4話 母上の部屋で
後書き修正
母上の部屋へやって来た。
ドアをノックすると、母上がいつも召喚している木の精霊ドリアードが出てきて招き入れてくれた。
母上は部屋の奥で連絡用の魔道具を使って誰かと話してるところだった。
母上は俺の方を見ると、椅子を指差して座るようにジェスチャーしてくれた。
椅子に座るとドリアードが紅茶を出してくれる……出たよこれ。
俺に会うとドリアードはいつも紅茶を出してくれるんだけど、これが酷い。
「アルフ、今日の紅茶はフェリの樹液を入れてみた。感想を教えてくれ」
なんでも、ドリアードはここ何十年か紅茶に何の樹液を入れると人間がどんな味に感じるかを調べるのが生きる目的らしい。
当たりが少ないから結構迷惑してるんだよね。
正直飲みたくないけど、飲まないとドリアードが拗ねるからなぁ、仕方なく一口だけいただいてみた。
「うん、不味い。最初は酸っぱくて後から生焼けの魚みたいな味がする」
今日のはハズレ中のハズレじゃないか。
「へぇ、人間には紅茶とフェリの相性の良さが分からないのか。損してるな」
なんとくバカにされたように感じるけど、ドリアードはだいたいいつもこんなだ。
「母上は誰と話してるの?」
「あぁ、ジルだよ。今隣国にいるんだから腕のいい魔法使いの女を連れて帰って来いって言ってたな」
俺の見合い相手か……最近は紹介状を見るだけで全員断ってるから強行手段に出るつもりだな。
「アルフ、いい加減結婚してジールを安心させてやれよ。女探しに付き合わされるジルだって可哀想だろ。あ、次はこれな」
新しい紅茶を出しながらドリアードが言ってくる。
「嫌だね。母上を安心させたいけど、俺を見下す女はお断りだよ。母上やジル姉様みたいな人なら考えるけどさ」
「お前、15歳でそれはないと思うぞ。実の母と実の姉がいいって……正気か?」
ドリアードがうぇって顔してる。
「なんとでも言えよ。ん、この紅茶は美味しいな、珍しい。何の樹液を入れたんだ?」
「マチョだ。信じられないぞ。あんなグールに寄生する木の樹液が旨いだなんて。女の趣味だけじゃなくて味覚も終ってるなアルフ」
うぉい!? なんて物入れてんだよ!!
「グ、グールて、安全なんだよな?」
「さぁな。精霊には何ともない」
ドリアードはニヤッと笑って母上の方へ行ってしまった。
「嘘だろ、おい、ちょっと……ドリアード!?」
「アルフッ! 静かにしてなさい。今ジルと話してるんだから。あ、ごめんなさいねジル。なんかアルフとドリアードが……」
母上に叱られてしまった。
ドリアードはクククって笑いながら母上にまとわりついてやがる。
くそぅ、今度そのマチョの木とやらの樹液をぶっかけてやるかならな。
「もう、ジルったらそれどころじゃないなんてまったく」
あ、母上とジル姉様の話が終わったみたいだな。
「母上、私はしばらく見合いはしませんよ。それより聞いてください! 父上が……」
俺は真実の間での事を母上に話した。あれ、なんか母上の表情が険しい。何か不味いことでも言ったかな。
「なによそれ!!」
ガタガタっと音をたてて立ち上がると、母上が俺の方にパタパタ小走りで近付いてくる。
え? え? え? なんだ?
「アルフ、立ちなさい」
母上が真剣な声で言ってくる。
ちょっと怖いよ。
「は、はい」
俺がおどおどしながら立ち上がると……ぐぇっ!
母上がいきなり飛び付いてきた。
俺は受け止めきれずに後ろに倒れて、椅子の角に背中を打ち付けた。
「いいい痛い!! 苦しい!! 母上、やめて、離れて下さい」
魔力と素早さ以外のステータスが激低の俺は椅子との激突だけでもしんどいのに、母上の絞め技がどんどん体力を削っていく。
「嫌よ、アルフレッドだけズルいわ! 私だってアルフを可愛がりたいのに!?」
へへ、ちょっ嬉しいです母上。
あぁでも、もう限界です。
「母上、本当にもう限界です……い、意識が……」
俺はそのまま目の前が真っ暗になった。
~入手情報~
【アルフ】
王子アルフレッドの愛称。
王子アルフレッドと国王は同じ名前であり紛らわしい為、近しい者は王子アルフレッドをアルフと呼んでいる。