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167話 新しい我が家

本文と後書き修正。

 気を取られはしたがとりあえず人形は無視しておこう。どうせ俺たちを追ってきたロポリスとモーブなんだから。


 問題は土地だ。周りに建物は無いし、他では見られないすごい景色を一望できるところはめちゃくちゃ良い。だけどなぁ、肝心の広さがなぁ……ざっと見ただけでも、庭なしのオルトロス小屋を建てられるかどうかって広さしかない。


 とか思っていたら、人形がヒソヒソ話をし始めた。でも念話だからバッチリ聞こえてくる。つまり、わざと聞かせてるんだ。


『やだやだ。これだから元王子と元上級貴族は』


『普通、これは広いっていうよね』


 どうやら俺とルトルが土地が狭いと言ったことに文句があるようだ。


『モーブさん、見ました?』


『見たよロポリスさん。元王子はオルトロス小屋くらいしかないって顔してたね』


 バレてる。そんな顔に出てたか? なんとなしにルトルを見たら、俺と同じことを考えていたらしく自分の顔を触っていた。


『あら? しかも子供を泣かせてるじゃない』


『うわぁ……あれはもう駄目だよ。精神が腐ってる』


『『やだやだ』』


 最後は2人揃ってため息をついた。精神が腐ってるとかなかなかの悪口じゃないか。どう言い返そうか考えていたら、ロポリスが側まで来て額をグリグリしてきた。


 人形の顔が不快そうに歪んでいく。


『なに黙って突っ立ってるのよ。ここで野宿でもしたいわけ?』


『え、それはちょっと……僕、最近ベッドにこだわってるんだ。地面に寝転がるなんて考えられないよ。こんなでも大精霊だしさ』


 モーブも寄って来て俺の額をぺしぺし叩いてくる。こちらも俺に触れるたびに人形の顔が嫌そうに歪んでいく。

 

「少しお待ち下さい。すぐに秘匿されし大宮殿(ヒドゥンパレス)を出します」


 ルトルが慌ててアイテムボックスから秘匿されし大宮殿(ヒドゥンパレス)を出した。


 うーん、やっぱりどう見ても庭なしのオルトロス小屋だよなぁ。


 この土地に収まるように調節すると、改造前の秘匿されし大宮殿(ヒドゥンパレス)隠れ物置小屋(ヒドゥンシェード)を最大にしたくらいの大きさなんだから。


「ぐすっ、ルトル違う」


 少しがっかりしていたらコルキスが腕の中から離れて行った。そして一旦、秘匿されし大宮殿(ヒドゥンパレス)を小さくしてアイテムボックスにしまい、全員の土地浮遊許可証を土地に置くように言う。


「うわっ」


 許可証は土地に吸い込まれて消えた。すると土地が外壁から切り離されて浮かび上がった。そこに改めて見覚えのある館を出したコルキス。土地から館が大幅にはみ出してるんだけど、よく浮かんでられるな。


「これは俺の……」


 ルトルが目を潤ませた。


 ていうかいつの間にルトルの家をしまったんだろう。それにコルキスのアイテムボックス、大容量すぎないか?


「それから……ぐすっ、アルコルパペット」


 ルトルの反応に少し気をよくしたコルキスがスキル発動させた。ポンっと音を立てて現れたのは可愛くデフォルメされた、あの胡散臭いアルコルの塔のダンジョンマスター、アルコルの人形。


 あんな胡散臭い奴がああも可愛くなるとか納得いかないが、コルキスはそれを両手にはめて家を変形させ始めた。


「内装も変えるから待ってて」


「これが俺の……」


 さっきとは違う意味で目を潤ませているルトル。可哀想に。


 家の外観を土地に合わせて、えらく斬新な形に整えたコルキスは、小さめの秘匿されし大宮殿中(ヒドゥンパレス)を屋根に乗せると中に入って行った……はっ! まずいぞ、任せっきりはまずい!


「ルトル、まずいぞ。全部コルキスに任せるとアルコルの塔――じゃないや、ヘパサ川の塔みたいな家に住むことになる」


「そ、それは困るな」


 若干、引きつった顔になったルトルが家に駆け込んで行った。


『じゃあ僕もアイディアを提供してこようっと』


 モーブもそう言って姿を消す。ロポリスも行こうとしたから、ちょっと捕まえて気になったことを聞いてみた。


『ああ、アルコルパペットね。あのスキルは良いスキルよ。だってね――』


 なんだか嬉しそうに語り始めた。


 さっきコルキスが使ったスキルはアルコルパペットといい、アルコルの片手遣い人形、もしくはコルキスと俺そっくりの人形を出せるらしい。


 アルコルの片手遣い人形の場合、一定時間アルコルの力を2パーセントくらい使用できる。


 つまりたいしたことはできず、せいぜい物の形を変えたり何かに囲まれた空間を広げたりする程度だと言う……いや、すごくないかそれ。あ、だからコルキスのアイテムボックスは大容量なのか。


 んで、コルキスと俺そっくりの人形は等身大。ステータスは半減した状態だが思うように動かせる。但し、固有スキルは使えないと……コルキスはともかく俺の人形の使いとは……。


「俺の人形、全然使えないじゃないか」


『そんなことないわよ。魔力は豊富なんだからそれなりに使い道はあるわ。単純に闇魔法で自爆させるとか、魔法を放つ瞬間の敵に、魔力操作で体内強化だけしたアルフを抱き付かせて驚かせるとか……タイミングが良ければ、敵はそのまま自分の魔法で死ぬわ』


 後半の方法はまさに出来損ないの俺人形だからこその技だな。生身じゃ絶対やらない。


 とにかく俺の人形はもれなく爆散する運命なんだと悟った。


 それから数時間、ああでもなこうでもないと言い争い、時には表に出て喧嘩をした俺たちはついに家を完成させた。まあ、最初から完成はしてたんだけど改造って意味で。


「それにしてもコルキスの人形攻撃はたまったもんじゃないな」


 リビングで紅茶を淹れながらルトルがこぼす。


 そう、ルトルはさっきロポリスが言った俺人形の自爆や体内強化突撃を食らっていた。


「ははは、そうだな」


 俺としては木っ端微塵に飛び散る自分を見て複雑な思いだったけど。


 しかもそれを大笑いしながら見ていたモーブが爆発のほとんどを闇に葬ってくれなければ、ここら一帯が吹き飛んでいただろう。なんとも恐ろしい威力だった。


 ていうかまさか屋根裏部屋を作るかどうかであそこまで揉めるなんて……俺としては、すんなり採用された隠し通路や隠し部屋の方がいらないと思うんだよ。城じゃないんだからさ。


 かくいう俺もアドイードの部屋を作るんだと言い張って、コルキスと喧嘩してしまったけど。ただ俺はルトルと違ってコルキスの亜空間体術とやらであっさり負けた。あれ、卑怯すぎるだろ。


 小型の亜空間を何個も作り出して、それを利用しながら戦うとか……どうすりゃいいんだよ。


 コルキスは前にいるのに、いきなり死角から殴られるとか防ぎようがない。厄介なことにディオスもその亜空間を利用できるんだ。


 そんでもって1番揉めたのが寝室。


 毎晩俺と2人だけで寝たいルトルと、毎晩俺と一緒に寝たいコルキスに、たまには1人で寝たい俺。


 俺もちょっと本気で戦おうとしたら、コルキスにはいつでも一緒に寝るって約束をしたと、ルトルにはそういう行為をOKしたじゃないかと詰め寄られて、これまたあっさり引き下がった。だってさ、2人ともどえらい真顔で怖かったんだ。


 ちなみにそれを見たロポリスとモーブは――


『ぷぷぷ、アルフったら立場弱すぎ……それにルトルは毎晩アルフとしっぽりするつもりなのね』


『まあタイタンは絶倫っていうしね。しっぽりっていうか、がっつりっていうか……とにかく良かったねアルフ』


 ――と楽しむだけで助けてくれなかった。


 結局、3人で寝ることに落ち着いた。その代わりルトルは、きっかけがあれば何処だろうと手を出すから覚悟しておけと怖いことを言ってきた。


 絶倫……ところ構わず……俺の想像していた婚約者との同居生活からかけ離れていく。


「絶倫かぁ、体力強化の特訓しなきゃ死ぬかもな……」


「何か言ったか?」


 しまった、つい口から出てしまった。


「な、なんでもない」


 コルキスがいたらまたあの言い表しがたい不愉快な顔をしてただろう。そんなコルキスは今、コラスホルトたちの部屋を改造している。ミュトリアーレから帰って来た3人が話を聞いてコルキスに拝み倒したんだ。


 そういえば3人の許可証とかもらってないな。明日もらえるかエモナさんに聞きに行ってみよう。


「ミルクティーにしてみた」


「ありがとう」


 うっすら湯気の立ち上るミルクティーが反射する光は不思議と甘そうに見える。


 ま、ルトルが淹れてくれる紅茶はいつも美味しいんだけど……ほら、やっぱり………アドイードがいればもっと賑やかで楽しかったんだろうな。


「しばらくお預けか」


 ぐっ、むせそうになった。なんだよ、さっきの聞こえてたんじゃないか。


「そ、そうだな……我慢できそう?」


 わりとさらっと言ってのけたルトルだけど、たぶんとても残念がっている。


「爆発する前に仕掛けるから平気だ」


 ちょっと赤くなって紅茶を飲むルトルに俺もつられてしまう。チラッとルトルを盗み見たら、バッチリ目が合ってしまった。あ、顔が近付いてくる…………はっ!!


 人形が見ている。


 やつらは然り気無くインテリアの振りをして景色に紛れているから質が悪い。甘い空気を発し始めた俺とルトルに耐えられなかったんだろう、素早く別方向を向いたけど2つとも顔がニヤけている。


「ロ、ロポリスたちが見てる」


「……」


 ルトルはゆっくり離れていった。


『何よ~。気にせずやっちゃいなさいよ』


 ロポリスが文句を言いながら立ち上がる。モーブはこっちに飛んで来て――


『何事も君が積極的にいかなきゃだよ。アルフは流されやすいから、押せば押しただけ……ね』


 余計なことを言ってニヤニヤ。


「も、もう寝る!」


 俺はまだ熱いミルクティーを一気に飲み干して寝室へ向かった。


「まったく、ロポリスとモーブは……まあちょっと助かったけど」


 婚約者と意識してから、どうもルトルの真剣な顔を見ると恥ずかしくなる。今もまだ顔が熱い。こんな状態であんなことや、こんなことや、そんなことかできるんだろうか。


 そういえばどっちが上でどっちが下なんだろ。見合いのついでに求められた夜の社交(・・)では半々って感じだったから……ルトルのよがって悶えるを見てみたいけど、あのでっかいので………うぁ、やめだやめだ! どっちを想像しても恥ずかしくて仕方がない。


「はぁ、寝るにはちょっ早いし、卵を孵化させるか」


 革袋から偽卵として保管していたミステリーエッグの卵を取り出す。


 これはアイテムボックスが使えない俺が思いついたアイテムの保管方法だ。卵を偽卵にするっていう、なんだかよく分からない方法だが、偽卵は大きさを砂粒と同じにできるから凄く便利だ。そうすることで中身ががどういうものか分かるんだ。鑑定に似た性能が追加されてるのも、きっと50の祝福の影響なんだと思う。


 ちなみに偽卵にした食べ物が腐ったりしないかは実験中だ。


「やっと終わったよ」


 コルキスがうんざりした顔で寝室へやって来た。


「お疲れ」


「ランペルたちって遠慮がないんだもん。ちょっと疲れちゃったよ」


 心臓がギュッとなった。


「大丈夫なのか!? ほら、吸血していいぞ。早く血を吸って元気になるんだ!」


「心配しすぎだよ。でも、まぁせっかくだし? 吸血するね」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、嬉しそうに吸血するコルキス。まさか吸血の痛みを感じて嬉しく思う日がくるなんてな。


「けぷっ。ああ美味しかった」


 満足そうなコルキスを見て安心する。


「あのね兄様、ルトルとのこと邪魔してごめんね。でも、もうちょっとだけでいいから、ぼくが大きくなるまでは一緒に寝て」


 急に甘えてきた。この突然見せるコルキスのデレに俺は弱い。


「気にするな」


「くふふ、ありがとう兄様」


 そこへルトルもやって来た。俺とコルキスを見てピクッと動いた眉毛が少し嬉しい。


「ルトルも来たしもう寝よう」


「ちなみにコルキス。あとちょっとってどれくらいなんだ?」


 おっと、ルトルにも聞こえてたんだな。


「うーんと……」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたコルキスが、グリンホーンフェンリルに不完全変身した。その瞬間、俺は反射的にコルキスの尻尾をもふっていた。


「久しぶりの尻尾、狼獣人の尻尾、もふレベル最大の尻尾! ああ堪らん!!」


「兄様がこれに飽きるまでだから、1000年くらいかな」


「アルフ……ちょっと来い。話し合おう」


 俺はコルキスから引っぺがされてルトルに連行された。

~入手情報~


【名称】アルコルパペット

【発現】コルキス・ウィルベオ・クランバイア

【属性】時

【分類】精霊使役・人形型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆☆☆

【アルフの聞きかじり情報】

ダンジョンマスターであり、時の上級精霊でもあるアルコルの片手遣い人形を出現させ、装着すると一定時間彼の力を2パーセントほど借りられるらしい。また、ステータスが半減かつ固有スキルも使用不可だが、数分で消滅するコルキス本人と俺の精巧な人形を作り出して操ることも可能。1日に8回まで使用可能である。爆散する自分を見るのは気持ちのいいものじゃないよな……。


~~~~~~~~~


【名称】亜空間体術

【発現】コルキス・ウィルベオ・クランバイア

【属性】時

【分類】空間歪曲型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆☆☆

【アルフの実体験情報】

小型の亜空間を作り出し、それを利用しながら戦う。亜空間にはコルキスと使い魔しか入ることができず、さらに魔法も完全に遮断するっぽい。作り出した亜空間を消すまで体力を消費し続けるらしいが、俺は持久戦に持ち込むことすら不可能で、死角から現れたコルキスにズドン。ぺちゃっと倒れたところにディオスからバチん、ベチん。とても痛かった。

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