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28話 シップルさんと小旅行

後書き修正

 結局俺は一睡もしないまま朝を迎えた。


 思う存分、筋肉の話や自慢が出来たシルフィはとても満足そうに感じの悪い人形の中に入っていった。


 そういえば、城に居たときから精霊達はこの人形に入って遊んでいたな。突然夜中に動き出した時は本当に怖かったよ。確かあの時はアクネアが入ってたんだっけ。


 俺は少し伸びをした後、身支度を整えて1階のダイニングへ向かった。


 シップルの家は平民にしてはそこそこ広い家で、親から受け継いだ物らしい。お風呂があったのは本当に嬉しかったな。ただ、ここに独り暮らしは寂しくないんだろうか。


「お早うさん。アルは結構寝言を言うんだな、筋肉筋肉って一体どんな夢だったんだ?」


 既に起きて朝食を作っていたシップルが笑いながら話しかけてきた。


「アハハ……すみません、よく覚えてません」


「朝は草と木の実どっちがいい? お勧めは草のスープと朝取れ草サラダだぜ」


 シップルは草をお勧めしてきたけど、俺は木の実を頂く事にした。朝食を食べた後、約束のお金を渡そうと思ったんだけど、俺は銀貨と金貨しか持っていなかったと気が付いた。


「あ、シップルさん。俺、銅貨を持ってなかったです。なんで、銀貨1枚でもいいですか?」


 昨日買い物をした時は銀貨1枚分下さいっていう買い方をしたからお釣を貰わなかったんだよな。うっかりしてた。


「何、そうなのか!? いや、クランバイア銀貨1枚だと貰い過ぎだ。それならタダでいいぜ。昨日はアルのお陰で草がたくさん売れたしな」


「それはダメですよ、お金は支払う約束だったんですから。うっかりしてた俺が悪いんで、銀貨1枚貰って下さい」


『ほら、またうっかりしてた』


 シルフィが茶々を入れてくる。


「うーん、さすがに家に泊めただけでクランバイア銀貨はな……知ってるか? クランバイアの通貨って殆どの国で自国の通貨より価値が高いんだぜ。テラテキュラ銀貨5枚とクランバイア銀貨1枚が同じ価値なんだからな。それでなくとも銀貨なんて……」


 シップルが呆れた声で諭してくる。


「それは知ってますけど、無いものは無いので……」


 今から買い物に行って銀貨を崩すのも面倒臭いし、俺としては貰ってくれた方が嬉しい。


「それじゃあ、もう1泊していかないか? その銀貨で旨いもん買ってくるからさ」


 シップルが提案してきたけど、俺は午前中に出発するつもりだ。その事を伝えると、シップルが次の街まで馬車で送ってくれると言い出した。


「それは助かりますけど、いいんですか? 屋台の仕事もあるのに」


「クランバイア銀貨が1枚あるなら2ヶ月はこれだけで暮らせるさ。だから気にしなくていい。それに街へ買い出しに行こうと思ってたからな」


 うーん、それならお願いしてもいいのかな。


 感じの悪い人形をつついてシルフィに確認したら『いいんじゃないの』と返事をもらったので送って貰うことにした。


 シップルは簡単に準備を済ませると、馬車を家の前まで回してくれた。荷台に乗るか迷ったけど、景色を楽しみたかったから俺はシップルと一緒に御者台に乗ることにした。


 次の町まで馬車で2日程だとシップルは言う。


 その町はイシトウォーリといい、周辺に住んでいる獣人もよく通う商業都市らしい。


 そこは様々な草を使った絶品料理があるとシップルが嬉しそうに話してくれた。


 1日目は何事もなく夜になり、シップルが自分の毛で作ったという毛布をかけて一緒に荷台で寝ることにした。


 夜はシルフィが魔物避けの魔法をかけてくれてるので安心だ。ちなみにこの辺りは盗賊が出ないらしい。


 少し肌寒くなってきたから、モコモコしたシップルの毛布が嬉しい。シップルは少し寝相が悪く、何度か俺に当たってきたけどしっかり眠れた。


 2日目の昼過ぎにメベリスとアガンという羊と亀の魔物と遭遇した。


 俺はミステリーエッグで攻撃したかったけど、シルフィが然も俺が魔法を使ったかの様に演出して倒してしまった。


 シップルは「やっぱりクランバイア人の魔法は凄いな、俺の出る幕はなかった」と言っていた。


 それから、日が沈む前にはイシトウォーリの町に到着した。


 入市税としてテラテキュラ銅貨2枚を求められたので、クランバイア銀貨で支払う。とても迷惑そうな顔をされてしまった。シップルは呆れつつも無言で、自分は商業ギルドのカードを見せて通してもらっていた。


 俺達が通りすぎると、門番兵達がいつ鋳造された銀貨か賭けをし始めた。シップル曰く、クランバイアの通貨を手に入れた時のあるあるなんだとか。


「俺はこれから宿に行こうと思うんですけど、シップルさんはどうしますか?」


「俺は知り合いの家に泊めて貰う。けど、その前に晩飯食おうぜ。俺が奢るからよ」


 ニカっと笑ってシップルが誘ってきた。お腹をも空いてるし、行こうかな。


「宿で部屋を確保したら行きましょう。ご馳走になります」


 そして連れて来られたのは草料理専門店。無意識にお腹を押さえるも、今さら嫌とは言えず、俺はシップルの後に続いて入店した。


『いつでも腹痛を治してあげるからお腹一杯食べなよ』


 シルフィがクスクス笑いながら言ってくる。とりあえず気落ちしたまま席に着くとシップルから朗報がもたらされた。


「ここは人間にも評判がいいんだぜ。たくさん食おうな」


 おぉ、何処かへ行っていた食欲が帰って来た。


『ちぇっ、つまんないの』


 残念だったなシルフィ。俺は今から草料理の真髄を頂くとするよ。


 シップルは草のスープと草ステーキを、俺は草のフライと草のムニエルを注目した。お互いに少し交換して食べたけど、どれも凄く美味しかった。


 シップルには悪いけど屋台の焼いた草とは次元が違う。


 大満足でお店を出るとシップルがハグしてきた。


「ずっと気になってた店だったんだよ。アルのお陰でいい晩飯食えたぜ。ここでお別れだが、帰りもまた村に寄ってくれよ。俺、アル事気に入ったからさ。じゃあな!」


 心なしか照れ臭そうに言うとシップルは走って行ってしまった。


 帰りは無いんだけどなぁ。少し罪悪感が湧いてきたけど、どうしようもない。俺は心の中で謝り宿に戻ることにした。


 部屋に戻るとシルフィが感じの悪い人形から出てきた。


 俺はちょうど、この前の卵を孵化させようと思っていたのでシルフィに卵を出して貰った。


「アルフってよっぽどさっきの羊獣人に気に入られたんだね。ご飯食べてる時も、勇者を見つめるジルみたいな顔でアルフを見てたしさー」


 何言ってんだシルフィ。全然そんな感じじゃなかったぞ。


 こいつの目は節穴か?


「さっきシップルさんも言ってただろ。晩御飯が楽しかっただけだよ」


 1つ目の卵孵化完了っと。これは石かな。何ていうものなんだろう。


「違うと思うなー。羊って雄の8%は同性と番になろうとするんだよ。シップルもアルフの毒牙の餌食になったかー」


 その情報は知らなかったけど、シップルがそうと決めつけるのはどうなんだ。普通にいい人なだけじゃないか。


「なぁシップルもって何だよ。俺は男を誘惑した事なんかないぞ」


 2つ目と3つ目も孵化完了。


「無自覚って怖いなー。それに男に限った話じゃないからね。あぁ、被害者達が哀れだよ」


 4、5、6つ目も完了っと。


 何訳わかんない事言ってるんだよシルフィは。


「アルフは兄弟コンプレックスだろ? だから、兄弟っぽい歳の男女には自然と気に入られるよう振る舞うんだ。それが健気な子犬みたいだから皆好きになっちゃうんだよ。ちなみに殆どの動物は普通に同性でくっついたりするから、その気が無いなら動物の性質が色濃い獣人には気を付けなきゃダメだよ。特に獅子獣人と麒麟獣人はね」


 よし、全部孵化終わり。


「はいはい。俺はトイレに行ってくるから、出てきた物を仕舞っといて」


 急にどうしたんだろうなシルフィの奴。


 ふぁーあ。座りっぱなしとはいえ、疲れたな。出す物出したらもう寝よっと。


 明日は買い物をして午後には出発かな。

~入手情報~


【名前】シップル

【種族】羊獣人

【職業】草料理人

【年齢】22歳


【レベル】19

【体 力】127

【攻撃力】42

【防御力】33

【素早さ】97

【精神力】25

【魔 力】20


【スキル】草料理(羊食限定)/馬車操縦/喧嘩

【固有スキル】逃げ足/同族追従


【先天属性】水

【適正魔法】水魔法-下級/火魔法-下級


~~~~~~~~~


【種族名】メベリス

【形 状】羊型

【危険度】F

【進化率】☆

【変異率】☆☆


【魔力結晶体】ほぼ発生しない

【棲息地情報】草原地帯


【先天属性】必発:風/偶発:火・土

【適正魔法】必発:-/偶発:風・火・土・水

【魔物図鑑抜粋】

お世辞にも強いとは言えない。敵に一撃を加え怯んだ隙に逃げ出す。基本的には群で行動するが、群とはぐれた場合は別の魔物と一緒に行動する習性がある。


~~~~~~~~~


【種族名】アガン

【形 状】陸亀型

【危険度】G

【進化率】☆

【変異率】☆☆☆☆


【魔力結晶体】ほぼ発生しない

【棲息地情報】草原や街道沿い


【先天属性】必発:土/偶発:火・水・風・雷・氷

【適正魔法】必発:-/偶発:土・火・水・風・雷・氷

【魔物図鑑抜粋】

甲羅も脆く、人間の大人が全力で踏めば砕けてしまう。また、甲羅は周辺の環境に合わせ保護色になる。肉は食べられないこともない。


~~~~~~~~~


【名 称】朝取れ草サラダ

【分 類】雑草の寄せ集め

【属 性】植物

【希 少】-

【価 格】-

【効 果】

早朝、適当に摘んできた雑草を水洗いしただけのサラダ。

アルフが食べるとお腹を壊してしまうかもしれないリスキーなサラダ。


~~~~~~~~~


【名 称】シップルの馬車

【分 類】荷車

【属 性】水/植物

【希 少】-

【価 格】グランバイア銅貨80枚

【効 果】

人を乗せたり、荷物を運搬する馬などに引かせる車。

シップルの馬車は幌馬車で、馬の代わりに大型の羊に引かせている。また、御者台にはふかふかのクッションが置かれている。


~~~~~~~~~


【名 称】シップルの毛布

【分 類】羊獣人の毛布

【属 性】水/愛

【希 少】☆

【価 格】クランバイア木貨40枚

【効 果】

シップルが自らの毛で作った毛布。

モコモコしていて暖かい。また、大人が2人一緒に使っても余裕がある大きさ。少し羊臭い。


~~~~~~~~~


【獅子獣人】

獅子(ライオン)の獣人。

自然の中、都会両方の生活が大好きな獣人。獣人の中でも戦う力がとても強く男性は(たてがみ)があり、独身時は単独行動好む。女性は数人で行動し、見事なコンビネーションで敵を仕留める。また、性欲が非常に強い為、安易に隙を見せると好かれていると思い込み襲ってくる場合がある。


~~~~~~~~~


【麒麟獣人】

麒麟(キリン)の獣人。

首と舌が長くスラッとした体型が特徴的な獣人。この種族は皆、ネックアタックというスキルを持っており首を振り回しいて戦う事が多い。また、男性の90%は同性とのそういう行為に抵抗がなく、誘われれば即応じる者が大半である。


~~~~~~~~~


【イシトウォーリの町】

テラテキュラ王国で4番目に大きな商業都市。

イシトウォーリを中心に周囲には羊獣人や鹿獣人等、自然の中での暮らしを好む獣人の村や町が多くあり、とても栄えている。


~~~~~~~~~


【テラテキュラ銀貨】

テラテキュラ連邦王国の通貨。

銀と混ぜ物で作られており、テラテキュラに住まう獣人が信仰する神が両面に彫られている。テラテキュラ連邦王国以外では使えない。


~~~~~~~~~


【テラテキュラ銅貨】

テラテキュラ連邦王国の通貨。

銅と混ぜ物で作られており、テラテキュラに住まう獣人が信仰する神が彫られている。テラテキュラ連邦王国以外では使えない。


~~~~~~~~~


【草料理専門店】

イシトウォーリの町で草食の獣人から絶大な人気を誇るお店。

店名はウィーズ&リーフ。イシトウォーリの街で草料理専門を最初に始めた老舗で、今年で開店522年目。豊富な草料理で客を楽しませてくれる。


~~~~~~~~~


【名 称】草のステーキ

【分 類】草料理

【属 性】植物/火/土

【価 格】クランバイア銅貨90枚

【特 徴】

特殊な方法で乾燥させた草と葉を、特大ステーキに見立てて分厚く重ね合わせ焼いた料理でウィーズ&リーフのNO.1メニュー。味付けはプレーン、スモーク、スパイシーから選べる。


~~~~~~~~~


【名 称】草のムニエル

【分 類】草料理

【属 性】植物/水

【価 格】クランバイア銅貨95枚

【特 徴】

特殊な方法で乾燥させた草を魚に見立ててムニエルにした料理。香草のソースと相まってさっぱりした味わい。


~~~~~~~~~


【名 称】草のスープ

【分 類】草料理

【属 性】植物/水/土

【価 格】クランバイア銅貨35枚

【特 徴】

特殊な方法で液状にした数種類の草を、独自配合したスパイスと根っこの出汁で風味豊かに仕上げた赤紫色のスープ。刻まれた白い草が中心浮かべられ彩りも綺麗。


~~~~~~~~~


【名 称】草のフライ

【分 類】草料理

【属 性】植物

【価 格】クランバイア銅貨60枚

【特 徴】

衣も中身もすべて同じ草。しかし味、食感、香りがまったく異なっており、不思議な美味しさに感動する。桃色、水色、黄色3種のソースも飽きさせない良い工夫である。


~~~~~~~~~


【アルフの毒牙】

アルフレッド・ジール・クランバイアが自分の兄姉弟妹(きょうだい)だったらいいなと感じた者に無意識にとる行動。相手の嗜好を瞬時に読み取り、可愛がりたくなるような仕草や態度をとる。シルフィ曰く、健気な子犬の様らしい。

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