55話 グレスはボコられた
後書き修正
グレスと臨時パーティーを組んで行うアイスブックの採集は問題なく終わった。
終わったんだけど、俺達は今困った事になっていた。
「おい、グレス……今日は絶対吹雪かないって言ってたよな!?」
「寒いよ兄様」
全身をディオスに覆われたコルキスがイライラした声で訴えてくる。
「お、おかしいな。レデルトリーン予報じゃ暫く穏やかな状態が続くって言ってたのに」
俺達はレデルトリーン大雪原を結構な距離進んだ辺りにいる。以前、グレス達がアイスブックの群生地を見つけたという場所だ。
採集を終え、さぁ帰ろうかとなった時、突然強風が吹き出した。
グレスはおろおろしながら採集したアイスブックを袋から出し入れしている。1メートル先も見えないほど吹雪いている今、そんな無意味な事をしてる暇はないのだ。とは思いつつ、ペタンとした耳と混乱に揺れる尻尾から目が離せない。
『アルフ、ビッグホワイトベアーとガイラカン、おまけにトロジーが近付いて来とるぞ』
ティザーの言葉にモフ尻尾の魅了が解ける。トロジーはヤバい。Aランクの魔物だ。しかもリッチ系。
「グレス、早く帰ろう。ビッグホワイトベアーとガイラカンが近付いてる。しかもトロジーまでいる」
俺はグレスの背中を叩いて帰りを促す。尻尾に伸びかけた手をなんとか制御して。
「トロジーだって!? それはマズイじゃないか!でも……どっちに帰ればいいか分からないんだ」
は?
地理は任せとけって言ってなかったっけ?
「匂いを辿って帰ればいいじゃんか」
一層イライラした声でコルキスがグレスに言う。
「実は俺も風邪で鼻をやられてて、それに熱も出てきたみたいだ……」
こいつ、出発前にそんな事は一言も言ってなかったじゃないか。
グレスは耳と尻尾を申し訳なさそうに垂れさせている。今にもクゥーンって鳴き出しそうだ。
可愛い……いや違う。こんな状況じゃなきゃ、元気出せよって尻尾をモフモフしたかもしれないけど……。
「クソ犬」
コルキスがぼそっと呟いたかと思うと、グレスをぼこぼこにし始めた。ディオスを纏ったままのパンチは凄く痛そうだ。
「ちょっと、止めろよコルキス!」
俺は数発で気を失ったグレスを、容赦無く殴り続けるコルキスを何とか宥めた。
「兄様、こんなお荷物なクソ犬なんて置いていけばいい。ぼく達だけで帰ろうよ」
「何を言ってるんだコルキス。仲間を見捨てて行くなんて最低の冒険者じゃないか」
そもそもお荷物になったのはコルキスがぼこぼこにしたからで、意識があれば自力で歩くくらいできただろうに。
「仲間を窮地に追いやった責任をとって、自ら餌になって時間稼ぎするのも冒険者の仕事だと思うけど」
ディオスに覆われていてコルキスの表情は分からないけど、何て恐ろしい発想なんだ。
「そんな恐いこと言うなよ。一緒に魔物を撃退するって方法も――」
『トロジーなんて面倒なの相手にするの、儂は嫌じゃ』
「無いみたいだね、兄様」
ティザーが俺の言葉を遮ってきた。おまけにコルキスもそれに乗っかって、いそいそとグレスを囮にするため行動を始めた。
「だから止めろってコルキス。アクネアも何か言ってくれよ」
『アクネアは酔って寝とるぞい』
アクネアーーー!!
そういえば、さっき地面の上でぐったりしてたな。
「とにかく、初めての依頼で仲間を犠牲になんてしたくないんだよ、別の方法で乗り切ろう、な?」
「別の方法って何、兄様?」
コルキスは手を休めることなく聞いてくる。
「そ、それは……」
ビッグホワイトベアーやガイラカンは、コルキスなら問題無く倒せると思う。だけどトロジーはそうはいかない。限りなくSランクに近いAランクの魔物。
なんだってそんな魔物がこんな所にいるんだよ。
『やれやれ、トロジーはまだ距離があるからの、ビッグホワイトベアーとガイラカンだけ倒してトロジーはやり過ごすのが得策じゃろうて』
「ほ、ほら! ティザーもそう言ってるし、そうするぞコルキス」
「トロジー以外はぼくが戦うんだよね」
コルキスが俺の方に振り向いて、ディオスから顔を出した。とんでもなく不機嫌顔じゃないか、感じ悪い人形にも負けてないぞ。
「そ、そうなるな。でも頼むよコルキス。明日はコルキスのやりたい事に付き合うからさ」
「明後日も」
俺の目を真っ直ぐ見たまま要求してくる。
「明後日もだな、分かった!」
「うー、疲れてるのに。だから嫌だって言ったのに」
コルキスは文句を垂れ流しながら、吹雪に溶け込んでいった。
残された俺は、寝かされた氷柱に磔られたグレスを解放してやる事にした。
しばらくするとコルキスが戻ってきた。何故かほくほく顔で嬉しそうだ。
「兄様、やっつけて来たよ」
「あ、ああ、ありがとう」
「あのね兄様、さっきガイラカンを倒したらね――」
『悪いが、先にトロジー対策をするからの』
嬉しそうなコルキスを遮りティザーが土魔法を使う。一瞬で俺達の周囲が高さ20メートル位の土壁に囲まれる。
『ほいっほいっ』
続けてティザー地面を叩くと小屋や家が生えてきた。
「凄いね兄様。村が出来たよ!」
一瞬で出来た小さな村にコルキスがはしゃぎ始める。さっきまでの不機嫌さはどこへいったんだろうか。この豹変っぷりはちょっと怖い。
『完成じゃ。これでトロジーは儂等に手出しできんぞ』
「ありがとうティザー。あと、ついでにグレスを家の中に運んでくれないか?」
成人した狼獣人を運ぶなんて俺には出来ない。
『それは嫌じゃ』
「ぼくも嫌ー」
コルキスはクスクス笑いながら1番大きな家に入っていった。ティザーも雪に埋もれたアクネアを拾い上げるとコルキスに続いて行く。
結局、残された俺はひーひー言いながらグレスを運ぶ羽目になった。
~入手情報~
【種族名】ビッグホワイトベア
【形 状】白熊型
【危険度】C
【進化率】☆
【変異率】☆☆☆
【魔力結晶体】
幼体期のみ発生
【棲息地情報】
レデルトリーン大雪原/ポラリス島/テネ氷山など
【先天属性】
必発:氷
偶発:風/光/火
【適正魔法】
必発:氷
偶発:土/風/氷/火/影
【魔物図鑑抜粋】
大きな白熊型の魔物。
体長は4メートル~8メートル。分厚い皮膚は大抵の物理攻撃を弾き返すだろう。氷魔法を巧みに使い獲物を追い込んでいく。また、爪や牙は武器に、皮はマントや絨毯等に加工されることが多い。
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【種族名】ガイラカン
【形 状】不定形型
【危険度】E
【進化率】☆☆☆
【変異率】☆☆☆
【魔力結晶体】
すべての個体に発生
【棲息地情報】
極寒地上空/イリゼカ地下塔/ネンス飛空湖など
【先天属性】
必発:氷
偶発:風/水
【適正魔法】
必発:氷
偶発:風
【魔物図鑑抜粋】
そこまで強くないが、基本的に空を漂っているため対空手段が無ければ厳しい戦いになるだろう。上空から降り注ぐ氷の礫や冷たい粘液は地味に辛い。毛食であり体内の保存袋という器官に溜めた毛が少なくなると、採集のため地面近くまで降りてくる。頭髪で誘き寄せた結果、討伐に失敗し禿げ頭になるといった事故報告は案外多い。数が少なく美味であり高級食材として高値で取引される為、極寒地に居る低ランク冒険者はガイラカンを見つけると嬉々として攻撃を加える。
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【種族名】トロジー
【形 状】悪霊型
【危険度】A
【進化率】☆☆☆☆
【変異率】☆
【魔力結晶体】
すべての個体に発生
【棲息地情報】
主にスノーエルフの集落周辺、遺跡等
【先天属性】
必発:氷/影
偶発:闇/風/植物
【適正魔法】
必発:氷/影
偶発:植物/闇/水/風/土/雷
【魔物図鑑抜粋】
魔力の高いスノーエルフがリッチ化したと言われる魔物。物理攻撃を無効化し高度な氷魔法や影魔法を使用、中には闇魔法を使用するものもいる。更に個体によって様々なスキルや固有スキルを使用してくる為、攻略法が異なるのも冒険者達を悩ませている。また、生前の記憶のせいか、高さ5メートル以上の壁に囲まれた村や町に近づく事はない。
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【レデルトリーン予報】
レデルトリーン大雪原の天候予測。
1日に3回予報を発表しており、メネメッサにいる者を中心に注意喚起をしている。的中率は驚異の97%となっており絶大な信頼を得ている。




