39話 スイートルームに泊まろう
後書き修正
楽しい食事を終えて、皆で中央都市の端にある丘の上までやって来た。
今日と明日泊まる宿がある場所だ。
「ここが僕達が泊まっている宿だよ」
「白い砂浜亭っていうんです。この町に来たときは必ずここに泊まるんですよ」
カミルは俺に、キャリンはヴァロに向かって教えてくれる。
外観は白い大きな巻き貝を中心に、岩をくり貫いた様な建物や2枚貝が口を開けている大きなテラス等が幾つもある。
海をイメージした宿屋なんだろうか、微かに波の音が聞こえてくる。
「綺麗な宿屋だなー。結構高そう」
本当はお金の心配なんてないけど、こう言った方が王族っぽくないよな。
「そう思うよね。でも大丈夫、ここの女将さんは元冒険者で普通の部屋は良心的な価格で泊まれるんだよ」
カミルが教えてくれる。それは良い宿だな。
でも、日向ぼっこが出来そうな屋根なんて見当たらないんだけど、奥の方にあるのかな。
「上の方の部屋は見晴らしが良さそうだな」
「そうねヴァロ、最上階の部屋は空いているかしら」
ヴァロとミシアも気に入ったみたいだ。
「ふふっ、ミシアさんったら。最上階はスイートルームなんですよ。とっても高いんですから」
キャリンが笑いながら「行きましょう」と中へ入っていった。
「うわぁ、凄いな。ウルユルト群島国の貴族の家みたいじゃないか」
外から見ても綺麗な宿屋だったけど、中も相当手の込んだ作りになっている。様々な島が密集しているウルユルト群島国、あそこへ見合いをしに行った時に泊まった上級貴族の別邸みたいだ。
「よく分かったじゃないか! あんた実は良いとこの坊っちゃんだろう」
白い砂浜亭の内装に感激していたら、いかにもウルユルト人ですって感じの女性が話しかけてきた。
「あ、女将さん! お客さんを連れてきたのよ!」
キャリンがその女性に駆け寄り、俺達を紹介していく。
「こりゃまた、随分綺麗なお客さんだね。坊っちゃんはいたって普通だけどさ。ハハハ!」
カラカラと笑う女将さんは気の良さそうな人だ。
「最上階の部屋は空いていますか?」
「スイートって聞いたけれど、やっぱりこれだけ素敵だと予約で一杯かしら」
ヴァロとミシアが女将さんに尋ねる。
「え、2人共本気だったんですか!?」
キャリンが驚いているけど、普通そうだよな。俺が王族感を出さないように気を付けてたのに台無しだよ。
「今はシーズンじゃないからね、スイートは空いてるよ」
「では、今日と明日の2泊お願いします」
「やったわ! アル、加点1よ!」
お、何か得したな。今ので7得点目なんじゃないか? 御褒美が現実味を帯びてきた。
「あいよ! こんな時期にスイートなんてありがたいね、サービスしておくよ!」
女将さんはとても嬉しそうにしている。
「それと、キャリンとカミルも同じ部屋に変更してもらえますか? 支払いは私が持ちますので」
「そうね、その方が楽しいわ」
ヴァリとミシアがどんどん話を進めていく。俺の意見を聞いてくれないのな。まあ俺もスイートに泊まってみたいからいいんだけど、一言あってもいいじゃないか。
「そんな、いけませんヴァロさん。そんな大金を私の為に使うなんて」
「キャリン、僕もいるんだよ。でも、そうです。そんな事してもらうなんて悪いですよ。さっきも御馳走してもらいましたし」
2人が揃って断ってきた。俺はどっちでもいいんだけどなぁ。
「騎獣に乗せてくれるお礼だよ」
「そうよ、私達は出来るだけ早くメネメス国に行かないといけないから本当に助かったのよ。向こうでお礼をしている時間はないから、今受け取ってくれると嬉しいのだけど」
「でも……」
キャリンとカミルはそれでも迷っているようだ。
「いいじゃないか。支払はしてくれるって言うんだし、アンタも1度でいいからスイートに泊まってみたいって言ってたろ? それにアタイが儲かるからね、決まりだよ!」
そう言ってウィンクする女将さんは、母上とは違った大人の魅力がある。
「それじゃ……お言葉に甘えさせていただきます」
「皆さん、ありがとうございます」
そう言うとキャリンとカミルは荷物を取りに部屋へ駆けていく。
「スイートだって! 信じられないわ!」
「僕も皆に自慢するよ!」
遠くから聞こえてきた声に女将さんが微笑みを浮かべる。
「そいじゃ、支払いを頼むよ。全部でテラテキュラ金貨30枚だよ」
ヴァロが支払いをしようとすると女将さんが待ったの声をかけてきた。
「クランバイア金貨かい、そしたら6枚でいいよ」
え、そんなに安くなるの!?
「ありがとうございます。ですが、30枚お支払します。差額で冒険者の皆さんにサービスしてあげてください」
「そうね、私達も彼等にはとてもお世話になっているもの」
どうしたんだろう、ヴァロとミシアが良い事してる。何を企んでいるんだ?
「はぁ~、アンタ達気前がいいねぇ。よし分かった、当分ここに泊まる冒険者はラッキーだね。そいじゃ、このスイート宿泊証を見せれば宿の施設は使い放題だから、しっかり楽しんでいっておくれ」
女将さんは5枚の綺麗な貝殻をくれると、奥に引っ込んで行った。
俺達は、興奮気味に戻ってきたキャリンとカミルを連れて、最上階のスイートルームへ向かう。途中にあった水魔法を利用したエレベーターは、とてもお洒落だった。
「すごーい!!」
「うわぁ……夢みたいだ!」
スイートルームに着くとキャリンとカミルが歓声を上げる。俺は声こそ出さなかったものも、素晴らしい部屋に感動を覚えた。
ウルユルト伝統の大きな貝殻や、美しい岩を使った家具や調度品。大きな吹き抜けの窓やその窓枠、2階へ続く階段や壁、何もかもが異国情緒溢れていてワクワクしてくる。
「それじゃあ、男は1階の部屋を」
「私とキャリンは2階へ行きましょう。バルコニーからの景色が最高らしいわよ」
ミシアとキャリンはあっという間に2階へ行ってしまった。ヴァロもさっさと自分の使いたい部屋へ引っ込んで行く。
「カミルはどっちの部屋を使いたい?」
残った2部屋でどちらがいいか聞くと、予想外の答えが返ってきた。
「何を言ってるんだいアル。僕達は一緒の部屋に決まってるじゃないか」
え、何で?
意味が分からなくてきょとんとしていると、カミルに抱えられて部屋まで連れてこられる。凄い力で振りほどけなかった。
「うわっ凄い景色だな」
大きな窓の外は、中央都市から遠くの海まで一望できる。さすがにテラテキュラの王城よりは低い位置にあるけど、沈みかけた陽と相まって絵画を見ているようだ。
「アル、僕は嬉しかったんだ。1度は勘違いで振られてしまったけど、僕は君を忘れられなかった」
何だ? 話が見えない。
「教えてもいない僕の名前を知っているし、何を食べるか聞いてくれるし、僕が食べると言った同じ物を食べてくれて、一緒に屋根の上で日向ぼっこまでしてくれるなんて……僕も愛しているよアル!」
あららら? 抱きしめられたんですけど?
どういう事だよ。名前は偶然知っただけだし、レッドバニーカクタスは美味しそうだと思っただけで、日向ぼっこは……えと、普通の事だよな。
「ごめん、何言ってるか全然分からない」
「もう恥ずかしがらなくてもいいんだよ。君の気持ちはよく分かったから」
「いや、だからさ、何でそういう事に――」
「そうだ! アル、どこか怪我してない? 僕が治してあげるよ。少しくすぐったいかもしれないけど、効果は抜群だから」
怪我?
怪我はしてないけど、なんだろうこの話が噛み合わない感じ。イシトウォーリの時と同じだ。
「イシトウォーリでは1人部屋だったのに、さっき会ったときはあんな綺麗な2人と一緒に居るんだもん。僕に勝ち目なんか無いかと思っていたけど……君が何を食べるか聞いてくれて嬉しかったんだ」
え~何これ。俺、また何かやらかしたのか?
あ、そういえばヴァロとミシアが凄いニヤニヤしてたな。日向ぼっこする年齢になったとか、お祝いとか……アイツら気付いてたな。
「う~ん、怪我はしてない。あと、ヴァロに話があるからちょっと待っててくれないか」
「いいよ、僕らはこれからずっと一緒にいられるんだ。ちょっとくらい待っても全然平気だよ」
おぉぉぉぉ……これは本格的にダメなやつだ。
俺は足早にヴァロの元へと向かった。
ヴァロの部屋へ駆け込むと、下卑たニヤつき顔で出迎えてくれた。精霊の姿に戻って寛いでいるとこ悪いけど説明してもらおうじゃないか。
「良かったなアルフ。このスイートは俺とミシアからのお祝いだ。新婚の2人が初夜を過ごすには最高だろ?」
新婚だって!?
「待ってヴァロ。新婚って何?」
「麒麟獣人が屋根の上で日向ぼっこしようって言うのは、死んだ後もずっと一緒にいようって事じゃないか。プロポーズの決まり文句だぞ」
そんなの聞いた事ない! 何それ、何でそれがプロポーズなんだよ!?
「いいかアルフ。麒麟獣人は実家で1番日当たりのいい屋根にお墓を作るんだよ。つまりさっきのあれは一緒のお墓に入りましょうって事だ」
回りくどすぎるどころの騒ぎじゃない! 理解不能だ!
「知らないよ! その場で止めてくれてもいいじゃないか!」
「いやな、アルフがカミルに何を食べるか聞いただろ。あれって、別れた獣人の恋人同士だとやり直したいって意味になるんだ。そして、相手と同じ物を食べると、もう今度こそ本当にあなた以外愛せませんって意味になるんだ」
そういう獣人のルール分かり難すぎるよ!
シルフィに注意されてたけど、こんなの分かりっこない!
「で、そこからの日向ぼっこだろ? アルフから熱烈に復縁を迫って上手くいったんだ。止めるわけないだろ……クククッ」
絶対面白がってる。だからミシアが大量に加点してくれたんだ。
「いや困るよ。どうすればいいんだよー!」
「俺はお似合いだと思うぞ。勇者なんかよりよっぽどな」
なんでそこで勇者が出てくるんだ!
とにかくカミルの誤解を解かないと……2回目だから凄く気まずい。
あぁ、もうどうやって話したらいいんだ。
~入手情報~
【白い砂浜亭】
テラテキュラ王国中央都市にある宿屋。
まるで海岸の一部を切り取ったかのような美しい宿屋。一般の部屋は格安で宿泊できる。グレードが上がるとそれなりの値段になるが、それでも値段以上の素晴らしい宿屋だと評判。
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【ウルユルト群島国】
クランバイア魔法王国からずっと南へ行った所にある群島国家。大小30000もの島があり、様々な海洋種族が暮らしている。国民は頭に薄い布を巻いたり、露出の多い服装を好んでいる。また、新鮮な海の幸で溢れており、海鮮好きには天国のような国である。クランバイア魔法王国とは良好な関係を結んでいる。
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【名 称】リッキングリカバリー
【発 現】カミル
【属 性】雷
【分 類】ぺろり型/固有スキル
【希 少】☆☆
【効 果】
麒麟獣人特有の長い舌で傷をペロペロ舐めると、見る見るうちに治癒していく。命に関わる大怪我は治癒できないが、ある程度の怪我までなら痕も残らず綺麗に治る。治療中は擽ったいのが難点。余談だが長い舌は色んなことに使用できるらしい。使用時は自動でマスカレードマスクが装着されるため場合によっては妖しい雰囲気が漂うかもしれない。




