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139話 ドゥーマトラと契約者

本文と後書き修正。

 軽々しく私の名を呼ぶコルキス、その明るい笑顔。この子は闇属性のはずなのに随分と眩しく感じるわね。引っ叩いて怒鳴ってやりたい……けれど、思いとは裏腹に言葉が上手く出ない。


 他属性の存在を前にするといつもそう。


 どうにも我慢の限界になったら言いたいことも言えるけれど、それだと感じの悪い言い方になっちゃうのよね。そんな私も可愛いよってモーブは言ってくれるけれど……。


『ひ、久し、振り。王子、たち……』


 はぁ、コルキスが面倒臭い嘘を付いてるからその尻拭いをしてこいだなんてロポリスは勝手だわ。


 面倒な集会を抜け出す口実ができたのはいいけれど、どうして私がこんなことまで。自分は海牛族にマッサージされて、美味しそうなお菓子を食べてくつろいでるくせに。


 ううん、ロポリスだけじゃない、皆そうよ。私の扱いが雑すぎるったらないわ。私は仮にも時空の大精霊なのよ、雑用係じゃないんだから。そりゃあ確かに久し振りに起きた友人の頼みを断ったけれど……それってそんなに悪いことかしら。


『コ、コルキスの……言うとおり。デ、デロス、は疲れてるの』


 私を引っ張り出した張本人のコルキスが安堵した顔でウンウンと頷いている。


「ほらね、兄様! 父様の契約精霊のドゥーマトラ様が言ってるんだから、ぼく嘘なんてついてないでしょ!」


 さっきまで慌てていたのに急に強気じゃない。なんだか意地悪してやりたくなってきたわ。


『で、でも……顔を、見るくらいなら……いい』


「えっ?」


 ふふっ、その顔……そうだわ。ついでにロポリスにも意地悪しちゃいましょ。何でか知らないけど、ロポリスは闇属性のコルキスに聖光の奴隷印なんかを刻んでいるんだもの。アルコルの塔ではこんなもの刻まれていなかったから……アクネアやティザーと交代した時にでも刻んだのかしら。


 奴隷印だなんて魔力をいっぱい消費することをあの面倒臭がりのロポリスがするんですもの、きっと何か理由があるのね。


 ま、でも私には関係ないわ。消しちゃいましょっと。


 本来、大精霊の奴隷印は刻んだ本人しか消せないのだけれど私にはちょちょいのちょいよ。ただ時を巻き戻せばいいだけなんだから。それこそ眠っていてもできるわ。


 んーっと……とりあえず、アルコルの塔を出発する少し前くらいに戻せばいいかしら。


「え? ドゥーマトラ様……?」


 コルキスが胸に手を当てて私を見てくる。この子はヒストリアを持っているからすぐに気付いたようね。


 今回はちょっぴり腹が立ったけれど、デロスの実の子ではないっていうのに、時属性関係の固有スキルが発現するなんて可愛いところもあるからこれ以上は勘弁してあげるわ。


「あ……ぼく……」


 寝ちゃったわね。ふふ、目が覚めた時にこの後どうなったか不安になるかしら。そうだ、いっそのこと……あら? 


 そこの小柄なタイタンにも同じのが刻まれているわね……でもこっちは知らないタイタンだし放って起きましょ。


 それにしても、コルキス以外の王子は躾がなってないわね。大精霊であるこの私を見て敬うどころか、無視よ無視。


 シュナウザーもミラも、デロスから私を紹介された事があるでしょうに、まったく。


 後でデロスに文句を言わなくっちゃ。


「ドゥ、ドゥーマトラ様。できることなら、その……放っていらっしゃるお力を少し弱めて頂けると……」


 ああ、無視じゃなくて私の力に圧倒されていたのね。シュナウザー以外は声も出せないって顔してるわ。


『あ……ご、ごめん……これ、で、どう?』


「っ、はぁはぁ」


 固まっていた3人が肩で息をしている。悪いことしちゃったかしら。


『デ、デロスの顔を、見るだけ……だからね』


 相変わらず上手く喋れないことを歯痒く思いながら、コルキスと小柄なタイタンをロポリスの所へ、シュナウザーとミラをさっきまで()()()()()()()()()()部屋へ転移させた。



 ##########



「おお、なんと心地よい」


 この温もりが愛する我が子の体温で作られたものだと考えると、頬が緩んでしまう。


しかし気を引き締めておかねばな。そうしなければ、誰も見ていないこの部屋で王らしさを醸し出せぬかもしれない……ふっ、子らが絡むと余は駄目な男だ。


 王宮よりも遥かに寝心地の良いベッド。そこで目を瞑ったまま小さく息を吐き、数分前のことを思い返す。


 珍しくドゥーマトラが自主的に姿を見せたと思えば、転移させるからそこで寝た振りをしていろと言う。もしかするとシュナウザーとミラが来るかもしれないから念の為だと。


 意味は分からぬが喜ばしい事態であった。ミュトリアーレへ転送した2人と次に会えるのはまだまだ先であったからだ。


 しかし、隣には口煩い宰相がいる。


「余も暇ではな――」


 仕方なく断ろうとしたが有無を言わさず転移させらた。


 うむうむ、良きタイミングだぞドゥーマトラ。これで余が宰相に嫌味を言われずに済む。だが、転移してきて驚いた。何故ならば、そこにはスヤスヤと眠るアルフがいたからだ。


「なるほど、こういうことか。まったく、こちらの気も知らず穏やかな寝顔をしおって、この親不孝者め」


 軽く頬を摘まむとくすぐったそうにして顔を動かす。


『改めて聞くけど、本当にあんなものを作ってまで助けたい存在なの?』


 ドゥーマトラが呆れ顔で聞いてくる。


「愛する余の子だからな」


『そういうものかしら。血の繋がりを考えなければあと20人も居るんだから1人くらい死んだっていいと思うけれど。だって命なんて毎日たくさん失われているのよ?』


 こういう発言を聞くと、つくづくドゥーマトラは平等な精霊だと感じる。契約している余には甘いところもあるが、ジールが契約している精霊たちとはずいぶん違う。


『デロスがお気に入りなら話は早かったのにね』


「そうだな。だが時空神様のお気に入りは10万年前から変わっていないのだろう?」


『そうね。あの子があの時死んでいれば、きっとこの時代のお気に入りはデロスになっていたと思うわよ』


 ドゥーマトラはそう言って後ろから余の首に腕を絡ませる。


「やはり教えてはもらえぬのか?」


『ええ、そういう決まりなの。ごめんなさいね』


 ドゥーマトラは余の頬に自分の頬を重ねて謝る。


「いや、謝る必要はない。もしこれが失敗しても、余がそのお気に入りを必ず見付け出し殺せばいいだけさ」


『そう、それも良いかもね。時空神様は1番強い時属性のものをお気に入りにするから。そうなればデロスにも時空神様の御言葉が見えるようになるわ。それよりもデロス、殺意を抱いたから若返ってるわよ』


「ん、しまった。悪いけど老化を頼めるかな?」


『もちろんよ――あら、不味いわね。ミラがここへ来ようと言い出したわ』


 ドゥーマトラが余から離れアルフを何処かへ転移させる。


『さ、デロスはここで横になって。なんなら本当に寝てていいわよ』


 ベッド……か。


 余の顔を見たドゥーマトラは何かを感じ取った様子で顔を近付けてきた。


『大丈夫、勝手に悪戯したりしないから』


 なんて言いながらドゥーマトラは余を一撫でしてから姿を消した。


 それからしばしダラダラしていると、時の魔力が揺らいだのを感じ、慌てて寝た振りにうつる。


 息子の2人は余の衰えがいよいよだと思っているようだ。成長したと思ったが、まだまだのようだな。


『鼻がピクピク動いているわよデロス』


 む、そうか。


『シュナウザーもミラもよくデロスを見て涙ぐめるわね。どう見ても下手くそなミミック寝入りなのに。そろそろ戻すわ』


 息子たちの気配が消え、代わりにドゥーマトラの魔力が濃くなる。

 

『ふふっ。老体でも元気じゃない。じゃあデロスも転移させるわ。また近いうちに会いましょう。今度はじっくり、ね』


 ドゥーマトラの言葉が切れると同時に、余はクランバイア城へ戻って来た。


「ふむ、宰相はおらぬか……」


 やかましい宰相がいないとはなんという幸運。この機会を逃す手はない。今日はこのまま愛する我が子全員に会いに行こう。先ずは1番遠くにいる第1王子代理の所へ行くとするか。 

~入手情報~


【時空神】

時空を司る神。

精霊より上位の存在であり、世界を支える神の1柱。人々に忘れ去られた神で、基本的にドゥーマトラ以外とは関わらず、ただ時の流れを眺めている。極稀に生まれる時属性のものの中からお気に入りを選び、自らの言葉を伝え寂しさをまぎらわせようとする。この神の名を知るものは限られている。


~~~~~~~~~


【名称】若返り

【分類】初級時魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆☆

【詠唱】ドゥーマ新魔法言語/乱文不可

【現象】

任意のものを若返らせることが可能。ステータスも当時のものに戻る。但し、精霊が使用した場合はその限りではない。


~~~~~~~~~


【名称】老化

【分類】初級時魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆☆

【詠唱】ドゥーマ新魔法言語/乱文不可

【現象】

任意のものを老化させることが可能。ステータスは老化前のままだが、二度と若返らないことを条件に順当に時を重ねる場合の10倍の成長率を適用して強化可能。但し、精霊が使用した場合はその限りではない。


~~~~~~~~~


~裏話【シュナウザーとミラ】~


 父上を見舞ったあとミラは不満の嵐だった。その煩わしさが度を越えてきたため眠らせた。


「シュナウザー……」


 魔書から寝言が聞こえる。満足させる書き込みをしたから目が覚めればご機嫌に戻っているだろう。


「ふぅ、先ほどは違和感だらけだったな」


 追い魔法かけっこに負けたあと、いつもコルキスが仕掛ける悪戯……にしては大事すぎたな。


 よぽどのことがない限りドゥーマトラ様が姿を見せることはない。母上への報告も時期を見てからだな。迂闊に動くのは危険すぎる。なにせあの大精霊は他の大精霊を消滅させることも簡単という話なのだ。


「少なくともコルキスがミュトリアーレを離れるまでは何も知らぬ振りをしておこう」


「……分かりました」


 返事のようなタイミングでまた寝言をこぼすミラはまだしばらく起きないだろう。久しぶりに1人の時間を持てる。この隙に首輪の手入れでもしておくか。

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