21話 企てよう
後書き修正
「……というのが今回の出来事の真実だ。さっきは伝えられなかったからな」
アルフが酔い潰れ、精霊やジールが宴会でどんちゃん騒ぎをしていた頃、城の隠し部屋で国王アルフレッドが勇者から公に出来ない事実を聞かされていた。
「ふむ、第13王子がその様になっているとはな。元々扱いに困っていた息子だが、更に困ったことになったな」
簡素な作りの椅子にもたれ掛かりながら国王は思案顔で黙り混んだ。
アルフの固有スキルが他国に知られれば争いになる事は明白だが、現状では国内でもその能力を公にできない。
アルフとその兄弟仲が最悪だからだ。
国益を考えるならその力を秘密裏に運用していくのが良い。
しかし、それでもアルフを守れるのは自身が王位にある間だけだと国王は確信している。
1度運用してしまえば無かった事にするのは不可能だろう。例えそうしたとしても世代交代後に必ず暴かれる。
そうなれば次の国王に誰がなってもアルフを飼い殺しにするはずだ。
同腹のジルであれば誰よりも上手くアルフを使うのだろうが、他の者が王になるよりはややましな扱いなだけだと容易く想像できる。
アルフが王になればと一瞬考えたが、あれは王の器ではない。
そしてジルが国王になるには、少なくともバドルとベリスの犠牲が必要になる、か。
「私がもっと子らの関係性を……いや、過ぎたことはどうにもできぬか。非情になれない私は王失格だな、どの子も愛しいのだ」
国王は自嘲気味に言葉を漏らした。
「知るかよ。俺はアルフを死なせたくないだけだ」
勇者は狸爺の戯れ言に付き合うつもりはないらしい。
「なら、いっそのこと其方が建国しアルフを囲ってはどうだ? 召喚勇者でも其方の場合は各国の王と対等なのだ。未開の地など其処等じゅうにあるぞ」
冗談なのか本気なのか、その表情からはうかがい知れないが国王は勇者に提案した。
「そんな面倒な事は御免だ。俺は必要最小限の責任しか負いたくないんでな。アルフレッド王、悪いがはっきり言うぞ。アルフには死んで貰うのが1番手っ取り早い」
そう言い放つ勇者は、つい数時間前までアルフにデレデレしていたその人物とは思えない暗さと鋭さを纏っている。
「それはそうなのだが……ジールを説得するのは私には無理だぞ」
「可愛い息子の為だ。崩月の魔女様も分かってくれるさ」
疲れきった様な作り顔をする国王とニヤリと笑う勇者は計画を練り始めていった。
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ダンジョンから帰って来て2週間が過ぎた。
俺の固有スキルを知った母上の精霊達がやたらと卵を作っては一喜一憂している。
この前、位階の高い精霊なんだから欲しいものは大概手に入るんじゃないかと聞いたけど、それとこれとは違うらしい。
より少ない魔力で良いものが出てきた時の幸福感が堪らないとか。
あと、鑑定する時のドキドキ感も癖になるらしい。
勇者はそんな精霊達を見て、ハイカキンの魔法を使ってガチャーしてる奴みたいだと言っていたけど、よく意味が分からなかった。
本当は城ではミステリーエッグを使わない方がいいんだけど、精霊達が多重精霊聖域を施した部屋の中なら問題ないそうだ。
最初はそれも卵になっちゃったけど、聖域の形状を変えることでミステリーエッグの射程から外れる事に成功した。
あんなに真剣になる精霊達を見たのは初めてだったよ。
毎日何体も精霊を召喚している母上は少々お疲れ気味だ。
何か差し入れしよう。
2日ほど寝込んでいたジル姉様はすっかり良くなって今ではよく勇者と一緒にいる。
結婚してと迫っては軽くあしらわれていると精霊達からタレ込みがあったのは内緒だ。
俺は毎日が本当に楽しい。
必要とされてる感とそれに応えられてるという充実感。
相変わらず兄弟達や義母上達に冷遇されてるけど、前みたいに心にグサッとくることはなくなっていた。
魔法に対する憧れはまだあるけど、絶対に使いたいとは思わなくなってきた。
そうそう、ダンジョンで作った卵の中で壊れなかった物がいくつかあったんだけど、どうしても孵化できないのが1個だけある。
何となくの感覚だけど、孵化させる為に必要な魔力がまだまだ不足してるんじゃないかと思う。
毎日かなりの量を注ぎ込んでるんだけどなぁ。
明日は母上に魔法書をプレゼントしよう。
夕飯の後にモーブと作った卵から出てきた物で、癒しと回復をもたらす聖獣を呼び出せるらしい。
闇の大精霊の魔法で聖獣って何か笑ってしまったよ。
モーブもこれは絶対に母上にあげなきゃって鼻息が荒くなってたな。
それと、さっき感じの悪い人形が笑ったんだ。
滅多に笑わないのに凄いな。
ふふっ願い事が叶うのか。
早く明日にならないかなー。
Alfred Zeal Chranvia
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「アルフ……うぅぅ………アルフゥゥゥ」
アルフの日記の最後のページに母ジールの涙が落ちていく。
日記の隣には聖獣キュルコーニの魔法書が寂しげに置かれていた。
内密にしなければいけないと言っていたのに、固有スキルやダンジョンでの出来事を当たり前の様に日記に書いている迂闊さがなんともがアルフらしく、またそれが一層悲しみを煽った。
「ジールよ、悪いがこの日記は処分せねばならん」
国王が優しく第1王妃ジールに言葉をかけた。
「嫌よ!」
「しかし……」
国王は諭そうとしたが、今にもぶちギレそうな妻を見て言葉を飲み込んでしまった。
「アルフレッド、日記を処分したければ力ずくで奪うことね。絶対に渡さないけれど」
そう言ってジールは日記を自分のアイテムボックスに入れてしまった。
挑戦的に自分を見つめる妻をなんて魅力的なんだと思いながらも、絶対に怒らせてはいけないとハラハラしながらどうするべきかと国王は悩んでいた。
時はクランバイア暦3776年、盤渉の9日、第13王子アルフレッド・ジール・クランバイアが死亡したと国内外に発表された。
~入手情報~
【名 称】聖獣キュルコーニの魔法書
【分 類】聖獣召喚書
【属 性】聖光/水
【希 少】☆☆☆☆☆☆☆
【価 格】-
【効 果】
聖獣キュルコーニを召喚できる。
聖獣キュルコーニは癒しと回復の魔法に秀でており、死んでさえいなければ腹に穴が空こうが、首が落ちようが即座に再生してくれる。力の無いものが召喚すると半径50キロ圏内の生物全てが息絶えてしまう。古ぼけた小瓶の中に豪華な噴水が入っているかの様な姿をしている。また、ふさふさな尻尾が生えているらしい。
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【崩月の魔女】
ジール・イヌア・クランバイアの異名。
夫であるクランバイア魔法王国国王のアルフレッド・デロス・クランバイアと、壮絶な夫婦喧嘩を繰り広げた際に放った攻撃で月が半壊した為にそう呼ばれるようになった。半壊した月は精霊達が尽力し元に戻した。クランバイア王国から程近くに愛の草原と呼ばれる場所があり、所々ハート型の荒地や池等が存在する。これらは戒めとしてジールの契約精霊達が作った観光名所である。全てを巡ると喧嘩の原因や後日談がわかる。この時ばかりは、何故か聖光の大精霊ロポリスが妙にやる気を出していたという。
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【盤渉】
クランバイア王国で採用されている季節の名前。
壱越/断金/平調/勝絶/下無/双調/鳧鐘/黄鐘/鸞鏡/盤渉/神仙/上無の全部で12の季節がある。通常、偶数の季節は影/闇属性が強く、奇数の季節は光/聖/聖光属性が強くなる。他の属性はその時の気分で大精霊がどちらに付くかで異なる。これらに影響されない属性も存在する。
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【クランバイア暦】
クランバイア魔法王国古来の暦。
非常に独特な暦であり、自然発生した魔素がその土地に住まう生き物に馴染むとされる期間を1年と定めている。他国の一般的な暦とはおよそ3年半のずれがある。但し、あくまでも伝統的な暦であり、クランバイア魔法王国でも日常は他国と同じ暦を採用している。




