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180話 パトロンケイプでぼっち探索

後書きミス修正。

 困ったことになった。


 今日はルトルの強引なお誘いでパトロンケイプへやって来たんだけど、すでにパーティーは崩壊している。


 まず、言い出しっぺのルトル。


 あのやろう、今日も楽しい1日を一緒に過ごそうな、とか言っておきながら、ちょっと目を離した隙にどこかへ行きやがった。


 何となくの居場所は分かるけど、そこまでの行き方がさっぱり分からない。まぁ、ロポリスも一緒だし死にはしないだろう。


 そしてコルキス。


 お絵かきセットの元を取らなくちゃね。と、可愛らしいヤル気を見せていた通り、入場券を渡した途端、ランペルとコラスホルトの手を取って一目散に飛んで行った。


 ディオスが主の気ままな行動に驚いて一瞬置いていかれそうになっていたのは少し面白かった。


 でも、お兄ちゃんはちょっと寂しいぞ。


 さらにエリンとノシャ。


 いつのまにか腐属性の師弟関係になっていた二人は、たまたま出会った凄腕の腐った冒険者たちと意気投合。臨時パーティーを反対する俺を無視して勝手に居なくなった。


 7人皆の行きたい場所がバラバラだから、順番に回ろうねって話をしていたのに、あの時間はいったい何だったんだろうか。


「ま、まぁ1人は1人で気楽だからいいんだけど……」


『僕達の前で強がらなくてもいいよアルフ』


『そうよ、誰にも一緒に連れて行ってもらえなかったからって、嫌われてるわけじゃないわ』


 気にしないようにしていた事をモーブとナールにズバッと言われて心に痛みが走る。


 な、涙なんか出てないもんね。


 そんな俺に、可愛い使い魔であるグルフナがすり寄って元気付けてくれた。


「ゴバォゲ」


 ……そうか、お腹が空いただけか。くぅっ。


「とりあえず受付を済ませよう。今日はもう皆別行動でいいだろうし、どこか――あ、あれなんてどうだ?」


 グルフナに偽卵を1つ食べさせてから俺が指差したのは、神殿と書かれた受付。


 もしかしたらお祈りできる場所があるかもしれないし、大神官の俺に有利なエリアな気がする。


『僕はどこでもいいよ』


『私も』


「ゲッグ」


 反対もないみたいだし、そうしよう。


 今日の入場券は1人分が共通金貨9枚。つまり最低でも共通金貨63枚以上の稼ぎをしなくては元が取れない。きっと俺以外の奴らは何も考えていないだろうし、頑張らなきゃ。


 あ、でもパンフレットも人数分買ったから……共通金貨63枚とオルゲルタ金貨14枚か。


 痛い出費だ。何がなんでも元を取らねば。と、受付に進みながら考える。


「じゃあ行こう」


 にこやかな人型の魔物が立っている受付を通って、少し歩いて行くと円形の広間に出た。どうやら俺たちは片手に短剣を持った逞しい半裸男の石像の中から出てきたらしい。


 すぐ横に簡素だけど妙に美しい祭壇がある。


「石像の中から出てくるってのはちょっと新鮮だな」


『そうかな?』


『どっちかっていうと、神殿の隠し通路あるあるだと思うわよ』


「へぇ……てことは月の大神殿はそうなのか。いいこと聞いたな」


『どうかしらね』


 ナールは、はぐらかすように微笑んでみせたけど、もし月の大神殿へ行くことがあったら、片っ端から石像を調べることに決めた。隠しているものを暴いてやる。


 そんなことを考えつつ、少し息を吸って今いる場所をぐるりと見回してみる。


 規則的に凹凸のあるモザイク柄の壁。遠くの正面と左右にはアーチ型の通路がある。それぞれデザイン性の高い石柱に挟まれていて、まさに神殿といった作りだ。


 そして天井はドーム型で、その中心には寒色系の色を使って描かれた魔方陣らしき形のステンドグラスがある。


 そこから、ささやかに差し込む光の道が祭壇に繋がっていて、なかなかに神々しい。


 音一つしないこの場所は、同じく生気もまったく感じられず、ここがダンジョンであることを忘れさせる。


「なんの神殿なんだろう」


 祭壇を見ても判断がつかなかった。


『色々、じゃないかな』


『そうね』


 モーブとナールが中途半端な情報をくれたその時、正面の通路から静かに、でも大量の水が流れてきた。


 それは清冽(せいれつ)な川のようで、つい手を濡らしてみたくなる。だけど、川はしゃがんだ俺を避けるように左右に別れると、背後で1つに戻り祭壇へ吸い込まれていった。


「よく分からないけど、凄く清々しい気分だ。俺、今の川けっこう好きだな」


『え、アルフそれ本気で言ってる?』


『気付いてなさそうだけど、さっきの魔物に触ってたら大変な事になってたわよ』


 立ち上がった俺にモーブたちが声をかけた。だいぶ引いてる……。


 つか、魔物だって? あの川が?


『そうそう、僕が気を利かせて流れを変えてなきゃ、今ごろアルフは溶けてデロデロになって食べられてたと思うよ』


『奇跡的に食べられなかったとしても、しばらく液状の肉として過ごす羽目になってたでしょうね』


 な、なんだそれ!


 もしかして触ってみたいって思ったのも、魔物のスキルか何かだったのか!?


『……アルフスライム』


 ボソッとモーブが言って1人で笑い始めた。


 冗談じゃない、ちょっと想像したけどグロ過ぎるだろそれ。


『油断しちゃ駄目よ。ここはダンジョンなんだから』


「う、うん。ありがとう」


 ナールに注意されてしまった。真剣に。


「ゲッゲガッ」


 グルフナが触手を出して正面の通路を指している。どうやら、また水が流れてくるようだ。


 今度は偽卵を出して空中に足場を確保する。念のために天井付近まで上昇しておいた。


 そしてパンフレットのページ捲って神殿のページを開く。


「ええっと、神殿の魔物は……あった。へぇ、さっきのは木漏れ日の小川っていうのか。春夏秋冬の4種がいて…………今のは冷たそうに感じたから、たぶん冬かな。風に吹かれて舞い落ちる粉雪のような音楽や、春を待ちわびる植物のような音楽が好き、と。うん、無理」


 俺は音楽的なことはあまり得意じゃない。


 普通に倒そう。パトロンケイプにしかいない芸術好きの魔物はやたら強いって噂だけど、なんとかなるだろ。


 パンフレットには強さはBランク程度って書いてあったし。


「よし、そしたらグルフナは魔物が姿を見せたら雷鳴で動きを止めるんだ。その隙に俺が偽卵で攻撃する」


「ギェ?」


 グルフナが「え、マジで?」みたいなことを言った。


「あ、清光を発動させてたのか。魔力を消費してるから魔物避けの効果の方……」


「ギュウ? ゲイェ」


 いいや、駄目じゃないぞ。危険を回避してくれたんだろ、謝らなくていいよ。


 しょんぼりしてしまったグルフナの頭部を撫でてお礼を伝える。


「じゃあ進もうか」


『ちょっと待ってアルフ。ダンジョン探索で大事なこと忘れてるよ』


 モーブが俺を引き止める。


『本当、何考えてるのよ。部屋に何かしらの細工がされてないか確認しなきゃ。特にこういうルート分けされてるダンジョンは最初の部屋に秘密があるものよ』


『そうそう、特にあれは怪しさ満点だよね』


 ニヤニヤしながらモーブが指差したのは祭壇。


 怪しいかな?


 何を祭っているか分からない祭壇って意味なら怪しいけど……特に問題は無さそうな気がする。


『あ、駄目よ近付いちゃ』


 今度はナールが俺を引き止めた。


 もっと詳しく調べようとしたのに何なんだよ。


「ゲゥ?」


『あ、グルフナは気付いたみたいだね』


『そうね。私に似て勘がいいのかしら』


 グルフナが何を言ったか。それは当然主である俺にも分かった。


 魔物かな、と言ったんだ。触手を祭壇に向けて。


「そ、そんなことってあるのか? パンフレットにも載ってないぞ」


 バサバサとページを捲ってみるけど、神殿ページにはどこにも祭壇の魔物や変化する魔物の記載はなかった。


『パンフレットに何でも載ってるわけじゃないのよ』


『疑うなら攻撃してみたら? ほら、魔法使ってあげるからミステリーエッグで卵を作りなよ』


 モーブは言い終わるやいなや、闇魔法のダークニードルを俺めがけて連発し始めた。


「あ、あっぶないな! いくよ、とか合図してから魔法使ってくれよ」


 間一髪、ミステリーエッグの発動が間に合ったからいいようなものの、下手したらサボテンみたくなってたとこだぞ。


『じゃあ、私も。いくわよアルフ』


 するとそれを見ていたナールが気持ち良さそうに歌を歌い始めた。


「こ、これは……ガランサスセレネイドじゃないか」


 悪乗りが過ぎる。


 ダークニードルは初級闇魔法。はっきり言ってそこまで危険な魔法ではない。


 しかしガランサスセレネイドは違う。危険極まりない特級月魔法だ。


 自分に向けて使えば、体力回復、怪我の治癒、各ステータスのランダム上昇に加えて属性耐性や属性攻撃も付与される、希望に溢れるずば抜けて優秀な魔法だ。


 歌そのもが魔法であり、メロディーと歌詞が月明かりのように可視化され美しい光景を描くのも特徴の1つ。


 でも、他者にその歌を送ると歌詞の意味が、あなたの死を見たいという風に変わってしまい聴いた者は死ぬ。もしくは、とても苦しんで死ぬ。とにかく死ぬ。


 なんとか耐え抜いたとしても、激しい自死の感情に支配されてしまうし、月魔法特有の強力な錯乱と魔力減少の効果も手伝って結局死ぬ。


 おまけにナールはそれ以外にもルナレーザーとかムーンライトボムなんて魔法を連発してくる。


 俺を殺しにかかっているとしか思えない。


 そしたらナールを見ていたモーブが『楽しそうだから僕も』とか言ってヤバい闇魔法に切り替えやがった。


 ナールもモーブもずいぶんニコやかじゃないか。


 あれか? お前ら実は俺が嫌いなのか?


 とにかく止めさせなければ。卵はもう十分な量確保できてる。


 その卵を操作して2つ人にぶつけようとするも、スルスルヌルヌル避けられてしまう。しかも合間に『のろま』とか『止まってるのかしらこの卵』なんて煽ってきやがる。


 こ、こいつら……


「ちょ、やめ……もういい! もう十分だから!!」


 何度も何度も限界まで声を張り上げてようやく、魔法を止めた2人。


「ったく、やりすぎだろ。見ろよ、グルフナが怯えて俺の服の中に隠れちゃってるじゃないか」


 可哀想に、めちゃくちゃ震えてる。微かに聞こえてくる、すすり泣き風の汚い声も怖がってる証拠だ。


『いやぁ、アルフ相手だと普段使わないエグい魔法も使い放題だからさ。ごめんごめん』


『私達の魔法を無効化できる存在なんて、そういないじゃない? つい、楽しくなっちゃって。ごめんなさいね』


「……えらく可愛らしいポーズで謝ってくるけど、人形に入ってなきゃ成立しないからな、それ」


 何一つ反省していない大精霊たちに嫌味を言ってやったぜ。


 言われても肩を竦めて目を合わせてるだけか。ま、そんなもんだよな。


「卵も過剰なほど用意できたし、祭壇の魔物を――」


 っていないじゃないか!! 


 まさか逃げられたんじゃ……いや、それも違うっぽいな。魔物の姿が見えない代わりに小汚ない革袋が落ちている。


「見た目よりずっしりしてるな」


 拾った革袋の中身は……おお!


 これはもしかして、デニテバルテ金貨か!?


「1、2、3……17枚もある!」


 確かこれって1枚でオルゲルタ金貨10万枚分の価値があるんだったよな。


 なんてことだ、もうこれだけでとんでもない黒字じゃないか!


 税金も払えるし、当分は遊んで暮らしてもなんら困ることはないぞ。やった。


『ねぇねぇ、それってパトロンケイプのロビーで使える金貨だよね?』


 モーブがひょいっと革袋の中を覗いてきた。


『私の歌が素晴らしかったから置いて行ったんじゃないかしら?』


 ん?


『いやぁ、僕の魔法が命中して倒したんだと思うよ。そういえば魔法の操作を誤った気がするんだよね』


 は?


 もしかしてコイツら、この金貨が欲しいのか?


 悪いけど1枚たりともやるわけにはいかない。俺はただそこにいるだけでやっていけるお前達とは違うんだぞ。生活がかかってるんだ!


「いやいや、何言ってるんだよ。俺が2人を止めるついでに卵でフルボッコにしたんだぞ」


『……』


『……』


「……」


 大精霊のくせに2人が強欲なせいで再び争いが始まってしまった。


 荒れ狂う強烈無慈悲な魔法や物理攻撃の数々と、できる限り固くした俺の卵たちが神殿を破壊していく。


「ゲ、ギゴゥ……」


 グルフナのルトルに付いていけば良かったという呟きは、誰にも聞こえなかった。


【アルフスライム】

架空の魔物。

闇の大精霊がデロデロに溶けたアルフを想像して思い付いた魔物である。血と肉にまみれたグロテスクな赤黒い液状のスライム。生態などは決めていないが、闇の大精霊は気が向けば植物の大精霊に提案してみようと思っているらしい。


【木漏れ日の小川】

水型の魔物。

パトロンケイプでのみ遭遇する魔物であり、春夏秋冬の4種類が存在する。それぞれ好みの音楽があり、それにあったものを聴かせ満足させるとアイテムをくれる。単体ではBランクの魔物だが、祭壇の魔物に使役されている場合はAランクの魔物とみなされる。上級水魔法と溶解という固有スキルが大変危険である。


【祭壇の魔物】

祭壇型の魔物。

パトロンケイプの神殿エリアでのみ遭遇するSランクの魔物。簡素だが美しく神々しい雰囲気を纏っている。自身と同じ先天属性の者の心を鷲掴みにして信者としてしまう、偽神の使役という固有スキルで魔物や冒険者を操る。教会音楽を好んでいるが、讃美歌の場合、歌詞は死に関するものでなければぶちギレする。先天属性の攻撃魔法や、信者を強化する付与魔法が厄介な魔物である。


【ダークニードル】

初級闇魔法の1種。

闇で作り上げた針を飛ばして攻撃する。針は好きなだけ作り出せるが、その分多くの魔力を消費する。この魔法で負った傷は、治癒するまでに通常の5倍もの時間がかかってしまう。


【ガランサスセレネイド】

特級月魔法の1種。

歌そのもが魔法であり、メロディーと歌詞が月明かりのように可視化され美しい光景を描く。自身に向けて使えば歌詞の通り、体力回復、治癒、各ステータスのランダム上昇に加えて属性耐性や属性攻撃も付与されるが、他者にその歌を送ると歌詞の意味が、あなたの死を見たいと変化する為、聴いた者は大抵の場合死んでしまう。なんとか耐え抜いたとしても、満月を見るまで激しい自死の感情に支配されてしまう。


【ルナレーザー】

特級月魔法の1種。

擬似的な小型の月を作り出し、それを触媒としたレーザーで攻撃する。1発食らえば魔力と防御力が半分になり、2発食らえば体力と攻撃力が半分になる。といった具合にレーザーが当たるごとに前述のステータスが交互に半減していく。新月を見るまでステータスは減少したままになる。また、それ事態の破壊力も凄まじく、触れた部分は蒸発してしまう。


【ムーンライトボム】

特級月魔法の1種。

自らがこれまで浴びた月の光を材料に爆弾を作り出せる。月の形や色によって効果や威力が変化する。色は下記の爆発後に次の効果が加わる。赤は灼熱の発生と魔法の封印。緑は猛毒霧の発生と死んだ者のゾンビ化。青は生き残った者のスキルを強奪した状態になる。なお、身体ダメージ以外は同じ形の月の光を浴びるまで持続する。

・満月の光:幼児化を伴う爆発とその範囲内にいるものの善悪を反転させる。

・半月の光:溶解液を伴う爆発とその範囲内にいるものの情熱と恐怖を消し去る。

・三日月の光:斬撃を伴う爆発とその範囲内にいるものの性格を反転させる。

・新月の光:老化を伴う爆発とその範囲内にいるものの視力と愛情を消し去る。




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