23話 死の女神アニタ
後書き修正。
激昂したアーシャが勇者に攻撃を仕掛けた。
両の拳に魔法拳を纏わせている。
片方に風の特級魔法ガレーネー、もう片方には風水土の複合魔法トリアイネ。
彼女が使える魔法で最大の威力を誇るトリアイネ、ガレーネーは使用者と同等以下の敵をしばらく無力化する。
どちらも普通なら遥か格上の勇者に対抗できるような物ではない。
しかし、彼女の固有スキル、魔法拳ならば話は違ってくるだろう。
倒せはしないが、時間稼ぎなら出来るはずだ。突然の事態にあって、なかななの判断力である。
「貴様ぁぁぁぁ!!」
さらに勇者へ攻撃する瞬間、攻撃力増加と連撃のスキルも発動させた。
彼女が得意とする魔法拳との合わせ技だ。
最初、彼女の攻撃は躱される。
しかし、軽傷だった者が一斉に彼女の加勢をし様々な攻撃を仕掛けたせいか、彼女の攻撃を躱し損ねた勇者が吹っ飛びやや高い位置の壁に激突する。
「あのクソカスを決して逃がすな!!」
アーシャが叫びながらアルフレッドの元へ駆け寄る。その他の者は勇者を拘束する為、多重結界を作り始めた。
「くっ……」
彼女は涙を流しながら切り落とされた首と身体を合わせ、最大出力で回復魔法をかけ続ける。
しかし、彼女の力では首と身体が薄く繋がっては千切れていくの繰り返しだった。
「ジンジル様!! 貴方も手伝って下さい!!」
ただ呆然としていたジンジルは我に返ると彼女を手伝わず、走り去ってしまった。
「なっ!? クズ野郎め……誰か!! 回復が得意な者はいないか!?」
彼女の呼び掛けに数人が駆け寄って来たが、結果は変わらなかった。
「何事ですか!?」
突如、彼女の背後から声が聞こえた。
アルフレッドの母、ジールが精霊達を連れて現れたのだ。
「ア、アルフ!?」
アーシャが状況を説明するより前に、近寄って来たジールが驚愕の表情で叫ぶ。
ちょうど何度目か、アルフレッドの首が胴体から千切れ落ちるところだった。
「ロポリス! アルフを再生しなさい!!」
ジールが聖光の大精霊であるロポリスにキツく言い放つ。
「さっきからやってるよ。でも、これは無理そうね。私以上の力で再生を邪魔してるわ」
「なぁジール、さっき渡した魔法書で聖獣を召喚してみたらどうかな。ロポリスとも相性いいと思うんだけど……」
遠慮気味に闇の大精霊モーブがジールに告げた。
「ロポリス!! 何としてもアルフを保たせなさい!!」
「はいよー」
ロポリスはやる気があるのか無いのかそう返事をした。
「ジール様、これは勇者の仕業です。今は私のガレーネーと皆の結界で動きを封じています」
アーシャが涙を拭いさり、強い目を見せた。
ジールは頷くと精霊達に指示を出すと、自らも浮き上がる。それを見たモーブが頬を染めながらジールの影に溶け込んでいく。
「皆、良く頑張ってくれた。後は妾が引き受けよう」
精霊による回復でアルフレッド以外は即座に癒され、邪魔にならぬよう下がって行った。
するとガレーネーの効果が切れたのか、勇者が結界をすり抜けてくる。
「どういうつもりかしら」
「……」
勇者は何も答えない。
ジールが表情を歪ませると、精霊達が勇者に向かい攻撃を始めた。
勇者も応戦し激突していく。
本来、魔法を吸収し魔素に分解した後に拡散させる城の壁が次々に壊れていくのは驚き光景だ。
ロポリスはアーシャ達を守りながらアルフレッドを再生し続けている。
それにしても勇者や精霊達の戦いは驚異の連続だ。
信じられない威力の魔法の数々が勇者を襲い、時には魔法の中から精霊が飛び出し直接攻撃を加えたりしている。
対する勇者もそれを躱し、相殺し、精霊達に反撃を繰り出すのだ。それも一撃一撃が当たれば必殺の威力を持っている。
ジールも凄い。
あれだけの上位精霊を何体も召喚し、魔力を供給し続けられるだけでなく自らも攻撃や防御をし、精霊達の強化に加え聖獣の召喚もしようとしている。
さすがは月を壊しただけの事はある。
あっという間に壁や天井は無くなり、室内は剥き出しとなった。
「モーブ!!」
ジールが叫ぶと彼女の影が戦場となっている周囲だけでなくかなりの範囲を包み、完全に遮断する。
「精霊達よ! 人のカタチを捨てその力を解き放て!!」
ジールの言葉でロポリスとモーブ、それにドリアード以外が本来の姿に戻っていく。
精霊達はそれぞれ球体や正8面体等のシンプルな姿となる。
そして大自然の猛威を互いが邪魔することなく――むしろ相乗効果となって襲い掛かるその攻撃は敵を一瞬で消し去る事ができるはずであった。
だが、勇者は凄まじかった。
絶対防御を発動し、精霊達の属性に左右されない無という属性も持ち合わせる魔法で攻撃を始めたのだ。
「木、土、水よ下がれ! 火、氷、雷よ葬りされ!!」
ジールが精霊を3体のずつに分け攻撃パターン変化させる。
下がった精霊はドリアードと混ざり合うと、巨木となり攻撃中の精霊達に桁外れの強化を施し始めた。
火は空間を歪ませながら襲い掛かり、氷はあらゆる動きを止める防御となる。
雷は強大な力と共に絶え間なく勇者に降り注ぎ轟音を響かせた。
そして互いに外した攻撃は黒い壁に吸い込まれ消えていく。
「す、凄い……」
アーシャ達は常軌を逸した光景に声を漏らす。
しばらくすると絶対防御に僅かな亀裂が走った。勇者は一瞬の動揺を見せる。
その僅かな時間で巨木のドリアードが勇者を絶対防御ごと根で絡めとった――同時に攻撃していた3体の精霊もドリアードに混ざっていく。
破れるはずのない絶対防御に少しずつ亀裂が増えていく。
「聖獣キュルコーニよ、我の呼び掛けに応えよ!!」
それを確認したジールはキュルコーニの召喚を始める。
白く複雑な魔法陣が現れると同様のそれが、ある1点を囲む様に幾つも展開されていく。
隙間なく並んだ魔方陣から光が中心に向かって放たれる。
それを見た勇者がジールを攻撃しようとしたが、巨木の根に阻まれていた。
魔方陣と光が中心に吸い込まれると、そこには聖獣キュルコーニが召喚されていた。
戦いを精霊達に任せ、ジールはキュルコーニを連れてアルフレッドの元へ。
すぐさま、ロポリスとキュルコーニが力を合わせ再生を試みる。
「止めろぉぉぉぉ!!!」
勇者が叫び、手に持った剣をジール投げ付ける。
ジールに攻撃を仕掛けるかと思われたが、彼女の影からモーブが現れそのまま影に引きずり込んでいった。
「ハ……ハ……ウエ……」
再生されたアルフレッドはジールを見ると妙な発音で微かに喋る。
「アルフ!! あぁ、良かった、アルフレッド!!」
ジールはアルフレッドに抱きつき涙目になった。
「ハハ……ウエ……ハ……ナ………ルェ……」
アルフレッドが緩慢に、しかし力強くジールを突き飛ばすと立ち上がる。
「アルフレッド様?」
アーシャは何故とアルフレッドを見上げた。
ロポリスがジールやアーシャ達を連れアルフレッドから距離を置くと、アルフレッドの身体から靄が出てくる。
アルフレッドの白銀の髪は青みを帯び始め、赤い瞳は紫に変色していく。
「あら、再生しちゃったのね。本来の契約では逆のはずだったけど……この場合は私の寵愛を授けていいのよね。嬉しいわ、ふふふ」
この世の者とは思えぬ美貌の女へと形を成した靄がアルフレッドを背後から抱き締める。
「アニタ! 止めてくれ!!」
勇者が悲痛な声で懇願するが、女は微笑んだだけで聞き入れることはなかった。
「ハハ……ウ……エ…………」
弱々しく右手をジールの方へ差し出すアルフレッド。
ジールもその手を取ろうとするが、ロポリスが許さない。
アルフレッドは完全に変色した目から一筋の涙を溢すと、瞬く間に骨だけになり崩れた。
「あぁぁぁぁぁ!! アルフレッドォォォォ!!!!」
ジールの断末魔の様な叫びが響く中、死の女神アニタは恍惚の表情を浮かべ消えていった。
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「母様、視えた? 今のがここに染み付いた歴史だよ。アルフレッド兄様は本当に死んだみたいだね」
剥き出しになったアルフレッドの死亡現場でコルキス・クランバイアが母メファイザ・クランバイアに無邪気な声で伝えている。
「そうね、コルキス。ジールの憔悴っぷりから、間違いないとは思っていたけれど、何事も確認は必要よね。ありがとうコルキス」
メファイザはコルキスの頭を撫でると霧になり行ってしまった。
「そうだね母様。何事も確認は必要だよね」
母を見送りながら、コルキスは楽しそうに呟いた。
~入手情報~
【名前】ジール・イヌア・クランバイア
【種族】魔神族
【職業】王妃/召喚師
【年齢】47歳
【レベル】203
【体 力】3710
【攻撃力】1427
【防御力】2243
【素早さ】2991
【精神力】46271
【魔 力】9692791
【スキル】
召喚/魔法威力増加/消費魔力激減/詠唱破棄/飛行/権謀術数/戦術/戦略/並列思考/召喚成功率99%/契約成功率95%
【固有スキル】
精霊の友人/魔力成長率激増/叡智/サモンズフュージョン/マナフレア
【先天属性】火/水/風/土/氷/雷/植物/闇/聖光
【適正魔法】先天属性の極級魔法全て
【異常固定】完全忘却
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【名前】メファイザ・オ・クランバイア
【種族】ヴァンパイアロード
【職業】王妃/ヴァンパイアの王
【年齢】1979歳
【レベル】391
【体 力】10191
【攻撃力】23181
【防御力】23111
【素早さ】23110
【精神力】43333
【魔 力】35317
【スキル】
攻撃力激増/暗黒強化/分身/体術/権謀術数/戦術/戦略/カリスマ
【固有スキル】
吸血/霧化/飛行/暴走/不死/変身/魅了/幻術/怪力/眷属化/闇属性吸収/感覚共有/聖光被ダメージ激増/ブラッドウエポン/ブラッディダンス/ヴァンパイアオーラ
【先天属性】闇
【適正魔法】闇魔法-特級
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【複合魔法】
属性や等級の違う魔法を組み合わせて発動する特殊魔法。
魔法威力は跳ね上がるが、魔力操作が極端に難しく扱える魔法使いは少ない。組み合わせる属性に制限はなく、属性が増える毎に尋常でない難易度の魔力操作を要求される。また、特級魔法と上級魔法というように魔法の等級を越えて組み合わせることも出来る。その時々の属性関係によっては威力や効果が上下する場合もある。
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【名 称】トリアイネ
【分 類】複合魔法
【属 性】風/水/土
【効 果】☆☆☆☆☆☆☆☆
【詠 唱】不要
【現 象】
風、水、土を組み合わせ、海神の持つ槍を形作り竜巻を伴う嵐、津波、地震を同時に発動する。アーシャ・ムンクのオリジナル魔法である。
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【名 称】ガレーネー
【分 類】特級風魔法
【効 果】☆☆☆☆☆☆☆
【詠 唱】リッファル型魔法言語/乱文不可
【現 象】
使用者のレベル以下の相手を一定時間強制的に行動不能とする。
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【無属性】
どんな属性にも強弱の影響を受けず、等しくダメージや魔法効果を与える属性。通説では全ての属性を極めると発現すると言われているが、本当のところは良くわかっていない。
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【黒い壁】
闇の大精霊モーブが契約者ジール・クランバイアの影と混ざり合い作り出す結界の1種。
壁に当たった魔力や魔素を吸い込みジール・クランバイアの魔力へと変換する。ジール・クランバイア以外の生物が触れると全ての魔力を吸いとられる為、決して近付いてはいけない。この能力で手に入れた魔力を1日で使いきらなかった場合、術者の身体を蝕む猛毒となる。また、モーブはこのジールの影と混ざり合うという行為にある種の興奮を覚えているらしい。
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【精霊の巨木】
何かと契約している上級精霊以上の木の精霊が同じ位階の精霊と混ざり合うことで作り出せる特別な樹木。
混ざり合った精霊の力を一時的に大精霊とほぼ同等にすることが出来る。消耗が激しく契約者の魔力が枯渇すると木の精霊が消滅する場合もある。契約者の魔力が多ければ多いほど消耗率が下がる。
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【死の女神アニタ】
死を司る女神。
精霊達より上位の存在であり、世界を支える神の1柱。死こそ最大の祝福であると考えている。アニタの寵愛を受けたものは最愛の者を想いながら死ぬ事になる。神を降臨させる為には、その神に纏わる何かが必要である。また、神と結んだ契約は必ず履行される。




