141話 ルトルはレベルアップした 狡さが10上がった
本文と後書き修正。
参ったな。果てしなく気まずい。
ルトルと一緒にコラスホルトたちを迎えにミュトリアーレから少し離れた森へ来たんだけど……ルトルが全然口を利いてくれない。
「な、なぁ……怒ってる?」
「……」
「い、いやぁ、怒って当然だよな。親友の弟に命を狙われるし、変な勘違いもさせちゃったし。本当に悪かった、ごめん」
「……」
少し前を歩くルトルが小さく頷いたようにも見える。でも、何も言わない。
ああ頬を撫でるこの風、きっと本来は気持ちいいんだろう。でも今はただただ気まずさを強調するだけだ。
2人きりになってから――いやまあ眠ってるロポリスが鞄の中にいるんだけど――とにかくずっとこの調子だ。
「ちょ、ちょっと休憩しよう。俺、起きてから何も食べてないし。そ、そうだ、ルトルの作った物が食べたいなぁ……なんて、あはは…………はぁ」
ルトルは歩みを止めることなく、ポケットから何かを取り出して渡してきた。もちろん無言で。
なんだこれ。受け取ったはいいけど、食べるには勇気のいる形だ。目みたいなのもあるし、ところどころ俺やルトルについてるあれっぽい形の……なんだ? 小さな突起? キノコ? のようなものもある。歩く振動が伝わるのか、それらがビクッビクッと揺れてほんのちょっぴり汁が出ている……。
「食べないんですか?」
急に立ち止まったルトルが振り返って真っ直ぐな目で見てくる。
「えと、これなに?」
「……とても美味しい木の実です。昼間ドリアード様にお会いしたとき頂きました」
じゃあ怪しい。ドリアードからもらった木の実ってことはだ、つまりドリアードの身体から生えてきたものってことだろう。そういうのはたいてい食べると何かしらの効果が現れる。
「やっぱり今は――」
「お腹、空いてるんですよね?」
一歩俺に詰め寄ったルトルが、目を覗き込むようにして首を傾げた。
「い、今は……えと、こういうのを食べたい気分だったんだ」
「だと思いました。遠慮せずどうぞ」
顔も声も全部怖いよ。
ルトルの視線から逃げ、改めて木の実を見る。小さな突起は大きくなったり小さくなったりしていて、いっそう気味が悪い。ルトルを盗み見るとただ黙ってこちらを見ている。
これは何か試されてるのか? もし、食べなかったら親友をやめるとか……そ、それは嫌だ。
ええい、しょうがない! 食べる、食べてやる!
「……あ、美味しい」
けどなんだかクラクラしてきたぞ。ルトルが5人くらいに見える。
「アルフ様、私のことをどう思ってますか?」
どう? そんなの決まってる。
「大切な存在」
あえ? なんだか声がぼわぼわして聞こえる。
「保護対象として?」
「保護対象?」
「希少魔法保護法」
ああ……なんかそれ聞いたことがあるな。確か失われそうな魔法を魔法使いごと保護するって建前で、クランバイアの国力を上げるために魔法使いを拉致して研究するとかなんとか。
で、その魔法使いを最後はどうするんだっけ? 傀儡兵や呪い避けの肉壁に加工するんだっけか? あれ、違ったかな? それは昔の話か?
頭の中がフワフワしてよく分からなくなってきた。
「う~ん、考えたことらいな。分かんらいお」
「では、私が今アルフ様を抱き締めたいと言ったらどうしますか?」
「そ~ゆ~のはいつれも大歓迎ら」
普通の友達ならハグまでで、親友ならキスも普通だって本に書いてあったと思う。たぶん。いやいや友達がキスで、舌を絡めるのが親友だっけか?
「俺のこと好きか?」
「うん……好き……」
親友を嫌いなわけがない。嫌いな親友って意味分かんないだろ。
「分かりました」
ううう、声がぼわんぼわんだし視界もぐらぐらだ。妙に暑い気もする。なんだっけこれ……ああ、そうだ。お泊まり外交の時と同じ感じなんだ……。
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目が覚めたら近くにちょうどいいのがあった。中に入れと身体中が震えて強く強く訴えてきた。
訴えに身を任せて中に入ると、なんだかとっても凄いものと1つになったように感じられてとても嬉しかったんだ。
でももっと嬉しかったのはの僕の仲間に巡り会えたこと。
目が覚めてそう時間が経っていないのに仲間と出会えるなんて信じられない奇跡だ。何でか分からないけどそう感じた。
だから仲良くなろうと一生懸命頑張った。
頑張って頑張って頑張って、足りないところはたくさん手伝ってもらったし、守ってももらった。
手伝ってくれた皆は凄くいいヤツらだった。
仲間は気が向いたときにしか僕のことを見てくれなかったけど、全然気にならなかった。仲間と一緒にいるためなら、嫌いなヤツの近くだって平気な振りで我慢したよ。
そしたらね、暖かいものが満タンになって大きくなれた。一歩前進。大きくなるほど自分のことも他のことも分かるようになるみたいだ。
でもね、そのせいで気が付いちゃった。仲間だと思ってのは仲間じゃなかった。全然違う。もしも僕がもっと早く目覚めてたら、僕と1つになれたのかなぁ。
そんなことができるのかは情報不足で分からないけど。
あまりに暇だから、目が覚めてからのことを少し考えて暇潰し。といっても意識がハッキリしてきたのは最近で――あ、あれ美味しそう。
さーっと吹いた気持ちいい夜風に乗って、ヒラヒラ飛んでいる葉っぱを捕まえて食べる。うん、思った通りだ。モグモグすると口一杯に甘さが広がっていい感じ。
そういえば、少し前に似たようなのを無理矢理食べさせられたけど、あの時は食べるたんびにオェって吐いちゃったんだっけ。
あ、あれ! あれは絶対に美味しいと思う! 食べなきゃ!!
「おい、こら! じっとしてろよ」
なんだよランペル。美味しそうな葉っぱが飛んで行っちゃうじゃないか。早く離してよ。それに君さ、手がジトジトしてて僕の好みじゃないんだよね。
「なんか光が弱くなってるけど。大丈夫……なんだよね?」
この失礼な発言はコラスホルト。ふん、ちょっとお腹が空いただけだよ。
「平気。きっと飛んでいきそうなあの木の葉が食べたいんだと思うわ。貸して」
へぇ、この子の手の感触は悪くない。確かノシャだっけ?
よいしょ……っと。うん、美味しい美味しい。
「なぁ、こいつなにさっきからギャイギャイと汚い声で鳴いて――イタッ、イタタタ! このヤロウ!」
「それにしてもアルフさんに黙って連れて来ちゃったけどよかったのかな」
「ロポリス様がいいって仰ったんだからいいのよ。アルフさんのものはロポリス様のものよ」
「おい、お前ら! 俺が襲われてるだろ、助けろよ!」
「「今のはランペルが悪い」」
そうだそうだ。僕の声を汚いっていうからだぞ、このジメジメ。なんならモグモグしてやってもいいんだからね。
「悪かった、悪かったって。謝るから。そうだよな、お前の声は綺麗でうっとりする声だよな、グルフナ」
分かればいいんだよ。
「……おい、謝っただろ! いつまでこの触手を絡ませてるんだ!?」
今のは頭をなでなでしてあげてたんだけど。ランペルとは相性が悪いのかも。
は~あ、早く帰りたいなぁ。
コラスホルト、ランペル、ノシャが夜にしか取れない薬草を採集したいねなんていうから、優しいロポリスが僕に付いて行って守ってやれって言うんだもん。仕方なく護衛してやってるんだ。
3人はさっきから星蔓草や朧蝸牛草、愚者火草なんかを見つけてはしゃいでる。
厨二吟遊詩人草が漆黒竪琴烏瓜を弾いているのを発見した時は、これらの薬草のせいもあって狂喜乱舞って感じだったね。
ちなみに、ランペルの袋からこっそり取ってモグモグしたけど、味はどれもまぁまぁかな。
でもちょっと長すぎないかなぁ。嬉しいのは分かるけどもう帰ろうよ。ちょこちょこ美味しそうな草や葉っぱや虫を食べてたけど、そろそろ本格的にお腹が空いてきたし、変な建物も近くにあって嫌なんだ。
「今度はあっちの方で探そうぜ」
「強力な魔物避けのスキルがあるって本当に便利だよね。こんな簡単に珍しい夜の薬草を集められるんだもん」
うへぇ、まだ探すの? かーえーろーうーよー。
「あ、待って。グルフナが動こうとしないの」
帰りたいって主張はこれで通じるかな。
「なんだぁ? 食い過ぎたから今度はクソでもしたいのかよ」
ランペルは侯爵家の息子だってことだけど……侯爵って貴族なんでしょ? 貴族は優雅で上品で偉そうで傲慢でお金持ちってアクネアが言ってた。ランペルは優雅でも上品でもない。後半は何となくそれっぽい……あ、お金持ちは違うか。
「きっともう疲れたんじゃないかな。夢中になってて気付かなかったけど、けっこうな時間が経ってるよ」
お、いいぞコラスホルト。帰ろう帰ろう。
「そう言われればそうね。そろそろ切り上げましょうか……あ!」
「どうしたノシャ?」
「あれ、たぶん第7植物研究所だわ。2人には暗くて見えないでしょうけど」
あれ? ん? ああ、あの変な建物か。何となく近寄りたくない雰囲気なんだよねぇ。
「本当かよ! じゃあ、そこの近くで採集したら終わりにしようぜ! 第7植物研究所っていや、その周辺はレア植物の宝庫って噂じゃないか!」
「へぇ、こんな所にあったんだ、秘密の研究所。じゃあもっと近付けばさらに珍しい薬草があるんじゃない?」
「たぶん。でも行かない方がいい。ウチはそんな気がする」
僕もノシャに賛成するよ。
「でもよ、稼げるときに稼いどかないとだろ。しばらくはアルフさんの手伝いで毎日クランバイア金貨が1枚もらえるけど、そう長くはミュトリアーレにいないってロポリス様が仰ってたじゃねーか」
「それはそうだけど……見極めを使うと少しだけ嫌な感じがするの」
あ、何かおかしい。僕が光ってるってのに魔物っぽい気配が近付いてくる。これはまずい。もう薬草取りは止め止め、凄く嫌な予感がする!
「ああん? グルフナも早くあっちへ行きたいのか?」
違うって! あー、もう何で分からないかな。
「え、何? どうしたの?」
なんだよ、コラスホルトも全然じゃないか。その目は何のためについてるんだよ!
「あ!!」
僕を掴んだままのノシャが急に慌て始めた。これは僕の警告が伝わったかな。
「何かがゆっくり近付いて来るわ! たぶん凄く強い! 撤収よ、急いで!」
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「……清き白砂」
ルトルの声が聞こえて白い砂が俺を包み込んだ……あれ?
「何を話してたんだっけ?」
それに着てた服が別のに変わってるような……。
「この木の実が美味しいという話です。ただ、食べ過ぎは良くないのでもうおしまいです」
ルトルは持った食べかけの木の実を力一杯、遠くへ投げ捨てた。
「何も捨てなくたって……少しずつ食べればいいじゃないか。まだ1口しか食べてない」
「いいえ。本当、体に毒ですから」
おい、そんな物を食わせたのかよ。まあでも、ルトルの機嫌が良くなったみたいだし別にいいか。毒なんて魔法王国じゃしょちゅう盛られてたし平気平気。
「では行きましょう」
やけにツヤツヤした顔のルトルが歩き始めた。
……なんだろう。体も気持ちも妙にスッキリしてる。さっきの木の実の効果か?
「ま、いっか」
でもなんだろ。夜風に揺れる木々の音が、妙に恥じらいを帯びたような声に感じられた。
~入手情報~
【名 前】ルトル・アトゥール
【種 族】タイタン
【職 業】アルフのお世話係
【性 別】男
【年 齢】17歳
【レベル】25
【体 力】124
【攻撃力】30
【防御力】12
【素早さ】49
【精神力】16
【魔 力】60
【通常スキル】
料理/洗濯/掃除/秘戯/荷運び/サポート
【固有スキル】
頑丈/強制連結(new)/大人の掟/妹思い
【先天属性】
土
【適正魔法】
土魔法/光魔法
【異常固定】
奴隷(聖光)
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【名称】星蔓草
【分類】魔力草
【分布】エデスタッツ樹海/ナヨド原生林/パキ島 など
【原産】ヘリャト連邦南部 ナヨド原生林
【属性】植物/影/星
【希少】☆☆☆☆☆
【価格】共通銀貨15枚~500枚/1本
【コラスホルのわくわく解説】
夜にのみ発生する植物。日が沈むと芽が出て成長するよ。近くの樹木に絡みつくように伸びるて、星の光を満たされるまで浴びると星色の花を咲かせたあとで数個の種をつけるんだ。でも数十分~数時間で枯れちゃうから見付けにくいんだよね。マジックポーションとか様々な魔法薬の原料になる高価な薬草。もっとないかなぁ。
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【名称】朧蝸牛草
【分類】蝸牛草
【分布】エデスタッツ樹海/イジスプ熱帯林/バメビュ湿地 など
【原産】セイアッド帝国北部 ナル湖
【属性】植物/水/影/月(白い貝殻の個体のみ)
【希少】☆☆☆~
【価格】共通銀貨5枚~800枚/1本
【ノシャのほくほく解説】
夜にのみ発生する植物。月が輝く頃、何処からともなく現れる蝸牛の姿をした植物よ。採取するまでは決してハッキリ見えず姿はかすんでいるの。微かに発光してて見つけやすいけど、薬効が高いのは滅多に見つからない白い殻を持った個体で、それ以外は買い叩かれる可能性があるから要注意。白い殻じゃなくてもそこそこ価値のある薬草なのに酷い話よ。今日はいっぱい取れて嬉しい。
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【名称】愚者火草
【分類】幽霊草
【分布】不明
【原産】神聖国ニア南部 フェグナリア島
【属性】植物/霊
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】共通銀貨500~共通金貨10枚/1粒
【ランペルの目ぇバキバキ解説】
夜にのみ発生する植物で種に薬効がある。深夜を過ぎると突然発生し、淡い光を放ちながら宙を漂い数秒で種を作ると消えてしまう。種は目に見えず魔力探知も不可で、微かな風にさえ吹き飛ばされるため採取できるかは完全に運だ。発光状態が花だと考えられていて、その状態を密閉した容器に入れると発光し続け種を付けない。特殊な魔法薬の原料でとても高価な薬草。うへへへ、もっとだ。もっと手に入れてやるぜ!
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【名称】厨二吟遊詩人草
【分類】歩き草
【分布】王都クランバイア/皇都ラグエル/ミュトリアーレ周辺 など
【原産】クランバイア魔法王国orセイアッド帝国 諸説あり
【属性】植物/無
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【価格】時価
【グルフナのモグモグ感想】
美味しいとはいえないかな。味だけ確かめてすぐ吐き出しちゃったね。ランペルが言ってたけど夜に活動する植物で、異世界から転移してきた中二病罹患者の特殊な魔力が変じて発生した植物らしい。見てると居たたまれなくなる行動をしたり、とても聞いてはいられない歌詞の歌を歌うんだってさ。ただ、ランペルみたいな子供には格好良いらしくて、希少なペットとしても人気がある……本当に? そのまま食べることでも効果があって、一定期間この植物と同じ言動をするようになる。類似植物として高二吟遊詩人草や大二吟遊詩人草等が存在するらしいよ。
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【名称】漆黒竪琴烏瓜
【分類】楽器草
【分布】エデスタッツ樹海/パトロンケイプ/セイレン岩礁 など
【原産】ベガルタイル湿原
【属性】植物/闇/毒
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨1~共通金貨50枚
【グルフナのモグモグ感想】
まあまあの味かな。ノシャが言ってたけど、これは夜にのみ花をつける植物で闇に紛れるようにひっそりと花を咲かせるらしい。花は禍々しいハープの形で、質の良い大きなものは楽器としても使用可能なんだって。この楽器には一時的な錯乱、自己陶酔、感覚破壊の効果があるみたい。様々な解毒薬の材料となる一方で強力な毒草でもあるってさ。
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【名称】清き白砂
【分類】上級土魔法
【効果】☆☆☆☆☆☆
【詠唱】テイザルーロ魔法言語/乱文不可
【アトゥール家魔法指南書抜粋】
発動後に込める魔力量次第で様々な状態異常を解除できる汎用性抜群の魔法である。発動事態にはさほど魔力を消費しないが、魔力込めるには相当な魔力操作技術が求められる魔法のため暴発には細心注意を払うこと。
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【名称】強制連結
【発現】ルトル・アトゥール
【属性】土/光
【分類】無断共有型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆
【ロポリスのこそこそ話】
他者の魔力と体力を自分のステータスに連結し使用することができるのよ。さらに魔力を消費すれば素早さを、体力を消費すれば攻撃力を連結することも可能なの。連結の条件は対象に触れること、対象に名前を呼ばれること。同時に連結できる人数は3人まで。適正魔法も1人につき1つまで連結可能だけど、上手く扱えるかはけっこうセンスが問われるのよねぇ。
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【名称】呪い避けの肉壁
【分類】魔道具/呪具
【属性】闇/聖光/呪
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【アルフのうろ覚え知識】
クランバイア魔法王国独自の呪い対策用魔道具。
国民に向けられた呪いをこの魔道具に肩代わりさせるんだ。クランバイア各地の公園や神殿なんかに設置されてて、まあまあ景観を損なっている。王族専用ともなると超特別製で、呪い返しの効果なども組み込まれてたはずだ。材料は基本的に罪人や他国の諜報員。
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【名称】傀儡兵
【分類】生物兵器
【属性】命/雷/氷/呪/霊
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【アルフのうろ覚え知識】
クランバイア魔法王国の戦争用兵士。
非常に高度で難解な傀儡魔法を用いて異常強化された特別な兵士。平時、傀儡魔法はほぼ機能せず、傀儡兵は一般人や通常の軍人として生活してるけど、魔法が発動すれば感情や思考は一切消え去り、ただひたすらに殺戮を繰り返すようになる。原則として志願制。死亡時や退役後の保証はかなり手厚い。