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187話 初めてを欲しがった巨人

本文ミス修正。

 アドイードに転移魔法を使ってもらい、夕間暮れ島へやって来た。


「いつ来ても良い景色だなぁ。そう思うだろアドイード」


『そう思うよ~♪アドイードまた役に立ったよ~♪』


 話が噛み合ってない。けどアドイードは嬉しさが止まらないらしく歌いながら踊り始めた。優雅さの欠片もないが、ちゃかぽこといったリズム感はとても微笑ましい。


「よし、日向ぼっこだ」


 この浮遊島はいつも強い風が吹いている。けれどそれがとても心地い。すぐにでも寝転がたいのを我慢して、赤く柔らかな草に囲まれた石に座った。


 アドイードの歌に合わせて体を揺らせば、安らぎが満ち溢れる。相変わらずおやつを食べてる感覚が続いているのはちょっと不思議だけどちょうど良い。


「本当……綺麗だ」


 空は眩い橙色に黄金色が混じり始めている。じき、黒を湛えた茜色に染まり竜胆の色を経て夜の闇へと変じるだろう。


「そういえばこないだはごめんな。俺が悪かったのに――」


『ほぁ? どうしたの?』


 突然謝った俺に歌と踊り止めてアドイードが不思議そうにする。


「えっと、なんだろ。よくわかんないけど、この前ここに来た時は誰かが一緒で喧嘩したような気がして……」


『う~ん、アドイードにもわかりゃないよ』


 何かを思い出そうとしたアドイードだけど、秒で諦めてまた踊りだした。とても可愛い。


 俺もアドイードに合わせてまた体が揺れる。すると少しばかり沸き上がった胸の疼きと靄は、奇妙な懐かしさだけを残し黄昏に駆ける風に拐われていった。


『「ぎゅぐっ!?」』


 しばし夕日を浴びていると胸に尋常ならざる痛みが走った。まるで内側から引き裂かれるような――あががあがががが!?


『痛いよう。痛いよう』


 アドイードが蹲って泣き始めた。俺も涙が止まらない。


「ぐっ……ぐあぁぁぁぁぁ!!」


 本当の本当に胸が木っ端微塵になったかのような痛みと衝撃で息ができない。石から転げ落ち草原をのたうち回る。


 裂ける、裂けるぅうっ!!


『ああもう信じらんない! やっっっと出られた! この馬鹿アルフ!!』


 体が引き裂かれるような痛みとともに胸から出てきたロポリスが蹴りを入れてきた。見れば小龍の腕輪を足に嵌めている。なのにそれの痛みは胸が痛すぎて感じない。おまけに草原が赤いせいで血飛沫に染まったようにも見える。


『ったく、ご近所さんを引きずり込むなんてなに考えてるのよ。まさか食べるつもりだったんじゃないでしょうね?』


 痛みと質問の意味がわからず答えられないでいたらロポリスが睨みを効かせてきた。


「アドイードが起きたんでしょ? どうなってるのよ? いくらなんでも早すぎるじゃない」


 言いながら人形から上半身を出してぐぐっと顔を近付けてくる。


「まさか私たちに嘘ついたんじゃないでしょうね」


 怒りを含んだ目で真っ直ぐ見られても、嘘はついてないので何とも言えない。それにロポリスにそんな顔で見られると、違う意味で胸が痛くなる。


「はあ……。悪かったわよ。そんな顔しないでよもう」


 ロポリスは盛大に溜め息をついて人形に入った。


『今のアルフに聞いたところで意味ないわよね。ほんっと面倒臭いわ~』


「……ごめん」


『いいのよ。アルフの魔眼を完璧に扱えなかった私たちのせいかもしれないんだから。ったく、ドゥーマトラが協力してたらこんな想定外だらけじゃなかったのに。もう1回ボコボコにしてやろうかしら』


 えらい物騒なこと言うな。大精霊がボコボコってそれもう大陸が沈むレベルの出来事じゃないか。


『なんてね。冗談よ。あ~ぁ、楽しかった散歩ももう終りか~』


 え? それって――ぐっ!?


「ぎゃああああああ!!」


 自分の断末魔はこんな感じかと悟るような叫びが漏れた。それもそのはず、もう1回胸が木っ端微塵になったのかと思う痛みが襲ってきたんだから。しかもさっきより格段に痛い。


『大袈裟ねぇ……ふふっ、でもよく見ておかなくちゃ』


 救いを求めた相手が間違いだった。助けて、と伸ばした腕をロポリスは邪魔だと弾き、苦しむ俺を見て可笑しそうにしている。


 そうしているうちに、再び俺の胸を精神的に引き裂いて奴が出てきた。ルトルだ。


「大丈夫かアルフ!?」


 貴様どの口が言ってやがる。お前のせいだろ。もがき苦しむ俺をルトルが優しく抱き抱えてくれるも、体が勝手にそれを拒否した。


『アリュフ様に触りゃないで』


 それはアドイードの仕業だった。でもルトルにアドイードの言葉は聞こえていない。ルトルは酷くショックを受けた顔になった。


『うにゅ……うにゅぅぅぅぅ』


 そしたら今度はアドイードに罪悪感がわき上がり、感情の狭間でもがき始めた。俺たち思考だけじゃなくて色々共有してるっぽいな。


『なあアドイード。ルトルのやつ、どの口がほざいてんだとは思うけど、今はしんどいからルトルに頼ろう』


『むむむ……アドイードがなんとかすりゅもん』


 結局、アドイードは自分の魔法で痛みを消した。アドイードだって同じ苦しみを味わっていたのに、俺のこととなると無茶するんだから。


『あんまり無茶するなよ。またアドイードがいなくなったらきっと立ち直れない』


『へ? あ、ほわぁ……わかったよ。アリュフ様ごめんなさい』


 アドイードは嬉しそうな顔でペコリと謝った。


「怒ってるのか?」


 その質問がより怒りを増幅させると分からないんだろうか。あんな痛みを与えておいてよくもまあそんなこと。そう思うのに、捨てられた子ケルベロスみたいな瞳を向けてくるルトルを見ると、どうにも強く出られない。


『はいはい。ややこしい三角関係の痴話喧嘩はその辺にしなさい。早く帰ってご近所さんを解放しなきゃ。このままじゃ全滅必至よ』


 ロポリスがアドイードに転移魔法を使うよう指示して、俺たちは自宅に戻ってきた。


 そういえば島はもう少しで橋がかかりそうな雰囲気だったのに見逃したな。きっと激しくのたうち回る俺のせいで、最も美しい景色が成立しなかったんだろう。残念でならない。その原因の一人であるルトルを見ると真っ赤な顔になった。


「アルフ。お、俺……ちょっと心の準備をしてくる!」


 なんだあいつ。元々おかしな奴だったけど、もっとおかしくなったのか、突然訳の分からないことを言って家に駆け込むなんて。


『ほら、余計なこと考えてないでご近所さんを出す出す。早くしないとまた同じ痛みを味わうことになるわよ。ご近所さんの人数分ね』


 最後の一言が決め手だった。俺はやり方が分からなかったけどアドイードが真っ青になって、「入り口かりゃポイ、入り口かりゃポイ」とご近所さんたちを放り出していく。


 その度に地面から蔓草の輪が現れ、そこから次々と意識を失ったご近所さんが出てくる………そうか、俺たちの中(ダンジョン)にいたのか。


『未完成とはいえ、つまんないダンジョンだったわよ。アルフの中』


 ん? なんか知らんがイラッとする。


『それに、私たちまだ初攻略の御褒美もらってないんだけど』


 む? なんか知らんが嫌な予感がする。


『ま、それは後でいいわ。先ずはアルフがお漏らしした魔力を回収よ。幸い魔石化してるから偽卵にするなりなんなりしなさい。あ、もちろん魔石に閉じ込められた人や物はちゃんと助けるのよ』


 とりあえず俺はロポリスに言われたとおりにしてから家に入った。


 え? ご近所さん? ご近所さんたちは放置だよ。だって、起こしたら怒られるじゃないか。


 慌てて寝室から降りてきたルトルに聞かれそう答えたことを、このあと激しく後悔した。

【ややこしい三角関係】

アルフ、アドイード、ルトルの関係。

元々は「ルトル→←アルフ←アドイード」という関係であったが、現在はアルフとアドイードが1つになったこととアルフからルトルの記憶が抜け落ちているでせいでバランスは崩壊、しっちゃかめっちゃかになっている。

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