34話 ヴァロとミシア
後書き修正
さ、寒い……あまりの寒さに目が覚めた。
俺はテントを出ると我が目を疑う光景に絶句してしまった。
なんと、テントの外は氷で出来た部屋になっていた。しかも丁寧な事に竜胆の離宮にある俺の部屋と全く同じにしてある。
俺は震えながらを外に出ると、ヴァロとミシアが感じの悪い人形でキャッチボールをしていた。
「やっと起きたかアルフ」
「遅いわよ、退屈だったから減点1よ」
2人はキャッチボール――いや、キャッチドールか?――を止め俺に近付いてくる。
「減点って……それより、この部屋はどうしんだよ」
「俺達で作ったんだ、テントだけじゃ不安で遊びに行けなかったからな」
「そうそう、名付けてお部屋型氷結界よ」
2人はどうだと言わんばかりに胸を張っている。俺を放って夜遊びとは、さすが散歩感覚で来ただけの事はある。
「ありがとう、凄く寒かったけど安全を気にしてくれて嬉しいよ。次は室温にも気を配ってくれたらなお嬉しい」
そう伝えると2人は互いの顔を見た後、不思議そうに言ってきた。
「ちゃんと気を付けただろ」
「そうよ、凍死しなかったでしょ」
「そうか。それは……うん、ありがとう」
何だか釈然としないけど仕方ないか。契約者は母上なんだし、俺がああしろこうしろとは強く言えないもんな。2人にしては気を使ってくれた方だよ。
「それにしてもなかなかの出来だよな」
「本当、消すのが勿体ないわ」
2人が自画自賛している間に俺は3人分の朝食を作る事にした。
ヴァロミシアは精霊にしては珍しく、1日3食きっちり食べる。食事をしながらするお喋りが楽しいらしい。大精霊になった暁には、氷精霊達は皆食事をしなければいけないとする決まりを作るんだって息巻いている。
「まだ出来ないのか?」
「遅いから減点1だわ」
2人はお部屋型氷結界を消すと、俺の後ろで文句を言い始めた。
「もう少しだから待ってて。あとミシアが言ってる減点って何?」
「急げよ。あ、でもだからって手抜きはダメだからな」
「マイナス10点になると私達はアルフを置いて帰るの」
なるほど、よく分かった。つまり母上の命令で来てる訳じゃなくて、本当に遊びに来てるんだな。
となると、この朝食だとさらに減点されかねない。置いていかれるのは嫌だから、気合いを入れた朝食に変更する事にした。
「お、旨いな。良い仕事してるぞアルフ」
「本当ね。加点1よ、この調子で頑張って」
あ、加点もしてくれるんだ。ちょっと安心した。
「りょーかい」
「ん、気の無い返事だな。そんな事じゃ俺達を楽しませられないぞ」
「得点がプラス10になったら御褒美があるんだから、もっとやる気を出した方がいいわよ」
御褒美!? ヴァロミシアが御褒美!?
一体何をくれるんだろう。嬉しいような怖いような……前に氷の口づけの事を御褒美って言ってたからな。そんな感じの物だったら突っ返そう。
「今、失礼な事考えただろ」
「アルフは顔に出やすいんだから。減点2よ」
え? てことは既にマイナス3点じゃないか。
危ない危ない、この調子じゃ今日中に2人が帰ってしまう。メネメス国は氷精霊が沢山住んでるからヴァロミシアには居てもらわないと困る。氷精霊の悪戯って悪質なんだよな。
「そ、そんな事ないよ。何したら2人が喜ぶか考えてたんだって。失礼な事なんて考えるわけないじゃないか」
「本当かぁー? どう思うミシア」
「嘘だと思うわ。どうせ、メネメス国の氷精霊達から守って欲しくて取り繕ってるのね。さらに減点2ね」
あーーー!! 今のでマイナス5点になってしまった!!
「アハハハ! なんて間抜けな顔してるんだよアルフ!」
「やだっ、本当ねヴァロ!プッ……加点3よアルフ」
俺の顔を見て笑い転げるヴァロとミシア。なんかムッとするけど加点3ならいいか。
朝食の後は少しだけ朝の訓練をして出発する事にした。
俺が卵を使って飛んだり跳ねたりしていると、隙を突いてヴァロが石を投げたり小枝で攻撃してきた。
「お、これ楽しいな! もっと早く動くんだアルフ、攻撃が当たったら痛いぞー」
「なら私も! ほらほら、アルフ全部避けたら加点1よ。ウフフフ」
2人はキラキラした笑顔を見せ、俺で遊び始めた。
俺は何とか全部を避けきり、加点1をもぎ取る事ができた。「次ぎはもっと早く攻撃したらもっと楽しいかもな」とか「それ絶対楽しいわ」なんて言葉は聞こえない。
訓練のあとの移動はフラテムに教えてもらったやり方でしている。だから相変わらず例の被り物のお世話になっている。
自分で被ろうとしたら、面白そうってヴァロが被せてくれた。
それと俺達に討伐依頼が出ているから、街道から外れた場所を移動する事にした。
シルフィやフラテムは感じの悪い人形に入った後はじっとしていたけど、ヴァロミシアは違った。人形に入ると自由に動き回る。
何でか知らないけど頭にはヴァロ、胴体にはミシアが入り別々に飛び回っている。
怖っ! あぁこれでまた呪いの人形感が増してしまったな。
そして俺から解放された人形は、とても嬉しそうな表情をしている。それがまた一層の恐怖を醸し出していると思う。ていうか頭と胴体が千切れても大丈夫なんだ。
時折ヴァロが楽しそな笑い声を響かせるもんだから、その都度ビクッとしてしまう。ちなみにミシアは念話を使って話している。
「いたぞー!」
あと少しで中央都市に着こうかという時、冒険者が前方からやって来た。恐らくポトルウォーリの冒険者ギルドから中央都市の冒険者ギルドへ連絡がいったんだろう。
それにしても、えらく殺気だってるけどどうしたんだ?
「お、こりゃまた楽しめそうだな」
『そうねそうね、昨夜ポトルウォーリの冒険者ギルドで遊んだかいがあったわね』
何!? 遊びに行ってたってポトルウォーリの冒険者ギルドだったのかよ!?
「何やったんだよ2人とも。あの人達、もの凄い殺気を放ってるんだけど。目がヤバいよ」
「別に大したことはしてねぇよ」
『ちょっと、冒険者ギルドに居た連中を凍らせただけよ』
なんて事をしてくれたんだ!!
冒険者ギルドを敵に回すなんて……そりゃ、あんな殺気を放ってる訳だよ。
「もしかして殺したの?」
「いや。でも首から下だけをガッチガチにしてやったぜ」
『さすがに遊びで人を殺さないわ、常識よ。はい、減点1』
どうだかな。2人ならやりそうな気もするけど。
「おい見ろ! あの人形、頭と胴体が別々に飛んでるぞ!」
「あの偽兎獣人もなんておぞましい顔なんだ!」
「悪魔だ!」
ん、おぞましい?
どういう……あ、もしかして!?
俺は咄嗟にヴァロの方を見た。
「やっとかよ!」
『ヴァロったら、グチャグチャにし過ぎよ。兎の原型が殆どないじゃない』
2人は「気付くのが遅すぎ」って爆笑し始めた。
あの一瞬でよくもまぁ……
「わ、笑ってるぞ!」
「気を付けろ、呪われるぞ!」
「神官達!やれーー!」
冒険者達は周囲に光属性の結界を作ると攻撃を開始した。
~入手情報~
【名 称】お部屋型氷結界
【分 類】氷精霊の工作物
【属 性】氷/毒/命
【希 少】☆☆☆☆☆☆☆
【価 格】-
【効 果】
ヴァロミシアが作り上げた氷の結界。
ドールハウスを見ていて思い付き、そのまま実行した。結界としての性能は非常に優れており、自動修復や反撃機能も備わっている。室温は-2度に保たれているが、結界内の生物が35度以下の体温になることはない。氷精霊特有の悪質な悪戯が仕掛けられている可能性が高いため、室内を調べることはおすすめしない。
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【名 称】氷の口づけ
【分 類】上級氷精霊魔法
【効 果】★★★★★★★
【詠 唱】不要
【現 象】
上級以上の氷精霊が使う氷魔法。口づけした相手を生きたまま凍らせることが出来る。氷精霊の中には気に入った者を凍らせコレクションしている者もいる。氷の口づけを受けたものは死ぬ事もできず、永遠に凍える羽目になる。
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【冒険者】
冒険者ギルドに登録している何でも屋的な職業。
ランクがG~SSSまで存在し、上位のランクになるほど報酬も上がる。下位のランクには雑用が多く、いわゆる子供が憧れる冒険者はDランク辺りからである。ほとんどの冒険者はCランクやBランク目前で引退していくが、一部の短命種または長命種の多くはAランク以上になる者もいる。現在SSSランク冒険者は世界で3パーティーしかいない。
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【冒険者ギルド】
冒険者と依頼人の間に入り、仕事を円滑に進める為に作られた組織。冒険者ギルドの本部自体が国ではあるものの、基本的に冒険者ギルドが設置された地域の発展に寄与することを目的としており、国の枠組みを超えた組織とされている。また、魔物の解体や定期的な講習や実地訓練に加え、冒険者用の装備品や魔道具、アイテム等の売買も行っている。しかし、それらの品質は専門店と比較すると見劣りするらしい。なぜか酒場と併設されている場合が多い。魔法系職業の多くが所属する魔法関連ギルドという、ほぼ同じような組織も存在し互い協力している。なお、年に数回冒険者ギルド本部より監査が入る。それでも悪い奴というのはわいて出てくるようで……。
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【冒険者ギルドの歴史】
かつてはとある国のいち機関にすぎなかった。その昔、前述の国を訪れた異世界人が、王族や貴族の理不尽な要求、冒険者を道具扱いしている事に不満を持ち圧倒的な武力を行使して王位を簒奪、冒険者ギルドを国として独立させた。以降、各国の類似機関やその職員たちが異世界人に賛同、独立宣言をする。その度に異世界人は他の王家と交渉、時には争い彼らを冒険者ギルドの国の機関として迎え入れていった。異世界人は数々の魔道具を作り出し、ギルド発展に尽力したが、歳を重ねるごとに権力への執着を露にし始め、最後は暗殺された。異世界人の亡骸は冒険者ギルド本部地下の一室にて保管されており、ギルドお抱えのネクロマンサーたちが代々各国への抑止力として管理しているらしい。




