54話 尻尾だ!
通貨関係などを追加。
俺達は冒険者ギルドの受け付けに戻ると、アカルさんから貰った用紙をさっきの受付嬢に渡した。
なんだろう……疎らに居る冒険者が俺達を見ているような気がする。
「やっぱり特例でしたか」
受付嬢は納得顔で作業を始めた。
「良かったなコルキス」
「うん! 兄様の気紛れに付き合ってあげたけど、結構楽しかった」
ん?
俺は最低ランクからスタートしないで良かったなって言ったつもりだったんだけど、コルキスは戦いが楽しくて良かったなと受け取ったのか。
ふっ、俺の表情が読めるなんて言ってたけど、まだまだだな。
「ちゃんと特例で良かったとも思ってるからね」
「そうか」
……得意気に返されてしまった。
「お待たせしました。では、まずコルキスさんからですね。こちらが冒険者登録証です」
受付嬢がルプスプレートで作られた蝙蝠型の板を出してきた。真ん中にEと書かれ、蝙蝠の目には赤い石がついている。
「わあー、これカッコいいねディオス! それになんだか美味しそう!」
「……食用ではありませんのであしからず。ごほん。コルキスさんは特例によりEランクからのスタートです。戦闘面では申し分無い強さでしたが、油断しないようにして下さいね。それと種族がヴァンパイアハーフなので、登録証はそれを表す蝙蝠となっています。シンプルな物に変えたい場合は次回のランクアップでお申し出下さいね」
「ううん、ぼく絶対変えない」
へー、種族で登録証の形が違うのか。知らなかったな。
「そうですか。では次にアルファドさんですが、あなたも特例となりますがFランクからのスタートです。コルキスさんと同じく油断しないようお願いします。アルファドさんは人間とのことですので、こちらの形です」
受付嬢が出したのは、パンに剣が刺さったラビトプレートの登録証だった。剣の柄に四角い橙色の石が嵌め込まれており、Fの文字がパンに刻まれている。
ちなみにルプスプレートとはバイオレットウルフの血液を特殊加工した綺麗な紫色の透明な板で、ラビトプレートはレッドニードルラビットという魔物の角を特殊加工した赤色の板だ。
「兄様のはカッコよくないね」
そうかな、俺は結構いいと思うんだけど。
「そうか? まあコルキスのに比べたら確かにな」
俺がそう言うとコルキスは嬉しそうに自分の登録証を眺め始めた。
「ここからは共通です。まず依頼ですが原則、自分と同ランクか1ランク違いのものしか受注できません。受注すると準備金として一部報酬の前払いを致します。そして、依頼達成の際に残りの報酬をお渡し致します。万が一、依頼に失敗もしくは取り止めを希望される場合は、準備金の倍額をお支払いただきます。なお、冒険者ギルド発行の共通系貨幣はすべて仮想通貨ですのであしからず」
「はい」
「冒険者としての活動記録は登録証の石に記録可能です。また、紛失された場合、登録証の再発行は致しません。登録抹消となり、再度Gランクからスタートとなりますし、登録証に振り込まれる報酬等も抹消となりますので、くれぐれも失くさないようご注意下さい」
「わかったー!」
「ランクアップは冒険者ギルドが依頼の達成率や活動記録等を総合的に審査し判断致します。もし審査に不服が有る場合は、こちらが指定する条件をクリアする事で再審査も可能です。犯罪を犯した場合は冒険者登録の抹消及び討伐対象となります」
呪いの人形事件の事は墓場まで持って行こう。あ、でも俺って1回墓場に埋められたんだっけ。
「また、ランク毎に最低受注制度という物があります。Fランクは2ヶ月に2件、Eランクは半年で2件です。冒険者は全て自己責任となりますので、怪我や命を落とす等、何があっても冒険者ギルドは一切責任を負いかねますのでご了承下さい」
「わかりました」
「各ギルドで定期的に冒険者講習をしておりますので是非受講されてください。ちなみに、お伝えし忘れておりましたが、万が一に備えて冒険者保険に加入する方もいらっしゃいます。ご希望であれば商業ギルドでお手続き下さい。ではこの石に魔力を流すか、血を垂らすと冒険者登録は完了となります」
受付嬢の事務的な説明を聞き、俺は冒険者登録証に血を垂らした。コルキスは魔力を流し、俺達は晴れて冒険者となった。
「あ、すみません、もう1つ。ご存じとは思いますが、先程のご説明のほとんどは魔法関連ギルドと共通です。冒険者登録証も互換性がありますが、あちらにしかない特典等もありますので、新たに登録されても構いません。通貨違いに関してはこちらをご覧ください。読み仮名の魔物名等は俗称ですのでおきになさらず」
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魔法関連ギルド(世界系通貨 魔物名等は俗称)
①世界木貨(1枚で粉末薬草1gと同価値)
②世界銅貨(①100枚と同価値)
③世界銀貨(②1000枚と同価値)
④世界金貨(③1000枚同価値)
⑤世界白金貨(④1000枚と同価値)
※一般流通は⑤まで。下記は主にSSランク以上の報酬または王侯貴族や国家間取引等で使用。
⑥世界魔石貨(⑤1000枚と同価値)
⑦世界魔核貨(⑥1000枚と同価値)
⑧世界迷宮核貨(⑦1000枚と同価値)
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冒険者ギルド(共通系通貨 魔物名等は俗称)
①共通水貨(1枚で綺麗な水10mlと同価値)
②共通木貨(①100枚と同価値)
③共通銅貨(②1000枚と同価値)
④共通銀貨(③1000枚同と価値)
⑤共通金貨(④1000枚と同価値)
※一般流通は⑤まで。下記は主にSSランク以上の報酬または王侯貴族や国家間取引等で使用。
⑥共通白金貨(⑤1000枚と同価値)
⑦共通英雄貨(⑥1000枚と同価値)
⑧共通大英雄貨(⑦1000枚と同価値)
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これは世界4大通貨の2つだから、世界中で知られてはいるんだけどね。形式上見せなきゃなんだろう。
まあ魔法関連ギルドはギルド本部が魔法王国にあるわけだから、極力関わりを避けるつもりなんだけどさ。
「次は商業ギルドに行こう。たぶん、こっちは簡単に登録できると思うから終わったら宿を探そうな」
「いいけど、ぼく今日は兄様と一緒に寝たい」
コルキスが俺の手を握って、もじもじしながら見上げてきた。
「これまでずっと同じ部屋だっただろ?」
コルキスの言っている意味が分からない。ディオスはそんな俺にご立腹のようで、そうじゃないだろと言いたげに見てくる。
「うー、そうじゃないの! 同じベッドで寝たいの! 最近ずっと1人で寝てたから、その……だもん」
「え、何だって?」
肝心の理由のところで声が小さくなってしまったせいで、全然聞き取れなかった。
『寂しいんらっれよ』
急にアクネアが会話に割り込んできた。
「もー、言わないでよ! 兄様、早く行くよ!」
アクネアに吠えたコルキスは、ぷんぷん怒りながら出入口に向かって歩き始める。
くそ、今の不意打ちはズルい。不覚にも可愛いと思ってしまったじゃないか。俺は少しニヤける顔を隠しながらコルキス追いかけた。
「あ、君達ちょっと待って!」
コルキスが出入口に差し掛かったところで、冒険者に声をかけられた。でも、コルキスは無視して冒険者ギルドを出ていこうとする。
「ちょっと待てコルキス!」
慌ててコルキスを引き止め無視は良くないと注意する。けれどコルキスは頬っぺたを膨らませて不満顔を作った。俺は仕方なく、今日は一緒に寝るからと小声で伝えると「じゃあ聞く」と言ってくれた。
ちなみにコルキスの頬っぺたは膨らんだままだったから、頬を両方から押さえて潰しておいた。
「弟がごめん、何の用かな」
声をかけてきた狼獣人に向き直って聞く。あ、この人の凄い尻尾がふさふさだな……触りたい。
「いいよ。でさ、俺は君達が審査を受けるのを見てたんだけど2人共凄く強いじゃん。しかも特例でFランクとEランク。良かったら臨時パーティーを組んでくれないか?」
ニカッっと笑って狼獣人が耳をピクリ……く、たまらん。
「却下」
コルキスが冷たく言い放った。確かにパーティーは組めない。だけどなぁ……狼獣人が友好的に接してくれているのを無下にしたくないんだよな。
「ありがとう、でも俺達は明日にはこの町から出て行くんだよ。またどこかで縁があったら宜しく頼むよ」
本当は今すぐにでもパーティーを組んで尻尾をモフらせて欲しい。俺は断腸の思いで断った。
「そう言わず、ちょっと聞いてくれって。実はここから少し行った所にあるレデルトリーンていう雪原地帯でアイスブックを採集する依頼を受けたんだけど、仲間の2人が風邪引いてダウンしちまったんだよ。準備金も使っちまってピンチなんだ。今日中に終わる依頼だからさ。な? いいだろ?」
困り顔の狼獣人、イイ!
尻尾だけじゃなくて耳も触らせて欲しい。
「手伝えない。お金ならあげるから受注を取り止めてきなよ」
「施しは受けない」
コルキスの言葉に若干苛立ちながら狼獣人が言う。グルルっと言いながら見せる牙もカッコよくて、凄くイイ!!
「じゃあ自分達で何とかしなよ」
「あ、あのさ、手伝ってあげてもいいんじゃないか? 本当に困ってるみたいだし。情けは人の為ならずって言うだろ」
すぐ終わりそうな依頼だし、できる事なら俺は狼獣人と一緒に行動したい。
「やだ。今日はもう疲れたもん」
それはそうなんだけど、狼獣人と仲良くなれるかもしれないんだ。俺はまたあの手を使ってみる事にした。
「頼むよコルキス。いつでも一緒のベッドで寝てやるからさ、な?」
一応、コルキスだけに聞こえるように気を使ってみる。
「……本当に?」
おぉ、効果はばつぐんだ。上目遣いでコルキスが聞いてくる。
『そんら安請けらいはやめらほうがいいれー』
『そうじゃぞアルフ、1人の時間は大切じゃよ』
止めてくれるなアクネアとティザーよ。俺はずっと狼獣人の友達が欲しかったんだ……いや、違うな。尻尾や耳をモフらせてくれる狼獣人だ、友達じゃなくてもいい。
「本当だ」
『知らねーろー』
『儂等は止めらからの』
何でそこまで止めるんだよ。たまに一緒に寝るくらいどうって事ないだろ。まあ確かに、誰かの寝るのはあんまり好きじゃないけどさ。
「分かった。絶対だからね」
「ああ、絶対だ」
よし! よーーーし!!
「すまない、待たせたな。やっぱり手伝うよ。ただし、報酬とは別に尻尾をモフらせてくれないか?」
「本当か!? 助かったぜ……ん? 尻尾がなんだって?」
狼獣人はよく分からないって顔で聞いてきた。
「1回でいいから狼獣人の尻尾を思う存分モフってみたかったんだよ。あと耳も。いいだろ?」
「え? あー……いやどうだろ。狼獣人って尻尾って触られると体調崩すんだよ」
見え透いた嘘を。俺が何度そうやって断られたと思ってるんだ。ちゃんと調べてそんな生態はないって知ってるんだからな。
「じゃあ手伝わない。行くぞコルキス」
「ふぇ、兄様?」
俺はコルキスの手を引いて冒険者ギルドを出た。
「兄様、いいの?」
「いいんだ。モフれない尻尾に存在価値は無い」
『何を言っておるんじゃか』
「待ってくれ!」
俺達が商業ギルドに向かって歩き始めるのと同時に、さっきの狼獣人が追いかけてきた。
「分かった! 好きなだけ尻尾を触ればいい! その代わり絶対最後まで付き合えよ!」
狼獣人が顔を真っ赤にして言う。
「よし、交渉成立だな」
今、俺の心の中では歓喜の歌が流れている。
遂に狼獣人の尻尾を……
俺達はグレスと名乗った狼獣人と打ち合わせすべく、冒険者ギルドに引き返した。
~入手情報~
【名 称】アイスブック
【分 類】本型魔法植物
【分 布】レデルトリーン大雪原
【原 産】レデルトリーン大雪原
【属 性】植物/氷
【希 少】☆☆☆
【価 格】テラテキュラ銀貨1枚
【グレスの早口説明】
茎や葉は大きめの野イチゴような形状だ。花は手のひらサイズで、まるで本みたいな形だぞ。個体によって表紙部分が異なるが、総じて青白い。あとめちゃくちゃ旨い。極稀に氷魔法の下級魔法書として使える花もある。これを見つけたらラッキーだな。こっちもおそろしく旨いが、食べるやつは少ない。価格が通常の1000倍だから当たり前だろ? 旬は晩冬。つまり今だ。
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【冒険者登録証】
冒険者ギルドに登録するともらえる冒険者の証兼身分証。
ランクごとに素材が異なり、さらにその中でも実力の高さや依頼達成率等で以下の表のとおり3つに別れるが、その理由や真意は冒険者には明かされていない。下位の隕石と素行不良者の素材は熟練の素材鑑定師でも間違えるほどよく似た素材である。隕石は毎年冒険者ギルド本部に落ちてくるらしく、その期間は隕石祭なるものが催されている。また、種族によって登録証の形と嵌め込まれる石の色が異なる。石はその種族特有の魔力や血液に最も共鳴するもので、記憶された魔力か血から遠ざかると、2ヶ月で自然消滅する。魔道具の1種であるが、これを作り出した過去の勇者の親切設計により、血を記憶させた場合は魔力ではなく体力で各機能を扱う事ができるようになる。
Gランク:スラプレート/ミナラ隕石/ザッツヨウ石
Fランク:ラビトプレート/バーイット隕石/パシリン鉄
Eランク:ルプスプレート/ハケンシア隕石/ヤンキィ銅
Dランク:ライオプレート/イツザ隕石/パイセン銀
Cランク:キラホプレート/セイシア隕石/テポゥダーマ合金
Bランク:グリフォプレート/エリトシア隕石/シャティ魔銀
Aランク:ガルダプレート/ヤック隕石/-
Sランク:ドラゴプレート/-/-
SSランク:非公開
SSSランク:非公開
※素材の違い(上位/下位/素行不良者)
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【レデルトリーン大雪原】
メネメス国の首都メネメッサから3キロほどの場所に広がる大雪原。日が出ているとキラキラ輝き美しいが、強風が吹くと表情を一変させ、生物の生存を拒否するかのような過酷な状況になる。氷属性の魔物が数多く生息している。
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【狼獣人】
狼の獣人。
『尻尾だ!! 狼獣人だ!! 豊かで美しい毛の尻尾を持つだけでなく嗅覚や聴覚、さらには基本的な身体能力が高い種族!! 群れを作り集団で暮らす者、完全に1人で暮らす者に分かれる。同種族の間では上下関係に異常なほど厳しいが他種族にはそうでもないらしい。仲間思いのイイ奴が多いのも特徴。稀に極悪人もいるが、それはどの種族でも同じだろう。尻尾数の最大で5尾と記録にあった。こいつは1尾か。だが少ない分かなり丁寧に手入れをしているとみた。狼獣人は特定の者のモフりたい欲を最大限刺激する何かが出ている。間違いない。絶対そうだ。見ろよあの尻尾、耳……それに獣化した時のふさふさモフモフの全身は飛び付いて顔を埋めて許されるなら全裸で転がりまくりたい。他にも――』以上、グレスを見たアルフ0.1秒間の思考より抜粋。




