20話 報告しよう
後書き修正
城に帰って来た時にはもう夕方だった。
帰りの馬車では勇者にダンジョンであったことの詳細を聞いたり、今後について話したけど勇者は終始すごく真面目だったなぁ。
あと、急に適切な距離感になった……嬉しいけど、よそよそしく感じる。
ジル姉様は城に着くちょっと前に目を覚ましたけど、まだぼんやりするからと早々に自室に籠ってしまった。
父上には俺と勇者が今日の出来事を報告。
公にしない方が良さそうなことは、夜中にこっそり勇者が伝えてくれることになっている。
「それじゃあ俺は自室に戻る。お前はジール様に報告しておけよ」
「わかった」
父上の部屋から出て王子王女が暮らす、竜胆の離宮に向かっていると、勇者がそう言ってスタスタと行ってしまった。
頼むから今日はもう俺の部屋に来ないでくれよ。疲れたんだから1人で寝たいよ。
俺はそれでも勇者は部屋に突撃してくるんだろうなぁと思いながら、竜胆の離宮とは反対側にある王妃達の離宮、緋衣草の離宮へと向かった。
母上の部屋があるのは緋衣草の離宮の南側で入り口からは1番遠い。
理由は簡単、精霊達が気に入る場所だったから。お陰で、毎回けっこうな距離を歩かないといけない。
そして絶対、兄弟達か義母上の誰かに出くわすんだよな……
案の定、最短距離の途中にある庭で第9王子のオラウトン兄様と第14王子のキーファ、それと第5王女のブリタニカが遊んでいるのが見えた。
この3人は同腹で仲が良く、ハイエルフの血を引く彼らはそれはもう見目麗しい。
綺麗に手入れされた庭と相まって絵画みたいだ。
「あ!! アルフレッド兄様だわ!!」
俺に気が付いたブリタニカが顔をしかめたかと思うと、頭に乗せていた花冠を地面に力一杯叩き付けた。
「アルフレッド兄様が近付いたから花が変な匂いになっちゃった、最悪! あっち行ってよ!!」
さっきまで慈愛に満ちた笑顔だったオラウトン兄様とキーファも俺を鋭い目で睨んでくる。
はぁ……遠回りするか。
3人に背を向けて歩きだすと「だいっきらい!!」とブリタニカが吐き捨てた。
若干傷付きつつ母上の部屋の近くまで来ると、ドリアードが天井から降ってきた。
「うわっ!?」
びっくりして尻餅をついた俺の顔をまじまじと見つめてくるドリアード。
「な、なに? 近いよドリアード、ていうかびっくりしたじゃないか」
「ん、あぁ……アルフだったか。えっと、何か感じが変わったなアルフ」
とても不思議そうな顔で呟かれたんだけど。
「そりゃあね、ダンジョンで色々あったしレベルも10になったからな。少しは凛々しくなっただろ?」
「凛々しくはないな。まぁいい、入れ」
ドリアードはフッと小馬鹿にした表情でデコピンをかまして壁をすり抜けていった。
「痛いなぁもう」
おでこを擦りながら俺はきちんとドアを使って母上の部屋に入った。
すると、母上は精霊達と何やらやっている最中だった。
ドリアードの他に火水風土氷雷の精霊と聖光と闇の大精霊まで召喚されている。
もしかして何かの儀式をするんだったのかな?
「母上、そして精霊達、お邪魔だったでしょうか?」
少し焦ったせいで声が上ずってしまった。
「あぁ、いいのよアルフ。契約について話していただけだから。それより、今日はどうだったの?」
母上はいつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
俺は母上に盗聴防止の結界を張ってもらい、今日の出来事を話し始めた。
俺の固有スキルについては話しても何それ状態だったので、母上に簡単な魔法を使ってもらい実演して見せると、各精霊達が面白がって俺も私もと卵を作る羽目に。
卵を作って3週目、雷精霊の精霊魔法で作った卵を孵化させると極上のお酒がでてきてしまい、そのまま宴会へとなだれ込んだ。
俺は母上がアイテムボックスから秘蔵の酒を出した辺りで酔い潰れてしまった。
~アルフの簡単精霊紹介~
【火の精霊フラテム】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している火を司る特級精霊。生真面目で規律にうるさい性格をしている。ジールが召喚した頃はまだ中級精霊だったが、めきめきと力をつけていった。青い炎の色をしており、見た目は綺麗な老婆。次期火の大精霊候補。
【水の精霊アクネア】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している水を司る特級精霊。基本的に流れに身を任せておきたいタイプだが、意にそぐわない事はどんな被害を出そうともやらない。ジールとは上級精霊のころからの付き合い。不良っぽい男子のような姿をしている。次期水の大精霊候補。
【風の精霊シルフィ】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している風を司る特級精霊。ジールと契約した頃は下級精霊だったが他の精霊達に扱かれ力をつけていったらしい。見た目は風精霊にしては違和感丸出しなムキムキの男前、いつも半裸でその肉体美を見せびらかそうとしてくる。風の精霊って普通もっと爽やかだろ。しかも脳筋で、何事も力で解決しようとする節がある。小さい頃は発音が難しかったのかずっとレフィと呼んでいたそうだ。1番仲が良いと思う。次期風の大精霊候補。
【土の精霊ティザー】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している土を司る特級精霊。やる気が無く、いつもゴロゴロしていたいと願っているがジールがそれを許してくれない為いつも愚痴っている。ヒョロっとした老紳士擬き。ジールが11歳の時に召喚し契約した。3番目に付き合いが長い精霊。次期土の大精霊候補。
【氷の精霊ヴァロミシア】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している氷を司る特級精霊。好奇心旺盛で何にでも首を突っ込もうとするが、大抵は面倒臭くなり途中でバックレる。ヴァロとミシアの2体で1体という珍しい美男美女の精霊。ジールと契約したのは彼女の魔力が美味しそうだったから。次期氷の大精霊候補。
【雷の精霊ラズマ】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している雷を司る特級精霊。自由奔放な性格でいつも何かに感情を揺さぶられていたいらしい。感情の起伏が激しく非常に鬱陶しいが全てを許せる容姿をしている為、意外と皆から可愛がられている。幼いアルフを押し倒し襲おうとした前科があり、アルフが女嫌いになった原因の1つでもある。次期雷の大精霊となることが確定している。
【木の精霊ドリアード】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している樹木を司る特級精霊。基本的に人間を馬鹿にしており下等な生物だと思っているがジールとその子供達には愛着がある。今でこそ中性的で美しい見た目だが、ジールと契約した当時は草の精霊という丸と点しかないような姿だった。ジールが最初に契約した精霊でもある。次期植物の大精霊候補。
【聖光の大精霊ロポリス】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している光と聖を司る大精霊。常に小龍と箒が周りを飛び回っており神経質な女性の姿だが、実際は特に何も考えていないうえやる気がティザー以上に無い。ジールが4歳の頃に初めて召喚した龍の腕輪が嵌まった箒がロポリスだったが、全く動かず何の反応も無いため失敗と判断。しばらくただの掃除道具扱いだった。しかし、ドリアードを召喚し契約した時に正体が特級精霊だとバレ、もうサボれないと大号泣したらしい。
【闇の大精霊モーブ】
ジール・イヌア・クランバイアと契約している闇を司る大精霊。どこにでもいるような平々凡々な男性の容姿だが大精霊の名に相応しく力は強大。ロポリスの様に6冊の本が常に周囲を飛び回っている。1番遅くにジールと契約したせいか、やる気に満ち満ちており、ジールの為ならどんな事も積極的に行動しようとする。しかし、手加減が苦手なのかやり過ぎるせいでなかなか召喚してもらえない。最近は自力でジールの元へ来ようと他の精霊に協力を仰いでいるらしい。また、既に大精霊だった自分を召喚し契約まで結んだジールのことが大好きだが奥手故にモジモジしている。




