43話 コルキスはカミルが嫌いみたいだ
後書き修正
何か嫌な気分で目が覚めた。
部屋の外でコルキスとカミルが言い争っているからだろうか。
「今出ていくと面倒臭そうだな」
俺は再び眠ろうと決めた。次に起きた頃には多少落ち着いてるだろ。しかし、気配を察知したのかコルキスが部屋の中に入って来た。
「お早う、兄様。よく寝てたね、着替えたら朝ご飯食べに行こうよ」
「……お早うコルキス」
昨日と違ってコルキスが笑顔で接してくる。コルキスがこんな表情で俺を見るなんて何か企んでいそうだ。それと、コルキスはドアに魔法を掛けたのかカミルが何か言いながらドアを叩いている。
「アイツ本当に鬱陶しいね。でも、ぼくが全部本当の事を伝えてあげたから安心していいよ。兄様は結婚なんかしないって」
何だろう、この有り難迷惑。
ただ、誉めてほしそうな顔でモジモジしているコルキスはちょっと可愛い。仲の良い弟がいたらこんな感じなんだろうか。でも、油断できない。コルキスはあのメファイザ義母上の子供なんだから。
「まぁ、なんだ……ありがとう」
「いいんだよ、ぼく闇の大精霊様に誓ったからね。ほら、早く着替えて」
リビングに行くとカミルが随分興奮した様子で椅子に座っていた。
「カミル、どうしたんだ?」
たぶん原因はコルキスが本当の事を言ったからだろうけど。正直俺は有耶無耶な感じにしておきたい。
さっき自室でコルキスにもそう伝えたら、少しいじけてしまった。
「アル、君の弟が本当は君は僕と結婚したくないって言うんだ、そんな事ないよね。僕らは愛し合っているよね」
「さっきからずっとこうなのよ。アル、後は任せたわ。私は身支度してくるから」
キャリンがうんざりした顔で自室へ上がっていった。何て答えようかな。
「カミル、俺はカミルの事好きだよ」
友人としては好きになれそうだから嘘ではない。俺に友人なんていたことないけど……。
「本当に!?」
「うん、本当に」
カミルはさっきまでの不安で一杯な顔を一気に笑顔へと変えた。対してコルキスは不機嫌な顔を隠そうともしないな。
「ほら、コル、聞いた? アルは僕の事を愛してやまないって言ったじゃないか。君の言うことは間違ってるよ」
「相変わらず耳が腐ってるな。そんな風には言ってない」
喧嘩が始まりそうだったから、とにかくお腹が空いたと言い皆で朝食を食べに食堂へ向かった。
スイートルームに宿泊している俺達は、ビッグシザーズロブスターサンドかドラゴンンフェイクステーキを選ぶことが出来たので、3つずつ頼んでシェアする事にした。
「朝からこんな高級な物を食べられるなんて」
どちらもなかなかの高級食材で、初めて食べるらしいキャリンは感嘆の声をあげている。
するとカミルやキャリンの知り合いらしき冒険者が羨ましそうにこっちを見てきた。パンとスープ、ハムが散らばっただけのサラダを食べている彼らの視線は刺さるようで、とても気まずい。
あ、気まずさに負けたカミルが少し分けてあげるみたいだ。
「え、ちょっと……」
あっと言う間にステーキもサンドイッチも全部持っていかれてしまった。本当、凄い勢いで奪っていったな。可哀想なカミル。
「お、俺の食べるか?」
「アル、君はなんて優しい――」
カミルが俺からサンドイッチを受け取ろうと手を伸ばすと、反対側に座っていたコルキスが身を乗り出してその手に触れ、カミルを霧してしまった。
「何してるんだよ!?」
「それはぼくと半分こしたサンドイッチなんだから、兄様が食べないとダメ。あげるって決めたのはコイツなんだから放っとけばいいんだよ」
「いや、それでも朝食抜きってのは」
「1食抜いたからって死なない」
それからコルキスに何を言ってもカミルを元に戻してくれなかった。
俺はカミルにも話し掛けてみたけど、ただただ朧気に揺れているだけで大きな独り言になってしまった。
「いいのよアル。カミルだって全部持っていかれるって分かってて皆に声かけたんだもの」
キャリンの言う皆の方を見ると笑顔で手を振ってくれる。
まぁ、そういう事ならいいのかな。
昨日孵化させた中に食べられる物もあったし、カミルにはそれをあげればいいか。
「そういえば、キャリン達は何しにメネメス国へ行くの?」
「キャリンの知り合いが多いらしい」
「そこで新しいパーティーを作るんですって。それとアル、女の子が口に物を入れた瞬間に話し掛けるなんてマナー違反よ。減点1」
何となく気になって聞いたら、ヴァロとミシアがお説教つきで教えてくれた。
さらに、少し恥ずかしそうにモグモグするキャリンに軽く睨まれてしまった。
朝食後、カミルは大人数用騎獣の操作講習に行き俺達は部屋に戻る。
残りの人は自由時間という事で、ヴァロとキャリンは遊びに行くらしい。キャリンは部屋に戻るなり自室へ走って行った。
ヴァロは窓際に座って小さな氷をどこかへ飛ばしては、クスクス笑っている。
「俺達はどうする?」
「ぼくは部屋に居るよ。今日は陽射しがキツいもん」
「私はアルと一緒に行動するわ」
うーん、コルキスを放っておくのは不安だな。かといって一緒に何をしたらいいかも分からない。
どうしようか……あ、そうだ。
「なあコルキス、昨日出てきたアイテムで一緒に遊ばないか?」
「遊べるような物あったっけ」
そこはどうやって遊ぶか考えればいいんだよ。
「例えば、ハートボムを使って絶望を味わってみるとか、叫びの仮面で恐慌状態を体験するとか」
「何でそんな無意味な事するの、それに楽しくなさそう」
こういう時は無表情なるのか。
「無意味って、遊びの殆どは無意味なもんじゃないか。それにドリアードやラズマはこういうの楽しって言ってたぞ。たぶん俺達を見てミシアも腹抱えて笑うと思う」
「ちょっと、私をあんな狂った精霊達と一緒にしないで。減点1だわ。それに絶望や恐慌状態を解除するのは私なんでしょ、嫌よ」
「ぼくも嫌だ。特にハートボムで自爆なんて、発想がおかしいよ兄様」
そうか?
俺の遊び相手はいつも精霊達だったから、ちょっと感覚が違うのかな。
「じゃあ、エボリューションハンマーで何かを進化させてみるとか……満たされた人形用試験管とか?」
「それなら、まあいいけど」
「私もその方がいいわ」
コルキスもミシアも渋々って感じで了承してくれた。
「ヴァロさん、お待たせしました」
キャリンが随分と気合いの入った格好で2階から降りて来た。
「いいや。前にも言ったけど、君が来るって分かってると本当にあっと言う間なんだ」
今にも好きですって言い出しそうな、頬を赤らめた笑顔でヴァロが言う。
普段は決してしないヴァロの表情に、少しは慣れたと思っていたけど無理だった。
ヴァロの顔を見て笑いが堪えきれそうになかったから、俺はそっと自室へ避難した。
それはミシアも同じだったようで、一緒に笑いを噛み殺した。
「兄様達、何で急に部屋に入ったの? あとキャリンがお土産買ってきてくれるって」
キャリン、本当にごめんよ。
~入手情報~
【名 称】ビッグシザースロブスターサンド
【分 類】魔物サンドイッチ
【属 性】メイン食材の先天属性と同じ属性
【希 少】☆☆
【価 格】クランバイア銅貨750枚
【コルキスのこっそり毒見】
ビッグシザーズロブスターを使ったサンドイッチか……。毒はなさそうだし清潔な状態で調理されてるね。ビッグシザーズロブスターはランクDていどの魔物だけど、捕獲が難しんだって。簡単だとおもうけどなぁ。で鮮度が直ぐ落ちちゃうから高級らしいよ。銅貨750枚が高級……? とりあえず、そんな高級らしい食材を2匹使って、ソースはビッグシザーズロブスターの殻や味噌から丁に寧作ってるっぽいね。パンも高級な白パン……白パンは使用人ご飯だよね? ここじゃ違うのかな。これまでに食べた人たちは美味しいって言ってるから試してもいいかな。兄様と半分こしようっと。
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【名 称】ドラゴンフェイクステーキ
【分 類】魔物ステーキ
【属 性】メイン食材の先天属性と同じ属性
【希 少】☆☆☆☆
【価 格】クランバイア銀貨20枚
【コルキスのこっそり毒見】
ドラゴンンフェイクのステーキ。
Bランクの魔物のドラゴンンフェイクを贅沢に使ったTボーンステーキだね。お肉の旨味を存分に引き出すソースは白い砂浜亭オリジナルらしいね。女将が自ら高級食材を確保しに行ってるみたい。でも高級やら贅沢っていうのは言いすぎなんじゃないかな。たかだかBランクの魔物でしょ? それにどうせならもっと血の滴る狩りたてがよかったな。毒もないからこれも兄様と半分こっと。ていうか何度も毒殺されかけてるくせに兄様ってば警戒心なさすぎだよ。きっとぼくが毒見しなきゃそのまま食べてたね。相変わらずバカだなぁ。




