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156話  密談は密室とお空の上で

本文修正。

 うーん、どうしようか。


 とりあえず町に戻る気になれなくてルカを追いかけて墓所まで来た。


  荒れた周囲とは違って墓所は綺麗に手入れされている。美しく形作られた墓所、特に廃墟を見下ろすように並んでいる2つの墓石は、残された者がいかに眠っている2人を大切に思っていたかが伝わってくる。


 《ミリツィナ・ニア・マデイルナンここに眠る》


 《====・ニア・マデイルナンここに眠る》


 墓石にはそれぞれそう書かれていた。ただ、片方の墓石の名前は削り取られている。


 ここ、マデイルナン大公家の墓所なのか。そう思うとシンプルで小ぢんまりとした印象に変わってくる。


 でもルカもジャコモもいない。これを見せたかったんじゃないのかな。


『察しの悪いアルフが何を考えてるか当ててあげましょうか?』


 ロポリスが頬っぺたをグニグニ突ついてくる。


「やってみろよ」


『ま、生意気ね。なんでルカがいないんだろ、この墓所を見せたかったんじゃないのかな。とか思ってるんでしょ? 正解よね?』


 今度は人形の右手でペチペチおでこを叩いてくる。右手でされると少しイラッとくるのは、人形サイズとはいえリアルな人間の腕みたいになっているからだろうか。いや、ルトルの腕を模しているからタイタンの腕か。まあそれはどうでもいいけど。


「正解だけど、違うのか?」


『違うわよ。ルカが……本当はルカーナっていうんだけど、あの子が見せたかったのはテティスの廃墟よ』


 ……廃墟? 


 え、じゃあアドイードがバラさなくても結局は俺が知ることになってたんじゃないのか?


 少し離れた場所でお仕置きされているアドイードを見たら、デカイ芋虫に囲まれてワタワタ、オロオロしていた。その手にはグルフナが握られている。


 ドリアードのお仕置きとは、魔法と固有スキルを使用せず芋虫を倒すこと。もし魔法とかを使ったらもっと酷い目にあわせるとも言われていた。たださすがに丸腰じゃあれだからと、ドリアードは素振りしていたグルフナを渡していた。


 じりじり距離を縮める芋虫。焦るアドイード。どこかやる気の感じられないグルフナ――あ、気付いてしまった。なんて可哀想なアドイード。あとで慰めてやるからな。


「い、芋虫、嫌りゃい……嫌りゃい!」


 アドイードが撃ってでた。芋虫目掛けて全力でグルフナを振り下ろす。けど、思った通りグルフナのやる気はゼロのようで、芋虫をひょいっと避けた。


「ど、どうして、グリュフナ君……」


 愕然とするアドイードに芋虫が襲いかかる。


「嫌りゃい、嫌りゃぃあぁぁーーーーー!」


 芋虫に纏わり付かれ、さらにはおしくらまんじゅうされて叫ぶアドイードは見てていたたまれなくなる。


『これは推論なんだがなアドイード。きっとお前に協力しなければ旨い植物を食わせてやると言った精霊がいるんじゃないか? 酷い事する精霊もいたもんだな』


 アドイードを見捨ててふよふよ浮かんでいたグルフナを掴んだドリアードが、悪どい顔で笑っている。既にアドイードには聞こえてないだろうけど。


「あのお仕置き必要だったのか?」


『どうかしら。ただドリアードが遊んでるだけかもね』


 思った通りだ。酷いことするなぁもう。


「はい、終わり終わり。泡吹いてるじゃないか、可哀想に」


 芋虫を偽卵にしてアドイードを救出。芋虫の支えが無くなったアドイードが地面にパタッと倒れた。


 ん? あれ?


「ああ!」


 凄い発見をしてしまった。芋虫を偽卵にする時、魂のことは何も考えてなかった。だからか、偽卵になったのは俺が見ていた芋虫の身体だけ。きっと数秒だけ空中を漂って消えていったあれらは芋虫の魂だ。


「な、なぁ。今のって……」


 振り返ってロポリスに確認してみる。


『芋虫の魂だったわ。偽卵ってそういう使い方もできるのねぇ。でも、通用するのはCランクの魔物までってところかしら』


 おお! てことは、Cランク以下の魔物は瞬殺できるってことじゃないか。しかも無傷で。素材価値が爆上がりじゃないか。


「何の問題もないよ。最高だ!」


 凄いぞ、なんだか興奮してきた。


『おーい、アルフ。感動してるとこ悪いんだがな、何か忘れてないか?』


 ドリアードが飛んできてグルフナを投げて寄越す。


「いや? 特に忘れてることなんかないぞ」


『そうかそうか。ならいいんだ』


『良かったわねアルフ。さ、領主館に戻りましょうか』


 そう言ってドリアードとロポリスが飛んで行った。俺も続いて偽卵に乗って空中を――


「アドイードいりゅよ」


 ボソッと発せられた声でハッとした。そうだ……興奮のあまり忘れてた。


 視線を戻すと、仰向けに倒れたままでジッとこちらを見つめる無表情のアドイードと目が合う。


「アリュフ様、アドイードのこと忘りぇてたの?」


  うおぉぉぉ!? 仰向けのままズゾゾゾゾっとアドイードが近寄って来た。怖えぇぇ。植物を使ってあんな動きするとか予想もしてなかった。


「え、えと……」


『あ、そうだアルフ。私が気付けの魔法を使ったからアドイードはとっくに目を覚ましてるぞー』


 もっと早く言えよ馬鹿野郎!!


「ねぇ、忘りぇてたの? ねぇ、アリュフ様?」


 移動に使った植物を伸ばして俺と同じ高さまで体を持ち上げ、さらに顔をグッと近付けてくる。それはまるでヒュブクデールの宿で顔を近付けてきた草人(グラース)の表情みたいで……上下逆さまだからあの時より怖い。


 こ、こういう時はあれだな。母上に詰め寄られて責められている父上のように振る舞おう。


 まず額にキスして、と。


「そんなわけないだろアドイード。俺がお前を考えない瞬間なんてないさ」


 そして真っ直ぐ目を見て微笑む――痛ぇ!!


 何するんだグルフナ! ガジガジ噛むのは止めろ!


「えへへ、そうだよね。アリュフ様はアドイードが大好きだもんね」


 でへっとだらしない表情を見せたアドイードが、蔦を使って俺に抱き付いてくる。胸に頬擦りして満足気だ。


「ギギッ! ヴォゲェ!」


 でも今度はグルフナが不機嫌になってしまった。使い魔の自分にはキスしてくれたことないのに何で、とずいぶんお怒りだ。


「分かったよ。ほら、グルフナにもしてやるから」


「ゲヂィ!」


 そんな仕方なくは嫌、か。しょうがない、また様子を見てキスしよう。グルフナの額がどこか分からないけど、ハンマーだから頭部のどこかにすればいいだろう。


「よし、行くぞ」


 俺はグルフナを持ってその場を離れた。



##########



「ねえ、蒼汰。さっきの何よ」


 アルフが屹然と姿を消して数日。勇者と聖女はシェムナの研究を完成させるために全精力を注いでいた。


 もうじき……もうじきやっと腐れアトスの印を完全無効化できそう、と嬉しそうだ。


 そんななか突然現れた見るからに怪しい人物。フードで顔を隠し手足も隠していた。たぶん女。女は勇者から鍵を受け取って何処かへ行ってしまった。


「あれは俺のスパイだ。表向きは使い道がなくなったことになってるから俺に貸し出されたんだよ。あれならクランバイア王宮にいてもそう問題にはならないからな」


 魔道具に魔力を注ぎながら、勇者はなんてことなさそうに答える。スパイってなんだろう。


「そう、でもそういうことじゃないわよ」


「……なんだ、気付いたのか」


「当たり前じゃない。あんなにも禍々しい気配を垂れ流してるのよ。気付かない方がおかしいでしょ」


 さっきの女は有り得ないほどその気配に蝕まれていた。生きているのが不思議なくらい。


「意外と気付かないんだぞ。それにもっと酷い状態だったんだ。俺がちょっと助けたから持ち直したけどな。まあ、それでももう限界だろうけど」


「助けないの?」


「あ、しまった。話しかけるから注ぎすぎたじゃないか」


 勇者は壊れた魔道具を捨て、新しい魔道具を手繰り寄せてから聖女の方を向く。


「助けないさ。そんなことしたら大事になるからな」


「どういうこと? 秘密は無しって約束したでしょ、教えなさいよ」


「わざわざ別の教えるほどのことじゃないんだが……お前、アルフが常に命を狙われてたのは知ってるよな」


「ええ。魔法の使えない王族なんて必要ないって喚く連中にでしょ。主に兄弟連中とその派閥貴族が」


「だが実際はアルフの暗殺なんてほぼ不可能だ。ジールの契約精霊やクランバイア王自身が守ってるからな。あと妹のジルも。だから暗殺の方法はかなり限られる。あれはその中でも特に厄介なモノを全部肩代わりしてるんだ」


 そういうことか。なるほどなるほど。あ、でもこれってちょっと困る気がする。


「え、じゃあまさかあれが……ん、妹? ジル様は姉でしょ?」


「表向きはな。お前、元婚約者のくせにアルフが何歳か知らないのかよ」


(イラッとくる言い方。蒼汰はこうやってよく人をイラッとさせる。こいつ、顔は良いのに日本では彼女がいなかったクチね。絶対そうよ)


 なんて考えていそうな顔の聖女は少し可愛い。


「15歳……じゃないのよね?」


「ククッ、じゃないな。アイツはクランバイア王宮の中でも1番歳上だといってもいい。なんせクランバイア王の最初の子供ってことになってるからな。もちろんジールとの」


「詳しく聞かせて」


「追い追いな」


「ちょっと!」


「この印が消えたら教えてやるよ。誰かに聞かれたら困るだろ? 念のためだよ」


 残念。用心深いのは良いことだけど、聞かれてるんだなこれが。


「印が消えたら最初に話なさいよね」


「へいへい」


 勇者は気のない返事をして、また魔道具に魔力を注ぎ始めた。



 ##########



『あ! あのクソ野郎……』


『どうした?』


『勇者がプフヘネに、アルフの秘密を少し教えたのよ』


『はぁ……本当に余計なことしかしないなアイツ』


『もう、これじゃあまた計画を変更しなくちゃいけないじゃない。面倒臭いったらないわ』


『アルフの秘密を知っている精霊未満の存在は5人以内にしなければならない、か。面倒臭い縛りだな』


『まったくよ。あ~あ、プフヘネは良い感じで育ってきてたのに』


『あの箱族じゃ駄目なのか?』


『駄目よ、あの子は恩人だもの。処分したら悲しむわ』


『そうれもそうか』


「おーい、ちょっと待ってよ!」


『アルフが来たぞ。この話はもうお仕舞いだ』


『そうね。あ、そうそう。さっきルトルが予定通りルカーナと対面したわ。今は怒りのままに彼女の手足を千切ってるところよ』


『了解。じゃあ後で運ばせとく。種も公国中にばら蒔き終わってるぞ』


『なら次の満月――ていうかあとちょっと待つだけね。楽しみだわ』


「やっと追い付いた。で、何が楽しみなんだ?」


『ふふふ、アルフには教えてあげなーい』


「おい、ちょっと待てって。ったく、速すぎるだろロポリスのやつ」


『今からロポリスに追い付いたら御褒美をやろうか?』


「本当に!? 約束だからな。アドイード、しっかり掴まってろよ!」


「大丈夫、アドイード離りぇないよ!」


「よし、行くぞーー!」


『やれやれ、ことが済んだら嫌われちまうかもな』


 草の精霊は自嘲気味に笑ってから皆を追いかけた。

【魂】

生きものの体の中に宿って、心や精神の働き、個体の魔力発生を司るもの。通常は肉体から離れると数秒で消えてしまい、死の女神の元へと送られ適切に処理される。何らかの理由で消えずに留まった場合、幽霊(ファントム)と呼ばれる存在となり、時間と共にゴーストを経て凶悪な魔物に進化してしまう。

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