193話 自称家族のお出迎え
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引きずり込まれた先は当然パトロンケイプの中だった。その応接室、下座のソファの後ろにずらりと待機していた執事の格好をした魔物たちは、俺を見ると数人を残して優雅に退室していった。おそらく監禁の準備でもするんだろう。
あいつらがパトロンケージでないことはわかる。が、それ以外のことはさっぱりわからないし、残されたやつらも緩いケージィと違ってキツそうな感じだ。
「……服がべちゃべちゃだな」
顔からあらゆる体液を流すパトロンケイプにしがみつかれたせいだ。洗濯してももう着たくない。なんなら今すぐ風呂に入りたいくらいだ。というか1秒でも早くここから立ち去りたい。
しかし、ズビズビ泣いてすがり付くパトロンケイプは俺を掴んで離さないし、なにより困ったことにルトルが気色悪い偽腕で羽交い締めにされ床に押し付けられているのだ。
目的は俺だけじゃなかったらしい。俺が引きずり込まれてすぐ、ルトルもあの偽腕で引きずり込まれた。理由は不明だが、面倒臭いことになっているのは明白だった。
「では着替えを」
ソファから浮かび上がった男の指示に反応した執事魔物が1体、壁にかけられた小ぶりな絵画に向かう。それには俺好みの控え目な装飾の施された祭服が描かれていた。執事が手をかざすとその祭服が絵画がら出てくる。
「着替えはいらない。代わりにルトルを離せ。俺はルトルが作った服しか着ないんだ」
顔面を掴む偽腕の隙間から、一瞬嬉しそうな表情をしたルトルが見えた。なんだよ、案外余裕あるんじゃないか。
「私の描いた服よりも、穢らわしい男娼の作る服が良いとは。ずいぶんと高尚な趣味になられましたね、兄上。いや、今も弟かな?」
ああ……そう。そういう感じ。俺のルトル貶すなんて、その喧嘩買ってやるよ。
「さあな。お前らを家族だと思ったことはないからどっちでもいいさ。本音ではお前も同じだろ。なあ、ミラ?」
そう、ただでさえパトロンケイプが面倒臭いのに、それに輪をかけているのはミラをはじめとする俺と面識のあるクランバイア魔法王国の王子たち、その年長組だ。なんでいるんだよ。
「どうでしょう……」
ミラは抵抗するルトルをいっそう締め付け、勿体ぶるような口調で正面に来た。他の4人はそれぞれソファに座ったまま――
「まぁ。そんな寂しいことを仰らないでくださいアルフレッドお兄様。せっかくお迎えに参上しましたのに、ベリスは悲しゅうございましてよ」
「そうですよ。このシュナウザー、兄上と再開できる日を心待にしていたんですから」
「それはあんまりです。同腹の私のこともそのようにお考えなのですか?」
――と、のたまいやがる。なんと白々しい。いや、1人は本気だな。とりあえず無視しとこう。
「そうかそうか。じゃあそういうことでいいよ。で、何も言わないけどお前はどうなんだ? 第1王子としてずいぶん頑張ってたらしいじゃないか」
唯一、俺に感心なさげなバドルに声をかけるも無視された。あ~やだやだ。どうしてこうも可愛くないのか。ちょっとどころか丸ごとコルキスを見習って欲しい。
「道中、見聞きして知ってるぞ。最近だけでもテラテキュラにおけるヘリャト独立支援とアプレビ家への植物魔法指南、ウルユルトへの禁止魔道具輸出の緩和、ミュトリアーレの第7研究所とアンチ奴隷印研究への大出資、ヒウロイトとのアニタニア条約撤廃、そしてメゴゼックとのドラゴン養殖条約の締結。その他諸々、凄いじゃないか」
「私はただ兄上が残された計画のとおりに動いたまでです」
いけしゃあしゃあと……結果はともかく、その過程を自分の都合に合わせて好き勝手してたくせに。
アルフレッドの魔眼がもう少し使いやすければこうはならなかっただろう。その歯痒さと、なんでもないような顔で紅茶を飲むバドルにちょっとイラッとする。
「あ、そうそう、何年か前に友情の証しとして幼いマデイルナン大公にあのツインロッドをあげたんだってな」
ピクッと動いたバドルの眉毛にちょっとした仕返しを思い付いた。
「でも残念だったな。既にマデイルナン公国は取り戻した。もう誰にも渡さない」
「マデイルナン公国がどうなろうと私には関係ないことです」
「へぇ、にしちゃあずいぶん勝手をしてたみたいだけど……まあいいや。なんにせよお前はよくやったよ。お陰で俺も大切な弟も死なずにすんだ。ありがとうバドル。これは御褒美だ」
自称兄弟たちにも視線を送ってから、ロポリスから受け取った例のツインロッドの片方をバドルに差し出す。あの時、目が覚めてから偽卵にしておいたんだ……ん?
「っ!? 何故それを……」
「拾ったんだよ。メリツィナ陵墓の近くでな」
う~ん、さっきなんか思い出しそうになったけど……まあ今はいっか。
「よくもまあこんな物騒なものを親友に渡せるもんだ。無理してお勉強中の古代神聖文字を使うからだぞ。イイ格好したかったのか? んん?」
スペルと文法のミスで『永久の愛の幸福』が『破滅が永久の幸福』になってるんだ。少なくとも俺ならこんなのもらったら絶縁の後、息の根を止めにかかるぞ。
「若気のいたりというやつですよ」
そうとはわからないようギリギリ歯噛みするバドルを見ると心がスッとする。とはいえこれで全部を許すほど俺も大人じゃない。今のは大切なマデイルナン諸島を呪詛まみれにした分だ。今後もまだまだ仕返ししてやるから覚悟しとけよクソガキめ。
「さて、それじゃあせっかく再開を待ちわびてくれてたみたいだけどもうお開きにしてくれ。俺はこれから自称母上と今後について話し合わなきゃいけないんだ……だからさ、いつまでも気色悪ぃ手でルトルを掴んでじゃねぇよミラ。殺すぞ」
チッ、思いっきり凄んでやったのに澄ました顔しやがって。相変わらず可愛くない。もういっそ偽腕を消去してやろうか……あ、無理か。固有スキルは全部ミステリーエッグとかになっちゃったんだな。
「ふっ、聡明にして偉大であらせられるアルレッド兄上らしくありませんね。もしかして先の発言も何か企みがあるのですか?」
挑発的なミラの顔にやっぱりイラッとする。
「前言を修正するよ。シュナウザーとルトルだけ残してあとは消えろ」
「おお、兄上!!」
「喜ばないでくださいシュナウザー……しかし、まあいいでしょう。存分に再会をお楽しみください」
心なしか勝ち誇ったような表情を見せたミラがゆっくり偽腕を解いていき、自由になったルトルが駆け寄ってきた。途中、ミラが見せつけるようルトルに耳打ちしていたが、先ずはガクガク揺さぶってくるルトルを止めよう。
「どういうことなんだ!? マデイルナン滅亡がアルフの計画だって!?」
「ちょ、それは後で話すから落ち着けって」
なんでルトルがこんなに必死で聞いてくるんだ。いったい何を耳打ちされたんだよまったく。とにかくルトルを宥めるため、今にも飛び付いてきそうなシュナウザーに待ての視線をやる。
「おいルトル! 今は危険なダンジョンの中なんだよ!」
「危険な……?」
おい煩いぞ。待てに追加でシーっだ。キッと睨めばピシッと黙るシュナウザー。よしよし、デカくなったけど相変わらずアホそうで可愛いなお前は。
「その話は生きて脱出できたらちゃんとするから。だから今は冷静になってくれ!」
強めに言うとルトルがハッとしてくれた。とはいえシュナウザーも首を傾げたように、実際は危険じゃない。ここはパトロンケイプの応接室だからな。パトロンケイプ関係のものから攻撃されることは決してない。
「取り込み中のようですが、我々はご希望どおり退散いたします」
「いつでも遊びにいらしてくださいねお兄様。ベリスは今でもお兄様っ子ですのよ?」
モリナディ式転移装置を取り出したミラとベリスがそう言い残し、バドルは無言のまま消えた。
「私は兄上の家族ですよね?」
去り際、同腹がどうのとか言っていたジルが募るような視線を向けてきたからテキトーに手を振っておいた。母上とそっくりの腹黒いお前こそ要注意だっての。
あの様子じゃアルフリートの暗殺は秒で再開されそうだな。ま、もう俺には関係ないけど。さて、次はっと……
「ぐずっ……客との話は済んだか? なら次は我と話し合おう。家出はもう嫌じゃぁぁぁ」
やっと本題に入れるよ。
~入手情報~
【名 前】バドル・ラトナ・クランバイア
【種 族】ソウルフェアリー
【性 別】男
【職 業】王子/外務卿/雷魂師
【年 齢】25歳
【レベル】110
【体 力】2211
【攻撃力】8811
【防御力】3311
【素早さ】7711
【精神力】4411
【魔 力】9911
【通常スキル】
外交の才/話術/並列思考/簡易古代呪文/魔法反転/詠唱破棄/消費魔力半減/三重魔法/火魔法威力増加/エコー/ソウルマナ/エンチャントサンダー
【固有スキル】
劣等感/変異六芒星/ソウルデザイン/シスコン
【先天属性】
雷
【適正魔法】
雷魔法-特級/雷魔法-特級/光魔法-上級/風魔法-上級/土魔法-中級/火魔法-中級
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【名 前】ベリス・ディスコルディア・クランバイア
【種 族】ピュアヘイズイーター
【性 別】女
【職 業】王女/クランバイア魔法軍元帥/扇使い
【年 齢】25歳
【レベル】116
【体 力】1616
【攻撃力】6161
【防御力】1161
【素早さ】6616
【精神力】6116
【魔 力】6166
【仙 力】1661
【通常スキル】
争の才/扇作成/戦術視/戦略視/瞑想/禁山流体術/禁山流扇術/禁山流魔力操作/霞舞踊/扇千本/千枚扇/
【固有スキル】
空言/簡易予知/霞扇/金蛾扇/五火神焔扇/穢れ風/災いの母/ファレノース語録/ヘイズ/
【先天属性】
火/水/
【適正魔法】
火魔法-特級/水魔法-特級/
【異常固定】
不和の林檎/風封印
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【名称】ミラの祭服
【分類】絵画服
【属性】光
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【効果】
ミラ・ヤゴゴ・クランバイアが固有スキルのバジルノエノグを用いて描いた写実的な祭服。着用中は先天属性に光が加わる。特級魔法相当の水にさらされると崩壊してしまう。
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【マデイルナン諸島】
オルゲルタ戦記に登場する複数の浮遊島の集まり。神聖国ニアの南に位置し、5つの大神殿と8つのダンジョンが存在したとされる。最近まで同名の公国が存在していたが、現在は跡形もなく消え去っており、その場所には抉れた海が広がっている。