25話 シルフィと行こう
本文修正。
「う、あ……んんっ」
はっ!!
「あ、良かったー。蘇生おめでとうアルフ」
ギラギラした笑顔が上から覗きこんでいる。相変わらず暑苦しい男前だな。蘇生直後にこの顔はしんどい。それに……
「何やってんだよ」
地面に倒れた俺の顔を筋肉質な太ももが挟んでいる。
「筋肉の素晴らしさを思い出してもらおうと思ってさ。どう、筋肉にむぎゅってされてるよ」
「不愉快極まりない」
一刻も早くこの体制をどうにかしたいが力を抜かないせいで身動きが取れない。
「えぇなんでー!? こうやって寝るの好きだったじゃん」
いつの話なんだそれ。妙に肌触りがいいが断固受け入れられない。
「ちぇっ、ちぇっ! せっかくアニタ様に言われて来たってのにさ」
ああ、そういうことか。なんでいるのか不思議だったが、アニタ様、去り際になにか言ってたもんな……しぶしぶ太ももの力を抜いたが、「ふんっ」なんて大袈裟に顔を反らすこいつは、こうなると面倒臭い。ちょっと放っておこう。
それにしても本当に色々あった。ついにこの国ともお別れか。立ち上がり顔をあげると、優しい風が何度も頬をかすめて、流れていく。
皆に会いたい……俺は目を閉じて思い出に浸ることにした。
が、面倒臭い真っ只中のシルフィが、ブツブツとぼやいていて煩い。結局、秒で目を開けることになってしまった。
「はぁ、悪かった悪かった。で、今はどんな状況なの?」
確かアニタ様は送魂祭の最中に肉体が復元されると言っていた。とすると、俺のお墓の周りでは大勢の人が騒いでいるはずだ。けれど、そんな気配は微塵も感じない。
「えっとね、今は王家の丘から10キロ位離れた森の中だよ。アルフは弱っちいから思ったより空間移動できたみたい」
弱っちいは余計だっての。
蘇生したらセイアッド帝国に向かえって話だったっけ。あ~あ、よりによってあの国へ行くのか。
1回だけ見合いで行ったことがあるけど、不気味な国だった。皆が仮面や被り物をしていて、見合い相手も結婚するまでは素顔は見せられないっていう。
「あとこれ、棺桶の中に入ってたよ。黒のすごろくと感じの悪い人形とアルフの卵。それに金貨と銀貨が沢山。多分ジールが入れたんじゃないかな」
シルフィが副葬品をふわふわと浮かせながら見せてくれた。
「母上……あ、日記は入ってなかった?」
ホームシックになったとき用に日記を書いてたんだけど、入ってなかったのかな。
「んーん、これで全部だよ」
そっか。じゃあ、まだ机の引き出しに入ってるのか。きっと読まれるんだろうな……ま、いっか。変な事は書いてないはずだから。
「じゃあ早速だけど出発しようか。お金とかはシルフィが持ってて」
「分かった」
渡された物をシルフィに返す時、感じの悪い人形の顔を見たら今までに無い何かを諦めた表情になっていた。
勿論触った瞬間に酷い表情をされたけども。まぁ、あんなグロい復元中の肉体とずっと一緒に居たらこうもなるか。
「そうそう、僕は今ジールに召喚されて此処にいる訳じゃないから、アルフの為に魔法を使う場合はアルフの魔力をもらうからね」
そうなのか。でも、魔力なら俺も豊富にあるから……あれ?
「それって俺も精霊と契約したら魔法を使えるのと同義って事だよね?」
「いやー、それは違うかな。そもそもアルフは魔力を体外に放出できないから精霊を召喚できないし、契約も結べないよ。それに契約者以外の魔力を強引に使うのだって特級以上の精霊じゃないと無理だからね」
残念だ。
位階の高い精霊は召喚以外では、まず姿を現さないもんな。万が一そうじゃなくても、俺の為に魔法を使ってはくれないだろうし。夢は見るまい。
「なーんだ。それじゃあ行こっか」
「おー!! アルフと散歩! アルフと散歩! いっちばんに散歩!」
これ、シルフィには散歩感覚なんだ……なんか複雑。
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「く、苦しい」
夜の森を歩くのってこんなに大変なんだ。凄く暗いから、先も見えないし直ぐに躓きそうになる。シルフィがうっすら光ってくれてなきゃ1歩も歩けないだろうな。
「えー? 全然進んでないのにもうしんどいの? 分かってたけど、本当にアルフは弱っちいのな」
「う、煩い。精霊は疲れないからっていい気になるんじゃない」
鼻歌を歌いながら俺の周りを飛んでいるシルフィが憎たらしい。
「あー、そんなこと言うんだ。せっかく体力の回復と強化に、おまけで暗視と魔物避けの魔法も掛けてあげようと思ってたのにな。要らないのかー」
「ごめんなさい。今すぐ掛けて下さい」
「どうしよっかなー」
宙に浮いてるシルフィが肘をついて寝転がるポーズをとって勿体振る。
「国境を超えたらシルフィの筋肉を堪能させてもらうから、お願いだよ」
「よしきた!! 絶対だからね!!」
不本意だけど後でシルフィの筋肉自慢に付き合うしかないか。あぁ、何が悲しくて野郎の筋肉を見つめなきゃならんのか。「ここ、ここ触って触って」ってしつこいのも嫌なんだよな。
「それー!」
シルフィがポーズを決めると疲労が消え去り、視界も昼間みたいに明るくなった。やっぱり魔法って凄い……いや、待て。
「なぁ、最初っからこれ使ってくれたら良かったんじゃないのか?」
「レベル10になったアルフの様子見してたんだよ。てんで駄目だったけど。アハハハハー」
こいつ……出来ないと分かっていても泣かしてやりたい。
とまあこんな感じで夜通し歩き昼間は眠るという事を5日程繰り返し、俺達はクランバイア魔法王国と隣国のテラテキュラ連邦王国の国境付近に到着した。
~入手情報~
【王家の丘】
クランバイア魔法王国の王族が葬られる丘。
歴代の王族は例外なくこの丘に葬られているという。副葬品には高価な物や希少な物もあるが、長い歴史の中で1度たりとも盗掘された事はない。
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【セイアッド帝国】
世界に1つしかない浮遊大陸に築かれた帝国。
純粋な国民は皆、仮面や被り物で素顔を隠しており家族以外に見せることはしない。唯一、皇帝だけが素顔を晒して良いとされている。浮遊大陸の名の如く海の遥か上空に存在しているが、突如動き始め各国の空を移動して行くため、要らぬ緊張を生み出している。
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【テラテキュラ連邦王国】
獣人やエルフが多く住まう自然豊かな連邦王国。
その内の1つ、テラテキュラ王国はクランバイア魔法王国の北西部に位置しており良好な関係を築いている。食の特産品が多く美食大国としても名を馳せている。数は少ないが獣人とエルフの混血はとても優秀であり、国外にも派遣されている。




