189話 コルキス君おこ
後書き修正
スッキリした気持ちで目が覚めた。どうやら昨夜はルトルの魔力を食べながら寝落ちしたようだ。毛足の長いふかふかしたベッドと適度な湿気がいっそう目覚めを快適にしている。
「妙に薄暗いけど夜明けなのかな」
やたら軽い体を起こそうとした瞬間、黒い影が視界を横切った。そして――
「もーーーーーーー!!!」
けたたましい叫び声が寝室に響くとすぐに、どすっと何かが乗っかって激しく揺さぶってきた。
「ぼくが大変な目に遭ってたっていうのに、兄様はルトルと不潔なことして! 信じられないよ!」
揺さぶりが激しすぎて世界がぐわんぐわんしている。
「うう~ん、やかましいぞコルキス」
目を覚ましたルトルが隣で体を起こ――っ!?
おいルトル! 貴様何故服を着ていない!? はっ、俺もじゃないか。どういうことだ。すぐにでも問い詰めたい。でもコルキスのせいで身動きがとれない。
「やかましいのはルトルだよ! だいたいこの寝室はぼくだって使うのに、兄様と変なことするのに使わないでよね! あと兄様も! 見てよ部屋がめちゃくちゃだよ!!」
見てよと言われて気が付いた。寝室が植物で溢れかえっているじゃないか。そしてそれらはすべてを俺に繋がっている。凄まじい既視感。
「これ……寝癖か!」
前にアドイードと一緒に寝た時も起きたらこんな状態だった。
確かあの時はアドイードがもぞもぞ動いて――お、できたぞ。植物がずぞぞぞっと俺に吸い込まれていく。同時に覆われていた闇の灯火というやや矛盾を感じる間接照明が顔を出し、暗いのによく見える明るさが戻ってきた。
一人で感動してる俺をポイ捨てし、ぷりぷりしたまま寝室から出たコルキスが誰かを呼んでいる。
「ランペル! あとはどばーっとやっちゃって!」
「お、おう……」
声からしてランペルも動揺していたんだろう。水魔法の加減を間違えたようで、尋常じゃない水量で寝室を満たし、右回り左回りと水流の向きを変えて、部屋ごと丸洗いしやがった。
さすがに我慢できずランペルの出した水をミステリーエッグで卵にした。家具や人形に染み込んだ水、体に残った水滴もばっちり卵にできたのは意外な発見で、さらに全部で1個の卵になるのかと思いきや、家具に染み込んだ分などは其々が1個となった。まあ、今はそんなことどうでもいいけど。
「ゲホゲホッ! し、死ぬ!」
『アドイードがいりゅかりゃ平気……ゃむにゃむにゃ』
こんな目に合っているというのにアドイードはまだ寝ている。流石だ。
「アルフちょっと待て」
コルキスを追って寝室を出ようとしたら真っ赤な顔をしたルトルに引き止められた。伸ばされた指からは魔力が滴っている。
朝食……か?
「アルガのお陰でこんなこともできるようになったんだ」
アルガってパトロンケイプの楽器コーナーで買ったあれか。指から目が離せないまま思い出しているとルトルは嬉しそうに指を動かしてみせ、液状の魔力で俺と自分の体を覆い尽くした。
全身からとても美味しそうな香りが立ち上る。
「こら、食べるな。これは服にするんだから」
ああ、そういえば俺たち全裸だったんだっけ。魔力を食べてると他のことはどうでもよくなるんだよなぁ。
「あとはこうして固定して……よし。俺の魔力で作った服だ。聖光属性なんだぞ」
仄かに光を帯びた白いローブ。各所にうっすらとルーンの飾り文字があるのも俺好みのだ。ただ残念なことに美味しそうな香りはもうしない。
「あ、ありがと」
「良い買い物だったろ?」
得意げに笑ったルトルは俺の頭を撫でて寝室から出ていった。次はもっと気持ちいいことしてやるからなと耳元に残して。俺はローブで顔を隠して追いかけて、澄ました顔の淫獣を殴ってやった。
とまあそんなひと悶着があったあと、全員をリビングに呼んで昨日の探索結果を報告し合ったわけだが、俺とルトル以外はへとへとにくたびれている。
ランペルとノシャはうつらうつらしていて、今にも手に持ったミルクティーを溢しそうだし、コラスホルトにいたっては既に夢の中だ。ついでに言えば大精霊組は三人でかたまってヒソヒソ、ヒソヒソ。俺の悪口か?
「ほぐふぉんふぉにはいへんはっはんははあね」
「それはわかったから、喋るか吸うかどっちかにしろ」
ただコルキスは相変わらずぶすっとした様子で俺の背中に張り付き吸血している。いつもより痛いけどコルキスの文句を最後まで聞いた今、気が済むまで吸わせようと思っている。
つい余計なことを言ってしまったせいで、コルキスは俺の言葉に抗議するように、首筋の新たな場所に強めに牙を立てた。すごく痛い。けど我慢だ。だってコルキスはその言葉通り本当に大変だったらしいんだから。
なんでも、何故か突然魔力が枯渇気味になったコルキスたちは、目眩に耐えながら移動していたところを変異種の人型パトロンケージに襲われたというのだ。
坊っちゃまはどこだと繰り返すパトロンケージは恐ろしい強さとしつこさで、ランペルとコラスホルトを吸血しても連れて逃げ続けるので精一杯。途中、闇のアートエリアで遊んでいたモーブに出会い助けを乞うてみたけど、これも修行だよ、とギリギリまでなにもしてくれなかったから、一晩中パトロンケイプ脱出に必死だった……すまん。
俺はその間、呑気に日向ぼっこをしたりルトルの魔力を貪っていたこともあり、パトロンケイプに監禁されていたということだけを話した。
これ以上コルキスのご機嫌を損ねるのはよくないからな。なにも、わざわざ魔力枯渇の原因が俺だと暴露してもっと強く齧られる必要はないだろう。コルキス同様、機嫌の悪そうなディオスも怖いし。
「変異種の人型パトロンケージって絶対的ケージィだよなぁ。でもなんでコルキスが俺の関係者だってわかったんだろ」
『どうせアルフがコルキス旨いとか連呼して魔力を食べまくってたんじゃないの?』
俺とルトルにだけ聞こえるように返したのはロポリスの優しさだと思う。が、油断は禁物だ。肯定的な態度をとればそれをネタにゆすられる。きっとそうだ。
「一緒にパトロンケイプへ入ったからかな?」
「それは違うと思う。ウチたちはなにもなかったから。ただ、帰りに出口でこんなビラを渡されただけで……」
眠そうな口調でやや遠慮気味に否定したノシャが、俺の絵と懸賞金の書かれたビラを見せてくれる。
う~ん、あいつらには俺がこんな風に見えていたのかな。ビラに描かれた俺は、おくるみに包まれておしゃぶりを咥えて半べそをかいている。しかも異様に幼い。ま、まあこれなら渡された人も俺だとはわかるまい。良しとしよう。
「それにしたってパトロンケイプがアルフにそこまで執着しているなんて。もし捕まったらまた監禁されるだけじゃない、何をされるかわかったもんじゃないな」
許せんとルトルが腕を組んだ。
『え? いやぁ君には負けるんじゃないかな。だって、ねぇナール?』
『そうねぇ。欲望を満たすためにわざわざスキルまで修得して、おまけに魔力でアルフを虜にするやいなや強引に押し倒して、素肌を擦り合わせて気持ち良いことするのがアルフの為だなんて思ってる人に言われてもねぇ』
おいナール、言い方。マッサージはだいたいそんなもんだろ。特にルトルの施術は手の平や腕を使うんだ。
美味しすぎる魔力に夢中でよく覚えてないけど、俺に限ってふしだらなことを許すはずがないし、不潔不潔とうるさいコルキスにヒストリアで確認してもらって潔白を証明したんだし。
『ルトルを淫獣みたく言うのはやめて。むしろ非難されるべきはアルフじゃない。分身したルトルの手腕に蕩けて、腰もふくらはぎも太ももも、挙げ句の果てには足の付け根も念入りにって、指をしゃぶられながらおねだりされれば理性くらい揺らぐわよ』
『ま、それもそうだね』
『やっぱりアルフがイケナイ子ね』
やめろーーーーーーー!!!
「兄様動かないで。吸血しにくい」
俺の回りに飛んできてニタニタし始めた大精霊組を叩き落としてやろうと立ち上がったのと、コルキスの文句、そしてドアを叩く音が聞こえたのはほぼ同時だった。
「こんな早くに誰だ?」
「知らん! それより逃げるな大精霊たち!」
俺に聞かれたってわからない。こんな朝早くに訪ねてくる非常識さんは無視でいい。ニタニタして寝室へ逃げていった大精霊たちに文句を言う方が大事だ。
「なんかウチ怖くなってきた」
「出た方がいいんじゃないか?」
徐々に大きくなるドアを叩く音にノシャとランペルが言う。もうばっちり目覚めたらしい。どでかいノックの音がリビングに響く。いや、これはもうノックとはいえない衝撃音だ。
「仕方ないな。ルトル出てくれ」
「わかった」
さっと立ち上がったルトルだったが、同時に衝撃音と共にドアはぶち破られ、朝日を背負った巨乳メイドが姿を見せる。
「お迎えに参りました坊っちゃま。ケージィでございます」
優雅なカーテシーの最中、ルトルの強烈な攻撃を食らいケージィは吹っ飛ばされた。
「コルキス!」
ルトルの一声で何かを察知したコルキスが俺たち全員を霧にして、家から飛び出した。
が、時既に遅し。我が家はケージィの檻に囚われていた。
~入手情報~
【名 前】アルファド・ユウタ・ロシティヌア
【種 族】幼迷宮/復活の森
【職 業】大神官/冒険者/商人
【序 列(new)】未定
【性 別】男
【年 齢】-
【レベル】1
【体 力】日替り
【攻撃力】日替り
【防御力】日替り
【素早さ】日替り
【精神力】日替り
〖大魔力(Rank↑)〗日替り+50000
【通常スキル】
大神官(new)/お祈り/ホーライアンモス
【固有スキル】
孵化/托卵/偽卵/復活の森/お留守番/ーリリクッラブ/グッエーリテスミ/クロゴスノロク
【迷宮スキル】
復元++/浸食(new)/不滅/魔物想像(Rank↓)/魔物撫で(Rank↓)/撒き餌生成(Rank↓)/魔力閃光(Rank↓)/凝視(Rank↓)/魔力喰い/精神喰い(new)/狼しっぽ(new)/日向ぼっこ(new)/月影ぼっこ(new)/迷宮いじり(Rank↓)/ハートゲート)Mブースト(Rank↓)/アドイード
【先天属性】
時空/植物/月
【適正魔法】
無し
〖変異固定(new)〗
対なる眼球(new)
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【名 前】アドイード
【種 族】幼迷宮/復活の森
【職 業】復活の森/大神官
【序 列(new)】未定
【性 別】男
【年 齢】-
【レベル】1
【体 力】日替り
【攻撃力】日替り
【防御力】日替り
【素早さ】日替り
【精神力】日替り
〖大魔力(Rank↑)〗日替り
【通常スキル】
歌う/踊り/交信/浮遊(Rank↓)/感知/状態異常抵抗大/無限攻撃/時縛り/魔法威力激増
【固有スキル】
復活の森/光合成/植物愛/無邪気/微臭気/殲滅/同族超越/同化/大神官(new)すり抜け(Rank↓)/うっかり/魔眼の種/お留守番/自然界魔素吸収/吸収魔素ステータス化/フォレストアアル/オシリスプラント/トゥールスチャムーン/クレプシドラ
【迷宮スキル】
侵食(new)/日々成長(Rank↓)/魔物想像(Rank↓)/魔物撫で(Rank↓)/撒き餌生成(Rank↓)/蝶々畑(new)/凝視(Rank↓)/魔力喰い/体力喰い/不滅/被ダメージ1固定(Rank↓)/迷宮いじり(Rank↓)/キラキラ星(Rank↓)/アルファド
【先天属性】
植物/時空/月
【適正魔法】
先天属性の魔法すべて
〖変異固定(new)〗
対なる香気(new)
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【名 前】ルトル・アトゥール
【種 族】アルイードタイタン
【職 業】アルフの婚約者/大人のマッサージ師/幼迷宮の番人
【性 別】男
【年 齢】18歳
【レベル】50 → 1
【体 力】149→591
【攻撃力】55 →224
【防御力】37 →702
【素早さ】44 →330
【精神力】99 →999
〖大魔力(Rank↑)〗85→日替り
【通常スキル】
加法分身(new)/威嚇(new)/料理/洗濯/掃除/秘戯++(Rank↑)/荷運び/サポート
【固有スキル】
頑丈/大人の掟/憎しみの掟/愛の掟(new)/呪いの掟(new)/妹思い/加減強制連結(Rank↑)/圧縮リビドー(new)/アルガ(new)/プレシャスフィアンセ
【先天属性】
聖光/土/植物(new)/月(new)/死(New)
【適正魔法】
聖光魔法/土魔法
〖変異固定(Rank↑)〗
下級精霊(Rank↑) /対なる肉欲(new)
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〖大魔力〗
魔力のステータスが進化したもの。
魔力が何らかの作用により進化した隠しステータスである。通常の魔力が1/100万に圧縮されており、魔力を消費して発動させるすべての効果が上昇する。何らかの作用とは、最大魔力値が大精霊を超える、種族と職業の組み合わせ等々、様々な噂があるが真相は不明。
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〖変異固定〗
異常固定のステータスが変異したもの。
極度のマイナス効果が付与され、かつ解除も不可能に近い異常固定が何らかの作用により変異した隠しステータスである。
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【名称】闇の灯火
【分類】ランプ
【属性】闇
【希少】☆☆☆☆
【価格】-
【効果】
闇の魔力で動くランプ型の魔道具。
アルフの卵から出てきたもので、闇を灯すと暗いのに何故かよく見えるという不思議な状態になる。1部屋であればどんな広さにも対応可。使用中は影属性と闇属性の生き物が微強化される。