175話 アルフとアルフ
本文と後書き修正。
少し落ち着いたところで母さんがやって来た。フラテムやその他の契約精霊も一緒だ。
その後ろには仮面を付けた老執事風の男も一緒にいる。
それに気付いたコルキスは慌てて姿を消してしまう。吸血したり、ベタベタ甘えてたのにどうしたんだろう。
「ああ! アルフレッド!」
俺を見た母さんが走って来て抱きついてきた。
「長い間、閉じ込めてしまってごめんなさいね」
少し泣いているようだけど、どうしてここにいるんだろうか。もしかしてこの神殿っぽい場所はクランバイアなのかな。
「や! 久しぶりだね、アルフレッド君」
懐かしい風を纏ったシルフィが頭をポンポンしてくる。
「無事封印が解けてなによりですよ」
それからフラテムをはじめとした他の精霊たちも、俺の疑問よそに抱き付いたり頭をくしゃくしゃしてくる。ヴァロとミシアなんて首筋を冷やしてくるもんだからゾワゾワしてしまった。
「あなたのお陰でアルフリートも死なずに済んだわ。本当にありがとう」
母さんは俺から少し離れて真っ直ぐ俺の顔を見た。そういえば勇者も言ってたけどアルフリートって誰だ?
「ジール、アルフはまだ完全には記憶が戻ってないんだよ」
「そうそう茜色の魔笛のせいでね」
モーブとロポリスが母上に近付く。
「そう……私と同じなのね」
「母さんも?」
記憶がない実感は皆無だけど話を合わせておこうか。
「どうする? 今のアルフならジールを元に戻せるけれど……」
「いえ、止めておくわ。今のままが幸せなのでしょう?」
ナールの提案に母さんは首を振った。
「そうね。わざわざ思い出さなくても……それに魔笛の効果が切れれば自然に思い出すでしょうし」
ナールが母上の頭を撫でている。他の精霊たちも神妙な顔になってしまった。
「でも、必要となったら直ぐに戻すのよ。分かった?」
俺に言われたのかと思ったら、ロポリスのやや厳しい感じの言葉は隅っこで小さくなっていたドゥーマトラに向けられたものだった。
「私からもお願いできる?」
母上もドゥーマトラに尋ねる。
「今回は精霊の友人の頼みを断らないわよね? 最初からあんたが協力してればこんな方法を取らずに済んだのよ」
ロポリスが思いっきりドゥーマトラを睨む。
「で、でも……私……これ以上、オ、オルゲルタに、う、恨まれ……たくない……し………」
「もう、生まれた順なんて関係ないんだから堂々としてればいいのよ。それに――」
怯えるドゥーマトラにナールが寄り添って何か囁いた。
「ひっ、わ、わかった……今度は………絶対、に、協力……する」
ドゥーマトラは逃げるように消えてしまった。
「じゃあ、そろそろ俺らも行くか」
「じゃのう」
「面倒臭いのが起きたらことだからな」
「またねアルフ」
アクネアとティザー、ヴァロとミシアも消えた。どうやら大精霊以外はこの場にいるのがあまり好きじゃないみたいで、フラテムとシルフィも簡単な挨拶をしたら行ってしまった。
「お、アドイード共々良い感じになったじゃないかアルフ」
「アルフ! 会いたかったよぉ、アルフーーー!!」
もっと皆と話したかったと思っていたら、ドリアードとラズマがやって来た。
けど……
「はいはい、悪いけどもうお開きよ。ヴァロミシアも言ってたけどこれ以上は危険だわ。解散!」
「そ、そんな~!」
「一目会えただけでもいいじゃないか。ほら行くぞラズマ。じゃあアルフ、元気でな」
ナールの解散っという発言でラズマとドリアードが姿を消す。まあラズマはドリアードに引きずられてって感じだけど。
一瞬の再会だったな……。
「ジール様、アルフレッド様。今後はどのようになさいますか?」
ずっと黙っていた仮面の男が口を開いた。
あれ? この声って――
「クランバイアへ帰るわ。アルフリートのこともあるし」
え、母さんも帰っちゃうの? もう少し一緒にいて欲しいんだけどなぁ。
「あなたはこの国にいなさいね」
う……母さんの有無を言わさない感じが少し怖い。甘えるなということか。
「じゃあ私ももう行くわ。くれぐれもオルゲルタ皇帝にはこれ以上関わらないよう言っておいて」
「畏まりました」
「あ……」
母さんは振り返ることなく行ってしまった。
「それでは……いや、やっぱり俺も」
一旦、ここから出て行こうとした男が近付いて来て俺の頭を乱暴にくしゃくしゃする。
「困ったことがあればいつでも俺を頼れ。いいか? 俺を頼るんだぞ」
チラッと仮面を動かして顔を見せた男は、右腕から森の水を出して俺に手渡すと、足早に行ってしまった。
「やだねぇ、未練タラタラって感じで」
「ああいうのはモテないわよ絶対」
「案外ねちっこい男なのね。アルフはにはもう新しい婚約者がいるのに」
モーブ、ロポリス、ナールの順に時の神官をディスる。
でもそれより気になったのは――
「婚約者ってなんのこと?」
目を丸くした大精霊3人は、アドイードの仕業か? と肩を落としていた。
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さて、なかなかの一悶着があったけど、俺とコルキスはパトロンケイプに戻って来た。ポルテ岬から再入場だ。
魔法を使えば空間移動できるとロポリスに言われたけど、アドイードが寝ているため無理だった。やっぱり俺は魔法が使えないままらしい。ま、いいけど。
それでアルフレッドの封印とやらをされていた場所から一歩外に出たら、とにかく驚いた。
俺がいたのは時の大神殿だったんだ。
どこか哀愁の感じられる風を全身に浴びながら大神殿の端まで行くと、素晴らしい見晴らしが良さ。このずっと見ていたいと思わせる景色にはいつも感動する。そういえばこれは時の大神官とよく見ていた景色だ。
しばらくよく分からない懐かしさを噛み締めた後は、パトロンケイプに戻った。エーカーにもらった入場券、失くしてなくて本当によかった。
今日の入場券は共通金貨500枚だったんだよ。税金のことを考えると無駄使いは避けたい。でも、修道院の受付を入ってもエリンたちはどこにもいなかった。ヒストリアを使ったコルキス曰く、別の場所に移動したんだとか。
『本当に婚約者のこと覚えてないの?』
「う、うん」
エリンたちを探して歩いていたら、感じの悪い人形に入ったナールが聞いてきた。
まさか分裂して3つ目の人形ができるとは思わなかった。婚約者なんかよりもこっちが気になる。
『アハハ、ルトルのことよりナールの人形が気になるみたいだね』
『アドイードったら2人を応援するとか言ってたのにどういうつもりかしら』
ルトルが誰なのか気にならないわけじゃないけど、俺は今の状況の方が気がかりだ。
だって大精霊が3人も一緒にいるんだぞ。
しかもそれが、今は崩壊して失くなった闇の大神殿と聖光の大神殿の主だったモーブとロポリスに、今も現存する月の大神殿の主……周りにバレたらパニックになる。俺にとってはただのお祈り仲間だけど、一般人には刺激が強すぎるだろ。
「大丈夫だよ兄様。ほとんどの人には分からないから」
俺の頭の中を読んだのかコルキスがクスクス笑っている。
「ならいいけど……。あ、そうだ。アルフリートって誰なんだ? それに何で俺は閉じ込められてたんだよ」
『アルフリートはアルフの弟だよ』
『父親違いだけどね』
『封印されてた理由はそのうち思い出すから、その時までのお楽しみよ』
なんだかはぐらかされた気がする。それに父親違いの弟か……あれ、そういえば俺の父親って誰なんだ?
う~ん、色んな疑問が次から次へと浮かんでくる。ふと、隣を見たらコルキスが少し嫌そうな顔をしていた。
「もしかして、コルキス以外の弟の話はして欲しくないのか?」
「そ、そんなことないもん。兄様が誰の話をしてたってぼく気にならないよ」
ツンツンした物言いだけど、強がってるのが分かる。うん、可愛いな。
「ま、そのうち色々思い出すんだよな。じゃあ今はそんなこと考えずに……コルキスを可愛がってやる!」
「や、止めてよ兄様」
コルキスに抱き付いたり、わしゃわしゃする。止めてよと言うわりに嬉しそうなコルキスが本当に可愛い。お、今1個だけ思い出したぞ。俺って独りっ子だったから兄弟が欲しかったんだよ。
そうかそうか、思ってた未来になってて嬉しい。
「あ、やっと見つけたわ! どこ行ってたのよ」
斜め前の扉から出てきたエリンが駆け寄ってきた。
「皆~、ヴァン君たちいたよ!」
出てきた扉に向かって叫ぶエリン。
「コルキスだよ」
「だよな~。コルキスだよな~」
気に入らないあだ名にちょっと不満そうなコルキスだ。そんな不満顔も可愛くて、コルキスの頭に顔を埋める。髪の毛が柔らかくて気持ちいい。
「なんか兄様、性格変わったよね。まあ、別にいいんだけど」
そうか? 俺はもともとこんな感じだと思うけど。
「アルフ!! まったく、心配したんだぞ」
モフに匹敵するコルキスの髪の毛を楽しんでいたら、やたら顔の整った男がやって来てコルキスごと俺をバグした。ちょっといい匂いがしきてイラッとする。
顔だけじゃなく匂いまでとか完璧かよ。欲張りな奴だな。これですげぇ臭いとかだったら少しは好感度が……いや、すげぇ臭いのは勘弁だな。
『これがルトルよ』
ロポリスがこっそり教えてくれる。まぁ、だからなんだって感じなんだけど……。
「はぁ……」
「ん、どうした? 疲れたのか?」
「はぅっ」
ルトルとかいう男が無遠慮に俺の顔をペタペタ触ってくる。あと、なんかエリンが変な音と一緒にフラついて、遅れてやって来た仲間に支えられている。
「疲れてはないけど、戸惑いが半端ない」
「え?」
「んもう、苦しいよ! ルトルはぼくを潰したいの!?」
俺の答えにキョトンとしたルトルとやらを、コルキスが押し返して蹴りまで入れた。
「わ、悪い。それより戸惑いって何かあったのか? どこか雰囲気も……」
コルキスに軽く謝ったルトルという男がまた顔を触ってくるから、その手を払う。いちおう優しく。
「いや、いきなり知らない奴に顔を触られたら誰だって戸惑うだろ」
「知らない……奴?」
なんかすごい表情だな。
「あのねルトル。兄様、ちょっと頭をぶつけちゃって記憶が失くなっちゃってるんだ」
「記憶喪失!? ああ、愛の試練だわ。どうしよう胸が張り裂けそうよ」
コルキスのお知らせに誰よりも反応したのはエリン。それを見てゲラゲラ笑っているモーブとロポリス。ナールだけは気の毒そうな目で俺の婚約者? を見ている。
この日はもう探索を切り上げて帰宅することになった。
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「ふぅ、あれでよかったのかしら?」
「ああ、助かったよジール」
クランバイア魔法王国へ帰る魔空船の中で母上がドリアードと話しをしている。
「送魂祭の時と同じでモーブがどうしてもって言うから演技したわけだけど、本当にあのアルフレッドとかいう子が私の子供なの?」
「ジールは忘れてるんだよ。なに、そのうち思い出すさ。気になるならアルフレッド――あ、旦那の方のな。あいつに元に戻してもらってもいいんだぞ。ま、きっと何だかんだと理由を付けてやらないだろうけどな。アイツは精霊と違って優しさ以外の理由があるんだから」
ドリアードがもったいぶった言い方をする。ああいう時は良くない事を隠しているんだ。幼い時から一緒だった俺には分かる。きっと母上も同じだろう。
「あら、目が覚めたのねアルフ」
母上が優しい笑顔で俺の頭を撫でてくれる。目にはうっすら涙が光っている。
「産まれて直ぐにあなたの魂を破壊された時は生きた心地がしなかったわ」
「魂を……では何故私は生きているんでしょうか?」
「それは――」
「お前の兄貴が頑張ったんだよ。自分の身体を捨ててお前の壊れた魂ごとその体に入ったんだ」
トンッと胸を突かれる。
「そんなことが……不可能なんじゃ……」
「今は止めましょうドリアード」
母上が俺の頬を撫でながら言う。とても嬉しそうだし悲しそうな顔だ。
「いや、知っておいた方がいい。ギリギリ死なずに済んだのに、あっさり殺されたんじゃ意味がないだろ」
「……」
母上は何も言わない。
「アルフレッド――あ、お前の兄貴の方な。そいつはすごい魔法使いだったんだよ。何せジールと初代勇者の子供だからな。実際は勇者というより……まあそれは置いといてだ、当時そいつは悲恋の真っ最中でな――」
ドリアードの話だと、兄はそのすごい魔法と奇跡のような固有スキルを使い、長い時間をかけて慎重に俺の魂を再構築する準備をしてくれたらしい。
俺と1つになったせいで魔法も奇跡のような固有スキルも使えなくなった兄は、家族から無能と罵られ何度も暗殺されかけたという。
それでも耐えに耐えて明るく振る舞い、ようやく俺を元に戻した。そして、そういう嫌な記憶は自分で持っていき、生活や王子として必要な記憶は俺に残したまま分離したんだとか。
感謝の気持ちは……たぶんある。だが、あまり実感のない話だ。そこまで聞いてふと、大切な人がいないことに気が付いた。
「そうだ、ルトルは? ルトルはどこにいるんだ?」
俺の言葉に驚いたのはドリアードだけだった。
~入手情報~
【名 前】アルフリート・エース・クランバイア
【種 族】魔法族
【職 業】王子/オリジナルネクロマンサー
【性 別】男
【年 齢】15歳
【レベル】1
【体 力】5050
【攻撃力】5005
【防御力】5005
【素早さ】25000
【精神力】1000
【魔 力】100000000
【通常スキル】
王の波動/無垢なる祈り
【固有スキル】
純粋/超長寿/魔力成長率爆増/枯れた魔眼/クランバイアエナジー/ニアズハート/ネクロフィールド/ネクロフィリア/ネクロマンシー
【先天属性】
命
【適正魔法】
雷魔法-中級/火魔法-中級/風魔法-中級/氷魔法-中級/水魔法-中級/土魔法-中級/聖魔法-初級/闇魔法-初級
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【ナール】
月を司る大精霊。
魔力の根源の1つとされる月を司っており、全精霊の中で最も魔力を持っている。また、月魔法を超える非常に強力な魔法を扱えるため、大精霊の中でも最高に近い地位にあり、本来なら地上に姿を見せることもない。彼女の放つ妖しい光を魔物が浴びてしまうと変異種になってしまう。人や動物が浴びても場合によっては同じ事が起こる。
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【時の大神官】
時の大神殿に仕えている者。
現在において確認されているのはたった1人である。死ぬと記憶や力を保ったまま時の大神殿で神より新たな身体を授かるため、ある意味で不死者もである。
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【名称】魔空船
【分類】大型魔道具
【属性】原料となる魔石と同じ
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆
【価格】クランバイア白金貨500枚
【コルキスのヒストリ手帳】
とんでもなくカッコいい空飛ぶ船。
魔石を原料とした特殊な気体を浮遊袋っていう大きな袋に込めて浮力を得てるよ。さらに船全体の補強と推進力の確保、操縦も特殊加工された魔石と兄様が大喜びしそうな難解さ抜群の魔法円を燃料にしてるんだ。魔法円の複雑さや船体の材料、さらには各所に高度な魔法技術必要だからクランバイア魔法王国にしか製造できないものだね。あたりまえだけど製造方法は秘匿されてるよ。小型の魔空船を含めて30機しか製造されてなくて、そのうちの3つが定期便として各国を巡航してるよ。運賃はまぁまぁかかるけど、乗りたがる人たちが後を絶たないんだ。なにせカッコからね。とんでもなく。世界三大長距離飛行技術の1つだよ。