんだって。どんなにお酒を飲んでも鎧を装備してれば二日酔いにならないらしいよ。二日酔いって呪いより苦しいんでしょ? 呪い避けの肉壁を持ってない人は買った方がいいと思うよ。


~~~~~~~~~


【名 称】メイクアップソード

【分 類】魔剣

【属 性】愛

【希 少】☆☆

【価 格】テラテキュラ銅貨310枚

【コルキスくんの鑑定書】

メイクアップ効果のある剣。

この剣で攻撃されたら一瞬で綺麗にメイクアップされるよ。攻撃が当たる度に違うメイクになるんだって。攻撃力はまあまあだけど、軽く当てるだけでもいいから問題なく誰にでも使えるよね。ちなみにメイクアップされた魔物は興奮気味になるよ。


~~~~~~~~~


【名 称】ピピナの枝

【分 類】呪棒

【属 性】植物/呪

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】テラテキュラ金貨705枚

【コルキスくんの鑑定書】

ピピナの枝を棒状にした武器。

細くて脆いピピナの木の枝を加工した棒だよ。攻撃力は皆無だけどね。この武器をで攻撃すると自分が呪われちゃうよ。呪術師や錬金術師なら正しい使い方がわかるよね。お買い得だよ。


~~~~~~~~~


【名 称】小さな木片のネックレス

【分 類】?

【希 少】?

【価 格】-

【アルフのパッと見情報】

小さな木片が4つ付いたネックレス。

詳細は不明だが、ヴァンパイアハーフのコルキスが喜びはしゃぎ回る物らしい。


~~~~~~~~~


【名 称】シャドーバット

【分 類】種族固有魔法/中級影魔法

【効 果】☆☆☆☆

【詠 唱】存在しない

【現 象】

ヴァンパイアの血を引く者のみが使える中級影魔法。本来は無数の蝙蝠を作り出し目眩ましや、数の暴力で敵を攻撃する魔法だが、1匹だけ作り出す事も可能。作り出す蝙蝠の数が少ないほど魔力消費を抑えられる。


~~~~~~~~~


【名 称】クランバイア白金貨

クランバイア魔法王国の通貨。

純ミスリルで作られており、魔力を通すと鋳造された当時のクランバイア王と第1王妃が浮かび上がる。また、強力な偽造防止と保護の魔法がかかっている。ほとんど使用されることは無く、主に国家間の取引等で使用される。クランバイア金貨1000枚と同等の価値がある。

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