143話 ハヴの芋虫
本文と後書き修正。
芋虫の笑い声を聞いてコラスホルトとノシャが泡を吹いて失神してしまった。
「だ、大丈夫か!? あ、グルフナまで!」
1人糸から逃れていたグルフナだけど、あの笑いは無理だったようだ。地面に転がってうんともすんとも言わなくなった。
「聳立する歪な岩剣!」
「ウォータースラッシュ!」
すぐさまルトルが土魔法を放つ。ズガンズガンと大きな音と共に地面から馬鹿デカイ岩の剣がいくつも現れて芋虫を貫いた。
それから少し遅れて発動したランペルの水魔法、これは俺たちを拘束する糸をスパスパ切ってくれたみたいだ。そして最後は岩の剣を切り刻んで瓦礫に芋虫を埋めていく……ランペルの魔法、中級にしてはなかなか強力じゃないか。
「な!?」
速攻で片がついたと思ったのに、瓦礫を押し退けたりその隙間やから大量の芋虫がモゾモゾと這いずって出てきた。
どれもさっきの巨大芋虫よりは小さいが、同じように身体中の顔が嘲るような笑い声を発している。その怖気立つ様子は今後も悪夢として俺を苦しめそうだ。しかも細切れにされたはずの糸が一瞬で元に戻り、再び俺たちを拘束する。
「魔法が効いてない……刹那に屠る泥人形!!」
驚いても直ぐに次の手を打つ頼れるルトル――あぁ、この魔法なかなかの魔力を持っていくやつだ。
一瞬で土が集まり5体のゴーレムが出来上がった。いかにも攻撃特化型ですという見た目で、それぞれが凶悪な武器を携えている。
確かこの魔法で作るゴーレムは短時間で消える代わりに恐ろしく強力で、破壊の方法が作り出した人物の思考を元に自動で再現されるんだよな。
ゴーレムは見た目もだけど、芋虫を攻撃している様子がかなり怖い。残虐な武器の使い方はもちろん、鋭く変形させた足で踏みつけたり、噛み千切ったり、ルトルの頭の中っていったい……。
おまけに武器の金属化も完璧で、消費された俺の魔力量から考えるとあれ、完全に物質化したミスリルくらいになってるんじゃないかな。
「うっ……」
ぐちゃぐちゃになっていく芋虫たちを見て若干引いてしまう。それはランペルも同じだったようだ。
「グルフナを借りるぞ! ランペルは糸をどうにかしろ!」
とはいえ、魔法が効かないなら物理攻撃。その判断は悪くないと思う。ルトルは動き回るゴーレムに身を隠しながらグルフナで芋虫を潰していく。
ううう、そんな使い方は止めてくれ~。芋虫の体液でグルフナがでろでろだよ。しばらく撫でてやることができないかもしれない。
にしてもルトルはやけに戦い慣れしてる。初めて会った時はあんなに怯えてたのに、本当はこんなに強かったのか。じゃあ妹を守りながらでも奴隷落ちする前に逃げ出せたんじゃなかろうか。う~ん……。
「ア、アルフさんも見てないで加勢するぞ!」
ルトルに言われ発動したランペルの固有スキルが、糸をじゅうじゅうと跡形もなく溶かしてくれる。自由になったランペルが飛び出してルトルの援護に回った。
あれは懐かしのエンジェルシアン。
俺が喰らった時よりもなんだか大きくて神々しい。あの天使の水属性ダメージってなかなか癒えなくて、しばらく苦しめられるんだよなぁ。しかも今は毒まで発生させてるみたいだし。
なんて今の状況をコラスホルトたちを運びながら見ていたら、千切れた芋虫の身体や顔から細い人間の手足がワサワサ生えて互いを引寄せ混じり始めた。
ひぃぃぃ気色悪ぅぅ!
思わず身震いしてしまう。が、その隙をつかれてまた糸に拘束されてしまった。
「なにやってんだよ!」
ランペルのお叱りはもっともだけど仕方ないだろ。俺は戦いなれしてないんだよ。
芋虫が糸を引寄せ始めた。ゆっくりだけどめちゃくちゃ力強い。失神しているコラスホルトとノシャはどんどん引き摺られていく。当然、俺も。
「やれっ!」
ルトルがゴーレムに命令を出す。だけど、何故か糸を引っ張る芋虫への攻撃はすり抜けてしまい、地面を叩く大きな音だけが響いていく。
「無~駄っ、無~駄っ」
ケタケタ笑い、どんどんくっついていく芋虫は本当に気色悪い。
「クソッ!」
芋虫を包み込んだランペルのエンジェルシアンも効かなくなったらしい。それどころかランペルがフラフラし始めた。
あっ、ランペルの足にも細い糸が絡み付いてるじゃないか。しかも糸の中を何かが流れている……ゲッ、あれ魔力なんじゃないか!?
うわわわ俺たちもだ! 全然吸い取られている感覚がないけど、絶対そうだ。ヤバいヤバい。2人に任せておけば大丈夫そうだと安心してたけど、俺も偽卵で攻撃に参加しよう。とりあえず糸からだな……お?
「糸が……卵? になった?」
膝をついたランペルが偽卵を見て困惑している。おまけに少々混乱気味だけど、今は放っておこう。
急に糸が消えたせいで芋虫の笑い声が止む。警戒しながらも近くにいたルトルやコラスホルトたちに向けてまた糸を吐き出した。それも偽卵にして防ぐ。
「ルトル! 糸は俺に任せろ! コラスホルトたちを回収してくれ!」
……うん、やっぱりか。糸から偽卵を作ったら、ほんの少しだけど魔力が消費された。確かロポリスのメモには、魂から偽卵を作る場合のみ魔力を消費すると書かれていた。
てことは糸は魂? 魔法が効かなかったり物理攻撃もする抜けたりできること考えると……
「この芋虫たぶんアンデットだ! しかも霊体と肉体が切り替えできる系の!」
「嘘だろ」
「輝く爆轟!」
「うわぁあぁ!」
愕然とするランペルを尻目にルトルが使った魔法は無駄に規模が大きくて、俺は芋虫を中心に発生した爆発の衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
もちろん俺たちに影響がでないようミステリーエッグで魔法の一部を卵にしようと思ったんだけど、どうやら強制連結は俺の魔力を直接使うみたいで卵にできなかった。ミステリーエッグは他者の魔力が必要だから。
きっとルトルたちも吹っ飛ばされたに違いない……あ、もしかして攻撃と同時に芋虫から距離を取るための魔法だったのかも。
もしそうなら、ルトルって本当はかなり過激な性格をしてるんじゃなかろうか。奴隷になってしまったから今はあんな性格をしてるだけで。チラッと見えたけどゴーレムも光を放って自爆してたようだし。
と、地面をゴロゴロ転がりながらそんなことを考えて痛みをまぎらわせていたら、ぼふっと柔らかい何かにぶつかって止まった。
あ、この微かに漂ってくるこの臭い……
「アリュフ様み~つけた。ねぇねぇそりぇ、なんの遊び? アドイードも交ぜて」
臭いの主は予想通りアドイードだった。
無邪気なアドイードは俺の真似なのかあっちへコロコロ、こっちへコロコロと地面を転がり始めた。
~入手情報~
【名 称】
ハヴの芋虫
【先天属性】
必発:闇/霊/命
偶発:-
【適正魔法】
必発:-
偶発:-
【人造魔核】
人造刻印:アグノラアースタイプ
魔法円種:ターニャ式二十四面体立体魔法円
使用言語:アンドロミカ人造魔法言語
【初期スキル】
糸/霊縛糸/嘲笑/分裂/汚染涎/蝶よ花よ/ぶよぶよ
【固有スキル】
魂面/魂食/繭になりたい/ぶっころ/ボディー&ソウル
【第7研究所研究員ハヴ・アンドロミカの研究ノート抜粋】
開発途中の改造型人造魔物。
取り込んだ魂を体内で強制的にレイスへと進化させる巨大な芋虫の製造に成功。あらかじめ奴隷印の刻まれた素体となる魔物に大量の魂を食わせ、特殊な魔法言語を書き込んだ愚者火草の種と融合させ作成した核を、奴隷印と共に赤子の脳へ埋め込むことで製造している。動きは遅いが殺害衝動が強く、物理攻撃や魔法の無効化が可能。レイスを糸状に変化させ魔力の吸収や体の再生等も行うが従順性と寿命に難あり。アンドロミカ家のネクロマンシーも簡易だが組み込むことに成功しており、体内のレイスを解き放ち大暴れさせることや、周辺のアンデットを操ることもできなくはない。現段階では素体に適した魔物が1種しか確認されておらず、その関係で必ず芋虫型になってしまう。
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【名称】聳立する歪な岩剣
【分類】上級土魔法
【効果】☆☆☆☆☆☆
【詠唱】ティザンナール魔法言語/乱文不可
【アトゥール家魔法指南書より抜粋】
切先や刃は鋭く、そこから下はゴツゴツしたように錯覚させた岩の大剣を地面から発生させる魔法。実際はゴツゴツしたヶ所こそ極めて鋭利であり、鋼鉄はもちろんのこと、熟練者が使用すればミスリルをも容易く切り裂くことができる。消費する魔力の量によって剣の数を増やすことも可能。アトゥール家のものは習得必須である。
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【名称】ウォータースラッシュ
【分類】中級水魔法
【効果】☆☆☆☆
【詠唱】アクアクーマ応用魔法言語/乱文可
【アオミノ侯爵家水魔法図鑑より抜粋】
刃状の水を高速で射出し狙った獲物を切り刻む魔法である。追加で魔力を消費すれば、形状を丸く変化させ獲物を包み込むことも可能。
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【名称】刹那に屠る泥人形
【分類】特級土魔法
【効果】☆☆☆☆☆☆☆
【詠唱】古アトディンスルンガ魔法言語/乱文不可
【アトゥール家魔法指南書より抜粋】
数分で消滅する代わりに、非常に強力なゴーレムを作成出来る魔法である。通常のゴーレムとは異なり、核や弱点が存在しない。破壊行動は使用者の性格や嗜好が忠実に反映さる。発動時の魔力量に応じて武器や体を希少な金属に変化させる事もできる。ゴーレムに土魔法も使用させることも可能だがその分早く消滅してしまうので、その点は今後の改良に期待する。
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【名称】輝く爆轟】
【分類】複合魔法-初級光魔法+上級土魔法
【効果】☆☆☆☆☆☆☆
【詠唱】ロポロスストル新魔法言語/乱文不可
【ロポリスの秘密特訓話】
圧縮した光に大地の魔力を付加して大爆発させる魔法よ。消費魔力に応じた規模の爆発と衝撃波を発生させたのち、光の粒子が爆心地を浄化するわ。
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【名称】偽卵
【発現】アルフレッド・ジール・クランバイア
【属性】無
【分類】圧縮型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆
【ロポリスのありがた~いメモ】
アルフのレベル1/7メートル以内に存在するものを材料として美しい飾り細工の施された卵を作ることができるわ。但し、魔法は卵にないし、魂を卵にする場合は魔力が必要よ。この卵は常に操作可能で、強度や大きさもある程度まで自在に変化させられるわ。壊れたり孵化させるとその場で元の材料に戻から注意するのよ。あと、なんでか知らないけどアルフ以外がこの卵を所持してると繁殖能力が著しく低下するし、それがアルフに発情してる者だったら、ありとあらゆる性病に罹患しやすくなるみたいよ。あんたどんだけ根に持ってんのよ。