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147話 湿った枕

本文と後書き修正。

 結論からいうと、俺はルトルとアドイードに仕掛けたプフヘネの印象アップ作戦に失敗した。


 アドイードは俺の態度を見て、プフヘネが俺にとって大事な人だと思ったらしく、特別に紅茶が美味しくなるティーポットを作ったらしい。


 プフヘネが美味しいと言った瞬間に登場してそれをプレゼントし、会話に交ざろうと計画していたとか。なのに、あのティーポットで淹れた紅茶を一口も飲まなかったことに腹を立てている……いや、イジけていると行った方が正しいかも。


 一方ルトルはというと、実はプフヘネと面識があったらしい。それはルトルが7歳でプフヘネが9歳の時。


 9歳のプフヘネといえば、もう本当に手のつけられない我が儘を極めた子供で、加えて子供の悪しき部分をこれでもかと凝縮したような最悪の時期だったはずだ。何があったかは想像に難くない。


 その時に受けた仕打ちや、もやもやした感情のせいでどうにも苦手だという。まだ何かを隠しているっぽかったけど、俺は追求できなかった。だってプフヘネの話をするルトルはめちゃくちゃ怖かったんだ。


 コルキスもまだ寝てるし勇者も後日出直すってことだから、まだしばらくはミュトリアーレにいるつもりだ。当然プフヘネともまた会うことになる。だから、なんとかならないかとお願いした。が、難しい顔されただけだった。


「さっきのアルフさんって浮気がバレた父上が言い訳してるみたいだったな」


「う~ん、オイラ的には若い女の子に見とれてた父ちゃんが母ちゃんに怒られて反論してる時の雰囲気かなぁ」


 勇者たちとほぼ入れ違いでやって来たランペルとコラスホルトが、賄いのオムライスを食べながらそんな話している。ノシャは無言だ。


「アリュフ様、アドイード今日はアリュフ様と一緒に寝てもいい?」


 イジけているアドイードがテーブルの下から声をかけてきた。よく見ればアドイードから根が生えていて、床とくっついている。


「いいよ」


「本当? やったー!!」


 アドイードは満面の笑みで俺に抱き付こうとしたけど、根のせいで身動きがとれないみたいだ。

 

「ありぇ? どうして? アドイード動けないよ。アリュフ様助けて」


 助けてと言われても、俺にはあの根を切ってもいいのか分からない。


「ちょっと待ってろ」


 とりあえずこの可愛いく揺れる頭を撫でてドリアードに相談。するとドリアードはアドイードの頭をガシッと掴んで、容赦なく根を引き千切った。そしてそのまま、またスカイシャーク釣りの餌として釣竿に括り付けて一言。


『今度は絶対に抜け出せない』


  あの根はアドイードを逃がさない為にドリアードが生やしたものだったっぽい。


「だそうだから、また夜にな」


 アドイードにそう言って、賄いを食べ終わったら店番を頼むとコラスホルトたちに伝え自室に戻ることにした。


 ロポリスとドリアードも付いて来たけど、ロポリスは未だに勇者の嫌いな所をつらつらと並べ立てている。


 そういえば勇者に聞きたいことがあったのに忘れてたな。それもこれも全部プフヘネのせい。ダーニルヤン王子との婚約が白紙になったという衝撃の発言。


 少し目を瞑って、プフヘネと別れる原因になったアトス義母上のお茶会を思い出す。


 あのお茶会は俺とプフヘネの婚約発表パーティーの直前……紅茶を飲んで豹変したプフヘネが、俺に一方的な別れと侮蔑の言葉を吐き捨て、何故かタイミングよく現れたダーニルヤン王子と結婚すると叫んで帰って行ったんだ。


 後から分かったことだけど、プフヘネはアトス義母上の印を付けられていたらしい。俺に激しい悪感情を抱く印を。アトス義母上の印はそういった感情操作が容易くできてしまう怖い一面もある。


 あの時ばかりはさすがに父上を恨んだなぁ。


 メゴゼック王国と深い関わりを持つのは良くないとの判断で、父上はアトス義母上に印を使うよう指示を出したんだ。メゴゼック王国は俺とプフヘネの結婚を機に、クランバイアの魔法技術を掠め取ろうとしていたのが理由だとか。


 そんなことがあってのプフヘネの私フリーです発言。 てことは俺たち交際しても問題ないよな。ゆくゆくは結婚もして――うわっ!?


『アルフ聞いてるの!? 今、凄く大切な話をしてるのよ!』


 ロポリスが頬をつねりながら、耳元で叫ぶんだ。耳がキーンってする。


「そんな大きな声出さなくても聞こえるよ」


『そう、じゃあいいわよね?』


「えっと……」


『い・い・わ・よ・ね?』


 頬をつねったまま、顔をこれでもかと近付けてきたロポリス。感じの悪い人形に入ってるから、凄まじく不快な表情をしている。


 いや、もしかしたら勇者に対するロポリスの感情がこうさせてるのかもな。とにかく、俺あまりの迫力につい頷いてしまった。


『ふふ、良かった。それじゃあドゥーマトラに話をつけてくるわね』


 ロポリスがそう言うと、人形がポトリと床に落ちた。


 どうしてドゥーマトラが? と、疑問に思ったけどやっと静かになったんだ。それだけで満足だ。


 午後はプフヘネに贈るプレゼントでも選ぼうかな。


 俺は床に転がる人形を拾い鞄に仕舞い、ドリアードにミステリーエッグの卵から出てきたアイテムをベッドに並べてもらった。




 ##########




 本当に驚いた。まさかアルフが生きていたなんて。


 それに一緒にいたのはマデイルナン公国の元上級貴族ルトル・アトゥール。彼とは私の記憶が戻る前のプフヘネが会っているのよね。その時のことは私も知っていて……経験していないのに自分の記憶というのは不思議な感じね。


 確か、幼いながらもその端正なルックスでご令嬢方に囲まれていた彼に、恥をかかせてやりたいと思った当時の私は、「タイタンなのに人間と同じ大きさなんて笑っちゃうわ。どうせ心もアソコも同様に小さいんでしょ?」なんて言って、魔法で彼の服を光が透過するようにしたのよね……本当に悪いことをしたと思ってる。


 だけど毒入りの紅茶を出してくるなんて。タンジーって地球では過去に堕胎薬として使われていたけど、現代では危険性が高いと判明して使用が控えられている。しかも、重篤な場合は呼吸困難や多臓器不全で死んでしまうのよ。


 彼、見かけによらず根に持つタイプなのね。まあ、それだけじゃなさそうだけど。だってアルフを見る目が普通じゃなかったもの。


 そういえばタンジーの花言葉って挑戦、敵意だったかしら。気に入らないわね。一応、牽制はしておいたけれど、どう出てくるやら。


 私はアルフがいる世界なら、このままここで生きていってもいい。蒼汰には悪いけど私はアルフと行動を共にしたい。自室に帰る途中で蒼汰に伝えたら、驚きの発言をしてきた。


 なんとアルフは蒼汰と血の繋がった家族だというじゃない。だから一緒に日本へ帰るんだと。


 でもそれはおかしいと思うの。さっきアルフの話を聞きながら固有スキルの閲覧でアルフのステータスを一部を確認したけれど、それには異世界人の特徴はなかった。


 蒼汰は鑑定の固有スキルを持ってるから、私よりも詳しくステータスを見ることができる……私が見える箇所以外にも、ステータスには異世界人だと分かる部分があるのかしら。


 そうそう、厄介なことに蒼汰はクランバイア魔法王国の第2王妃メファイザ、第3王妃エテリ、第6王妃アトス、少なくともこの3人に目を付けられているらしい。


 第3王妃を見たことはないけれど他はよく知っているわ。第6王妃の腐れアトスはもちろん、第2王妃もかなり有名。


 彼女は1万年以上も生きた恐ろしいヴァンパイアであり伝説のネクロマンサー、死してなおリッチエンペラーと化して現世に留まり続けるあの大厄災、フーラ=アレ・アンドロミカの娘。


 できるなら関わりたくないけれど、私も第2王妃に目を付けられている可能性が高いらしい。そりゃそうよね。彼女が地下牢にぶち込んだ蒼汰を助けたんだもの。


 だから1人では大変そう。仕方ないからもうしばらくは蒼汰と一緒にいてあげようかしら。シェムナの研究も大詰めらしいから、近いうちに腐れ第6王妃の印を完全に消せるようになるだろうし。


「心配しなくていい。比較的楽に王妃を倒す方法はある。それに日本へ帰る方法は分からないけど当てはあるんだ。大丈夫、きっと上手くいく」


 考え込んだ私の顔を見てそう言った蒼汰だけど、なんだか自分に言い聞かせているみたいだったわ。




 ##########




 夢中になってプレゼントを選んでいたら、ルトルが食事だと呼びに来た。そしてルトルの後ろにはアドイードが枕を持って立っている。


「アリュフ様、アドイードが来たよ。夜だよ」


 どこか照れた様子のアドイードはとても可愛いい。だけどな、ちょっと気が早いぞ。俺はお腹も空いてるし風呂にも入りたい。


「もうちょっと待っててくれ」


「うん、いーよ。アドイード待ってる」


 待ってると言ったアドイードだったが、食事中も風呂もずっと俺の後ろに立っていた。はたしてこれは待っていると言うんだろうか……。


 寝支度を終えてベッドに座ると待ってましたとアドイードも走り寄って来た。


「うんしょ、うんしょ」


 と、ベッドをよじ登っている姿はつい意地悪したくなる。


「うわぁ……アリュフ様、なに? こりぇじゃアドイード登りぇないよ」


「悪い。つい邪魔したくなってさ」


「うぅ、アリュフ様のいじわりゅ」


 恨めしそうな顔をしたアドイードを抱っこしてベッドに上げる。すると途端に嬉しそうな笑顔になり、枕をセットし始めた。そういや、その枕って俺が風呂に入ってる時も持ってたよな。濡れてるんじゃないのか?


 そっと枕に触ってみるとジメッとしていた。


「アドイードまくりゃは湿りゃせりゅ派なの」


 気持ちいいよ、と寝転がって見せる。


「あのねアリュフ様。このまくりゃね、夜になりゅと血とお月様みたいな匂いがすりゅんだよ」


 血とお月様みたいな匂い? ちょっとよく分からなかったから、誤魔化すようにアドイードの頭を撫でた。心地よさそうに目を細めるアドイードにどういうわけか少し罪悪感を感じる。


「……お休みアドイード」


「お休みなさいアリュフ様」


 翌朝に驚くことになるなど思いもせず、俺は部屋の明かりを消し、そっと目を閉じた。

~入手情報~


【名称】アドイードの枕

【分類】寝具植物

【分布】無し

【原産】秘匿されし大宮殿(ヒドゥンパレス)

【属性】植物/

【希少】★

【価格】-

【アドイードのむふむふ解説】

アドイードが固有スキルで作り出した薄緑色の枕だよ。あ、違うね。枕みたいな植物だよ。アリュフ様の髪の毛と~、血液と~、体液と~、そりぇとそりぇと、睡眠の質を高める数種類の薬草なんかを混ぜて作ったよ。良い香りの花や消臭効果のある草もそっと混ぜたけど、別にアドイードがちょっぴり臭いからなんかじゃないよ。本当だよ。夜になるとアリュフ様の血とお月様の匂いがすりゅんだよ。

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