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168話 薄情者とうっかり者

本文と後書き修正。

 眠い。それもこれも俺の上で爆睡しているコルキスと、隣で満足気に寝ているルトルのせいだ。


 俺が狼獣人好きなことは話してたのに、ルトルは想像以上だったからって話し合いで俺にある事実と条件を突きつけてきた。


 その条件とは、狼獣人に反応したら俺からキスを、モフったら一緒に入浴。さらにコルキス以外にそれらをした場合、追加でフェ、フェ……うぅ。


 そして事実。これには驚いた。なんと親友同士でキスするとかあり得ないらしい。キスは将来を約束した者同士が愛を確かめ深める行為だと……。


 婚約者になってから遠慮が無くなったのはいいんだけど、まあ色々と衝撃を受けた。


 俺の読んだ本に書かれていたことや、あの社交(・・)はいったいなんだったんだろうか。


「う……」


 寝返りをうったルトルがこっちを向く。目を閉じたままの整った顔が幸せそうに俺の名前を呼んだ。とたんに話し合い後のことを思い出して顔が熱くなる。


 起きよう。このままここにいるのは耐えられそうもない。それに一緒に寝るときはいつも寝間着に力強くしがみつくコルキスだけど、今朝はやんわりって感じだ。これならいける。


 コルキスを起こさないようにゆっくりゆっくり動いて寝室から出て行く。


「ギィィァ」


「あ、アルフさんおはよう」


「今日は早いな」


「……」


 1階のリビングで朝食を食べていたコラスホルトたちとグルフナが挨拶してきた。ちなみに、俺たちの寝室は2階の階段横に設置された隠し部屋だ。


「おはよう。皆、えらく早いな。まだ夜明け前なのに」


 3人はいつもならもう少し遅い時間に起きてくる。


「今日はこの町を探検しようと思ってるんです」


「セイアッド帝国なんてなかなか来られないからな」


「……」


 なんだ? ノシャがずっと無言で俺をチラチラ見てくる。


「俺も朝食を――」


 食べようと思って椅子に手をかけた時、ドアをノックする音が聞こえた。


「こんな早くに誰だ?」


 当然はてな顔の3人。そうだよな、昨夜帰って来てから1歩も外に出てない3人に分かるわけないよな。そういえばここって危険特区で機密エリアでもあるんだっけ……念のためにグルフナを持って、と。


「どちら様ですか?」


「夜明け前に申し訳ありません。商業ギルド、ドゥーマ本部のシェルでございます。昨夜、人形でお知らせいただきましたものをお届けに上がりました」


 シェル……ああ、エモナさんの部下の人か。人形でお知らせって、ロポリスかモーブが何かしたのかな。


 不思議に思いつつもドアを開けると、そこには危険なダンジョンに潜るのかというほど徹底武装したシェルが立っていた。


「えっと、お届けって……」


「はい、同居されているお三方の許可証と生涯フリーパスをお持ちしました。申請し忘れていたとかで。今後はご注意下さいね」


 おお、気が利くじゃないかロポリス。いや、モーブか? ま、どっちでもいいけど。ちょうどエモナさんに伝えなきゃと思ってたんだ。


「すみません。わざわざありがとうございました」


「いいえ。できるだけ早急にとのことでしたので。それに素晴らしい差し入れも頂きましたから」


 巻き貝の被り物で表情は見えないけど、嬉しそうな顔をしてるんだろう。そんな声だ。差し入れなんて知らないけどさ。


「よ、喜んでもらえて良かったです。あの、ちなみに何でそんなに武装を?」


 気になるんだよなぁ。つかこれをスルーするなんて無理だ。


「え? もう、ご冗談が上手いんですから。ここは大神殿とパトロンケイプの影響で魔物が出る地区じゃないですか。あ、申し訳ありません、呼び出しみたいです。それでは、アルフ様にケラーミスタ神の御加護がありますように」


 首から下げた魔道具を見て、シェルは行ってしまった。問題発言を残して……。


 魔物が出るから危険特区か。とりあえずコルキス起きたら尋問だな。コラスホルトたちの探検も止めさせよう。


 手渡された許可証とフリーパスを持ってリビングに戻る。


「セイアッド人は本当に顔を隠してるんですね」


「ありゃ、デズデモナ巻き貝か? あいつ女だったよな、いい趣味してるぜ」


「番に殺される貝……」


 どうやら3人は壁の陰からこっそり見ていたようで、シェルの被り物について喋り始めた。俺も気にはなるけど、とりあえず許可証とかを渡しておこう。


「いいか? 俺たちは移民ってことになってる。この許可証は出掛けるときに絶対持ってなきゃ駄目みたいだからな。あとこっちが魔物鉄道(ドラゴンポポラ)の生涯フリーパス。どれも失くすなよ」


 フリーパスを渡すとコラスホルトが倒れた。ランペルは喜びに震え、ノシャはロポリスに祈りを捧げ始める。


魔物鉄道(ドラゴンポポラ)の生涯フリーパスとかヤバイな!!」


「ああ、ロポリス様。いったいウチらをどこまで幸せにしたら気が済むのですか。でも感謝いたします」


 とりあえずグルフナにコラスホルトをソファまで運ばせる。他の2人も落ち着くまで放っておこう。なんだか関わると面倒臭そうだ。


 朝食を済ませて食後の紅茶を飲み終わった頃、ようやくランペルとノシャが落ち着きを取り戻した。そしてコラスホルトを乱暴に揺さぶって目を覚まさせる。


 いったい何がそんなに嬉しいのか聞くと、このフリーパスを手に入れるには大金と強力なコネが必要で、貴族でもなかなか手に入れられないらしい。なにより、好きなだけドラゴンに乗れるというのが堪らなく心を踊らせるという。


「そんなにすごいものだったのか」


 そう、うっかり口にしたせいで3人に少し怒られてしまった。ロポリスたちにも言われたけど、俺もまだまだ王子感覚が抜けてないんだな。気を引き締めないと。


「だけど残念なお知らせだ。探検は止めた方がいい。この辺りは魔物が出るらしい」


 落ち込むかと思ったら、3人ともキョトンとして俺を見てきた。


「じゃあアルフさんも一緒ならいいですよね?」


「決まりだな!」


「聞きたいこともあるし、よろしくお願いします」


 なんでそうなる!?


「ゲァギィア」


 あ、そうか。俺のこと、めちゃくちゃ強いと思ってるんだっけ。実際は8歳の弟にワンパンで倒される実力なんだけど……。


「なんの騒ぎ?」


「朝から賑やかだな。お早うアルフ、それから皆も」


「っ!!?」


 目をこすっているコルキスと半裸のルトルが寝室から降りて来た。ノシャが少し震えている。なんだか今日は様子がおかしい。


 しかしコルキスもルトルもお構い無しで俺に近付いて、コルキスは吸血を、ルトルはキスをしてきた。


「わぁ……」


「ひゅ~ぅ」


「朝から尊い……」


 コラスホルトは真っ赤な顔を手で隠し、その間からしっかり覗いている。ランペルはもっとやれと囃し立て、ノシャは瞬き1つしない。


 そして俺は硬直。主にルトルのせいで。


「痛っ! これからは慣れてくれよ」


 コルキスの吸血が移ったと同時に俺から離れたルトルが、3人にそう言って朝食を取りにキッチンへ行った。


「オイラ、ドキドキしちゃったよ。大人ってすごいね」


「いや、ルトルさんがだろ」


 未だに顔の赤いコラスホルトは何かに目覚めてしまったかもしれない。ルトルのせいだ。俺は責任を持たないぞ。


「これから毎日……素敵」


 ノシャはうっとりした顔をしたあと、羽角を動かしながらコラスホルトに近付いて行った。


 俺はコルキスとルトルに早朝から騒いでいた理由を話した。特にコルキス。問い詰めると、魔物は日が昇れば現れないから問題ないと悪びれない。ルギス外壁の上層に浮かんでいる家が多かったのはそのためだとも。


 魔物はルギス外壁の上層だけに現れるため、夜は土地ごと家を切り離して外壁から距離をとるんだとか。


「それに魔物もあんまり強くないよ。出てもせいぜいBランクくらいだもん」


 俺の膝に乗ってジュースを飲みながら言ってのける我が弟。いやいや、Bランクって普通は強敵だからな。まぁ、俺もグルフナと一緒に遊び半分で倒したことあるけど……あれ? そうなるとコルキス言うとおり危険は少ないのか?


「コラスホルトたちはルトルと行ってきなよ。迷ってもルトルなら兄様の居場所が分かるから」


「そうなのか?」


「いや、分からない……」


 ルトルも困惑している。


「ルトルの新しい固有スキルを使えばいいんだよ。ていうかずっと無意識で使ってたの? ちなみに兄様もルトルの居場所が分かるからね」


 新しい固有スキルと言われてルトルは納得したようだ。俺にはよく分からないけど、この迷子多発都市でその効果は助かる。


「俺もアルフと一緒がいいんだが」


「今日はダメ。だって……ウルム様に乗るんでしょ? ぼく、絶対嫌だからね。兄様はぼくと近所にご挨拶回りだよ」


 何故、俺となんだろうか? 


 全員同じ疑問を抱いたようで、結局挨拶回りをしたあとに皆で時都ドゥーマ、特にルギス外壁を探検することになった。


 それにコルキスがいれば迷わないしな。


 一応、半泣きになったコルキスに無理せず留守番するかと聞いたけど、一緒がいいと俺の服を掴んできた。


 何がそんなに怖いのか分からない。まあ、俺がバドルと妹のカーミラに恐怖するのと似ているのかもしれない。理由なんて無い。ただただ恐ろしいんだ。


 まだ日が昇るまで時間があったから、俺はルトルとノシャと一緒に挨拶回りの手土産に選んだものを、綺麗に包装して時間を潰すことにした。


 残りの3人、そしてディオスとグルフナは、各々が考案した格好いいポーズを披露して採点しあっている。歳が近いせいか意外にコルキスがコラスホルトたちと馴染んでいた。


 挨拶回りは大成功で、どの家でも手土産は喜ばれた。特にスノーエルフの夫婦が大喜びで引っ越しパーティーを開いてくれることになった。俺の贈り物センスはばつぐんだな。


 でも、楽しかったのはここまで。


 俺は今、何故か物凄い剣幕のお姉さんに絡まれている。


 薄情なコルキス達は無関係を装い俺を置いてどこかへ行ってしまった。ルトルまで……信じてたのに。まあ実際はルトルがいれば俺が皆の居場所が分かるからと、引っ張って行かれたんだけどな。


「あんた、魔石屋の近所で1等魔石を配るなんていい度胸してんじゃないの!! それもタダで!!!」


 お姉さんのお怒りの原因が判明した。


 どうやら俺の贈り物センスは壊滅的だったようだ。

~入手情報~


【種族名】デズデモナ巻き貝

【形 状】薔薇巻貝型

【属 性】水/土/運

【食 用】可

【アルフのうろ覚え知識】

ウルユルト群島国の固有種。

雄は個体によって様々だが、雌はすべて薔薇のような同一の美しい形をしている。大型の巻き貝であり貝類では珍しく番を作り生活する。しかしある日突然雄が雌を殺害し、その後、雄も数日で死亡するという謎の生態をしている。味は素晴らしいが、貝殻は不運をもたらすとして大変嫌われている。


~~~~~~~~~


【名称】プレシャスフィアンセ

【発現】ルトル・アトゥール

【属性】愛

【分類】偽純愛型/固有スキル

【希少】★★

【コルキスのヒストリア手帳】

兄様の婚約者になると必ず発現する固有スキルだよ。レベルや恋愛感情等、色々なものがより強い方に引っ張られて同等になるみたいだね。さらにお互いの居場所や体の仕組み、いずれは魂までも把握できるようになっていくんだ。兄様に対してのみ発揮する恋愛的効果も存在するよ。兄様と結婚するとさらに強力な固有スキルになるみたい。婚約を解消するか兄様が死なない限り死ねなくなっちゃう効果もあるね。婚約を破棄するとこの固有スキルは消失するけど、兄様対する執着心だけは残り続けるよ。

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