14話 地下4階
後書き修正
やけに長い階段を降りきると、地下4階はさっきまでの階とはかなり違っていた。
木造の大きな神殿が目の前に建っていて、神殿の入り口には、ドリアードみたいな木の精霊っぽい像がいつくも並んでいる。
「今までと全然違う雰囲気だね」
さっきのやり取りで少し気まずくなってしまったのを和らげようと、いつもみたいな感じで姉様に話しかけた。
「本当ね」
姉様も同じ思いだったのか、笑顔を見せてくれる。
「妙に気合い入った造りだよな。ちなみにさっき来た時にはこんなの無かったぞ」
どういうこと? 俺も姉様も勇者の顔に目を向けた。
「地下3階もそうだったけど、やっぱりダンジョンコアが作り変えてるんじゃないか?」
「何のためにそんなこと……」
全くだよ。それに魔物が全然いない。
「ねぇ、神殿の中には魔物がいるのかな?」
「魔物の気配は感じないわよ」
じゃあ、宝箱とかあってダンジョン踏破とかってなってるのかな。
「ダンジョンの最下層って普通はダンジョンボスがいるよね?」
「うーん、産まれたてのダンジョンにはいないこともあるな。それか神殿に入ったらポップするようになってるとか」
そうなんだ。
ダンジョンボスはいないといいな。今までの魔物とは比較にならないくらい強いんだろうし。
もしボスがいたら倒すのは勇者と姉様に任せて、俺は飛んできた魔法で卵作りに徹しよう。
「とりあえず入りましょう」
「そうだな」
そう言って勇者と姉様は神殿に向かって歩き出した。
「ま、待ってよ」
「あ、そうだ。アルフには防御結界を掛けとかなきゃね」
姉様が振り替えって右手を俺の頭に置いて詠唱を始めた。
「じゃあ俺も結界をかけるか。詠唱を待つのが面倒だから俺が先にかけるぞ。ジル、重ねがけする詠唱を追加しろよ」
姉様は一旦手を離し、勇者の結界が完成するとまた俺の頭に手をかざした。
勇者は俺に触りたいだったな。まぁそれで安全が確保されるなら頭くらい好きなだけ触ってくれていいけど。
「うん、かなり頑丈な結界が張れたわ。じゃあ行きましょうか」
ジル姉様はどこかウキウキした様子で神殿に向かって歩き始めた。
「それにしても見事な像だわ。植物の精霊達がモチーフね」
神殿の入り口まで来ると姉様が立ち止まって像を眺め始める。
「そうだよね。あれなんか特にドリアードに似てる」
「あら、本当。人を小馬鹿にしたような表情が特に、ふふっ」
像を見終わると姉様に促されて神殿の中に足を踏み入れた。
神殿の中は1本道で両脇に入り口と同じ像が並んでいる。
しばらく進むと中は大広間になっていて、中心に大きな樹がぽつんと生えている。
「何だか不気味だね」
異様だったのは、壁一面に入り口にあったのと同じ像がびっしりと並んでいることだ。
「ええ……」
さすがにこれだけの像が並んでると怖い。全部の像がこっちを見てるような気がする。
「やっぱりボスはいないみたいだな」
良かったー。
「じゃあ隠し扉や宝箱を調べたらダンジョン踏破だね」
「そうだな」
「私は隠し扉を探すわ。ソウタとアルフは宝箱を探して」
姉様は浮かび上がり行ってしまった。
たぶん、あの浮遊魔法が発動する装備は姉様の物になるんだろうなぁ。相当気に入ってるっぽいし。
「アルフ、あの像が持ってる玉が宝箱だ」
姉様を見ながら俺も浮かびながら移動したいなんて思ってたら、勇者が早速宝箱を見つけたらしい。
「よく分かったね。普通あんなのが宝箱なんて思わないよ」
「鑑定スキルがあるからな。ちなみにあの宝箱を開けるとブランチニードルの魔法が発動するっぽいから気を付けろよ」
え、俺が開けるの? 危ないなら勇者が開けてくれよ。
「気を付けろって言われても、どうすれば……ソウタ兄ちゃん開けてよ」
「ミステリーエッグがあるだろ。宝箱とブランチニードルの卵でアイテムを2つゲットだぜ!」
あぁ!
そうか、ミステリーエッグを発動させながら宝箱を開ければいいのか。
「ボゲモンには反応しない、か」
よく聞こえなかったけど、勇者が何か呟いた。
「え? あ、罠でも大丈夫なのかな?」
「……魔法だから問題無い。ほら、ビビってないでやってみろって」
「うん。でも何かあったら絶対助けてよ」
「分かってるって」
俺は勇者に言われた通りミステリーエッグを発動した。その瞬間、魔力が消費されて卵が2個できてしまった。
あれ、何で?
「まだ宝箱開けてないのに……」
勇者の方を見ると勇者も首を捻ってる。
「あ、そうか。さっきの防御結界が卵になったのか」
「え!? じゃあ今俺は無防備ってことじゃん」
「物理的にはな。魔法に関してはミステリーエッグを発動してるなら何の問題も無いだろ」
そ、それはそうなんだけど、さっきまでとは安心感が違うよ。
「心配しなくていい。それを開けたらまた防御結界をかけてやるから」
「わ、分かったよ」
じゃあ改めて……
「わっ!?」
宝箱を開けると、中からブランチニードルが飛び出してきた。
すぐ卵になったけど怖すぎる光景だったよ。
「よしよし、頑張ったな」
勇者が頭を撫でてくる。止めてくれ、本当に。
「えーと、宝箱の中身は……木のナイフか」
「木のナイフ? それって使い道あるの?」
「結構良いものだと思うぞ。マジックアイテムだからな」
そうなんだ。てっきりその名の通り、木で出来ただけのナイフかと思った。
「ついでにその卵も孵化させようぜ」
「そうだね」
卵からは小さな風の魔石とうるうるウールとキラーモスの眼が出てきた。
うるうるウールか……これも絶対姉様が持っていくな。
部屋の壁中にある200体くらの像を調べて回ったけど、宝箱は全部で2つしかなかった。
もう1つの宝箱の中身はオルデヌーグの魔書。これは母上へのお土産にしよう。
ちなみに2つ目の宝箱の罠はポイズンミストで、卵にしたらフフルの実が出てきた。それと、2回目の防御結界で出来た卵はゾッチル草だった。
凄く疲れた。
「隠し扉は無かったわ」
姉様も色んな所を調べたようで、げんなりしてる。
勇者だけがピンピンしてるな。あんな変な奴でも、勇者は勇者か。
とりあえず勇者が俺達に体力回復の魔法を使ってくれたけど、気持ち的にもうちょっと休みたい。
「ねぇ、あの大きな樹の下で少し休もうよ」
「そうね。私ももう少し休みたいわ……ソウタ、あの樹に危険はないかしら?」
姉様も俺に賛成してくれて勇者に確認してくれる。
「あぁ、この部屋に入って真っ先に鑑定したけどあの樹は問題無いぞ。問題なのは像の方だからな」
ん、像が問題なの?
「まさか動く像で襲いかかってくるとか?」
違うと言って欲しい。だって凄い数の像だぞ。
「そうだ。入ってきた一本道へ引き返そうとすると襲いかかってくる」
「嘘でしょ、この数全部が?」
「あぁ、ちなみに神殿の入り口にあったのもそうだし道の両側に立ってたのも全部だ」
最悪じゃないか。
のほほんと眺めてた時に教えてよ。
「ソウタ兄ちゃん魔物はいないって言ったじゃないか!」
「俺が言ったのはダンジョンボスの事だよ。それに魔物の気配がしないって言ったのはジルだぜ」
勇者は俺は悪くないみたいな口調でさらりと言いやがった。
「ちょっと! 分ってたなら教えなさいよ!!」
その通りです姉様。
「大丈夫だって。この像達はたぶんAランクの魔物だろうけど、Aランクがいくら束になっても俺には敵わないさ。なんせ俺は勇者だからな、余裕余裕」
凄いだろーって勇者が俺にくっついてくる。ふざけんな、離れろ!
だいたい勇者は大丈夫でも俺と姉様は大丈夫じゃない。
俺は当然1体も倒せない。姉様は何とかなったとしても、この数じゃ大怪我しちゃうじゃないか。
「もう! 私はアルフを守るから、ソウタが全部倒しなさいよ」
「へいへい。じゃあ休憩し終わったら速攻で片付けるよ」
あ、そうだ。
「ねぇソウタ兄ちゃん、動いてない今なら安全に倒せるんじゃないの?」
名案だと思う。
動かないなら俺でも倒せるんじゃないかな。
「駄目よアルフ。こういう動く像は、動く前に攻撃すると酷いカウンターをされるのよ」
「経験者のありがたいお言葉だな、ハハハッ」
勇者が茶化すと姉様がキッと勇者を睨んだ。きっと姉様は勇者と旅してた時にやらかしたんだな。
「へ、へぇそうなんだ、気を付けるよ。ありがとう姉様」
今、姉様のご機嫌を損ねるのは不味い。
「と、とりあえず休憩しようよ。ね?」
「そうね」
部屋の中央にある樹へ向かう途中に姉様が勇者にコソッ何か言ってたけど、気にしてはいけない。
きっと姉様の失敗談だ。聞いてとばっちり喰らうのはゴメンだよ。姉様は母上同様に怒るとめっちゃくちゃ怖いんだ。
休憩中にダンジョンで手に入れた物をどうするか話し合った。
姉様は自分で見つけた下級天使の輪と草木の杖、あと欲しがっていた痺れ粉だけでいいらしい。
勇者はフフルの実と迷宮猫の首輪と悪魔と魂の鍵、それにうるうるウールを希望。
残りは俺の好きにすればいいって……正直言うと、感じの悪い人形以外はいらないなぁ。
あと、問題の魔神の大鍋は勇者がこっそり処分してくれる事になった。
「さてと、休憩もこの辺にして帰ろうか」
勇者は立ち上がって俺と姉様に防御結界をかけると、あっという間に出入り口の一本道に入っていった。
すると部屋中の像の目が緑色に光り動き出した。
「怖すぎるよ姉様……」
「大丈夫よ。勇者の防御結界はドラゴンのブレスも弾くんだから。でもだからって私から離れちゃ駄目よ」
「分かってるよ」
像の動きはそこまで早くないけど、手に持った剣や槍なんかを振り回しながらこっちに迫ってくる。
あ、宝箱を持ってた2体がめちゃくちゃ怒った顔してる。
その2体が叫び声を上げると、何も持ってない像達が一斉に魔法を放ってきた。
「うわわわわわわ!!」
ブランチニードルやリーフボムなんかの植物魔法が多いけど、ストーンバレットやソニックブームみたいなのを使ってるのもいる。
それに混じって他の像も槍や剣やを投げつけてくる。
上から弓矢で攻撃をしてくる像がかなりいた。
全部勇者の防御結界が弾いてくれてる。
「上にも像があったんだ……」
「そうよ、たぶんこの大広間全部で400体くらいじゃないかしら」
400体だって!?
普通そんなにAランクの魔物がいたら生きて帰るなんて不可能だよ。
それなのに勇者は余裕なんだ。やっぱり凄いんだなぁ。変な性格してるけどさ。
「さっきから全部遠距離攻撃ね。しかも投げてくる武器や矢も全部魔力を変形させてるだけだわ」
嫌な予感がする。
「アルフ、物理攻撃は無さそうだから全部卵にしたらどう?」
やめてよ姉様。
こんな結界が無かったら即死するような攻撃の嵐で無防備になるのは無理だよ。万が一、魔法以外の攻撃が飛んできたらおしまいだ。
「怖いからちょっと……」
「そんなこと言ってたらせっかくの固有スキルが成長しないわよ。固有スキルは使ってなんぼなんだから」
俺の固有スキルってこれ以上どう成長するんだろう。
「いや、でも……」
「いいからやりなさい。ソウタが戻ってきたらあっという間に全部倒すから今しかできないわよ」
うぅぅ、姉様って結構スパルタなのかな。
今までこんな無茶言わなかったのに……
「わかった……けど、無理そうなら助けてよ姉様」
「もちろんよ」
あぁ、ダンジョン踏破とか言わずにさっさと帰ればよかった。
俺は姉様に逆らえず、ミステリーエッグを発動させた。
~入手情報~
【名 称】木のナイフ
【分 類】呪剣
【属 性】植物/呪
【希 少】☆☆☆☆☆
【価 格】共通金貨120枚
【説 明】
木精霊の宿る樹木で作られた木製のナイフ。
このナイフには木精霊の呪いが込められており、ナイフで切り付けた部分を樹皮のようにしてしまう。
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【名 称】風の魔石
【分 類】魔石
【属 性】風
【希 少】☆☆
【価 格】共通銅貨5枚~
【説 明】
風の魔力が結晶化したもの。
魔道具や装備品に用いられる事が多い。先天属性が風だった場合、この魔石を 吸収し魔力の回復や一定時間風魔法の威力を上昇させることができる。希少性や価格は質よって大幅に上下する。
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【名 称】うるうるウール
【分 類】魚鱗
【属 性】水
【希 少】☆☆☆
【価 格】共通銀貨90枚
【説 明】
湿地帯に生息するミルセマフィッシュの鱗を糸状にしたもの。鱗は1匹からほんのわずかしか取れないので生産数の少ない素材である。厳密にはウールではないが、肌触りがウールに似ている為そう呼ばれている。肌を保湿してくれる。
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【名 称】キラーモスの眼
【分 類】蝶眼
【属 性】キラーモスの先天属性と同じ
【希 少】☆☆
【価 格】共通銅貨3枚~
【説 明】
キラーモスの目玉。
薬剤等の材料になる。特別な加工を施した物は装飾品としても人気がある。
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【名 称】オルデヌーグの魔書
【分 類】精霊召喚書
【属 性】夢
【希 少】☆☆☆☆☆☆☆
【価 格】共通金貨950枚
【説 明】
子供の夢を守護する精霊オルデヌーグを召喚でき、場合によっては契約も可能な魔法の書物。力の無いものが使用すると死ぬまで眠り続けることになる。オルデヌーグは無数の目玉がある杖と大きな鉈を持ちナイトキャップを被った老婆のような姿をしている為、悪魔と混同さがちだが子供には優しい精霊である。
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【名 称】フフルの実
【分 類】果実
【属 性】植物/火
【希 少】☆☆☆☆
【価 格】共通金貨5枚
【説 明】
食べると精力増強と男性器が大きくなる木の実。
子供がいない貴族や王族、自分に自信のない男性から非常に人気がある。
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【名 称】ゾッチル草
【分 類】毒草
【分 布】世界中の渓谷
【原 産】ゾッチル渓谷
【属 性】植物及び生息地の属性
【希 少】☆☆
【価 格】共通銅貨15枚
【説 明】
魔力の自己回復を阻害する草。効果は1日~3年とかなり個人差がある。
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【名 称】ブランチニードル
【分 類】中級植物魔法
【効 果】☆☆☆☆
【詠 唱】ネダラケンガ型基礎言語/乱文不可
【現 象】
鋭い棘の生えた枝で対象を攻撃する。込める魔力の量によって枝太さや棘の鋭さが変化する為、自在に扱えるようになれば特殊な大人のお店で重宝されるらしい。
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【名 称】リーフボム
【分 類】上級植物魔法
【効 果】☆☆☆☆☆☆
【詠 唱】ネダラケンガ型魔法言語/乱文不可
【現 象】
木葉のような形をしている爆弾であり、殺傷能力が極めて高い。対象に張り付け時間差で爆発させることも可能。込める魔力量によっては広範囲の地形が変形してしまうだろう。
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【名 称】ストーンバレット
【分 類】初級土魔法
【効 果】☆
【詠 唱】イアベルナ型基礎言語/乱文可
【現 象】
石のつぶてを作り出し対象を攻撃する。つぶては使用者のイメージがしっかりしていれば、ある程度変形させられる。
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【名 称】ソニックブーム
【分 類】初級風魔法
【効 果】☆☆
【詠 唱】キッファート型基礎言語/乱文可
【現 象】
初級風魔法の1種。
瞬間的に発生させた衝撃波で轟音を鳴り響かせ、対象の行動を妨げる。魔力の消費量が多いほど大きな音になり被害も大きくなるが、それならば別の攻撃魔法を使用した方が効率が良い。