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190話 ケージィの策略

本文、後書きミス修正。

 霧となって外に出た瞬間、俺たちは弾かれるように元の姿に戻っていた。


「うう、ぼくのダークネスフォッグが強制解除されるなんて。全部兄様とルトルのせいだからね!」


 俺と違って上手く着地したコルキスが戦闘態勢を崩さぬまま悔しがり、なおかつ責任転嫁までしてくる。


「そもそも朝だし、その服が聖光の魔力を帯びてるから全力が出せないの!」


 俺のジト目に気付いたコルキスがダークジャベリンを撃ち込んできた。あぶないなぁもう。咄嗟にミステリーエッグを発動してなきゃ大怪我してたぞ。


 それともう一人、ジト目対象がいる。ルトルだ。あいつ、ランペルたちの護衛に回りやがった。婚約者の俺は放置かよ。


「アルフは檻の破壊を頼む!」


 む……戦力として数えてるなら、まあ、許してやるか。


 でもなぁ、ケージィの檻を破壊、それも内側からどうにかするなんて、そんなことできるヤツは世界中探してもそう多くないと思うんだよ。だってパトロンケージだぞ。しかもダンジョンマスター(パトロンケイプ)が特別に強化した個体。


「やってはみるけど期待はするなよ」


 きっと失敗するだろうから保険をかけておかなくては。


「兄様これで卵作って」


 立ち上がっている最中にコルキスがダークジャベリンをしこたまブチ込んできた。不機嫌だなぁ。戦闘中は冷静になるべきだってのに、やっぱまだまだお子ちゃまだな。


「うぉっ!」


 コルキスめ、死角から狙い撃ちしやがった。


「その顔やめてよね。ぼくお子ちゃまじゃないもん!」


 プイッと顔を背けたコルキスに可愛さを感じる。弟っていいもんだ。もしかして勇者もこんな気持ちだったのかな。だとしてもあいつらは許さないけど。


 さて、ぶっ飛んでいったケージィが戻ってくるまでに檻の破壊を試みよう。コルキスのお陰で卵は1007個ある。とりあえずあの辺りに一点集中でぶつけてみるか。


「す、凄い。ウチのフェザーショットもあの速さで連射できればなぁ」


「げっ、ノシャにはあれがどう動いてるか見えるのかよ」


「そういうわけじゃないけど……」


 う~ん、そのままの形でぶつけてみても手応えがない。じゃあ、と先を尖らせたり斬撃の形にしてみたり工夫してみたけどびくともしない。


「くそっ、アルフでも無理か」


 は?


 ルトルの発言がちょっとムカついた。だからヤスリ作戦に変更してみた。偽卵よりもはるかに硬質なミステリーエッグの卵だ。もしかするともしかするかもしれない。てことで卵をできる限りの小さくして檻を削りにかかる。


「うわっ!?」


 凄まじい騒音にコルキスたちが耳を塞ぐ。


「やめやめ。煩いし手応えも微妙だし、なにより近所迷惑だ」


 あれ? そういえば放置してたご近所さんたちは皆帰ったんだろうか……ま、いないってことはそうなんだろう。


 こうなったら大精霊組に頼む――のは無理そうだな。二階の窓からニタニタと見下ろしてやがる。しっかり袋菓子まで用意して完全に娯楽扱いだ。なっ、ちゃっかりグルフナも一緒じゃないか。あとでお仕置きだな。


 視線を外すとコルキスがアルコルパペットで檻を変形できないか試していた。が、プンプンした雰囲気を見るに無理だったんだろうな。ディオスが慰めてるし。


 亜空間体術……も駄目か。あれはコルキスとコルキスの使い魔しか亜空間を出入りできなかったはずだ。


 ルトルも固有スキルや魔法を使ってるけど同じく無理そう。


 手っ取り早いのはアドイードを起こして転移魔法を使ってもらうことだけど、気持ち良さそうに寝てるんだよなぁ。できるなら邪魔したくない。


 それに思い出したんだけど、このまま連れていかれても俺が面倒なだけで、パトロンケイプはコルキスたちに危害を加えないと思うんだよ。昔っからあれは、数少ない美味しい魔力はとっておく派だって話だ。


「兄様どうする?」


 やや落ち込んだ風なコルキスが側に来た。


「ぼくのデッドリージャーニーならデバフで檻を脆くできたと思うんだけど、あれ失くなっちゃったから……」


 そういえば学園都市でドゥーマトラがコルキスの時間を戻したんだっけ。なんかコルキスは残念がってるけど、あんな自滅ありきの固有スキルなんて失くなって正解だよ。お陰でデヌシスの運命(さだめ)から外すこともできたし。


 そもそもコルキスを殺すって話は取り消しって言ったはずで……殺し合いの最中だったから聞いてなかったのかな。


 まあ、そのためにウォーターペイロンていう保険をかけといたんだけどさ。ハイラルは気付いてなさげだったけど、あそこの料理って予め注文しておけば、予定調和とか確定済みの未来をそのとおりにねじ曲げてくれるんだよね。


 思い出したらまた食べたくなってきた。美味しかったなぁ、我儘沙拉(わがまま)サラダの嫉妬餡掛け。あれコルキスの夢の中で抜けた牙とか俺に関わる嫉妬心とかが材料で、噛む度に俺に対するツンデレな想いがじゅわじゅわ美味しいスープとして出てきて堪らなかった。あ、お土産の饅頭とお酒の出る瓢箪どこにやったっけ。


「兄様! 戦いの途中だよ! ぼーっとしないで!」


 注意してくるコルキスの口にチラリと見えた牙が美味しそうだ。とはいえ夢じゃないそれを食べても絶対美味しくないだろうけど……ん? コルキス?


 そういやコルキスって昨日………なんだ。これでいいじゃん。おまけに貴重な何かも手に入るし。


「なぁ、コルキスって昨日パトロンケイプでお絵描きしてたんだよな。上手く描けたか?」


「え、なに急に……あ、そういうことか! ぼくの大傑作ならあのパトロンケージも感動間違いなしだよね! 取ってくる!」


「は? おいコルキス、あれは売って山分け――」


「死んだら意味ないでしょ!」


 ランペルを遮ってコルキスは家に駆け込んだ。そんでもってすぐに出てきた。


「ずいぶん呑気だな。お絵かきセットなんか持ってきてどうするつもりだ?」


 警戒しながらルトルたちもやって来た。


「ルトルは無知だね。もっと魔物の勉強しなよ」


 自分だってヒストリアで見ただけだろうに。とは言ってないけど、なにかを察知したコルキスに睨まれてしまった。


「パトロンケージに絵画をプレゼントすると解放してくれるんだよ。パトロンケージが感動すればだけど」


「大丈夫! 絶対するよ!」


 コルキスが自信満々なのには理由がある。コルキスの絵は一部の貴族から大絶賛されているのだ。俺には良さがわからないけれど、二階で見物している大精霊組の飛ばす念話ブーイングの激しさからして、おそらく見込みがある。悪いな、期待してただろうバチバチの戦闘はなしだ。


「先ずはジャブだ。まぁまぁな絵を見せておいて揺さぶったあと、本命の絵を出して落とそう」


「うんわかった」


 弾ける笑顔でコルキスが頷く。絵が評価されるのがよほど嬉しいらしい。


「じゃあ呼ぶぞ。おーいケージィ! 迎えに来たんだろー!」


 俺が呼びかけるとケージィはスッと現れた。


 はは~ん。やけに戻ってくるのが遅いと思っていたが、隠れて俺の情報を集めてたな。パトロンケイプに言われたのか自主的な行動かは知らない――いや、それはないか。十中八九パトロンケイプの言い付けだろう。


「お待たせいたしました坊っちゃま。では早く帰りましょう。主も生まれたてなのに厳しくしすぎたと反省していらっしゃいますし、なにより愛息子の家出という行動に大変ショック受けております」


 再び優雅なカーテシーをしたあと、ケージィは恭しく語る。


「そうか。でも俺は行かない」


「困りましたね。ケージィは力ずくでお連れしたくはないのです」


 言いながら頬に手を当てて首を傾げている。


「これあげるから出してくれ」


 なにが描かれてるのかさえわからないコルキスの絵に、ケージィの眉がピクリと動いた。


「まぁまぁ、坊っちゃまはいけないことを覚えましたね」


 興味のない素振りをしていても俺にはわかる。というかバレバレだ。ケージィはもはや落ちたも同然。止めを、とコルキスに視線をやる。


「これもあげるよ」


「っ!?」


 俺にはかろうじて大きな目が描かれているだけにしか見えない本命の絵を見てケージィは息を飲んだ。咄嗟にポケットへ手を忍ばせたところをみるに、コルキスの絵(プレゼント)のお返しはあそこに隠しているとみた。


「……承知しました。ここまでのものを差し出されてはケージィも抗えません。どうぞ、お出でになってくださいまし」


 ケージィはコルキスから受け取った絵を抱きしめ感動に震えている。まったく理解できないけど、檻は消え去り俺たちは自由になった。


「わあ」


 コルキスの絵(プレゼント)に対するお返しを確認したコルキスも感動している。目がキラッ綺羅だ。


「そんな紙切れもらって嬉しいのか?」


 ランペルが不思議そうにコルキスの手の中を覗き込んだ。ノシャもだ。


「当たり前だよ。これ最高ランクの世界の招待状(ワールドチケット)だもん。どこでも好きな場所でおもてなししてもらえるんだよ。しかも3枚綴り――」


 よくわかってない様子のランペルとノシャにコルキスが丁寧に説明している。きっと2人は最高級レストランで食事がとれるチケットくらいにしか思ってないんだろう。ルトルを見てみろ。顔がひきつってるぞ。正しい使い方を知ってれば大概ああなる代物なんだよ。


「なにに使うかはあとで決めよう。その前に朝食にしないか? 俺もう腹ペコだよ」


 一件落着と皆を家に入るよう促す。朝っぱらから面倒事を処理したんだ。そろそろゆっくりしたい。なのにケージィが行く手を阻んだ。


「お待ちください坊っちゃま。朝食なら主が用意していらっしゃいます。帰りましょう」


「いや、絵あげただろ」


「はい。ですがこれはケージィの檻から出るための対価であって、家出を見逃す理由にはなりません」


 姑息な。絵画を受け取ったパトロンケージは普通そのまま解放してくれるはずだろうが。


 しかし、俺に抜かりはない。むしろ追いかけてきたのがケージィで良かったとさえ思っている。なにせこいつはあの有名なパトロンケージなんだからな。


「本当にそれでいいのか? このまま帰ったらケージィは俺のお世話やパトロンケイプの無茶振りに付き合わなきゃいけないんだぞ」


「それがケージィの仕事でございます」


 またも恭しい態度でのたまいやがる。思い出せ。本来のお前はそんなことする奴じゃないだろ。


「無理してるんじゃないのか? パトロンケージはただただのんびりするのが大好きな種族だって俺は知ってるぞ」


 ふふふ、虐げられていただけのだるい王族としての暮らも案外役に立つな。微細な顔の動きだけで、感情が手に取るようにわかる。心揺れすぎだぞケージィ。


「そうだ、俺のところ(ダンジョン)に来いよ。それでのんっびり暮らせばいい。衣食住の保証と三食昼寝におやつと極上マッサージもつける。何か義務を課すこともしない。コルキスがいるから頼めば新しい絵もたくさん描いてくれるはずだ。仲間にはバトルシンガーが3人いるし、なんなら魔法王国の宮廷魔楽士を呼び寄せてもいい。なにより、最高の容姿を持った俺をいつでも檻に入れて楽しめる」


 一気に畳み掛けてやった。パトロンケージは本来、非常に怠惰な性格をしている。労働なんてクソだと思っている種族なのだから絶対今の環境に不満があるはずだ。いや、不満しかないに違いない。


「のんびりにおやつ……芸術に囲まれて坊っちゃまをケージィの中で観賞……」


 まあ、実際俺がやるのは住を提供するだけで衣食とマッサージはルトルに任せるし、観賞はアドイードにやってもらうつもりだ。嘘は言ってない。アドイードも俺なんだから。エリン一家も頼めば協力してくれるだろうし、宮廷魔楽士だってコルキス経由で手配できる。


 それに楽士系含む芸術職の冒険者は機動力の問題で実力があってもけっこう冷遇されてるから、そういう人たちを雇ってもいい。俺とアドイードが食べる魔力も賄えるし一石(ワンスラッシ)二鳥(ュツースライム)だ。


 あと今後ダンジョンとして生きることを考えても、ケージィという激烈にヤバいランクの魔物が住んでくれるのは嬉しい。


「なんならルトルと一緒に檻に入ってもいいぞ」


 ぐいっと引き寄せたルトルと並んでやった。悔しいけどルトルも見た目はずば抜けている。ケージィのお眼鏡にもかなうことだろう。駄目押しの一手だ。


「はうっ……坊っちゃまは本当にいけないことを覚えましたね。わかりました。このケージィ、身命を賭す覚悟で坊っちゃまの元に参りましょう。ですが……」


「ああ大丈夫大丈夫」


 ケージィがパトロンケイプの魔力で縛られていることは、軟禁された時に見て知っている。そんなもの俺のミステリーエッグにかかれば一瞬で卵もとい解除だ。


「まさかっ、なんな簡単に!? 坊っちゃまのそのお力は……」


 う~む。詳細を伝えるべきか否か。悩ましいな。


「これは――」


「ああそれにしても身も心もなんて軽いこと。これが自由、夢にまでみた労働から解き放たれた自由なのね。ひゃっほ~い」


 て、聞いちゃいないな。どうせ俺の世話係に任命されるまでたいした仕事もしてなかったんだろうに、よくもまあそこまで。


「ねぇ兄様」


 小躍りするケージィに呆れる俺の服をコルキスが引いてきた。見て、と差し出されたのは世界の招待状(ワールドチケット)


「これね、1枚使用済みなんだけど、ヒストリアで細かく確認したらあのパトロンケージが使ってたみたいで、対象が兄様……」


 っ!!? くそっ、やられた!!


 きっと初めからケージィはこれが狙いだったのだ。よく考えるまでもなく、ケージィを招き入れるデメリットの方が遥かに大きいのに、まったく思い浮かばなかった。そもそも、ケージィの檻を偽卵にしてしまえば……待て、そうなるといったいいつの時点でチケットを使ったんだ。ぐぬぬぬ、怠惰な性格、いやだからこそ知恵が回るのか。侮れぬケージィ。舐めていたよ、SSランクの魔物ってやつを……。


 終始自分のペースだと思っていたのに、圧倒的なしてやられた感に肩を落とす。そんな俺に嬉々として朝食のリクエストをしてくるケージィであった。


【名前】ケージィ

【種族】メイド型パトロンケージ

【性別】女

【職業】ニート

【年齢】??歳


【ランク】SS

【体 力】60006

【攻撃力】60006

〖耐 性〗6000006

【素早さ】60006

【精神力】60

【魔 力】600006

【魔 核】86


【スキル】

耐性上昇・耐性付加・耐性破壊無効・特攻吸収・鬼我慢・無駄遣い・一掴み・大あくび・閉じ込め・後回し・超級迷宮メイド力・ながらカウンター


【固有スキル】

怠惰・芸術愛++・一瞬賢明・監獄陣・封印・最愛の檻・魂の鳥籠・労働の牢獄・苦渋の勤勉・眺める・やる気喰い・ランクアップアート・レッスン・メタルスナック・メタルドリンク・チェンジレジスタント・スローススピリッツ


【先天属性】金属

【適正魔法】金属魔法


~~~~~~~~~~


【ダークジャベリン】

上級闇魔法の1種。

闇の力で投擲用の槍を作り出す。投擲以外ではダメージを与えられないが、投擲距離に比例してダメージが大幅に加算されていく。使用者が手で投擲した場合、到達点でジャベリンの数を千本に増加させることも可能であり、さらに魔力を追加すれば、到達点を中心に使用者のレベルメートル範囲内を盲目、狂化、自爆の3種の状態異常付与エリアに指定できる。


世界の招待状(ワールドチケット)

幻のレアアイテム。

使用すれば選択した1つの場所または存在におもてなししてもらえる、招待状を模したチケットである。5段階のランクに別れており、おもてなしの内容もそれに合わせてグレードアップする。但し、神に対しての使用は避けるのが望ましい。


〖耐 性〗

防御力のステータスが進化したもの。

防御力が何らかの作用により進化した隠しステータスである。通常の防御力と異なり、あらゆる攻撃に抜群の耐性を発揮する。理論的には耐性の値が0になると、最大耐性値が防御力として作用するのだが、そのような事態はまず起こらないだろう。


【魔 核】

ダンジョンに居る魔物だけが持つ核。

ステータスとしての魔核はその魔物の強さ、成熟度を示している。最高値の100になると進化の準備段階に入る。進化後、数値は1に戻るものの、魔核としての質は大幅に上昇している。また、魔核はダンジョン生まれの魔物の命の源で、ダンジョンコアやダンジョンマスターの周囲に自然発生するものである。

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