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49話 僕はカミル

後書き修正

 僕はカミル、麒麟獣人の冒険者で17歳。


 年齢と童顔のせいでよく少年に間違われるけど、成人してもう4年だ。


 僕は海に近い小さな集落で産まれた。


 両親はとても悪い人で、僕が産まれてから数日後に捕まり処刑されたらしい。


 僕は山を越えた先の村にある孤児院に送られる。


 物心ついた時にはいつも空腹を感じていたし、院長も怖かったけれど、毎週末訪れる神官様だけは僕に特別優しくしてくれた。


 一緒に暖かくて綺麗な部屋で過ごして、美味しいご飯もくれて、時々お出掛けもした。


 それに神官様は僕にカミルという名前をくれたんだ。


 僕は週末が大好きだった。


 7歳になった日、僕はこの神官様に養子として引き取られる。


 実は神官様はこの国の大公様で、僕をずっと家族にしたかったと言ってくれたんだ。


 何でなのかと聞くと、大好きだからと笑ってくれた。


 でも大公様は父と呼ばれるのを嫌がり、2人の時はいつでも名前か神官様と呼ぶように言ってきた。

 

 夜は毎日神官様と一緒に過ごし、1日の出来事を話したり話を聞いたりと、とても幸せだった。


 母には2度だけ会った事がある。


 最初は、優しいけどても怖い笑顔で兄と妹を紹介してくれて、あとは何も喋らず一緒に庭園を歩いたんだ。


 僕は母や兄妹と違って、いつも離宮の側に建っている塔で過ごしていた。


 身の回りのお世話をしてくれるピシッとした老婆は、護衛も兼ねた元冒険者で、世界を旅しながら色々な経験をした事をよく聞かせてくれた。


 僕は大人になったら冒険者になりたくて、戦い方や魔法をこっそり彼女から指導して貰っていた。ある夜、神官様に冒険者になりたいと言ったら物凄く怒られたからだ。


 僕が10歳になって3ヶ月後、神官様は何者かに暗殺されてしまった。新しい大公様には兄がなり、僕は国から出ていくように言われた。


 妹は寂しがってくれたけど、兄に「一緒に出ていくか?」と問われると黙って部屋に帰って行った。


 僕は金貨を3枚だけ持たされ国境へ連れて行かれた。


 国境には何故か兵士や他の人は誰も居らず、母が1人で僕を待っていた。僕を連れて来た人達を帰らせると母が神官様のレイピアを携えて近付いてくる。


「あなたは何も悪くないのにね」


 そう悲しそうに言うと、僕の胸にそれを突き刺した。母は泣いていたと思う。


 気が付くと僕は知らない家に居た。そこはあの老婆の孫の家だった。


 老婆は国境に連れて行かれた僕を心配して、後を追っていたらしい。母に殺されかけた僕を助け逃げて来た、と孫は教えてくれた。


 僕は動けるようになると、孫に教えてもらった老婆のお墓で彼女にお礼を言うとそのまま旅に出た。孫の家には金貨を2枚置いておいた。


 僕は国を出て直ぐ冒険者登録を済ませると、獣人とエルフの国を目指した。その途中でキャリンと出会い、意気投合した彼女とパーティーを組んだ。


 獣人とエルフの国に着くと、僕は色々な人に声を掛けられるようになった。全然知らないのに何で家族になりたがるのか不思議がっていると、キャリンが色々教えてくれた。


 その時初めて、僕が国を追い出され母に殺されかけた理由か分かった。


 僕は誰でもいい訳じゃないと言うと、キャリンが私をカムフラージュにすればいいと言ってくれたんだ。


 それから2年くらいして、僕とキャリンは恋人になった。とても楽しかった。ただ、習慣が違い過ぎるこの国で僕は生活し難かった。


 だから獣人やエルフの事を一杯勉強したんだ。ずっとキャリンと一緒にいたかったから。

 

 でも、段々キャリンは苦しそうになっていった。


 僕はいつも誰かに声を掛けられる。一緒の時はいいけど、別行動をしている時は気が気じゃないらしい。僕は夜の時間が大好きだから、どうしても不安なんだって。


 そしてついに出会ってから7年目、イシトウォーリの町で別れを告げられた。


 僕は一度だって誘いに乗ったことは無いけれど、周りから知らされる偽の目撃談を信じたらしい。


 部屋から追い出された時、1人の青年と目が合った。僕は驚きで声も出なかった。すると、彼は僕に一目惚れした大好きだとジェスチャーで伝えてきた。僕は驚きと懐かしさで一杯になった。

 

 咄嗟に幻かもしれないと、心とは反対の事を言っちゃったけど、途中でそんな事はどうでもいいと気付き、僕は彼の誘いに応じる事にした。


 既にキャリンには関心が無くなっていた。こういう所が麒麟獣人の性なのかと少し怖くなったけれど、神官様によく似た彼と一緒に居たいと激しく思った。


 けれど、全部勘違いだったんだ。


 彼はこの国の習慣を全く知らないと言い謝った。つい普段通りにしただけで、僕に一目惚れしたわけでも大好きになった訳でもない。これからしっかりこの国の習慣を勉強するから許してほしい、本当に悪かったと。


 神官様が暗殺されたとき同じくらい悲しくなったけれど、仕方のない事だ。僕は彼の謝罪を受け入れた。


 キャリンと話し合い、彼女をメネメス国へ送る事になった。


 騎獣を借りる為に中央都市へ向かう途中、卵を侍らせ兎の被り物をした彼を見かけた。顔は隠れていたけど、あの身体つきは神官様そっくりだもの。直ぐに分かった。


 いきなりキャリンに首を捻られ一気にその場を離れたけれど、僕はまた彼を見られて嬉しかった。


 なんだか神官様がお別れを言いに来てくれたように感じたから。


 中央都市で騎獣の借り受け申請の許可待ちをしていると、彼が悪事を働き討伐依頼が出されたと冒険者ギルドで知った。


 報酬がかなり良くてキャリンも討伐隊に加わろうとした。僕が気乗りしないから不参加を告げると、彼女も参加を取り止めた。


 そして許可が下り、翌日の為に騎獣の操作講習を受けていると、キャリンが駆け込んで来た。


 彼とその連れと一緒にメネメス国へ行く事になったから、大人数用の騎獣に変更したと言う。事後報告が過ぎると思ったけれど、彼と一緒に居られるのはとても嬉しい。


 待ち合わせ場所に行くと彼と彼の連れがいた。


 ヴァロさんとミシアという2人とは物凄く綺麗な人間で、彼ととても親しかった。


 僕は浮かれていた自分を責めた。僕がどう思おうと彼には全くその気が無いんだから。途端に気まずくなってしまった。


「カミルは何を食べるか決めてるのか?」


 彼が笑顔で聞いてきた。


 え、名前教えてないのにどうして?


 それにこれって……僕は食べると決めていた料理を伝えると彼も同じ物を注文した。


 彼はこの国の習慣をしっかり勉強すると言っていた。つまり、今のは分かった上で僕にアプローチしてくれている。


 ああ、きっと彼は神官様が僕の為に神様に頼んで引き合わせてくれたに違いない。


 ミシアさんもニコニコしながら僕達を見ている。


 僕は思いきって彼に日向ぼっこをしようと告げた。実家には帰れないけど、麒麟獣人はこう言ってプロポーズすると僕は学んだんだ。すると彼は微笑んで了承してくれた。


 僕達は改めて名前を贈り合うと、ヴァロさんとミシアさんが美しい笑顔で僕達を祝福してくれた。そうか、きっとこの2人が色々教えたんだな。


 僕は欲が出てしまい、名前の呼び方で彼のトラウマを刺激してしまった。やっぱり欲張ると駄目だ、謝って皆と同じ呼び方にすると決めた。

 

 アルと初めてする食事は、一生忘れられない味になった。

~入手情報~


【名 称】神官様のレイピア

【分 類】呪獣剣

【属 性】呪/雷

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】-

【コルキスのヒストリア手帳】

カミルを養子にした神官様(大公様)のレイピア。

シンプルに見えるレイピアだけど、魔法威力を増幅したいのかいたる所に偽魔神文字(ぼーとくもじ)下手くそな偽呪神文字(もっとぼーとくもじ)が刻まれてるよ。おまけにこっそりペリュトンの魔力結晶体も埋め込まれてるんだから。素材も魔法と親和性(しんわせー)の高い純ミスリルで作られてるし。まったく危ないったらないよ。今はカミルの装備品だけど全然使いこなせてないんだもん。まあ使いこなしてても厄介だけど。どっちにしても迷惑な話だよね。

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