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183話 アルフはおっぱいが苦手

後書き修正。

 さて困った。


 なんだか知らないけどあっという間にさっきの檻に閉じこめられてしまった。


「だれかぁ~! たぁ~すけてくれぇ~!」


 檻を掴み全力で叫んでみるも、声は景色に溶けていくだけ。


「はぁ……せっかく良い合流方法を思い付いたのに」


 檻の中は思ったより広い。外側から見たときは小さく見えたのに不思議だ。これだけ広さがあれば卵で内側から壊すのもありかもしれない。でも、閉じこめられたときに驚いてミステリーエッグを解除しちゃったんだよなぁ。


「攻撃力は劣るけど偽卵で試してみよう」


 腰の革袋から砂粒大の偽卵を一掴み分取り出す。手を顔の高さまで上げゆっくり開く。同時に偽卵を操作して渦巻き銀河のような形にする。


 演出だ。なんか雰囲気あるし強そうな攻撃が始まりそうだろ?


 ま、実際はこの形を活かしてヤスリのように檻を1本1本削っていくつもりなんだけど。


「これ、止めんか」


 高速回転させた偽卵の集合体を檻に当てようとしたとき、背後から制止がかった。振り向くと老人のような中年、中年のような子供、なんとも判別しづらい女が立っていた。身なりからして相当な金持ちだろう。


「まったく、可哀想に。おお、おお、怖かったのぉ。あんな物騒な攻撃を内側から仕掛けられそうになって」


 檻を撫でる女とガチャガチャ音を出して甘える檻。そうか、この女が仕掛けた罠だったんだな。きっと優秀なテイマーかなんかだろう。ソロでこんな深部まで潜れるということはそういうことだ。パトロンケイプにしかいない珍しい魔物を捕まえようとしていたに違いない。


「あの~、とりあえず出してくれませんか? 俺、仲間に置き去りにされて困ってたんです」


 ひとまず助かった。一人でもなんとかなっただろうけど、強い冒険者が一緒なら安心だ。頼りにならないルトルなんかよりよっぽど心強い。偽卵も仕舞おう。


 しかし、安心したのも束の間。女の答えに俺はショックをうける。


「却下じゃ」


「なんで!?」


「そりゃお主の正体を確かめるためじゃ」


 再び檻を掴んだ俺を覗き込む女。言葉どおりじっくり見定めるようにしている。


「ふむ、ふむふむ。まさかとは思ったが我の中にダンジョンが発生する(わく)とはのぉ。こんなこと初めてじゃわい」


 女は目を丸くしていて檻に手を突っ込んできた。攻撃されるのかと思ってビクッとしたけど、その手は優しく俺の頭に置かれた。


「息子ができるとはなんとも不思議なことじゃ」


 はぁ? 息子? 


 何言ってんだこいつと思っていると景色がぐにゃぐにゃになって、なにやら王宮の私室のような場所になった。


「さあ我が息子よ。今日からここで過ごすと良い」


 女はそう言って部屋から出ていった。と思ったらすぐに大量の荷物を抱えて戻ってきた。本当に大量だ。正直どうやって運んでいるのかわからない。きっと魔法か何かだろう。


「おもちゃはこっちに、着替えはこっち、おやつはここだ。トイレはここじゃぞ」


 どう見ても幼児用のおもちゃに子供専用の白タイツ系かぼちゃパンツ。おやつは大量の魔石でトイレはドラゴンのおまるだ。それらはあっという間に部屋の四隅に山積みにされた。


 おまるは使い捨てなのかな。凄い量なんだけど。いや、そうじゃない。状況がさっぱりわからないことが問題なんだ。


「おお、そうじゃ。名前を決めねばいかんのぉ。しかし子供なんぞ初めてじゃし……よし、他の奴らに聞いてみようかの」


 女は自己完結して檻を開けた。そして俺を出すとなにやら呟いて檻に手をかざす。檻はみるみる形を変えて胸の大きな修道女になった。


「うむうむ。ではあとは頼んだぞケージィ。お主は良い子にしておるんじゃぞ」


 恭しく頭を下げたケージィの肩を叩き、それから俺にウィンクをすると鼻歌を歌って女は出ていった。


「なんだったんだ。それにここは……」


 とりあえず、現在地確認だな。俺は女が出ていった扉に駆け寄ってゆっくり開く。外は壁に絵画がかけてある長い廊下が続いている。なんの気配も感じられないことを確認して外に出る。


「あれ?」


 外に出たはずなのに一瞬でさっきの部屋に戻っていた。何度やっても同じだった。檻と違うけど閉じこめられてるってのは一緒だな。


『う~ん、なんか美味しそうな匂いがすりゅ……むにゃむにゃ』


 頭の中でアドイードが寝言を言っている。その途端、物凄くお腹が減っていることに気付いた。


「坊ちゃま。おやつの魔石を召し上がりますか?」


 そんな様子に気付いたのだろう。ケージィがいくつか魔石を差し出してきた。つか坊ちゃまて。そんな歳じゃないんだけどなぁ。


 それに魔石がおやつってどういうことだよ。普通はケーキとかクッキーとか……あれ? 


「なんかその濃い青緑色の魔石、凄く美味しそうだ」


「水と植物の魔石ですね。こちらは深海青桐の放つ魔力が結晶化したものです。バイカラーではなく青と緑が均一に混ざりあった上質なものです」


 ケージィが魔石を綺麗に拭いて皿に盛り付ける。こちらもお口にあうと思います、と黒緑色の魔石も盛り付けてくれた。


 見れば見るほど信じられないくらい美味しそうだ。恐る恐る青緑色の魔石を齧ってみると、ほろ苦い甘さと豊潤な海の香りが口一杯広がる。


『なにこりぇ美味しい!!』


 頭の中でアドイードの声が響き渡る。起きたのかと思ったが、これも寝言らしかった。アドイードはなんか凄いな。でももっと食べたいと思ったのは俺も同じだ。皿の魔石を口に放り込んで飲み込む。


 そして山積みになった魔石を食いまくる。全部平らげるのにそう時間はかからなかった。


「ふぅ~。満足だぁ~」


 本当の意味で食欲が満たされた。そんな不思議な錯覚に陥る。


「まぁまぁ、坊ちゃまはよほどお腹が減っていらしたのですね」


 ケージィが微笑んでいる。そしてそのまま近付いて床に寝転がった俺を抱き起こすと服に手をかけた。


「どうぞ、ケージィの魔力も召し上がってください」


 俺は焦った。ぼろんと差し出された巨乳を吸えとケージィは言うんだ。さすがに無理がある。俺が嫌そうな顔をしたのを見て首を傾げたケージィは、思いついたように乳首を桃色の魔石に変えた。


「失礼いたしました。これでしたら飲みやすいでしょうか?」


 いよいよ無理だ。そもそも俺は大きなおっぱいって苦手なんだよ。でも魔石は美味しそうで、なんだか良い香りも漂ってくる。


 あああ、まさかこの歳で授乳だなんて――


「名前が決まったぞ息子よ! お前の名はプロモントリーじゃ!」


 あとちょっとでケージィの魔石を口に含みそうなところで扉が音を立てて開かれた。入ってきたのはもちろんさっきの女だ。


「ん? 何をしておる?」


「い、いや。なんでもないです!」


 ケージィを突き飛ばして立ち上がった俺をジロジロ見てくる。正直いたたまれないが感謝の気持ちもある。あのままだったら間違いなく魔石をチューチュー吸っていたに違いない。


「ふむ、まあよい。ところでプロモントリー、お主は|発生してからどれくらい経っておるのかの? 見たところ数日……しかし、今日までまったく気配がなかったんじゃが」


「え、いやぁ、数日ってことはないと思いますよ。少なくとも15~16年以上は……ていうかあなた誰なんですか? 敵意は感じないけどなんか変な感じがします。あ、それと俺はアルフです」


 いや、なに普通に話してんだろ。でも嫌な感じとか危険な感じはしないんだよなぁ。


「ほう!? 既に名前持ち(ネームド)であったか。それに15~16年か。ということは我に気付かれることなく侵食しておったのじゃな。我が息子ながら恐ろしい才能じゃ」


 全然話が見えないが、悲しいかなこういうのは慣れている。だから対策もバッチリだ。


「すみませんが、誤解があると思います。まず俺はあなたの息子じゃないし、侵食? とやらもしてません。パトロンケイプを探索していたただの冒険者です」


「ほぅ、ダンジョン内に生まれてから放置するとそのような勘違いをするのか。確かに見た目は人間よりじゃから自分を冒険者と思う方が……いや、しかし……」


 なんかぶつぶつ言い始めたぞ。


「よし、まあそれでもかまわぬ。プロモントリーは我の息子で間違いないのじゃから。我のことはママと呼ぶのじゃ」


「え、嫌です。あと俺は仲間と合流したいのでさっきの転移魔法ですか? あれで送ってくれませんか?」


「おお、そこまで自分を冒険者と思い込んでしもうとるのか。うう、我がもっと早く気付いておれば。すまんかったのう。しかし大丈夫じゃ。我がダンジョンとしてしっかり育ててやる。このパトロンケイプの息子として、一人前のダンジョンにの」


 女はそう言って俺を抱き締めた。


【ケージィ】

パトロンケージの修道女形態。

Sランクの魔物パトロンケージが創造主であるパトロンケイプの願いを叶えるべく変形させらた姿である。育児に積極的な気持ちと、パトロンケイプの偏った子育ての知識をもっている。大きな胸には魔力が一杯詰まっている。


【白タイツ系かぼちゃパンツ】

幼い男子王公貴族の衣装。

正直、羞恥心を失くすための矯正器具にしか見えない恥ずかしい服である(アルフ談)。大人になっても愛用する者も少なくない。


【ドラゴンのおまる】

ドラゴン型の小児用トイレ。

排泄物を炎に変換し口から吐き出すパトロンケイプお手製のおまる。飛行機能も備わっている。


【植物の魔石】

植物の魔力が結晶化したもの。

魔道具や装備品に用いられる事が多い。先天属性が植物だった場合、この魔石を吸収し魔力の回復や一定時間植物魔法の威力を上昇させることができる。


【桃色の魔石】

ケージィの魔力が乳首型に結晶化したもの。

極上の桃の香りがするらしい。魔力を食糧とするものはその美味しそうな香りに抗うことができない。


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