51話 冒険者になろう
後書き修正
メネメス国の次はヒウロイト王国を経由して独立学園都市ミュトリアーレを目指す。ミュトリアーレを過ぎるとマデイルナン公国まであと少しという距離になる。
ヒウロイト王国は冒険者ギルドの本部がある国で、王国という名前だけど王は存在していない。代王と呼ばれる国の代表が、冒険者ギルド本部から選出される変わった国だ。
「兄様、ぼく思うんだけど、わざわざ冒険者登録する必要あるのかな」
コルキスが理解できないと言いながら着いて来る。
俺達はお酒を買った後、冒険者ギルドに向かっていた。
「だって、いちいち入市税や入国税を払うの面倒臭いだろ。冒険者登になれば免除されるんだから」
税金を払う度に長時間待たされたり、何かと理由を付けて税金を多く払わせようとしてくるのに対応するのが疲れる。
「その代わり、依頼を受けなきゃいけないけどね」
『俺はどっちでもいいぜ!』
『儂は手伝わんからのー、ひっく』
コルキスはぶちぶち文句を垂れる。
アクネアはどうでも良さそうだし、ティザーは端からやる気がないんだろう、鞄の中でさっき買ったお酒を飲んでいる。
「いいだろ、冒険者ってカッコいいじゃないか。それに、簡単な依頼なら俺でもこなせそうだしさ」
「言っとくけど、ぼくも手伝わないよ」
コルキスの言葉にディオスも賛同するように羽を動かした。
一方、グルフナは俺に賛同してくれている気がする。
「グルフナはこんなにやる気なのに、コルキス達は薄情だな。そんなんじゃもう血をあげないからな」
「えっ……」
お、コルキスが迷いを見せた。これは使えるかな。
「手伝ってくれたらコルキスの好きな時に血を吸ってもいいのになー」
「うー、そんなのズルい」
『なあ、早くしようぜ! 俺は買った酒を飲みたいんだからよ』
アクネアは酒瓶を取り出して急かしてくる。
心なしか、半分になった感じの悪い人形の顔が酔っ払っているようにも見える。
「うぅぅ、なんで王族特権があるのに冒険者なんかに……」
「王族特権なんか使ったら直ぐクランバイアに確認の連絡がいくじゃないか」
さすがにクランバイアへ連絡がいくような事はしない方が良いだろ。
「本当にいつでも血を吸っていいの?」
「あぁ、でも量は少しだからな」
「……兄様のケチ」
拗ねた顔を見せながらも、コルキスは手伝ってくれると言った。『やり口がヴァロミシアと同じじゃのー』なんてティザーが言ってるけど、そんな事無い。断ってもちゃんと受け入れるぞ俺は。
『そうだ、ついでに商人ギルドにも登録しとけよ。使いもしないアイテムが一杯有るだろ。ドゥーマトラがイライラしてっからよ。売り飛ばして数を減らそうぜ』
アクネアが酒瓶を振り回しながら提案してきた。
普通に危ない。ディオスはコルキスを守るように位置取りをして、グルフナは俺の後ろ隠れた。
「アクネア、ドゥーマトラって誰?」
『アルフのアイテムを押し付けてる精霊だ。思った以上にアイテムが送られてきて整頓するのが大変だって癇癪起こしやがってよ』
「そうなんだ。じゃあ、商人ギルドにも登録するよ。そのドゥーマトラって精霊にはごめんって伝えといて」
メネメッサの冒険者ギルドは氷塊をイメージした建物になっていて、至る所に氷精霊のレリーフがある。
もしかしたら、中には本物の氷精霊がいるかもしれないと思うほど精巧な作りで目を奪われる。
「兄様、見とれてないで早く登録しようよ」
「あ、ああ、すまない」
コルキスに急かされ、ギルドに入ると冒険者が疎らにいるだけで静かだ。
「メネメッサって冒険者が少ないのかな」
「兄様、何言ってるの。今はもうおやつの時間だもん、冒険者ギルドは朝と夜に混雑するんだよ」
そんな事も知らないのと言わんばかりにコルキスが教えてくれた。俺は軽く頷くいて、カウンターに居るエルフの受付嬢に話しかけた。
「冒険者登録をしたいんですが……」
受付嬢は顔を上げると、口を半開きにしたまま動かない。
久しぶりだな、この感じ。
俺は今、姿を変えていない。素顔の俺はとても見た目が良いから、初対面の女の人に話しかけると大体こんな反応になる。
俺は絵姿や顔が良い王族ランキングのせいで広く顔を知られていると思っていたけど、どうやらはっきり顔を認識されているのはクランバイアとその隣国までくらいらしい。
メネメス国まで来れば、なんとなく雰囲気が似ている絵が俺と認識されている。カミルと別れてからアクネアとティザーに姿を変えて欲しいと言うと、そう言われてしまった。
そもそも、今は髪の毛と目の色が違うから絶対気付かれないと笑われた。
「あの、冒険者登録をしてもらえませんか?」
もう一度受付嬢に話しかけると、ハッと我に返った。
「も、申し込みありません。肩に、その、個性的な人形を乗せていらしたのでつい……」
「え? ああ、ですよね。俺の使い魔なんですけど、皆そんな感じになります」
『アハハハハ!』
『ヌホホホホ!』
ティザーとアクネアが爆笑してやがる。
『アルフ、自分に見とれてると思ってただろ。今のは恥ずかしいな、アハハ!』
「くふっ、くふふふ」
それを聞いてコルキスも両手で口を押さえて笑い始めた。
グルフナだけは俺を慰めるようにハンマーの頭部を俺に擦り当ててくれる。
「えーと、ではこの用紙に記入して下さい。文字が書けなければ代筆致します。登録料は銅貨2枚です」
「ありがとう、大丈夫です。あとコイツにもお願いします」
俺は恥ずかしいのを我慢して4枚の銅貨を渡し、コルキスの分もお願いした。
「え、でもそちらの方はまだ子供ですよね。基本的に人間の冒険者登録は13歳からです。失礼ですがおいくつですか?」
受付嬢は小さなコルキスを見て戸惑いながらも、毅然とした態度で対応を続けている。
「ぼくは8歳だよ。でも、ぼくヴァンパイアハーフだから登録できるでしょ?」
コルキスが浮かび上がって、牙と蝙蝠姿のディオスを受付嬢に見せる。
「ヴァンパイアハーフ!? こ、これは失礼致しました。では、こちらを。記入後は簡単な審査をしますので、あちらへお願い致します」
受付嬢は中庭を指差すと、審査官を変更しなきゃと裏へ引っ込んで行った。
さて、申請用紙に記入するか。名前はアルファドで、職業は……魔法使いでいいか。
「兄様、審査があるんだから魔法使いはダメだよ。人形使いとかテイマーにしときなよ」
コルキスは俺の申請用紙を覗きこむと勝手に書き直した。
「おい、何するんだよ」
「魔法使いなんて書いたら審査で魔法使えって言われるでしょ」
コルキスは「ちゃんと考えて書いてよね」って言いながら俺の申請用紙をどんどん埋めていった。
『どっちが兄貴か分かんねぇなアルフ』
『まったくじゃわい』
アクネアとティザーの表情は分からないけど、きっとニヤニヤしているに違いない。
「出来た。行くよ、兄様」
俺はコルキスに手を引かれて、審査官が待つ中庭へ向かった。
~入手情報~
【ヒウロイト王国】
冒険者ギルド本部がある国。
メネメス国の北に有り、代王という国の代表が政治を担っている。冒険者ギルド本部がある為か、高ランク冒険者が多く存在している。また、魔道具作製の技術が世界最高峰であり、国内には3つもの未踏破ダンジョンが存在している為、非常に発展した国でもある。
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【独立学園都市ミュトリアーレ】
ヒウロイト王国から北北東に進んだ場所にある巨大な独立都市。世界中から研究者や学生が集まり、日々知識や技術の研究に明け暮れている。どの国に対しても中立の立場を表明しており、研究結果は各国へもたらされる。その為、世界中から寄付や贈与が行われている。また、学園も存在しハイレベルな教育を施している。
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【ドゥーマトラ】
特級以上のすべての精霊から物を管理するよう押し付けられた哀れな大精霊。気が弱く何事も断れない為、皆に舐められている。たまに癇癪を起こして周囲の精霊に当たり散らす事もある。その際に上級以下の精霊が消滅させられる事も少なくない。仮にも大精霊なのに、とよく愚痴っている。
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【おやつの時間】
コルキスがクランバイア魔法王国にいる時、必ず黒いおやつを食べていた時間。アルフと行動するようになってからは、おやつが食べられない為、イライラする事が増えたらしい。おやつを食べないとひどく攻撃的な性格になるようで、その様子はまるで誰かに乗り移られたかのような豹変ぶりである。




