58話 商人になろう
本文と後書き修正。
昨日はコルキスのやりたい事に付き合うはずだったのに、狼獣人に扮したコルキスを俺が思う存分モフるだけで終わってしまった。コルキスが満足したかもしれない事と言えば、寝る前にアクネアと卵を作っていた時に血を少しだけ吸われた事くらいだ。
「今日もコルキスのやりたい事に付き合う約束だったよな、何がしたい?」
「ぼくね、兄様とお店やってみたい!」
「そんなのでいいのか? 昨日も俺が喜んで終わったようなもんなのに」
「いいの! 兄様と一緒にするのが楽しいの!」
くっ……可愛い。コルキスのやつ、まさかまた魅了を使っているんじゃないだろうな? 後でティザーかアクネアに確認してもらおう。
『そうだ、忘れてたぜ! さっさとアイテムを減らしに行こうぜ!』
昨夜の卵から出てきたお酒の空瓶を、とても名残惜しそうに撫でていたアクネアが少し慌てながら準備を急かしてきた。
『儂は昨日目一杯働いたからの。今日はアクネアに全部任せるわい、ヒック』
ティザーはもうお酒を飲み始めている。おいおい、まだ朝だぞ。
「じゃあ今から商業ギルドに行こうか。ついでにその辺りで朝食にしよう」
「ぼく、ハイクリナのサンドイッチが食べたい。兄様はネジルドックね。半分こしよう」
血塗れサンドに血みどろパンか……俺はあんまり好きじゃないんだよな。だけど、キラッキラの笑顔でコルキスに半分こしようと言われると断れない。やっぱり魅了のせいなのか?
「分かった。半分こしような」
「うん!」
メネメッサの商業ギルドは町の東側にある。
7階建の塔が円形に8基連なっていて、中心には幸運の神様を模した巨大で豪華な像がある。
その像から薄い緑色の光が空に向かって立ち上っていて、光は各塔の最上階よりも高い位置に浮かんでいる水瓶の様な物に吸い込まれているように見える。
各塔の奇数階からは、中心に向かって通路が伸びている為、それぞれの塔を行き来しやすくなっていた。
「クランバイアのとは全然違うね」
商業ギルドを見たコルキスは少しだけ驚いているみたいだ。
「そうだな」
クランバイアの商業ギルドは、町の色んな場所に支所があって魔道具で手続きしたりすると見学した時に習ったな。確かあの時はコルキスも一緒だったっけ。
『でもよー、これってどこで登録するんだよ』
確かに。どこから入ってどこに行けば登録できる受付があるんだろう。
俺達は今、上空から商業ギルドを見下ろしている。朝の人混みを歩きたくないとコルキスが言い出したからだ。ちなみに俺はディオスに運んでもらっている。ぷに、ぐにゅっとした感触が意外と気持ち良かったりする。
一方で、グルフナは俺を運べない事に落ち込んでいるようだ。後で撫でておこう。
「兄様、登録はどの塔でもできるけどあそこの塔が親切に登録してくれそうだよ」
ヒストリアで読み取ったコルキスが、塔の1つを指差して教えてくれる。
「じゃああそこに行こう」
でも俺がそう言ってもディオスは動かない。コルキスが「ディオス」と声をかけて初めて動く。ディオスは俺の事が嫌いなんじゃないだろうか。たまにディオスが当たってる部分がチクチクするんだよな。
「ようこそ商業ギルドへ」
塔に入る時に何だか凄い目で周囲の人に見られたけど、コルキスが指差した塔の1階に入ると直ぐ、職員の人が声を掛けてくれ近付いて来た。
外は人がうじゃうじゃいたのに、中にはほとんどいないんだな。
「皆様を担当致しますエモナと申します。本日はどのような御用件でしょうか?」
エモナさんは綺麗な狼獣人だった。だけど、不思議とモフりたい欲が出てこないな。
ん? コルキスが勝ち誇ったような表情をしているのは何でだ?
「今日は商業ギルドに登録したくて来たんだよ」
「畏まりました。ではこちらへお願い致します」
優雅な仕草でエモナさんがテーブル席へ案内してくれる。アクネアが入っている縦半分に割れた感じの悪い人形を見ても微笑みを崩さないとは、この人凄いな。
「こちらの用紙にご記入下さい。終わりましたらお声掛け下さい」
エモナさんは一礼すると、少し離れた所で待機してくれる。これって王族や貴族の使用人を真似てるのかな。
「兄様、そこ間違ってるよ」
俺の肩越しに、浮かびながら用紙を覗き込んでいたコルキスに指摘されてしまった。少し難しい計算問題があったんだけど、間違えていた。弟に言われるなんて恥ずかしい。
『昨日も思ったがコルキスの方が歳上みたいじゃのー』
鞄の中からティザーが茶々を入れてきたから、軽く鞄を叩いておいた。
他にも王族や貴族と対面した時の作法だったり、魔物や魔道具に関する、各種素材に加工品までたくさん問題があった。魔法円関係の問題もあったけど、1問しかなくてがっかりしたよ。
ちょいちょい口を挟むコルキスだったけど、終盤に差し掛かると飛ぶのをやめて椅子に座った。
「エモナさん、書き終わりました」
「お疲れ様でした。お茶をお持ちしますので少々お待ち下さい」
用紙を受け取ったエモナは裏へ姿を消し、入れ違い別の人がお茶とお菓子が持ってきた。
お茶もお菓子美味しいねとか、この椅子ふかふかだね、とコソコソ話すコルキスはめちゃ可愛い。
お菓子は割りと見た目重視な物だけど、豪華なのに品がある形だ。味は……ふむ、直に食べるよりスティック状になった飾りを取って、お茶の味を変えるのがいいかな。コルキスもやってるこの方法は、最近王族や貴族の間で流行っているやり方だ。
「お待たせ致しました」
けっこうな時間お茶を楽しんでいると、きれいな箱を持ったエモナさんが戻って来た。
「おめでとうございます、審査は問題なく通りました。登録料は金貨10枚でございます」
エモナさんはさっきよりも微笑んでいる。金貨10枚か、冒険者と違って登録料が高いんだな。エモナさんは俺が渡した金貨を仕舞うと一呼吸置いて話し始めた。
「アルファド様は冒険者でもいらっしゃるとの事ですが、商業ギルドの登録証と冒険者登録証を1つになさいますか?」
そんな事もできるんだ。2つあるのは嵩張るしそうしてもらおう。
「畏まりました。ところでアルファド様、商業ギルドでは事業主の皆様に世界4大通貨の自動精算用魔道具の所持をおすすめしております。ご購入とレンタルをお選びいただけますが、いかがいたしましょうか?」
「購入するよ。中核機は兄様の登録証に埋めて、受付端末《ボディ》は10個くらいちょうだい」
「承知しました。ではそのようにいたします。なお、商業、冒険者どちらのギルドでもアルファド様の許可無く冒険者記録や商売記録を閲覧する事はできませんのでご安心下さい」
「は、はい」
エモナさんに冒険者登録証を渡すと、その場で透明なのに白銀の石を橙色の石の上に埋め込んでくれた。
「こちらの石に魔力を流すか、血を垂らすと登録完了でございます」
俺は冒険者ギルドの時と同じく血を垂らした。一瞬だけエモナさんが意外そうな顔をしたけど、直ぐに元の表情に戻った。
「おめでとうございます。それでは今からアルファド様はジュエルランクの商人となりました。商業ギルドへ納める年会費は金貨50枚、来年度の初めに納めて頂く事となっておりますのでよろしくお願い致します。また、売上の3%が税金となりますが、こちらも来年度の初めに商業ギルドへお納め下さい。私共が責任を持ってお手続き致します。詳しくはこちらの冊子をお読み下さい。何かご質問はおありですか?」
ジュエルランク?
「ありません。ね、兄様」
「ん、ああそうだな」
「畏まりました。それと……自動精算機ですが、こちらは私からの贈り物とさせていただきますね」
自動精算機と共にこそっとエモナさんがウィンクをくれた。悪いなと思ったけど、先行投資ですよと笑顔を返さてれは断れない。ありがたく頂戴しておいた。
「では、お手続きは以上となります。本日は誠にありがとうございました」
エモナさんは満面の笑みで俺達を出口まで送ってくれた。
「アルファド様にケラーミスタ神の御加護がありますように」
扉を出ると同時にエモナさんを始め、どこからか現れたギルド職員が一斉に声を上げ一礼をした。
途端に周りに居た人々が歓声や拍手をする。
「え、何? どういうこと?」
俺が状況を掴めずにいると商業ギルドの扉が閉まった。それを合図に歓声を上げた人達や拍手をしてくれた人達がギラついた目で迫ってきた。
「ええええ!?」
目がイッってしまっている人達に囲まれるかと思ったら、俺は中に浮き上がっていた。ディオスが俺にカッコいい感じで絡みついていて、下に居る人達には蝙蝠の羽が生えたように見えるんじゃないかな。
「お昼が終わったら粉雪の眠り亭の前でお店をやるから皆来てねー」
コルキスがそう宣言すると、皆は「お金を用意しなくちゃ」とか「えらい事になった」と言って走って行ってしまった。
一体何がどうなってるんだろう。それにジュエルランクの商人って何だったっけ? 確か城で教えられた気がするんだけど、思い出せない。
「なあコルキス。ジュエルランクの商人ってどういうのだっけ?」
「あれ、兄様習ったのに忘れちゃったの?しょうがないなー、朝ごはん食べながらぼくが教えてあげるよ」
コルキスは嬉しそうに笑いながらディオスに指示を出す。
俺はもやもやしたまま朝市へ向うこととなった。
~入手情報~
【名 称】ハイクリナのサンドイッチ
【分 類】魔物サンドイッチ
【属 性】メイン食材の先天属性と同じ属性
【希 少】☆
【価 格】テラテキュラ銅貨2枚
【アルフのうろ覚え知識】
ハイクリナを使ったサンドイッチ。
薄い皮に包まれた血液状の魔物ハイクリナを特別な方法で加工し、薄い層にしてサンドイッチにしている。上手に食べなければ、中の液体が飛び散り血塗れになることから、別名血塗れサンドと言われている。好き嫌いがはっきり別れる味。俺はあまり好きじゃない。
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【名 称】ネジルドック
【分 類】魔物惣菜パン
【属 性】メイン食材の先天属性と同じ属性
【希 少】☆☆☆
【価 格】テラテキュラ銀貨3枚
【アルフのうろ覚え知識】
ネジルを硬いパンに挟んだ食べ物。
縦に割れ目が入った硬いパンに、3重螺旋の身体を持つネジルという魔物を挟んでいる。ネジルは見た目以上に体液が多く、齧るとドロッとした暗褐色の体液が溢れだしてくる。どう頑張っても手と口が血で染まった様になる為、血みどろパンの異名を持っている。モツ系の肉が好きなら意外とイケる味に感じるらしい。「美味しいんだからもっと高くないとダメだよ」言ってクランバイア金貨を50枚も払おうとしたコルキスにあたふたする朝市のお姉さんが可哀想だった。
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【商業ギルド】
商人を取り纏めているギルド。
表向きには冒険者ギルドと同じように国から独立している組織だが、実際はそうでもない。商人には、ストーン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、ジュエル、トレジャーの7つのランクがあり、ランクによって商売場所の優先権や仕入れ値、信用度などに影響してくる他、商業ギルドから受けられる恩恵も変わる。また、ランクが上がる毎に商売規模の拡大もしくは、希少な商品を扱わなければならい等の規則がある。非公開情報だが、各ランク内でさらに3つの階級があり、下からエッグ、チック、ブルーバードとなっており、これらは商業ギルドの崇める幸運のケラーミスタ神の神話が元になっている。
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【ケラーミスタ神】
幸運を司る神。
精霊よりも上位の存在で世界を支える神の1柱。非常に気紛れであり、何時、何処で、誰に幸運を授けるかは本人にも分からない。神話では天から卵を放ってぶつかったものや、ヒトに扮して酒場を回りたらふく御馳走してくれたものに幸運を授けている。また、天から放った卵から雛が孵り財宝を産み落とす青い魔鳥になったという神話もある。ただ、ケラーミスタ神の寵愛を受けると、幸運が当たり前になってしまう為、時を重ねるにしたがって日々の生活から輝き失われたような感覚になるという。
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【粉雪の眠り亭】
メネメッサの高級宿。
貴族や高ランク冒険者や高ランク商人が宿泊するような高級宿で、1番安い部屋でも1泊金貨40枚もする。部屋の窓から外を見ると粉雪が煌めきながら降っている様に見える。また、部屋にある家具以外は持ち帰る事ができ、特にこの宿の部屋着は成功者の証として人気がある。
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【世界4大通貨】
セイアッド帝国、クランバイア魔法王国、魔法関連ギルド、冒険者ギルドがそれぞれ発行する通貨のこと。どの国でも当たり前のように使用できる。
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【名称】自動精算機
【分類】魔道具
【属性】無
【希少】☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨20枚/1台
【コルキスのヒストリア手帳】
世界4大通貨に対応した魔道具だよ。
その名のとおり自動でお会計してくれるんだ。チェスのポーンみたいな形の水晶に口がついてて、そこで硬貨を吸い込んだり吐き出したりするよ。仮想通貨の世界系、共通系の通貨は数字だけだから登録証かざせば即完了。ちなみに、これはクランバイア魔法王国とヒウロイト王国が共同で資金を出して、天才モリナディに開発を依頼したんだよ。確か30年くらい前だったかな。




