表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/201

195話 いつのまにらや置いてけぼり

後書き修正

 目が覚めると例のベッドに寝かされていた。


「くそっ、またやられたのか」


 大きくてふかふかのベッドは、前と違ってエニテャシの花の香りがする。


「この香り、なんかソワソワっていうかムズムズするな……」


 ベッドから降りて部屋を探してもルトルやシュナウザーはおらず一人きり……ではなかった。部屋の飾りになりすました、感じの悪い人形が3体こっちを見ている。


 ていうか体内(ダンジョン)でピすピす寝息をたてるアドイードは常に一緒なんだから、これから先1人になることはないか。あ、でもアドイードと俺は2人で1人だから結局1人なのか?


 う~ん……。


『やっと起きたわ――』


『ちょっと寝すぎだよね――』


『そんなだからルトルに捨てられるのよ――』


 1人とはなんぞやと頭を悩ませていたら、人形たちもとい大精霊たちがふよふよと近付いてきながら悪口を言ってくる。なかでも、聞き捨てならなかったのは――


「捨てられるってなんだよ」


 ロポリスの入った人形をぎゅうっと掴んで問いただす。お、笑った。珍しい。


『ルトルはシュナウザーと魔法王国へ行ったのよ』


 ロポリスはいとも簡単に抜け出して、やれやれといった仕草を見せた。


「意味がわからないんだけど?」


『新しい恋に目覚めたんじゃないかしら。ルトルから一緒に行くって積極的だったもの。ああ泥沼の愛憎劇……いい、いいわ~』


 うっとりしてるナールが気持ち悪いからモーブに視線をやる。


『やめなよナール。人の恋路を邪魔すると蹄の大きなケンタウロスに蹴られちゃうよ』


 恋路ってのに若干ひっかかったが、ナールがうっとりするのを止めたので良しとしよう。


「で? 理由は?」


 再びロポリスを掴んで聞く。


『あのね、ルトルに関する記憶はエースがもってるのよ。ルトルはそれを知って取り返してくるんだってシュナウザーに付いて行ったの。てなわけで私はここまで。楽しいお散歩だったしアルフとまた会えて嬉しかったわ』


「え、なんでだよ。まだいいだろ?」


『そうしたいけど、さすがにルトル1人をあんな伏魔殿にやれないでしょ。守ってあげなきゃ』


「そりゃそうだろうけど……」


 確かにあそこ伏魔殿、いやそれ以上だもんな。ルトル1人じゃ危険極まりない。


『そうよねぇ。しばらく会えないからって寝てるアルフに思いっきり顔射するような関係なんだし。守ってあげなくちゃね』


『だからやめなってばナール』


 は、はぁっ!? 


 なんてことしやがるあの淫獣め! どうりでエニテャシの花の香りがするわけだ!


「あんなやつ守る必要性を微塵も感じないな。それより水はないか? これ以上ないってくらい清らかな水だ。それと消臭と皮膚の取り替え効果も必須だからな」


 だいたい、あいつは口では好きとか言うくせにおそろいのアームバングルをくれないようなヤツだった。あの国で揉み揉みのくちゃくちゃにされてとことん痛い目をみればいい。


『そんな水は無いわよ。それより帰ってこられなくなるかもしれないのよ? あんなにヤりまくるくらいルトルと熱々だったのにいいの?』


『ちょっと。ヤりまくるなんて品がないわ。2人は愛を確認せずにはいられなかったのよ。時と場所を考慮せずに、ね?』


 ね? とナールに同意を求められても俺は知らないんだ。それに果たして俺がそんな淫らな行為に夢中になるだろうか。こういう話を聞くたびに嘘なんじゃないかと思う。というか嘘に違いない。


 そもそも、こいつらの前でなんてありえないんだ。万が一にもそういうことするなら、神ですら覗き見できない強固な結界を張ってようやく思いっきり――ん、思いっきり? いやいやなに考えてるんだ俺よ。


『あっちにいるドリアードによると、エースはルトルルトルって毎日煩いらしいわよ。それに毎晩1人になるとこっそり……覚えてないアルフが疑うのもわかるけど、きっとエースはルトルを見ると速攻で寝室に連れ込むわ。守るってそういうのも含まれてるんだけど、本当に守らなくていいの?』


「……いい」


『そう。じゃあ私はただ見てるだけにするわ』


『ふふっ。きっと後悔するだろうから、その時は私が相談にのってあげるわね』


『だからやめなってナール。ねぇアルフ、あんなこと言ってるけどロポリスはちゃんとルトルを守ってくれるから安心していいよ』


 知らず知らず皺のよっていた眉間をモーブが伸ばそうとしてくる。人形の指はふやふやで気持ちよく、その優しい笑顔にちょっと癒される。


『うふふ。私もアルフの眉間を触ろうっと』


『……じゃあ私も』


 モーブに続いてナールとロポリスも眉間をくいくいと伸ばす。3人が3人とも、ずいぶん楽しそうに笑っている。


『さて、名残惜しいけど私はもう行くわ』


 しばらく眉間をふにふにしていたロポリスがすっと人形から出てきた。なんだか妙に懐かしい笑顔をしている。


『頑張ってくれるのは嬉しいけど、アルファドの魔眼はもうないんだし、モーブとナールもそう長くは一緒にいられないんだからあんまり無茶するんじゃないわよ』


「心配しなくても大丈夫だよ」


『だといいけど』


 ロポリスは悪戯っぽく俺のおでこをつつくと行ってしまった。


『私ちょっとお見送りしてくるわ』


『あ、僕もそうしようっと』


 ナールとモーブも姿を消した。


「……ちょっと寂しいかも」


 ロポリスの入っていた人形を拾うと勝手に言葉が漏れた。腹が立ったりウザいことも多いけど、なんだかんだで俺はロポリスが好きなんだ。


 なんて感傷に似た思いに浸っていたらバンッと扉が開いてパトロンケイプが入ってきた。


「おおやっと起きたか」


 相変わらず突然で少しびっくりする。こいつは母親と名乗るくせに、子供部屋への突撃が容赦さすぎる。もし俺がルトルみたいな男だったら、間違いなく1人で密かに気持ちよくなってる最中に出くわすぞ。そんなの大惨事だ。


「ってなんじゃプロモントリー。人形片手に繁殖用の芋虫なんぞ顔にくっつけて、なんの遊びじゃ?」


 は? 


 言われて鏡に走った。


「な、なんだこれ!?」


 あ、あいつら……やたら眉間を触ってたのはそういうことかよ。俺の完璧な顔になんてことしやがる。おまけに見送りとか言って消えたのはパトロンケイプ気配を察知したからだな。ちょっと感動してたのに台無しだ。


「はっ! そうか、プロモントリーはそういう年頃になったのじゃな! 待っておれ、すぐに相手を見繕ってやる!」


 とんちんかんな思考回路で導きだした答えを叫んだパトロンケイプは、入ってきた扉から出て行き、すぐに画材道具と彫刻道具を手に戻ってきた。

~入手情報~


【名称】エニテャシ

【分類】魔木

【分布】世界中の森

【原産】淫魔の棲家パラダイスゲインキュバス

【属性】影/火/毒/月(満月の夜の13秒間のみ)

【希少】☆☆☆

【価格】

 花粉:共通木貨1枚/1g

  蜜:共通銅貨1枚/1g

  実:共通銀貨1枚/1個 

 若葉:共通金貨1枚/1枚

【アルフのうろ覚え知識】

インキュバスの中でも雄を獲物とする者の魔力と世界中の雄の性欲から産み出された魔木。生き物の性欲等、特に雄の精液を好んで栄養としている。花は精液の香りを放ち嗅いだものの性欲を刺激するんだ。朝露のついた若葉は精行為時のみ若返る魔法薬の主原料になるが、若葉の状態が数秒しかないため入手は困難らしい。確か花粉、蜜、実には催淫効果があって順に効果が強くなるはずだ。ある程度成長するとインキュバスによく似た瘤を作るようになる。その瘤を通りかかった雄と交わらせ種を運ぶ苗床にしてしまう。ちなみにインキュバスやサキュバスはナールの眷属らしい。


~~~~~~~~~


【月の大精霊による顔射情報】

顔射とは顔になにかがかかってしまうことよ。

ルトルはしばらく離れ離れになるかもしれないからって、アルフのために自分の魔力を月光の壺にたっぷり溜めていたの。あ、壺は私が作ってあげたわ。そしたら意識がないにもかかわらずアルフが物欲しそうに口を動かすもんだから、ルトルに指を吸わせてあげればって言ったのよ。でもねぇ、すぐにルトルが欲情しちゃって、しかもその性欲が私の光のせいで魔力に変換され始めたの。ルトルは突然増えた魔力量をコントロールできなくなったのよ。主にどこからとは言わないけど、間欠泉みたく吹き出る魔力がアルフの顔にかかってかかって大変だったわ。ま、当の本人はむにゃむにゃ言いながら美味しそうに魔力を食べてたけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ