174話 おはようアルフ
本文と後書き修正。
コ、コルキスが……コルキスがいきなり頭を吹き飛ばされた。
「なんで……」
抱き上げた体は想像以上に重くて、首からはおびただしい量の血が流れている。
勇者がやったのか? それとも料理の前で微笑むプフヘネに瓜二つのオルゲルタが?
「ほら、貸せ。そんなの持ってたら汚いから」
「え?」
勇者が俺からコルキスの体を奪って行く。そしてポイッと放り投げたかと思うと、腰に下げていた剣で切り刻んだ。
肉片と血がボタボタと嫌な音を立てて落ちていく。
「それは放っておけばいいぞ。そのうちパトロンケイプが吸収してくれる。これで厄介なのがいなくなって精霊たちも満足するだろ。よかったよかった」
よかった……? コイツはなに言ってるんだ。
「さあ、アルフレッド様。お料理が冷めてしまいますわ。早くこちらへ」
まるでコルキスなど初めからいなかったかのように振る舞うオルゲルタに怒りがこみ上げる
「ほら行くぞアルフ」
グイッと勇者に腕を引っ張られた。俺はそれがとにかく気に入らなくて、思いっきり払いのける。
「ぐぁ!?」
腕の無くなった勇者が蹲ったけどどうでもいい。
「ねぇ、コルキスの頭を吹き飛ばしたのどっち?」
黒紫色の花が1輪、また1輪と咲いていき、酷い臭気はオルゲルタの前にある豪華な料理をみるみる腐らせていった。
「ねぇどっち?」
「コルキス、とはあのゴミのことでしょうか? でしたら私が――」
そこまで聞けばもういい。あの女もコルキスと同じように頭を吹き飛ばしてやった。
「アルフ、落ち着け」
勇者が的外れなことを言ってくる。俺は凄く落ち着いてる。
「とりあえず魔眼はそのままでいい。それより不完全なダンジョンコアを使うんじゃない」
ダンジョンコア?
ああ、胸にあるこれのことか。綺麗な青色の球……今は禍々しい口が付いてるけど、これはどこかで見たことがある。
どこだっけ?
ダンジョンコア……勇者とレベリングに行った、大森林のダンジョンで――
「っ!?」
なんだ? 凄く頭が痛い……
『――――!』
誰かが必死に叫んでる声が聞こえる。咆哮を上げ始めたダンジョンコアとは違う声。
激しい揺れが起き始めた……何が起こっているのかよく分からない。けど俺がやることは決まっている。コルキスがああなったのは勇者のせいだ。わざわざ勇者が連れて来たせいだ。俺に用事があるなら俺だけを連れてくればよかったのに。
勇者のせいでコルキスがあんな……まだビクビク動いているコルキスの肉片がとても愛おしいくて悲しい。
だから勇者も殺す。
そう思った瞬間、俺が望んだとおりの呪詛が勇者に刻まれた。途端に崩れていく勇者の身体。それを見ていると、とても愉快な気持ちになってくる。
『―リュフ――――め!!』
また叫び声が聞こえた。頭が割れそうだ。
「ユウタ……」
しぶといな。ああ、呪いを祝福にできる固有スキルを使ってるのか。じゃあそれが追い付かないくらいもっと呪詛を刻んでやる。俺の弟を殺したんだ。絶対に許さない。
「あはは!」
ざまあみろ。どんどんボロボロになっていきやがる。もっとだ。もっと魂の隅々まで呪詛でいっぱいにしてやる――
『アリュフ様だめ!』
この声――アドイードか!?
ふと、ダンジョンコアの中で葉っぱが光っているのに気付いた。その瞬間、魔力が急速に失われていったかと思うと、身体から蔦が現れ急成長を始めた。それは部屋を埋め尽くさんばかりにぐんぐん成長し、俺をどこかへ引っ張っていこうと何度も上下する。その度に気持ち悪い浮遊感が襲ってきた。
勇者はまさかといった表情を見せた後、剣を投げたが、目の前が歪な景色になる方が早くそれが俺に届くことはなかった。
「封印……」
歪な景色が、角ばった氷のような封印の内部から外を見ているのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「大丈夫?」
「ええ、弾き出されて少し驚いただけよ」
「いやぁ、まさかナールの言ってた”もうじき”が今日のことだったなんてね」
ロポリスとモーブ、それと知らない声が聞こえる。
「お~い、聞こえてるかい?」
モーブが俺を呼んでいる。だけど、動くことも喋ることもできない。
「今なら魔法が使えるはずよ。それを使ってアルフレッドの封印を解きなさい」
ロポリスがとんでもないことを言った。
魔法が使える? 俺が?
「駄目よロポリス。いくらアルフがアルフレッドの上位互換だからって、まだ元に戻ったばかりなのよ。無理させちゃ可哀想よ」
ロポリスを嗜めてる……本当に誰だ?
気遣ってくれるのは嬉しいが、魔法は使ってみたい。今はそうでもないけど、以前はあれほど使いたいと思ってたんだ。イメージだけは完璧。絶対大丈夫……じゃなかった。やっぱりなにも起こらない。
『アドイードに任せて』
頭の中に聞こえてきたのはさっき俺を止めたアドイードの声だ。どうしてアドイードがこうなってるのか、完全に1つになった今ならよく分かる。
『死んだわけじゃなかったんだな、アドイード……』
『そうだよ。アドイードはアリュフ様になったんだよ。心みたいに別なとこりょもあるけどね。じゃあ魔法使うよ』
とても嬉しそうな声がしたあと、魔力がごっそり抜けていった。
「え、なにこれ!?」
「すごく複雑な立体魔法円ね……こんなの初めて見たわ」
「さすがクロノス様のお気に入りだね」
外の精霊たちが騒いでいる。そんなにすごいなら俺も見てみたい。
「へぇ、そうやって展開していくの!」
「相当ユニークな構築の仕方だったのね……魔法円オタクはそのままなのね」
「アハハ、ちょっと理解に苦しむなぁ」
バキッバキッと目の前にひびが入る。くそっ、俺もその相当ユニークな魔法円とやらが見たい。
あーでもないこーでもないと精霊たちが楽しげに魔法円考察をしている中で、封印に細かなひびが入っていく。そして最後はパンッと砕け散った。
『うまくいってよかったぁ。じゃあアドイード今お腹いっぱいだかりゃ休憩すりゅね』
休憩という言葉に少しまたアドイードが消えるんじゃと思ったけど、大丈夫だかりゃと言われて安心する。
「おはよう。どう、自分が誰かわかる?」
ほっとしていた俺にスイッと近寄って来たロポリスはとても清らかな光を放っている。
「うん。なんかロポリスが綺麗だ……」
なんとなくロポリスの違和感がすごくて口から出てしまった。
「は?」
「アハハハ、良かったじゃいなかロポリス」
「私が見たのはもっと感動的な再会だったのに、なにかが違ってたのかしら。まあ、概ね計画通りだからいいんだけど」
妖しい光を放つナールが少し残念そうに呟いた……そうだ、ナールだ。この精霊は月の大精霊ナールじゃないか!
「ナール! 凄く久しぶりだ! 今までどこにいたんだよ! 会いたかったんだぞ!」
「ずっと一緒にいたじゃない。もう、1番頑張ったのは私なのよ」
ぱあっと嬉しそうな顔をしてから、妖しい光を放ちながら俺に抱き付くナールは少し泣いていた。
「さて、じゃあ済ませようか」
モーブが急に真剣な顔をする。
「ちょっと痛いかもしれないけど、すぐに再生するから我慢してね」
ロポリスが申し訳なさそうな顔で、そっと俺の顔に手を伸ばしてきた……痛っ――たくないな。左目を抉り取られたってのにチクッとした程度だ。
「うわぁ、グロい。自分の目玉とか初めて見た」
目玉を取られて驚いてはいるけど、案外冷静でいられる自分がちょっと不思議だ。
「再生は私が」
すかさずナールが左目を再生してくれる。
「アルストロメリアの……いえ、アルフレッドは異世界人の子供だからアリメロトスルアの魔眼だったわね」
「うん。これを神々に捧げればジールは許される。異世界召喚の罰を受けなくて済むんだ」
いつものことだけど、話がさっぱり分からない。こんな時にコルキスがいれば――
「いや、もういないのか。あんなあっさり死ぬなんて……うぅ、コルキス」
「なあに?」
…………ん?
「コルキス?」
「うん、呼んだ?」
え、は? なんで、どうしてコルキスがここに!?
「ビックリした?」
ワタワタする俺に、悪戯が大成功したような顔でにこりとコルキスが笑った。ていうかビックリなんてもんじゃない!
「くふふ、ぼくもいきなり頭が吹き飛んでビックリしたよ。でもね、ぼくにはネオイコルって固有スキルがあるから死なないんだ。ぼく、不死なんだよ!」
とても嬉しそうな声でコルキスが飛び付いて来た。
~入手情報~
【名称】ネオイコル
【発現】コルキス・ウィルベオ・クランバイア
【属性】闇/命
【分類】不死型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【コルキスのヒストリア手帳】
不老不死者の血液イコルがさらに新しくなったもので、神に近い不死になるよ。もともとぼくには産まれる前からイコルって固有スキルが発現してたみたいなんだけど、モーブ様の判断で消失していたんだよ。精霊達の計画変更、ドゥーマトラの嫌がらせとロポリスの嫌がらせが合わさって、より強力なものになって復活した固有スキルなんだ。
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【名称】アリメロトスルアの魔眼
【発現】アルフレッド・ユウタ・ロシティヌア
【属性】時空
【分類】改変型/固有スキル
【希少】★★★★★★★★
【アルフのうろ覚え解説】
未来視と未来改変の魔眼だ。選択した未来を確定させる為に必要なルートを完璧に示してくれるが、扱いが非常に難しく、大精霊であっても完璧に使いこなすのは困難である。ましてやそれ以下の存在など、本来の力の一端すら扱えないって話だ。常時発動効果は友情と愛の持続。異世界召喚を行ったジールの罰を回避するため、大精霊によって神々に捧げられた。
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【名 前】アルファド・ユウタ・ロシティヌア
【種 族】Zダンジョンコア
【職 業】迷宮の主/大神官
【性 別】男
【年 齢】15歳
【レベル】1
【体 力】50
【攻撃力】5
【防御力】5
【素早さ】25000
【精神力】1500
【魔 力】100000000
【通常スキル】
お祈り/ホーライアンモス
【固有スキル】
孵化/托卵/偽卵/復元/復活の森/クロユリの魔眼/ミステリーエッグ/トーゲトーハ/クロゴスノロク
【迷宮スキル】
魔力喰い/体力喰い/ダンジョンメイク/トスーブE/マナバースト/アドイード
【先天属性】
時空/植物/月
【適正魔法】
無し
【異常固定】
完全忘却
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【名 前】アドイード
【種 族】Zダンジョンコア
【職 業】迷宮の主
【性 別】男
【年 齢】-
【レベル】-
【体 力】-
【攻撃力】-
【防御力】-
【素早さ】-
【精神力】-
【魔 力】-
【通常スキル】
歌う/踊り/交信/状態異常抵抗大/無限攻撃/時縛り/魔法威力激増
【固有スキル】
復活の森/植物愛/微臭気/無邪気/うっかり/毎日成長/殲滅/同族超越/同化/透過/自然界魔素吸収/吸収魔素ステータス/化被ダメージ1固定/フォレストアアル/オシリスプラント/トゥールスチャムーン/クレプシドラ
【迷宮スキル】
/飛翔/感知/魔物飼育魔物作成/撒き餌作成/鑑定/不滅/魔力喰い/体力喰い/ダンジョンメイク/ウルトラブレーザー/アルファド
【先天属性】植物/時空/月
【適正魔法】先天属性の魔法すべて
【異常固定】-
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~裏話【勇者と皇帝】~
「逃げられたようだな婿殿」
プフヘネの死体から出てきたオルゲルタはずいぶん愉快そうだ。
「まさかあのタイミングでユウタとアルフリートが分離するなんて……」
ドリアードやつふざけた報告しやがって。それにあのダンジョンコアの中にいたあれは何だ。せっかく俺がアルフを、いや、ユウタを取り戻そうと計画したのにこれじゃあ台無しだ。
それにユウタとアルフリートが分離して直ぐ、ニア王の遺産たちを回収しに現れたドゥーマトラ。あいつも信用できないな。
ジールや精霊たちの計画に便乗するべきではなかったか……結局、1番手っ取り早いのはアルフレッド王が言っていたクロノス神のお気に入りとやらを探して殺すことなんだろうか。そうすればあの王がすべてやり直してくれる……いや、信用するのは危険だな。
「まあいい。一旦、城に帰ろうオルゲルタ」
「良いぞ。ちなみにこれはどうする?」
「置いていけばいいだろ。偽物の聖女なんかいても邪魔なだけだ」
オルゲルタはそれなら自分のコレクションにすると言って、またプフヘネの中に入っていった。