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177話 喧嘩と再会

本文ミス修正。

 ナールのオーブ問題を乗り切った俺は、ルトルと一緒に何でも屋アルコルトルの出店場所を探してルギス外壁を歩き回っていた。


 昼食前にもう少し見てみようと、ゼナナ地区のX-3151辺りに来たんだけど……。


「なぁルトル」


「なんだアルフ」


「俺をこんな暗がりに連れ込んで何すりつもりだよ」


 俺は今ルトルに手を引かれ、細い路地裏のそれまた奥の奥の行き止まりに連れてこられていた。


「何って……店を出すんだろ? アルコルトルは知る人ぞ知る隠れた名店にするんだっていつも言ってたじゃないか」


 は?


 いやそれは店舗を構えてる人が言うことで、毎回出店場所を変えなきゃいけない俺がそんなことして何の意味があるんだ。効率悪すぎだろ。


「ごめん、ちょっと意味が分からない」


「それも覚えてないのか。じゃあヒュブクデールのこんな場所で店を出したことも?」


「知らないな」


 それって俺じゃなくて見知らぬ弟エースの考えなんじゃ……馬鹿なのか? エースってハレンチなうえに馬鹿なのか?


「こんな風に甘えてきたのもか?」


 ルトルが俺の後ろに回って抱き締めてくる――


「ちょっ、おわっ!」


 ――のかと思ったら、ガクッと地面に座らせて自分の胸にもたれ掛かるように俺の位置を調節する。


 俺がこんなことするか? 


 確かに安心感ていうか妙にしっくりくるけど……つかどう見ても男の腕だよなぁ。なんでコイツが婚約者なんだろう。


『……ああ、私の甘えてみなさいっていうアドバイスをルトルが妙な感じで実践したあれのことね』


 俺達を見てるロポリスがそんなことあったっけ? みたいな顔した後で呟いた。


 ほほう。


「おいルトル。俺が甘えたんじゃなくてルトルが俺に下手くそな甘え方をしたってロポリスが言ってるぞ」


 そう言ってやり、無駄に引き締まった腕から逃げ出すとルトルが真っ赤な顔になっていた。


「い、いや、あの時はまだこんな関係になれると思ってなくてだな……でも、その、どうしてもアルフに触りたくてあんな感じに」


 恥ずかしそうにゴニョゴニョと。狙ってやってるのかよ。何をしても顔が良いのはよく分かったっての。


 どんだけ俺にギャップを見せつけてしてくるんだ。もしかしてそういう作戦か?


 あ、もしかして――


「いつでもキスしてたってのも実は違うんじゃないか?」


 俺の記憶が無いのをいいことに、ルトルにとって都合の良い過去を捏造してる可能性が出てきたなこれ。


「そ、そんなことない! セイアッド帝国に来る少し前にそうなったからつい最近だが、嘘じゃない!」


「お、おう……」

 

 そんな必死で詰め寄らなくても。


「そうだキスしよう。そしたら思い出すかもしれない。ここなら二人きりだし問題ないだろ?」


「なんでそうなるんだ! いくらなんでもがっつきすぎじゃないのかお前。俺はそういうヤツ嫌いだ」


『アルフ、そんな風に言わなくても……さすがにルトルが可哀想』


 ナールがルトルの肩を持つ。


 キスを断ったからかそルトルが目に見えて落ち込んでいる。それにナールの言い方はまるで俺が悪いみたいじゃないか。


『そうだよアルフ。ルトルは本当にアルフの婚約者で、アルフもルトルが大好きだったんだ。僕達が保証する。だからもっとルトルとイチャイチャしてあげなよ』


 えぇ? モーブまでそんなこと言うのかよ。


『大好きだったかどうかは分からないけど、ところ構わずキスして真っ赤な顔したり、今夜いいよなって迫られて恥ずかしそうに頷いたりはしてたわね』


 ロポリス!?


 てことはつまり俺とルトルは一線を――


「どういうことだ! 結婚前にも関わらず俺に何しやがった!!」


『ギリギリ一線は越えてないから安心していいわよ』


 ルトルに掴みかかった俺を中途半端に慰めるロポリス。


「ギリギリってなんだ!? 言え! 貴様、俺になにしたのか全部教えろ!!」


 まぁまぁと俺を嗜める大精霊達によって俺はルトルから引き剥がされた。相変わらず俺に触れた人形は表情が歪む。けど初めてこの表情がいいと思った。俺の気持ちを代弁しているようだったからだ。


 一方、怒鳴られてびっくりしていたルトルだったけど、俺と自分の間で何が行われたのか語り始めた。


 お互いの口で……アレをああして……ナニをこうして……チョメチョメチョメ………だと?


「あ、あり得ない! 大神官たる俺がそんな淫らなことを……」


 煩い! なにが凄く上手かっただ! そんなもんが慰めになるか!


 ああ、今すぐお祈りと沐浴をして身を清めたい。


「触るな淫獣め!」


 俺に触ろうとしたルトル手をはね除け――あっ。


「い、いや。今のはちょっと言い過ぎたし。やり過ぎた。ごめん」


 酷く傷ついた顔をしたルトルは気持ちを整理してくるとその場を離れてしまった。


『あ~あ~、ルトルが可哀想。私ちょっと慰めてくるわ』


『そうね。私も元気付けてあげようかしら』


 ロポリスとナールがルトルを追いかける。


『ルトルが戻ってきたらもう1回謝った方がいいよ。初めてのキスも求婚もアルフからしたんだからね』


 モーブの口から衝撃の事実が語られた。


 俺から? 嘘だろ?


『ちなみにさっきルトルが言ってたことだけど、恥ずかしそうにしてた割には途中からアルフも積極的だったからね。それも凄くだよ。エースと融合してたとはいえあの時はもうほとんど人格は別々だったから、あれは全部アルフの意思だと思うんだ』


 そ、そんなまさか。俺が積極的だと?


 でもモーブが言うんだし嘘ではないんだろう。


 ルトルのどこが俺の琴線に触れたのかさっぱり分からない。だけどあんなことをする仲だったっていうなら、もうちょっとだけルトルに歩みよってやっても……ん? いやおい、ちょっと待て。


「見てたのか!!?」


『さ~て、僕もルトルを慰めに言ってこようっと』


 あ、こら! 待て逃げるな!


 モーブは捕まえようとする俺の手をぬるぬるっと躱して逃走を成功させた。


 くそっ、記憶を失くす前の俺は何をやってるんだ。


 モーブ達にあんなの見られたら一生ネタにされ続ける決まってるだろうが。


 やるならやるでもっと警戒してやれよまったく。


 ……はぁ。


 とにかくルトルが戻ってきたら謝ろう。そしたらまぁ、ちょっとくっつくくらいなら許してやってもいいかな。


 それから1時間くらいルトルが戻ってくるのを待っていた。ルトルも大精霊達もまだ戻っていない。


 気持ちの整理とやらはまだつかないんだろうか。


「もう面倒臭いからここでいいか」


 俺はこれからまた出店場所を探すのが面倒臭くて、この場所で店の準備をすることにした。


 偽卵を割って商品棚を出す。そこにアイテムの入った偽卵を握り拳くらいの大きさで並べていく。


 それらの前に作っておいた商品カードを並べてっと……うん、なかなかいい感じだな。商品そのものを並べるより空間を節約できているし、偽卵自体がそもそも商品のような美しさなんだ。


 卵形インテリアの露店みたく見える。


 本当は何を売ってるか知れば、間違いなく実物を見せろって言われるだろうから、その時に割って中身を出せばいい。


 もっともお客さんが来ればの話だけど。こんな裏路地の奥の奥の日陰に人なんて来ないだろ。


 知る人ぞ知る名店ね……何を考えてたんだか。


 馬鹿馬鹿しいと思いながら、改めて自分が出店した場所を確認してみる。


 細い路地の終着点にぽっかりできた円形の広場。だいたい小さめの馬車が1台分が収まるくらいだろうか。


 周りは真っ白な高い建物に囲まれていて日当たりは最悪。


「でも結構綺麗なんだよなぁ。清掃が行き届いてて、あえて物を置いてないみたいな……」


 え?


 ちょっとした違和感がした。


「お、まただ」


 なにがと言われると分からない。ただ何かがさっきと違うような気がするんだ。


 違和感の正体を掴もうと1点を見つめてみる。すると微かに景色が揺らいだのに気が付く。


「だ、誰かいるのか?」


 返事はない。けど、確実に何かがいると直感する。


 あの景色の揺らぎは姿を隠すスキルや魔法の特徴に似ている気がした俺は、とりあえずミステリーエッグを発動。射程範囲は広場全体と高さ10メートルくらいにすると――


「え?」


「嘘だろ?」


「僕の固有スキルが強制解除された!?」


 3つの卵ができると同時に冒険者風の男が3人現れた。


 仮面を被った長尾驢(カンガルー)獣人と兎獣人、それと凄く見覚えのある素顔のまま驚いている麒麟獣人だ。


「カミル!?」


「え!? どうして僕の名前を……君は誰だい?」


 驚いているカミル。俺もまさかの再会に驚いている。


 どうしたもんか思ったけど、とりあえず卵を偽卵に紛れ込ませつつ接客して誤魔化すことにした。


「ようこそ何でも屋アルコルトルへ! カ、カミル様には以前もご利用いただいやことがありますのでお顔を覚えてました。本日も良いものを取り揃えてますよ。ささ、見てって下さい!」


「アルコルトル?」


 カミルの訝しげな視線を、ただただ笑顔で受け止める俺だった。

長尾驢(カンガルー)獣人】

カンガルーの獣人。

クランバイア魔法王国から見て西の方角にある大きな島国固有の種族。体の大きさは氏族によって様々だが、凄まじい脚力と太い尻尾を持ち跳躍による高速移動ができる。また、男女問わずお腹に子育てするための袋を持っている。近年判明したことだが、その袋はアイテムボックスのような使い方もできらしく冒険者や輸送業として各国に出稼ぎに行く者が増えているとか。カンガルー獣人はこの袋が大きいほどその相手に魅力を感じるらしい。

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