27話 羊獣人の村で
後書き修正
俺達は羊獣人の村に着いた。
さっきの場所からこの村まであまり時間はかからなかったので、村人もまだ出歩いていない。
凄く長閑な村だ。簡素な作りの家が疎らに建っていて、時間がゆったり流れている錯覚に陥る。薄くかかる朝靄が一層長閑さを演出している。
「さてと、村の宿で休もうか。久しぶりにベッドで眠れる」
国境までは野宿だったから、ベッドが恋しい。
「アルフ、その前にやる事があるよ。まず、僕はこのままだと目立っちゃうから感じの悪い人形の中に入ろうと思うんだけどいいかな?」
確かにシルフィは目立つ。こんな筋肉ムキムキの精霊は他に見たことがない。自覚はあるんだ。
「でもシルフィは姿を見せないように出来るだろ? 何でわざわざ人形に入るんだよ」
「何にもない空中に話かけるのと人形に話かけるのとじゃ、まだ人形の方がまともに見えるよ」
あ?
どういう理論だそれ。普通はどっちも気味悪がられるよ。
「だってアルフは絶対僕に話しかけると思うんだ。つい、とかうっかりってアルフの専売特許じゃないか」
失礼な奴だ。そりゃあ、たまにはそんな事もあるけど専売特許って言うほどじゃない。寧ろシルフィの方が酷い。
「そうか? 俺の知ってる風精霊は、つい強風を吹かせて室内をめちゃくちゃにしたり、うっかりくしゃみをして俺を城の最上階から吹き飛ばしたりしてたぞ。確か、もの凄く筋肉質な精霊だったような……とにかく、俺の専売特許でないのは確かだよ」
「へぇ、そんな風精霊がいるんだ。今度僕がきちんと叱っておくよ。でもねアルフ、今アルフは元の姿に戻ってるんだよ。それに気付いてないってのはやっぱりアルフはうっかり者はなんじゃないの?」
「え?」
どうしてだ? だって国境を越える前に……あ、そうか。ミステリーエッグを使ったんだった。
「ちょ、ちょうど俺も、もう1回姿を変えて貰わないとって思ってたんだよ。それじゃ頼むよシルフィ」
平静を装ってみたけど、シルフィはジト目で俺を見ている。
「いいけど、宿では筋肉についていーーっぱい語ろうね。1日やそこら寝なくてもアルフは死なないって僕知ってるよ!」
ジト目からのとてもいい笑顔でそう言われた。
シルフィは俺に魔法をかけると感じの悪い人形を俺に渡し、その中に入っていった。相変わらず人形は酷い表情をする。
宿屋を探して村を歩き回ったけどそれらしい物は見つけられなかった。
「シルフィ、まさかとは思うけどこの村は宿屋がないのかな?」
『ほら、話しかけた』
ぐっ、シルフィが念話で返事をしてくる。確かに当たり前の様に人形に話かけてしまった。
朝日もしっかり差してきた今、村人は外に出てきている。近くに居た何人かはそんな俺を見て訝しげにしている。
俺はとりあえずその場を離れ、村の中央広場で話を聞くことにした。
少し前に中央広場を通った時は誰もいなかったのに、今は何人かが朝市の準備をしている。少しだけピリッとした空気なのは商売人が集まっているからだろうか。
俺はその内の1人に話しかけることにした。
「あの、すみません。この村に宿屋はないんでしょうか?」
「ねぇな。それにアンタみたいなヤバい奴は、宿屋があったとしても泊めちゃくれんだろうよ」
20代半ばの男性羊獣人は俺を不思議そうに見た後で警戒気味に答えた。
「俺ヤバい奴、ですか?」
初対面でそんな事も言われるのは始めてだ。
もしかしてシルフィの奴、警戒されるような見た目にしたんじゃないだろうな。
『失礼な事考えてるっぽいけど、僕のせいじゃないよ』
俺の思考を読んだかの如くシルフィの声が聞こえる。
「そりゃ、成人した人間の男がそんな悪趣味な人形を片手に歩いてりゃ誰でもそう思うだろ。いくら俺達がおおらかな種族だっていっても流石にな」
感じの悪い人形は俺がずっと持っているせいで超絶不機嫌顔だ。悪趣味な人形と言われても仕方がない。
シルフィめ、これなら姿を見えなくした方が良かったじゃないのか。
「あ、いや、これは……そう、アイテムボックスなんですよ! 新型で大容量になるからって勧められて作ったんです。確かに愛嬌のない顔をしてますが便利なんですよ!」
「そうなのか?」
未だ警戒気味な男は感じの悪い人形と俺を交互に見比べてくる。苦しい言い訳だったかな。
そう思っていると、人形から銀貨が数枚出てきた。ナイスアシストだシルフィ。
「ほ、ほらね」
俺は男に銀貨を見せつける。
「お、おぉ、本当にアイテムボックスなんだな。それにクランバイア銀貨か。お前クランバイアから来たのか? まあ確かに、あの国ならこんなデザインのアイテムボックスもあるだろうな」
信じてくれた!!
多少、俺の国をディスった気もするけど良しとしよう。
「で、この村に何しに来たんだよ」
さっきより柔らかな声で男が聞いてくる。
「実はフェグナリア海岸に住んでいる人魚の友人に会いに行く途中なんです」
これは昨日、他国をうろつく理由を聞かれた時の返答としてシルフィと考えた物だ。
「フェグナリア海岸だって!? 物凄く遠いじゃねぇか! 歩いて行くとか正気じゃねぇよ。あ、でもクランバイア人なら魔法で何とかするのか」
物凄く驚かれた後で勝手に納得してくれた。
ま、俺は魔法が使えないからテラテキュラの中央都市で騎獣を借りる予定だ。騎獣に乗った事はないけど、シルフィの補助を期待しよう。
「まあ、そんなところです。それにしても残念だな。今日はベッドで眠れると思ったのに」
つい愚痴っぽく漏らしてしまった。
このまま、着替えや旅道具を買って出発しようかな。そうしたらシルフィの筋肉談義も聞かなくていいかもしれない。
『何処で休んでも今日は筋肉について語るからね』
またも思考を読んだかの如きタイミングでシルフィが言ってきた。
「お前、名前は?」
男が尋ねてきた。勿論、名前もちゃんと考えてある。
「ア、アルファドです。友人にはアルとかルファって呼ばれてます」
『プププッ、友人なんて1人もいないくせに……ぐっ』
余計な事を言う人形にはお仕置きが必要だ。力一杯握ってやった。
「そうか、なあアル! これから店を手伝ってくれたら格安で家に泊めてやってもいいぜ! クランバイア銅貨3枚でどうだ?」
え、泊めてくれるの!?
この人いい人だ! あぁこれで今日はベッドで眠れる!
「やります!」
『そんな簡単に他人を信用するなんて。はぁ~あ、これじゃ先が思いやられるね――ぐぇっ』
懲りない奴だな。
「よし、じゃあ決まりな。俺はシップルだ。宜しくな!」
「はい!」
それから昼過ぎまでシップルの店を手伝った。
食べ物の屋台で、メニューは生の草と焼いた草だった。賄いで焼いた草を貰ったけど、悲しいことに、俺はこれの美味しさが理解できなかった。
途中、シルフィに体力回復と腹痛除去の魔法をかけてもらったのは内緒だ。
着替えや旅道具を一通り揃えたあと、晩御飯はシップルお手製木の実の盛り合わせを頂いた。草じゃなくて良かった。
1つだけ誤算だったのは、獣人が使うベッドはとても固かったという事だ。シルフィは愕然とする俺に眠気覚ましの魔法をかけ、朝まで筋肉の話を聞かせてきた。
~入手情報~
【フェグナリア海岸】
マデイルナン公国のフェグナリア地方にある海岸。
セイアッド帝国がある海域に1番近い海岸で、鮮やかな黄色の砂浜が有名。しかし、その一帯には強力な魔物が棲んでおり大変危険な場所でもある。稀に砂浜で見つかる宝石は高値で取引されている。
~~~~~~~~~
【クランバイア金貨】
クランバイア魔法王国の通貨。
純金で作られており、魔力を通すと鋳造された当時の国王が浮かび上がる。強力な偽造防止と保護の魔法が掛かっている。クランバイア銀貨1000枚でクランバイア金貨1枚と同等の価値。また、クランバイア金貨は100枚集まると魔法が発動し、クランバイア大金貨に変化させるか選択できる。他国でも信頼されており使用可能。なお、クランバイア白金貨、クランバイア魔銀貨、クランバイア魔神貨等、この金貨よりも価値のある通貨も存在するが、一般的ではない。
~~~~~~~~~
【クランバイア銀貨】
クランバイア魔法王国の通貨。
純銀で作られており、魔力を通すと鋳造された当時の第1王妃が浮かび上がる。強力な偽造防止と保護の魔法が掛かっている。クランバイア銅貨1000枚でクランバイア銀貨1枚と同等の価値。また、クランバイア銀貨は100枚集まると魔法が発動しクランバイア大銀貨に変化させるか選択できる。他国でも信頼されており使用可能。
~~~~~~~~~
【クランバイア銅貨】
クランバイア魔法王国の通貨。
純銅で作られており、魔力を通すと鋳造された当時の第1王子が浮かび上がる。強力な偽造防止と保護の魔法がかかっている。クランバイア木貨100枚でクランバイア銅貨1枚と同等の価値。また、クランバイア銅貨は100枚集まると魔法が発動しクランバイア大銅貨に変化させるか選択できる。他国でも信頼されており使用可能。
~~~~~~~~~
【クランバイア木貨】
クランバイア魔法王国の通貨。
貨幣樹という魔法王国原産の樹木で作られており、魔力を通すとその属性や微妙な量の変化で異なる歴代の王族やその使い魔が浮かび上がる。もちろん強力な偽造防止と保護の魔法がかかっている。また、クランバイア木貨は10枚集まると魔法が発動し、クランバイア大木貨に変化させるか選択できる。魔法王国で最も価値の低い通貨ではあるものの、他国でも信頼されており普通に使える。それどころか、むしろコレクターがいるほど人気であり、滅多に浮かび上がらない王族や使い魔の姿が現れた場合、魔法関連ギルドに駆け込んで特殊加工を施しその姿を木貨に固定するという。なお、最近亡くなったとされる現代の第13王子は出現率が極端に低いらしく、その見目の麗しさもあって高値で取引されるだろうと予想されている。
~~~~~~~~~
【名 称】生の草
【分 類】草
【属 性】植物
【希 少】-
【価 格】クランバイア木貨2枚
【効 果】
端的に言えば採れたて新鮮な雑草であり、草食のもの以外が食べるとお腹を壊す場合がある。羊獣人の大好物である。
~~~~~~~~~
【名 称】焼いた草
【分 類】発酵した草
【属 性】植物/毒
【希 少】-
【価 格】クランバイア木貨5枚
【効 果】
2週間寝かせ熟成させた雑草に軽く火を通しただけのシンプルな料理。草食のもの以外が食べると酷い腹痛を引き起こす。羊獣人の大好物である。




