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19話 ブラコンのおまじない

後書き修正

 ジル姉様がはにかみながら俺と勇者の方に近付いてくる。


「いやぁ、参ったわよ。まさか私と同化しようとするなんてね。想像もしてなかったわ」


 私と同化? どういうこと?


「そこで止まれ! お前は本当にさっきのダンジョンコアなのか!?」


 え、ダンジョンコア?


 本当に俺が気を失ってる間に何があった?


 ていうか勇者の頭の上に突然出てきた浮かんでる目玉がすんごい不気味なんだけど、何だあれ。


「そうよ。時間がかかったけど上手く乗っ取れたわ。これもあなたが頑張って耐えてくれたお陰ね」


 姉様は立ち止まって微笑んだ。


「それなら、さっさとジルを解放してダンジョンから出ていけ。これ以上俺達に関わるな」


 凄く険しい顔で勇者が言い放つ……えーと?


 勇者はジル姉様と喋ってるんだよね。


 全然振り向かないのはどうしてだ?


「もちろんそうしたいけど、約束したでしょ。その子を何とかするって」


「ふぇ、俺?」


「それはそうだが……アルフ、こっちに来い!」


 勇者が怖いな。


 言われるまま勇者の側に行くと頭を触られた。その瞬間、視界がいくつも増えて訳がわからなくなった。


 ジル姉様の姿、綺麗な青い球体、俺達を真上から見下ろしていたり様々な角度からの俺達の映像が見える。


「え、何これ? 気持ち悪い……」


「我慢しろ、今俺とアルフの視覚を同期させた」


 勇者はそう言うと防御結界を展開した。俺と勇者の周りにだけ。


「そんなに警戒しなくてもいいのに、信用ないのね私。とりあえず、この女の身体は解放するわ」


 姉様はそう言って椅子まで戻るとまた眠ってしまった。

 

 なんていうか、品のない座り方だな。こんな姉様見たくない。


『触れないと何もできないから。近くへ来て』


 頭の中で姉様と同じ声が喋りかけてきた。


 うー、さっきからいっぱい見えるし頭の中で声もしてくるし凄く気持ち悪い。


「ちょっと待て、その前にやることがある。もし、アルフに危害を加えたらお前が最も嫌がる状態や状況が永遠に続く(まじな)いをかける」


(まじな)い、ね……(のろ)いの間違えじゃないの? まぁいいわ、好きにして』


 (まじな)いってなんだろう、(のろ)いは分かるけど。


 すると勇者が俺の方を向いて囁いてきた。


 それはもう甘い甘い声と表情で。


「俺の大切なアルフ、可愛くて仕方ないアルフ、愛してやまないアルフ……」


「え、急にどうしたの? 気持ち悪いよ」


 さっきとは違う心理的な意味で。


「どんな時もそれを忘れないでくれ、ブラコン」


 勇者は青い球体の方に手の平をかざし、俺の額にキスしてきた。


「ちょっ、えっ!?」


 止めろと訴えようとした瞬間、俺と青い球体から無数の黒い糸状の物が出てくると、互いの中間地点で絡み合い禍々しいオーラを放って消えていった。


「今のが(まじな)いってやつなの?」


「あぁ、そうだ」


 額から唇を離した勇者はどうでも良さそうに答えた。


 あれ? なんか勇者の粘っこい、何て言うかこう、ねちっこくてドロッとした油汚れスライムみたいな質感ていうかそんなのが無くなったような……


『じゃあ、もういいわね。アルフレッド・ジール・クランバイア、こっちに来て』


「う、うん」


 何が何だかわからない状況なだけに、本当に大丈夫か不安で勇者の顔をチラッと見上げたら、顎で行けと返され防御結界が解除されてしまった。


 青い球体は本当に綺麗で近付くほどに自分の物にしたくなる欲望が沸いてくる。


『そこでいいわ。止まって』


 あと1歩で手が届く距離まで行くと、止められた。


 青い球体の表面が波打つと音もなく発光し始め、中にある石のような物を中心に幻想的な形へと広がっていく。


 ただただそれを見つめていると、物悲しくも荘厳で妙に懐かしく美しい音楽が流れてきた。


 自然と涙が溢れてくる。


 ずっと見ていたい、ずっと聴いていたい、そんな感情に支配されていると不意に胸を貫かれるような痛みが走り現実に引き戻された。


『終わったわ。じゃあ、これで取引成立ってことで。私は行くわね。あ、そうそう、このダンジョンからは早めに出なさいね』


 球体に戻った青い物体はそう言い残して天井をすり抜けて行った。


 不思議な感じがまだ抜けきらず、ボーッとしていると勇者に声をかけられた。


「じゃあ、城へ帰るぞ。ジルは俺が運ぶ。お前は遅れないよう付いてこい」


「分かったよ、ソウタ兄ちゃん。あ、念のために防御結界をかけてくれない?」


 勇者の方へ歩きながらお願いすると、勇者何も言わず手をかざして防御結界をかけてくれた。


 それから割れなかった卵を拾って足早にダンジョンを脱出し、外で待っていたアーシャとクライスと合流した。


 2人はジル姉様の様子に驚いていたけど、問題ないという勇者の言葉を聞くと手早く帰り支度を始めた。


 クライスはずっと無表情だった。


 俺は去り際にダンジョンの方を振り返ると、ダンジョンの入り口が少しずつ大樹の幹のなかに埋もれていくのが見えた。


 俺はさっきの胸の痛みを思い出し、胸に手を当ててみると、これは痛みじゃなくて何かを失った感覚だけがずっと残っているんだと気が付いた。

~入手情報~


【名 称】ブラコン

【発 現】音村奏汰

【属 性】呪

【分 類】仮面型/固有スキル

【希 少】☆☆☆☆☆☆

【効 果】

兄弟に対して異常な執着心を抱くようになる。

ソウタの場合は弟という存在に対してのみ常時発動。過干渉、異常接近、過度の触れ合い、束縛や監視をする為とてつもなく嫌がられる。ある条件を満たすと、その存在に危害を加えるモノに対し最悪の災いをもたらす呪いを使用できるが対価として一定期間その執着心を失う。失う期間は自身のレベルと同じ日数~同じ年数と幅広い。


~~~~~~~~~


【種族名】油汚れスライム

【形 状】不定形型

【危険度】E

【進化率】☆☆☆☆☆

【変異率】☆☆☆☆☆☆☆☆


【魔力結晶体】ほぼ発生しない

【棲息地情報】油溜まり・魔道具工房・不衛生な飲食店等


【先天属性】

 必発:土

 偶発:水・氷

【適正魔法】

 必発:土・水

 偶発:氷


【魔物図鑑抜粋】

スライムが進化した上位種。

このスライムの粘液は装備品を汚し酷いときは劣化させてしまう。入手できる素材も大したものはなく割に合わない為、出会いたくない魔物ランキングの殿堂入りを果たしている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンジョンコアの設定が素晴らしいです。 話が動き出し、これからどうなるのか期待してしまいます。
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