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194話 元可愛い弟No.1

 パトロンケイプと話し合い。それは予想に反してあっさり終わった。俺が「もう家出はしない。一人立ちするまできちんとダンジョンの勉強をする」と言えば、機嫌のよくなったパトロンケイプはおやつを作ってやろうとウキウキで監禁部屋を出ていった。俺の首にゴツい枷をはめて……。


「クソッ! 固すぎるだろこれ!」


 ルトルが枷を壊そうと躍起になっているが、たぶん無理。だってこれパトロケージの体と同じ材質だもん。


「兄上の首輪姿なんて貴重すぎですね。目に焼き付けておかねば」


「なんで嬉しそうなんだよ」


「俺も兄上に首輪をつけられていましたから。お揃いです。それに慣れれば案外嬉しいものですよ。こう、自分は兄上のものなんだと感じられて」


 と、理解不能な理論を言い、懐かしむような顔でシュナウザーが懐から魔書を取り出した。


「1ページ」


 魔書使いの厄介な(羨ましい)能力、(ページ)指定された魔書から古びた黒い首輪が現れた。それを俺に手渡しドラゴン姿になると、はめてくれと首を伸ばすシュナウザーはなにかもう手遅れな感じがする。首輪がやけに手入れされているのもちょっと怖い。


「さぁ兄上。久しぶりに俺が兄上のものだと証明してください」


 何故そういう解釈になったのかは知らないが、そもそも俺たちがエースにぶち込まれるまでシュナウザーに首輪をつけていたのは、ただ散歩に不便だったからだ。


 まだ幼く人の姿になれなかったくせにシュナウザーはお忍び散歩にこっそりついて来ていた。


 なのにその途中でいつもテンションかち上がりになって、咆哮をぶちかましながらちょこまか忙しなく飛び回り始めるんだ。見た目こそあどけない小型ドラゴンだが、キッズドラゴンというのはマザードラゴンを凌ぐ激ヤバ極まりない種。おいそれと姿を見せていい存在ではないのだ。


 ついてくるなと言えば号泣してうるさいし、アシピルペア義母様からもお願いされてしまい、しぶしぶ散歩に同行させることになったんだ。首輪を条件にな。


「焦らさないでください」


 昔とほぼ変わらない姿と期待に満ちた瞳、ちょっと拗ねた表情はやはり可愛い。


「仕方ないやつだな」


 首輪は少しだけキツくなっていたが、そんなことはお構い無しでご満悦のシュナウザーは驚くほど可愛いかった。もうずっとドラゴンのままで人間形態なんかならなきゃいいのに。


「よしよし、相変わらずお前は可愛いな」


 シュナウザーを撫でてやろうと手を伸ばす。すると破壊の手を止め俺たちの様子をじっとり見ていたルトルがキレた。


 なんで?


「そういうのは恋人同士でやるものだ」


 ああ、確かタイタンは互いに首輪、というか輪っか系のアクセサリーをお揃いで身に付けてスキンシップを図るのが愛の証明なんだったっけ。でもこれは別にお揃いってわけじゃ……んあ? 


 よく見ればルトルのやつアームバングルをしてるじゃないか。俺はそんなドラゴンのアームバングルなんか持ってない。額にぶっとい血管を浮かべながら俺のことが好きだなんだとわめくくせにどういうことだよ。


 いや、まあ……だからなんだって感じだけど。別に誰かとお揃いなんじゃないだろうなとか思ってないし。


「そもそもお前はどうしてそんなにアルフと馴れ馴れしいんだ」


 嫉妬というよりほぼ殺意からくる睨みをシュナウザーに向けたルトル。けどシュナウザーにはちっとも効いてない。


「兄弟なのだから当然だろう。それに俺が兄上1番のお気に入りだからだ。それよりも貴様、王族をお前呼ばわりとは不敬にもほどがあるぞ」


 ルトルにマウント取りつつ肩車されるよう俺にしがみついたシュナウザーの可愛さが堪らない。やっぱりこういう、やや丸みをおびた幼児体型のようなフォルムが好きなのかな俺。コルキスもそんなだしアドイードなんかもろにそうだ。そういや感じの悪い人形も多少そんな感じだな。


「あ、でも今はコルキスが1番――」


「兄上っ!?」


「違うだろ! 1番は俺だ!! 婚約者なんだぞ!!」


 失言だった。前後で2人がぎゃいぎゃいうるさい。最初は険悪な感じだったのに実は仲が良いんじゃないかこいつら。


「アリュフ様の1番はアドイードだよ」


 頭を抱えたくなっていたら、ややこしいことにアドイードが参戦してきた。例のごとく俺の頭に1輪の花を咲かせてそこから喋っている。引きずり込んだパトロケージは放置したのか、腹の辺りがとてもむずむずするんだが……。


 面倒臭いなぁもう。とりあえずアドイードにはこっそりお前が本当の1番だよと伝えておこう。お、俺の中(ダンジョン)でもじもじしながら踊り出したぞ。


 次はルトルだ。こいつはちょろい。指をしゃぶって魔力を食えばいい。ちょっと舌を絡ませてやれば破廉恥な妄想に耽ってすぐに黙るだろう……ほらな。


 問題はシュナウザーだ。おしゃぶりを止めさせるべく肩から降りてルトルの腕を殴り始めたこいつは、ミラへの嫌がらせで残らせたのに、あんまり意味がなかった気がする。もう魔法王国へ帰ってもらおうか。


「シュナウザーとは十分再開を楽しんだからもういいや。早く帰ってミラとイチャイチャしろよ」


 ルトルの腕が肉塊になる前に口を放しシュナウザーを止める。


「ミラとイチャイチャ? 何故ですか?」


 ドラゴン姿でこてんと首を傾げるのはズルい。なんでも許してしまいそうになる。しかもコルキスと違ってあざとさがなく、真にアホっぽく見えるのだ。


「何故ってそりゃ……付き合ってるだろお前ら」


「付き合ってませんよ。確かにミラの魔書が気になって何度か体を重ねたように錯覚させましたが、恋愛感情など微塵もありません。俺は昔から兄上一筋ですからね」


 お、おぅ……まさかだった。純粋だったシュナウザーが悪い子に育っている。いや、純粋故にそんなことができたのかもしれない。


 しかし、だ。きっとミラは真実を知らないだろう。俺への敵意は浮気相手に対するそれと同じだと思っていたが、これがばれれば本格的に命を狙われるかもしれない。


「それミラには言うなよ」


「言いませんよ。ミラはあんな感じですが恋に恋する夢見る男子なんですから」


 そんなヤツだとわかっててさっきの発言。ひでぇ。次からミラをからかうのは止めよう。優しく肩を叩いて慰めてやってもいい。


「仲が良いのうお主ら」


 突然開いた監禁部屋のドア、その向こうから拍手喝采を背にパトロンケイプが戻ってきた。


「ほれ、おやつじゃぞ」


 一緒に戻ってきた執事魔物がゴツくてデカくて黒光りする鎧を目の前に置く。どこをどう食べるんだと思ったが、尋常じゃなく美味しそうな香りを放っている。


「我の創作料理、特製デュラハンバーグじゃ。シュナウザーとルトルにもわけてやれ。ペットも食せるよう描いたからの」


 ペット……まあこいつらはそんな認識でもいいか。パトロンケイプと面識があるらしいシュナウザーはともかく、ルトルはダンジョンの要所を護らせるペットだとでも言っておけば殺されはしないだろう。


「って、おいお前ら! 先に食べるな! それは俺のだぞ!」


 なんて意地汚いやつら――あ、あれ?


「な……………ん……だ………?」


 おやつを1口食べただけで、俺は意識が朦朧として動けなくなってしまった。

~入手情報~


【名称】古びた黒い首輪

【分類】思い出の欠片

【属性】時空

【希少】★★★

【価格】-

【アルフのうろ覚え知識】

確かシュナウザーの行動を制限するために俺の記憶の一部を首輪に変型させたんだっけ。記憶を切り離したもんだから肝心の内容がさっぱりわからない。ちょっとヤバめに成長したシュナウザーがホクホク顔になるような記憶ってことだから、シュナウザーに対する当時の独占欲的ななにかだろうか。


~~~~~~~~~


【名称】特製デュラハンバーグ

【分類】絵画食

【属性】命/呪/霊

【希少】★

【価格】-

【アドイードのふんわり直感】

なんだかとっても美味しそうな香りがすりゅね。1万体のデュラハンをコネコネして黒い鎧にした絵画が元になった料理だよ。きっとよくないものだよ。でも美味しそうすぎて食べないなんて選択肢はないよ。ふぁ、目が回りゅ~。


~~~~~~~~~


【名称】創作料理ヌーヴェル・キュイジーヌ

【発現】パトロンケイプ

【属性】全属性

【分類】絵画型/固有スキル

【希少】★★★★★★★

【アドイードのふんわり直感】

パトロンケイプが精神力を絵具にして生きたキャンバスに描く料理の絵(スキル)だよ。パトロンケイプだけが生きたキャンバスから料理を取り出せりゅみたいだね。絵画の完成度と鑑賞者の称賛に応じて料理にはパトロンケイプが想像したことの1~100%が反映さりぇりゅっぽいよ。生きたキャンバスの命が料理のスパイスになりゅって残酷だね。

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