47話 今度こそ伝えよう
後書き修正
騎獣を使い空の旅を始めて3日目、俺達はメネメス国へ到着した。
俺は首都メネメッサの騎獣管理場で入国税4人分と使い魔の分を支払う。キャリンとカミルは騎獣返却と一緒に冒険者登録証を見せて免税してもらっていた。
俺も登録だけしとこうかな。手続きも面倒だし、いちいち入国税や入市税を払うのが勿体なくなってきた。
「それじゃあキャリン、確かにメネメス国まで連れて来たからね。これでお別れするのは寂しいけど、君と過ごした日々は楽しかったよ」
カミルがキャリンに別れを告げた。
そういえば、パーティーを解散する理由って何だったんだろう。イシトウォーリの町の宿屋で大喧嘩してたけど。
「ヴァロさん、冒険者になって私とパーティーを組んでくれませんか?」
キャリンはカミルを完全に無視してヴァロを勧誘し始めた。
「キャリン、テラテキュラの中央都市で買い物をした時に話したよね。それは出来ない、本当はそうしたくても俺はそれを選べないんだ」
悲しそうな顔でヴァロが答えている。
「やっぱり無理なんですね。私達愛し合っているのに結ばれない運命だなんて……でも、こればっかりは仕方ないですよね」
キャリンが涙を流しながらヴァロに抱き付くと、ヴァロもキャリンを抱きしめた。
おいおい、一体どういう話をしてこうなったんだ。
『ヴァロは身分違いの恋物語を演じているのよ。ちなみに、参考にしたのはオルゲルタ戦記よ』
ミシアが念話で教えてくれた。
ああ、よりによってオルゲルタ戦記。
ヴァロも残酷な事するよ、戦記通りになるならキャリンは生涯ヴァロを想い続ける事になる。
『お詫びに中級氷精霊をキャリンに契約させるんだから、何の問題も無いわよね』
いや、確かに中級精霊と契約出来るのは物凄く幸運なんだけど……それはどうかな。
「兄様、ぼくお腹すいた」
ミシアとやり取りしていたら、全く空気を読まないコルキスが空腹を訴えてきた。
「もう少し待ってろ。2人の邪魔しちゃ悪いだろ」
「うー、ぼくずっと我慢してたのに。兄様しゃがんで、そしたら待つから」
コルキスは恨めしそうな顔でしゃがむように要求してきた。俺がしゃがんだら我慢できるってどういう思考回路なんだか。言われると通りしゃがんでやると、コルキスが首に齧りついてきた。
「痛っ!」
引き離そうとしたけど、力の弱い俺ではどうする事もできない。さらにディオスが周囲から見えないように俺とコルキスを自身の身体で覆った。
「おい、コルキス止めろ……」
コルキスは夢中で俺の血を吸っている。前に吸血された時は目の前が真っ赤になったけど、今回は何の変化も起きてない。
少しすると気が済んだのか、吸血を止めてくれた。
「ケフッ、この前も思ったけど兄様血の味が変わったよね。凄く美味しくなったから、また飲ませてね」
満足気にそう言われても全く嬉しくないし、飲ませる気もあまり無い。この間、俺が感じの悪い人形に何を願ったのか知って以来、コルキルは度々吸血しようとしてくる。
でも矛盾してるかもしれないけど、吸血は俺もそんなに嫌ではない。確かヴァンパイア――コルキスはヴァンパイアハーフだけど――が単に吸血だけするのは気に入ってるからって聞いた事がある。
「ていうか、城に居る時も吸ってたのかよ」
コルキスは何も答えず、ディオスに元に戻るよう言うと俺から離れ噴水まで歩いて行った。
「アル、コルと何してたの?」
ほんの少しの間だったのにカミルが聞いてきた。目には嫉妬の影が落ちている。一瞬迷ったけど俺は正直に血をあげたと伝えた。
「……」
カミルは何か呟き、俺の首を舐めるとコルキスの所へ行った。
「愛されてるわねー、ほぼ治ってる噛み傷を完治させてくれるなんて」
ニヤニヤしたミシアが頬をつついてきた。
俺はそれを軽く払い除けるとヴァロとキャリンの方へ目をやった。
「ヴァロさん、ペルクケナンの花が咲いたらまた会いましょう……さようならっ」
キャリンはオルゲルタ戦記、屈指の名シーンをふわっと再現して走り去って行った。
まあ知ってるよね、女の子が大好きな話だもん。
「よし、これで厄介払い出来たな。あー、疲れた疲れた」
「お疲れ様、ヴァロ」
「俺も同罪だけど、今の台詞は最低だな」
「何言ってるんだよ、これ以上一緒にいる理由なんて無いだろ。それに注文通り穏便に済ませただろ」
「そうよ、それに次はアルフの番なのよ。カミルと一緒には居られないのよ、どれだけ好きでもね……ぷぷっ」
そうなんだよなぁ。
嘘というか、勘違いだって伝えるのを先延ばしにしてたけど、メネメス国に来たらもうカミルと居る必要無いもんな。でもなぁ、カミルは俺を見ると幸せそうな顔するんだよ。できることならカミルを傷付けずに何とかしたい。
「なんか都合のいい事考えてるだろ」
「そんなの無理よ、早く伝えて謝ってきなさい」
気が重いけど行くか。
俺は少し離れた所に有る噴水で、コルキスと喧嘩しているカミルの元へ向かった。
「嘘だ……だって僕の事好きだって言ったじゃないか! それに結婚生活が上手くいかないのは嫌だから別々の部屋で寝ようって!」
本当の事を伝えると、案の定カミルは酷く傷付いた顔で俺の言葉を否定し始めた。
心が痛い、けどカミルの方がもっと辛いんだろうな。
「だから言ったのに。兄様はお前なんか好きでも何でもないって」
「うるさい! コルは黙っててよ!」
「コルは向こう行ってて。俺とカミルの問題だからさ」
「ダメ。兄様はクソ弱いから、力ずくでどうにかされても抵抗できないでしょ」
「僕はアルにそんな事しない!」
あぁ、これはダメな感じだ。
淡々と告げるコルキスが余計にカミルを煽っている。
それに騎獣管理の職員や警備兵、他の騎獣利用者が皆こっちを見てる。
ヴァロとミシアは面白いそうに見ているだけで、助ける気は更々無いようだ。
「カミル、場所変えようか。皆見てるし、落ち着いて話がしたいんだ」
「嫌だ! 僕は見られて困る事なんてしてないし落ち着いてる! アル、何で僕を愛してないなんて嘘をつくんだい? 誰かにそうしろって言われたの? そんな奴の言う事なんか聞かないでいいんだよ。僕達の愛は永遠だろう?」
どうしたらいいんだ。
全部俺が悪いのは分かってるんだけど、これ以上謝っても話が進まないだろうし。
「カミル、俺は本当に――カミル!?」
何とかカミルを落ち着かせようと話しかけたその途中、急にカミルが倒れた。
「やれやれ、面倒臭いのう。色恋なんぞ時間が経てばどうでも良くなるわい」
「そうだぜ、だから言うこと言ってさっさと逃げればいいんだよ。うだうだ文句垂れるなら1発かましてやればいい、今みたいにな」
「ティザー! それにアクネアも!」
なかなかのとんでも理論言いながら、特級土精霊のティザーと特級水精霊のアクネアが現れた。
~入手情報~
【首都メネメッサ】
メネメス国の首都。
険しい山々に囲まれたメネメスの中心にあり、1年の大半は雪が降っている。氷精霊が多く住んでおり、彼らの悪質な悪戯を精霊の気紛れと称し観光の売りとしている。何故かこの町に訪れる人はそれを喜んでいるという。また、美味しいお酒が数多く存在する。
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【名 称】オルゲルタ戦記(初版)
【分 類】恋愛物語
【属 性】無し
【希 少】☆☆☆
【価 格】クランバイア金貨1枚
【アルフのうろ覚え知識】
知ってる知ってる。約10万年前に起こったとされるオト国と神聖国ニア間の大戦争記録を元に作られた壮大な恋愛物語。世界的大ベストセラーって評判で、俺も読んだことあるけど、なんかしっくりこなかったな。確か、敵国の王ユラタウムと恋に落ちてしまった若き大神官オルゲルタと、彼女達を取り巻く人々を中心に話が進んでいくんだ。敵国との内通を疑われるオルゲルタは、その疑惑を晴らさないと国軍に人質にされた、たった1人の家族が処刑されるんだ。しかも彼女自身も3つの呪詛を刻まれる。家族を救う為、オト国と戦う決心をしたオルゲルタが、ユラタウム王に花の蕾を贈る場面は余りにも切ないってジル姉様が言ってた。母上も「そうじゃないでしょ! なんでよっ!?」ってのめり込んでたなぁ。廉価版は低価格で販売されてるらしい。俺としてはこの物語よりも、瑠璃色の魔法使いと大岩の巨人ていう友情物語の方が胸アツで好きだな。
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【名 称】ペルクケナン
【分 類】黄昏草
【分 布】夕間暮れ島
【原 産】神聖国ニア
【属 性】不明
【希 少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【価 格】-
【アルフのうろ覚え知識】
神聖国ニアの固有植物。
あれだろ? 決して花を咲かせることなく、蕾のまま枯れるっていう半透明の美しいツル植物。どうやって繁殖していたのか、既に絶滅しているとかで謎に包まれているっていう。それこそコルキスのヒストリアで確認してみればいいのに……いや、まてよ。コルキスのことだから実はもう確認済みなんじゃないか? そんで遊び半分に学者たちの所へ忍び込んでは、ヒストリアで色々盗み見してニヤニヤしてそうだな。あいつ隠密し放題だからな。で、いつか学者たちに正解を発表してこう言うんだ。「だって教えてって言われなかったもん」って。




