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157話 夜までお休み

本文と後書き修正。

 領主館(ルトルの家)へ戻って来た。


「約束だぞドリアード。御褒美をくれ」


 全力でロポリスを追いかけ、領主館(ルトルの家)到着ギリギリで追い付いた俺はとても気分が良い。


『まさか本当に追い付くなんてなぁ。ほらよ、かなり珍しいものだぞ。ルトルのポケットからくすねておいたんだ』


 盗みを働いたくせに悪びれる様子もなく小さな植物の芽を渡してきた。すると俺に巻き付いたままのアドイードが手の平を覗き込んできた。


「こりぇ……アドイードの寝癖?」


『そうだぞ。ルトルがお前の頭から引っこ抜いたやつだ』


「うぬぬぬ、リュトリュ君いつの間に」


 どう考えても草原で追いかけっこをする前のあの時だろうに。本気で気付いてないっぽいアドイードは、俺から離れて考えるようにウロウロし始めた。ただ、離れないと言っていたとおり、体から伸びる蔦は俺に巻き付いたままだ。


「いつ? アドイード油断した?」


 時折立ち止まってぶつぶつ言いながら首を傾げる様子が可愛い。


『なぁに? 私で賭けなんかしてたの?』


 ひょいっと芽を摘まんだロポリスが俺とドリアードを見てくる。


『普通、賭けの対象にも何かしらの報酬があるものよね? だから私にも何か寄越しなさいよ』


 がめついロポリスがなんか言ってる。まあでも今回は俺のものを持っていかれるわけじゃないから別にいいや。


「ってロポリスが言ってるぞドリアード」


 芽をロポリスから取り返して保存小瓶に入れ、鞄に仕舞いながらドリアードに話を振る。


『はあ? そういうのは賭けに参加した奴の懐から賄われるもんだろ。だからアルフ、お前が用意しろよ』


「おいおい、なんでそうなるんだよ?」


 まったくもって意味が分からない。


『クランバイアの賭事を思い出してみろ。使い魔闘技や箒レースはそうじゃないか。参加者の手数料や賭け金で賄ってるだろ? アルフだって参加したことあるから知ってるよな』


 ……参加したことないけど。いや、町の視察中にアクネアやシルフィが俺の名前とお小遣いを勝手に使って大負けした挙げ句インチキに走ったあれか?


 負けに納得いかないからって、賭けた方の使い魔に力を授けて強引に再戦させたり、箒を改造したりで大事になったよな。使い魔の主や箒の持ち主は感謝してたけど、逃げ出した精霊たちの代わりに俺が主催者や母上たちにしこたま怒られた腹が立つ思い出のことか?


 そもそもああいった大人数が参加する賭けと今回の賭けは種類が違うだろ。


『私は貰えればどっちからでもよかったんだけど、ドリアードの話を聞いたらアルフから貰うのが正解って気がしてきたわ。ほら、さっさと報酬を出しなさいよ』


「は!?」


 ガラの悪いチンピラみたいな感じで絡んでくるロポリスがとても面倒臭い。そして逆らい難い。だってグルフナを持って威嚇してくるから。


 あのワクワクしたグルフナの様子。おそらくロポリスとの間で、何らかの取引が成されているんだろう。


 さっきグルフナは、己の食欲を満たすために平気で仲良しのアドイードを陥れていたくらいだ。主の俺に対しても万が一があるかもしれない。


「チッ、覚えてろよドリアード。じゃあロポリスに――」


 あげるものは鞄の中にあったゴミでいいかと思った時、ドサッという音が聞こえた。それから頬にペチャッっとしたものも当たったっぽい。


「なんだこれ?」


 頬を拭うと赤い色が手に付く。不思議に思いながら音がした方へ行くと、高い所から落下してきたであろうグチャっとした……え、これ肉片!?


「うわぁ!」


「アリュフ様どうしたの!?」


 アドイードが1番に駆け寄ってきてくれる。


『アルフったら驚き過ぎよ』


『肉片なんて見慣れてるだろ。魔物だって殺すし、何より毎日っていうほど肉食ってるだろお前。あれも言っちまえば肉片じゃないか』


 ちょ、止めろよそういうこと言うの。アドイードも、肉片に近付くんじゃない。


「お、おい。何やってるんだ?」


 アドイードが肉片を指でツンツンしている。


「えっとね~、こりぇを~、こうして~、オエェ」


 アドイードが吐いた。そりゃ肉片をあんな間近で見ればそうなるだろうさ……うげっ、肉片から何か生えてきたぞ。


「ありぇ? この肉片さっきの女の子のだよ。見て見てアリュフ様」


 肉片から生えたドス黒い葉っぱを千切ったアドイードが、とことこやって来る。そしてほめて欲しそうな顔で、葉っぱを両手で差し出してきた。


 葉っぱはじっとりしていて感触が生肉のようだ。しかもビクンビクンと動く。気持ち悪いなぁこれ。


 ここだよとアドイードが指した部分には赤い文字が並んでいた。


 《千切りぇたルカ(元ルカーナ・ニア・マデイルナン)の腕だよ。怒ったルトル君がやったよ。食べても美味しくないよ》


 ルカがマデイルナン大公家の人間!?


『あら、アドイードったら鑑定の真似事もできるのね』


『ま、あんなのでもアドイードは中級精霊とほぼ同等の種族だからな。ちなみに今のはアナライズフルーツっていう植物魔法を使えば同じようなことができる』


 ちょっと吐きそうなのと、驚いているのとで言葉が出ない。


「お勧めしないけど、肉片がどんな味か知りぃたかったりゃこの部分を齧りゅといいよ」


 アドイードがいらない情報をくれる。齧るわけないだろ。それよりも――


「ルトルがやったって……」


『そりゃ、ルカーナはルトルの一族を皆殺しにしたマデイルナン大公の妹だもの。しかもジャコモの首輪で男に変装してたのよ?』


『その姿がまた兄のルカーシュカによく似てるんだ。そんなのが目の前に現れたら、ルトルが怒り狂ったってなんの不思議もないだろ』


 当たり前じゃん。くらいの軽い感じで喋るロポリスとドリアードが怖い。


「だからって何もしてない妹の腕を千切ることないだろ」


『何もしなかったから怒ってるのよ。アトゥール家の取り潰しって元々はルカーナたちの母親、大公妃だったミリツィナが夫のマデイルナン大公を殺したから起きたのよ』


『マデイルナン公国では貴族の裁判は大公家と侯爵家が取り仕切るんだ。大公家から2人、侯爵家から1人選出されてな。ルトルの両親の場合、1人でも処刑反対者がいれば、アトゥール家は国外追放になるよう予め決められてたんだよ』


「じゃあルカは……」


『反対しなかったわ。というより裁判の途中で密かに退席して戻って来なかったの。憧れていたテティス辺境伯が糾弾されるのを見ていられないってね』


『新大公のルカーシュカは処刑に賛成する他なかったんだ。冷徹な大公でいなければならなかったし、ニルド侯爵と交わした密約の1つでもあったわけだしな。優しいルカーナなら必ず処刑に反対すると確信していたのに、いざ決を取る時に妹がいなくて焦った思うぞ。おまけにニルド侯爵まで密約とは違う処刑賛成の意を示したわけだからな』


『寸分たがわずニルド侯爵の筋書き通りに事が進んだわよね。あれには驚いたわ』


『アイツは本当に卓越した為政者だからな。人間だけの国ならば、だが』


 理解させたいんだか、誤魔化したいんだか分からない説明ありがとよ。コルキスが起きたら詳しく聞かせてもらおう。


「とにかく行かなきゃ」


『ルトルはコルキスの部屋にいるわよ。行きましょ』


「ギャ!」


 グルフナを掴んでコルキスの部屋を目指す。偽卵を使って外から向かおう。


「アリュフ様! アドイード、アドイードいりゅよ!」


『お前は私と一緒だ。行くぞ』


「いやぁーだー」


 しれっと蔦を切っていたドリアードに羽交い締めにされたアドイードに悪いけど、今は急ぎたいんだ。


 小さなコウモリの羽が描かれた外壁にグルフナの魔力を当て、入ったコルキスの部屋はとても静かだった。唯一聞こえてくる啜り泣く声……寝室にはへたりこんで項垂れているルトルがいた。


「大丈夫?」


「アルフ……俺……俺……」


 ビクッと肩を震わせたルトルが顔を上げた。とても弱々しく見えるその様は初めて会ったあの時のようだ。そっと立たせてリビングのソファまで連れて行く。


 落ち着かせようと視線を合わせたら、ガバッと抱き付かれた。力強いから結構苦しい。だけど、ずっと泣いてるルトルを思うとどうでもよかった。


「俺、幻を見たんだ」


 かなりのあいだ、静かに泣いていたルトルがポツリと呟いた。


「幻?」


「ああ。突然マデイルナン大公が現れて……そしたら俺、頭が真っ白になって、そいつを殺したんだ。首をへし折って、怒りに任せて殴りまくった。それでも収まらなくて手足を千切った。胴体と顔を何度も踏みつけて……気が付いたら全部消えてた」


 一部だけど俺の所に落ちてきたぞ。ルトルが覚えていないだけで窓から放り投げたんじゃないのか? 


「いつか絶対に殺してやろうと思ってた。大公家の奴らもニルド侯爵家の奴らも全員、絶対に。ここへ戻って来て皆と再会して、話を聞いて……地下の隠し部屋に散乱した皆の遺骨を見て決意を新たにしたのに……」


 皆と再会? 


『何よその顔。ここ、来た時からゴーストまみれだったじゃない。給仕までされてたのに気付いてなかったの?』


「え、あれ魔法じゃなかったのかよ」


「俺が頼んだんだ。俺にとっては子供の頃から親しんだ者たちばかりだが、アルフはそうじゃない。怖がらせたく……いや、アルフに怖がられたくなかったんだ。皆、俺の大切な人たちだから」


 ゴーストなら生前の記憶もわりとハッキリしてるっていうし、予め言ってくれてたら……うーん、それでもしばらくは怖がってたかもな。


「皆マデイルナン大公、ルカーシュカの大規模殲滅魔法から逃れたあと、魔眼で操られて殺し合いをさせられたんだ」


「魔眼……」


 何故かその言葉にドキリとした。


「それなのに、俺、ルカーシュカの死体が消えた時に凄くホッとしたんだ。俺は人殺しじゃない、良かったって……最悪だ」


 どうしよう。幻じゃないよって言うのが正解か、何か別の慰めの言葉をかければいいのか分からない。


「そっか」


 勝手に出てきたのはたったそれだけ。後に何も続けることはできなかった。


 開けっ放しだった部屋の入口から風が入ってくる。湿っていて、少し冷たい風。気が付くとルトルの寝息が聞こえてきた。


『ルトル、あなたは確かに殺したわ。でもそれはルカーシュカじゃない。妹のルカーナよ。あなたたちを救えるはずだったのに、それを放棄した少女』


 いつの間にか人形から身体を出したロポリスがとても優しい声で告げた。


「ロポリス」


 ルトルに聞こえてはいないだろうけど、一応小声で非難した。


『アルフにも言っておかなければいけないのよ』


 なら後で俺だけに言えばいいじゃないか――そんな考えが伝わったのかロポリスは首を振ってルトルの頭を撫でる。微かに動いたルトルと俺が頬重なって、生暖かい湿り気がじんわり馴染んでくる。


『ルカーナはね、本当はルカーシュカの大規模殲滅魔法に巻き込まれて死んでいたのよ、何年も前の今夜に。あの子も強引に生かされ続けた死体、ある意味で被害者なの。これ、見覚えないかしら』


 ロポリスが取り出したのは短めのロッド。ルカが大事そうに持ってたやつだ。シンプルな作りだけど、精霊文字で魔法威力増加の効果、魔神文字で魔力強化の効果が付与されている。さらに先端の透き通った石の奥には、古代神聖文字で魔法繰り返しの効果まで付与されていた。


「もしかしてこれ、バドル兄上のツインロッド?」


『……そうね。でももっとよく見て』


 ロポリスに言われて目を凝らす……げっ!!


「これ違う文字同士をリンクさせてロッドを強化する仕組みだけど、全部を古代神聖文字で構築し直すと――」


『そう、破滅の呪詛よ。長年ルカとルカーシュカによって呪詛にまみれた魔力で汚染されたこの国は、次の満月で滅びるわ』


「そんな、ルトルの故郷なのに。なんとかならないの?」


『できるけどしないわ。むしろこの国が滅ぶこと、マデイルナン公国の貴族やこの地に住まう民を皆殺しにすることは私たちの願いじゃない。もちろん、ルトルも例外じゃないわ』


 ロポリスは変わらず優しい声のまま信じられないことを言った。


「ちょっと待てよ! ルトルを殺すなんて許さないぞ!」


『それならルトルと婚約しなさい。アルフの婚約者は死なずに済む。例えそれがどんな相手であってもね。そういう契約だったじゃない。覚えてないの?』


 ロポリスが悲しそうな笑顔で頬を撫でてくる。途端に眠気が……。


『ルトルと一緒に夜までお休みなさい。早く笛の効果が切れると良いわね』


 暗闇の中、遠くでそう聞こえたような気がした。

~入手情報~


【使い魔闘技】

クランバイア魔法王国の公営ギャンブル。

使い魔同士を戦わせ、どちらが勝つかに賭けるギャンブル。基本的にトーナメント形式の勝ち抜き戦であり、優勝、準優勝した使い魔とその主には豪華な賞品と賞金が贈られる。


~~~~~~~~~


【箒レース】

クランバイア魔法王国の公営ギャンブル。

箒に乗った障害物レースで誰が1位になるかに賭ける。1位~3位、1位~最下位を当てるといったような賭け方も可能。レーサーは自らの箒と魔法を駆使して、他のレーサーに攻撃しても良い。レーサーには順位によって賞金が与えられる。


~~~~~~~~~


【名称】アナライズフルーツ

【分類】上級植物魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆

【詠唱】リアドフアドⅩ型魔法言語/乱文不可

【ドリアードのドヤ顔解説】

調べたいものに魔力で作り出した果樹の苗を発生させ急成長させる。実った果物を食べると、それがどんなものなのか知る事ができる。消費魔力はそれほど多くないが、魔力操作が極めて難しい魔法であり、よほどの実力がなければ失敗してしまう。その場合、くそ不味い果実になるし得られる情報が1文字なんて悲劇もおこる。


~~~~~~~~~


【名称】石孔雀のツインロッド

【分類】破滅具

【属性】雷/呪

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ロポリスの内緒話】

魔法王国王子お手製の2本で1つのロッドよ。

装備すると魔力操作が極端に難しくなるけど、通常のロッドよりも魔法の効果や威力が劇的に上昇するわ。さらに日頃から魔力を注いでおけば、それ応じた殲滅魔法も使用可能になるのよ。片方だけでも使用可能だけど不安定さは否めないわね。っていうのが製作者の意図した効果らしいわね。身の丈に合わないことはするもんじゃないわね。

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