26話 国境を越えよう
後書き修正
クランバイア魔法王国の国境は魔道具を使った大規模な防御結界になっている。通称、国境結界。
外からは勿論容易に侵入できない。国民であれば国に登録している自分の魔力を通せば中からは通り抜けられるけど、いつ何処で誰が出入りしたのかが即座に役人に分かるようになっている。
俺の場合は魔力を放出出来ないから、いつも外交用の国境門を使っていた。
「ここまでは誰にも会わなかったけど、俺ってこのままじゃバレバレだよな?」
俺は不気味な体勢で大臀筋に語りかけているシルフィに聞いた。
「そうだね。多少見た目は変わってるけど、顔の作りはそのまんまだからバレるんじゃないかな。他国でも、アルフは顔がいい王族&貴族ランキングとかっていうのにランクインしてるもんね」
「ちょっと待って。見た目が変わってるってどういうこと?」
1回死んで蘇生すると、見た目が変わるのか?
え、どうしよう。固有スキル以外で唯一の取り柄と言ってもいい外見が崩れていたら耐えられないかもしれない。
「あー、心配してる様な変化じゃないから安心しなよ。髪と目の色が変わってるんだよ。髪は青みがかって、目は紫になってる」
一体なんで!?
どっちも母上とジル姉様とお揃いで気に入ってたのに。
「変じゃない?ていうか元に戻らないかな?」
「変じゃないよ。多分元には戻らないと思う。それより、その見た目を誤魔化さないとなー。こういうのはロポリス様が得意なんだけど、僕に上手くできるかなぁ」
戻らないのか。凄く悲しいけど変じゃないならまだいいかな。
確かにロポリスは光を屈折させて別人に見せるの上手い。小さい頃は何度アーシャを欺いてイタズラした事か。
「じゃあ、アルフを別人の姿にするから……ふんぬっ!」
シルフィが大臀筋を強調するポーズをとって魔法をかけてくれた。
「うん、いいんじゃないかな。モーブ様そっくりだ、上出来上出来」
ふぃー、なんてわざとらしく汗を拭う仕草をしてシルフィが褒めて欲しそうな顔で見てくる。
「鏡が無いから確認出来ないけど、モーブそっくりなら問題ないよ。本当、どこにも居るような顔だもんなモーブって」
敢えてシルフィの気持ちを無視して進もうとするとシルフィが目に前に来て、同じセリフと仕草を繰り返した。
俺達はもう1回、全く同じ不毛なやり取りをしてバカ笑いした後で国境結界の前まで駆けて行った。
「さて、この国境だけど――」
「僕が空間移動して向こう側からこじ開けるよ」
そう言うとシルフィはあっという間に向こう側へ言ってしまった。
俺は止めようとしたんだ。ただ、間に合わなかっただけで……
シルフィが国境結界をこじ開けたせいで、迎撃モードになった国境結界からシルフィ目掛けて魔法が放たれ始めた。
なのにシルフィは全く意に介さず「早く早くー」なんて言っている。
「はあ。シルフィ、穴をもうちょっと大きく出来る?」
「んー、このくらい?」
俺がお願いするとシルフィは穴を3メートル位に拡げてくれた。
俺はミステリーエッグを発動させると、慎重に穴をくぐり抜けた。万が一、国境結界にミステリーエッグ当たったらどえらい騒ぎになるだろうな。
「走るぞ!!」
国境結界を抜けたら一刻も早く立ち去ろうとシルフィに声をかけ全力で走った。
「僕は飛んでるから、走るのはアルフ1人だけなんだけどねー」
シルフィはハンモックに寝転がる様な体勢で着いてくる。
くそっ、こんな騒ぎを起こした張本人が楽そうにしてるなんて理不尽だ。
国境結界の迎撃用の魔法が届かない距離まで逃げてくると、俺は地面に大の字で倒れた。
「あのさシルフィ、国境結界は上空3000メートル位で切れてるんだよ。わざわざあんな騒ぎ起こさなくても、俺を抱えて飛び越えれば良かったんだ」
呼吸を整えながらシルフィに軽い文句を言ってやった。
「えー、そうなの? 僕そんな事知らなかったよ。そういうこはもっと早く言ってよね」
アニタ様の所で俺がシルフィに言った様な言葉で返された。
「いや、そんな暇なかっただろ」
「アルフ素早さのステータス高いんだから、こういう時に使わないと。他で使える技術がないんだから、ぷぷぷっ」
この野郎……えりゃ!!
俺は発動したままのミステリーエッグを使って、さっきできた卵をシルフィ目掛けて飛ばしてやった。
「わっ、わっ、なにそれ!? そんな事も出来たの!?」
シルフィは卵を簡単に避けながらも驚いみたいだ。
「まだしっかりコントロール出来るのは2個くらいだけどね。ミステリーエッグを解除するまでは卵を好きに動かせるんだよ」
さっき手に入った卵は9個。上手くコントロール出来ない残りの7個は不安定に浮かんでいる。
「へー、じゃあアルフもついに攻撃手段が手に入ったんだね。当たると結構痛そうだもん、この卵」
……攻撃手段?
考えてもみなかった。目からスライムが剥がれた気分だ。確かにこの卵を魔物にぶつけたらダメージを与えられるかもしれない。
そういえば、ジル姉様のパープルノヴァやダンジョンコアの攻撃でも壊れなかった卵もあったし……めちゃくちゃ硬いのか?
「なあシルフィ、ちょっとぶつけていい? どれくらい痛いか教えて」
「嫌だよ! 結構痛そうだって言ったじゃん! 特級精霊の僕が結構痛いって言ってんだから、なかなかの攻撃力だよ、察してよ!」
そうか、それはなによりだ。
「嬉しそうなところ悪いんだけどさ、そろそろ卵を当てようとするの止めてくれない? あと、そのワクワクした目も止めて」
俺は思ってもみない固有スキルの使い方に、興奮を覚える。
早く試してみたいけど、シルフィ非協力的だ。近くに弱そうな魔物はいないかなぁ。
「もう! 僕、痛いのは嫌いなんだよー!」
つい考えていたら、シルフィが怒ってしまった。
「ごめんごめん、もう止めるから。許して、シルフィ」
ミステリーエッグを解除して、シルフィに謝る。
俺はプンプン怒るシルフィを宥め卵を預けると、先に進み始めた。
テラテキュラ連邦王国。それは5つの国が加盟しており全てがテラテキュラ王を自国の王としている
ここは5つあるうちの1つ、テラテキュラ王国。連邦王国の中で1番大きな国だ。
俺はここでも見合いをしたことがある。相手は確かエルフとフェンリル族の混血でスラッとした歳上美人だった。
俺を見るなり冷たく「運命を感じない」と言いって部屋を出ていったんだよな。
そしてどういう経緯があったのか、後日彼女は第9王子オラウトン兄様の婚約者という事になっていた。顔か?
そんな思い出深いこの国。
今は森の中で街道からは外れてるけど、森を出たすぐ近くにテラテキュラ王国の村があったはずだ。確か羊獣人の村だったっけ。夜が明けたばかりだから、急げば村人が起き出す頃には到着するかな。
シルフィに村に着いたらシルフィの筋肉を堪能すると伝えると、俺を抱えハイスピードで森を飛び抜けてしまった。
こういうのは目立つからやらないよって言っていたのは何だったんだろうか……まあ、早く村に着いたからいっか。
~入手情報~
【フェンリル族】
太古の神フェンリルの血を受け継ぐと言われる狼獣人。
他の狼獣人より大型で魔力や力も強い種族で、ややプライドが高い。実はアルフレッド・ジール・クランバイアは狼獣人が大好きであり、珍しくお見合いに乗り気であった。しかし、顔を見るなり破談にされ激しく落ち込んだという。
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【顔がいい王族&貴族ランキング】
王族や貴族をを見た目だけでランク付けした不敬な代物。
どの王家も非公認であるが、庶民の人気が分りやすいという事で放置している。最新のランキング第1位はメゴゼック王国の第2王子ダーニルヤン・ケル・メゴゼック。アルフレッド・ジール・クランバイアは第2位と前回から1ランクダウンしている。なお、殿堂入りを果たしているのは魔法王国のオラウトン・アーム・クランバイアとマデイルナン公国のルトル・アトゥールのみである。しかしアトゥール家は数年前に取潰しとなったため事実上殿堂入りはオラウトン・アーム・クランバイア一人だけである。
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【国境結界】
正式名称はクランバイア国境大防御結界ラオデルピュラ。
第3代クランバイア魔法王国国王、ラオデルピュラ・クランバイアが作り上げた高さ3000メートルもあり、国を1周する強固な大結界。当時は交代制で結界を維持していたが現在は様々な改良が成され、魔道具を使うことで効率よく運用されている。外側から侵入を試みると迎撃モードが作動し魔法攻撃を仕掛けてくる。また、一般人でも無許可で出国できるが、帰国の際は国境門からしか入国できない。各領地の主要な都市にはこれを小規模にした物が設置されている。
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【国に登録してる魔力】
クランバイア魔法王国国民の証。
クランバイア魔法王国の国民は産まれると直ぐに魔力を国に登録する。そうすることで様々な福祉を受けられるようになるが、納税等から逃れられなくなる。
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【国境門】
主に他国の者が行き来するために作られた国境結界に埋め込まれた特殊な門。主要な街道等には必ず国境門があり、他国の者や帰国者はそこを使用する。門の見張りは非常に厳しく、問題を起こそうものならその場で永久追放される場合もある。また、入国税はクランバイア銀貨3枚と高額である。
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【羊獣人】
羊の獣人。
大変おおらかであり、のんびりするのが大好きな種族。多くの者は都会的な生活を好まず、森辺や川辺に村を作り生活している。臆病な1面もあり、1人が逃げ出すと村人全員が逃げ出す。彼らの毛は衣類に使用される為、時期によっては皆丸坊主という事もある。
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【目からスライムが剥がれる】
ことわざ。
あるきっかけで思ってもみなかった事を気付かされ、驚く様子を例えた言葉。草原で居眠りをした冒険者が目を覚ますと視界がぼやけていた。そのまま拠点に引き返したところ、門番に目の周囲にスライムがくっついていると指摘された事がきっかけで産まれた言い回しと言われている。なお、諸説あり。




