134話 1人遊び
本文と後書き修正。
コラスホルトが他のエシェック組を連れて戻って来た。ノシャとランペルが自己紹介をしてくれたんだけど、ちょっと問題発生だ。
「……」
「……」
『プッ』
予想外の再会に言葉が出てこない。なんとかシラをきりとおさなければ。だって俺は死んだことになってるんだから。ロポリスが小さく笑っているのはきっと分かっていたんだな。
「ランペル? どうしたのよ」
「あ、いや……このアルフってのが知り合いに似てるんだ」
「え、アルフさんってランペルの知り合いなの?」
知ってるもなにもランペルは俺の見合い相手だ。
聖光の大精霊を崇拝しているという風変わりな国、クルムシュ国のアオミノ侯爵家長女。
たしか1人娘で他には兄が5人いたはずだ。
アオミノ家――というより海牛族は皆両性で、産まれたときの親の気分によって男女のどちらかとして育てられていくらしい。ランペルは後者として育てられた。でも、ランペル自身は自分を男だと認識していて、見合いにもまったく乗り気じゃなかった。
しかも話の途中いきなり激怒して、刺胞で俺の顔を刺してきたんだ。痛かったし毒のせいで顔がパンパンに腫れ上がったんだよなぁ……おまけにエンジェルシアンとかいう固有スキルで攻撃もしてきたし。本当に最悪のお見合いだった。
あとで聞いた話だけど、激怒した原因は俺が話したロポリスのだらしない生活態度を侮辱と捉えたかららしい。俺はありのままを伝えただけなのに理不尽だよな。これも全てロポリスが悪い。
チラッとロポリスに目をやると、もう飽きたのかやる気無さそうに寝転がっている。
「初めましてだよ。ね、ランペル?」
「あ、あぁ。まあ、そうだよな、アイツは死んだって話だし……」
ランペルが少し辛そうな表情を見せた。
「あらぁ? もしかしてその人のこと好きだったの?」
「そ、そんなわけないだろ! 聖光の大精霊様を悪く言うような奴なんだ! 好きなわけない! ぜ、絶対に違う!」
「うわ、それは最悪だね」
「本当ね。あり得ないわ」
ノシャもコラスホルトもとたんに嫌悪感が浮べた。
そんなにロポリスを敬ってるのか? なんで?
「え、えっと……早速だけど、仕事をお願いしてもいいかな?」
「あ、うん。何からしたらいい?」
コラスホルトが笑顔に戻って頷く。
『ちょっと待ちなさいアルフ。私のお世話が先よ』
ロポリスが起き上がって、てくてく歩いて来る。
「可愛い。人形が動いてるわ。アルフさんて人形使いなの?」
ノシャも笑顔になって少しはしゃいでいる。
『あーあー、テステス……良しっと。エシェック組の諸君、聞こえるかしら?』
「なんだこれ!?」
「頭の中で声がする」
「凄く綺麗な声だわ」
ロポリスの念話を聞いて3人がざわつく。
『ありがとうノシャ。私は聖光の大精霊ロポリスよ。訳あって今はこの人形に宿ってい――』
「聖光の大精霊様!?」
「えぇ!?」
「本当に!?」
3人はロポリスの話を遮りどういうことだと騒ぎ始めた。
『――もう、仕方ないわね』
優しく笑ったロポリスが感じの悪い人形から出て3人に姿を見せる。その瞬間、信じられないことに3人は崩れるように膝をつき涙を流し始めた。
「あぁぁ美しい……」
「オ、オイラもう死んでもいい……」
「ウチも……」
えぇぇ? ロポリスのいったいどこにそんな有り難みを感じているんだろう。
ロポリスは少し得意気な眼差しで俺を見てくる。
はいはい、分かったよ。ロポリスは凄いよ。なんでいきなり正体を明かしたのか疑問だったけど、つまりそういうこなんだろ。
くだらないとテキトーに手を振ると、ロポリスが血錦玉を高速で飛ばしてきた。俺の反応が気に食わないからって危ないな。そういうとこだぞ。
『コホン。あなたたちは私のお世話係りに選ばれたの。ミュトリアーレにいるあいだ限定だけどね。頑張りによっては光魔法を使えるようにしてあげてもいいわ』
な!? ズルい。俺も光魔法が使えるようになりたい。まあ、それは無理なんだけどさ。
「なんとういう光栄……」
「聖光の大精霊様のお世話……」
「ああ、夢じゃないかしら……」
3人は祈り始めた。クルムシュ国の教育ってどうなってるんだ。実はちょっと危ない国なのかも。
『じゃあ、仕事内容は向こうで伝えるから』
ロポリスは隠れ物置小屋の入り口を指差して3人を歩かせ始めた。
『アルフはルトルが戻って来たらコルヌビコルヌの部屋に戻ってなさい』
「え、それってルトルに……」
『抱かれるかどうかは好きにしたらいいわよ。でも絶対ルトルから離れちゃ駄目よ』
できれば種族特有の言い回しを知らなかったとロポリスからも伝えて欲しい。が、そんな俺の訴えを完全に無視してロポリスは行ってしまった。
1人隠れ物置小屋のテラスに残された俺は、未だに遠くで追い魔法かけっこをしているコルキスとメファイザ義母上を観戦することにした。
げ……いつの間にかシュナウザー兄上とミラ兄上も加わってるじゃないか。遊びとはいえコルキス1人に対して3人がかりとかなんて大人気ない。
ディオスもいるけどミラ兄上に遊ばれている。ミラ兄上の魔法と固有スキルは凶悪だもんなぁ。むしろ頑張っているディオスが凄い。
ん? 何かカタカタ鳴っている。
音の出所を探すとさっきまでロポリス寝転がっていた所に真っ黒な物があった。
「あれ? 黒のすごろくじゃないか」
ロポリスが気を利かせて出してくれたんだろうか。これ、1人遊びで時間を潰すにはもってこいだもんな。 よし、せっかくだ。ルトルが戻るまでこれで遊ぼう。
サイコロは……あったあった。ただ、駒がない。なにか代わりになる物はないかな。お、これいいかも。ポケットの中から石みたいなのが出てきた。
なんで? と思ったけど、よく見たらイシトウォーリの宿屋で卵から出てきたやつだった。何なのか見てもらうのを忘れてたな。ま、見ようによっては駒に見えなくもないし、ちょうどいい。じゃあ、始めるか。
黒のすごろくに手を翳すとぐにゃりと変形し始める。
「へぇ、今回は河と平原の形か。アハハ、冒険者っぽいのや魔物みたいなのも立ってるし、鳥も飛んでるや。相変わらず芸が細かい玩具だな」
真っ黒なマスは町と古城に繋がっていて、途中で平原や森、河を進むようになっている。あまりマスの数が多くないからすぐに終わりそうだ。
どっちをスタートにしてもいいんだけど、駒を町に置いてサイコロを振った。
「5か……」
駒が自動で5つ前進し、止まったマスから文字が浮かび上がってきた。
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【魔物と遭遇:30秒以内に弱点属性を見つけろ】
〖成功の場合:エデスタッツ水2滴〗
〖失敗の場合:2マス戻り髪の毛が1本抜ける〗
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止まったマスの横の平原から三角兎っぽい魔物と30の数字が出てくるとカウントダウンが開始された。
「いきなり見つける系かぁ」
三角兎は先天属性が土と風の場合が多いから……今月は聖光が強い月で、土と風の大精霊は闇寄りだって話だから……あ、でも……
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【制限時間終了。結果/失敗:正解は水・氷】
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あぁぁ……考えていたら30秒たってしまった。
「痛!」
髪の毛が1本抜けて黒のすごろくに溶けていく。そして、文字が消え駒が自動で2マス戻った。そしてまた文字が浮かび上がってくる。
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〖サイコロを振る? マスを見る?〗
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どうしようか。失敗して戻ったマスだし、良くないことが書かれていそうではある。
でももしかしたら良い事も……
「マスを見る」
声に反応してまた文字が浮かび上がってくる。
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【冒険者が河で溺れているが遠くて助けられない】
〖それでも走って助けに向かう〗
〖手遅れなので助けに向かわない〗
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嫌な選択肢だな。この先の展開が分からないけど、助けに向かえばもしかするとがあるかもしれない。
「助けに向かう」
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【全力疾走して25マス進む:疲労と息切れ】
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「な!?」
駒が走るように動いて行く……あぁぁ、なんで助けに行くなんて選んでしまったんだ。
駒が止まった瞬間に疲労に襲れ息切れする破目になってしまった。
「はぁはぁはぁ……」
本当に全力疾走したみたいだ。相変わらずリスキーなすごろくだよまったく。
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〖サイコロを振る? マスを見る?〗
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「サ、サイコロ……はぁはぁ」
これでサイコロ振るまで何も起きない。息を整えたら再開しよう。ちょっと水を飲みたい。
「ふぅ、そろそろいいかな」
次に出たサイコロの目は1だった。駒がふらつきながら動いて止まる。
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【友達が追いかけてきた:話を聞く?】
〖聞く:ゴール。ただし着ている服を脱ぐこと〗
〖聞かない:ゴールするまで鼻から大出血〗
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大出血は嫌だな。まさか3回でゴールすることになるとは。
「話を聞く」
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【着ている服を脱げ】
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「はいはいっと……ん? 脱いだのにゴールの文字とご褒美が出てこない」
はっ!! まさか下着も脱ぐのか!?
「まあ、誰も見てないし……ていうか周りからは見えないようになってるんだったな」
もう1回最初からするにしてもきちんとゴールしないといけないし、このまま黒のすごろくを無視していたら鼻から大出血の方になってしまう。
それは嫌だ。
「ささっと終わらせればいいか」
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【ゴール:おめでとう、ご褒美はセイクッタチェリーの実】
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セイクッタチェリーか。あんまり好きじゃないんだよな。
黒のすごろくからセイクッタチェリーがぽんっと1つ出てきた。それを拾うと、黒のすごろくは元の形に戻り、弾き出された駒が転がっていく。
コマは何故か止まることなく角度を変えて俺の周りを回ったり、足の間をくぐり抜けたりしている。ちょっと面白くてその石を見ていたら、急に後ろからドサッという音が聞こえた。
振り向くと荷物を足元に置いたルトルが立っていた。
「ア、アルフ様……どうしてそんな………」
「ああ、お帰りルトル。今日はもう店はいいから、コルヌビコルヌの部屋に戻ろう」
ロポリスがそうしろって言ってたからには、抱かれる云々以外にもきっと何か理由があるんだろうし。
「へ、部屋……分かり……いや、分かった。まさか待ちきれなかったのか……」
ルトルがぼそぼそと呟き始めた。敬語を止めようと頑張っているときによくこうなる。
「ああ、そうだ。セイクッタチェリーいる? 1つしかないけど、よかったら食べるか?」
セイクッタチェリーを食べたルトルの顔が真っ赤になって少しだけ面白い。
さてと、服を着たら部屋に戻るか。
~入手情報~
【名称】刺胞
【発現】ランペル・タタン・アオミノ
【属性】水/毒
【分類】射出型/固有スキル
【希少】☆☆
【アルフのうろ覚え知識】
簡単にいうと細胞サイズの毒針であり、海牛族なら大抵発現するらしい。刺激によって刺糸を超高速で射出し対象に毒を注入する。ただでさえ酷い目に合うってのに魔力を消費すると、刺胞を巨大化させることができるんだ。ちなみにランペルの場合は痛みと腫れを引き起こす毒と猛烈な吐き気を促す毒を注入可能。
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【名称】エンジェルシアン
【発現】ランペル・タタン・アオミノ
【属性】水
【分類】水蒸気型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆
【アルフのうろ覚え知識】
やや緑がかった明るい青色の天使を模した気体を作り出し、水属性のダメージを与えることができる。肌に当たっただけでも激痛にのたうちまわるのに、吸い込んだりしたらもう……。しかも魔力を消費して猛毒を発生させることも可能。ランペルが心も姿も美しい感じる者と知り会うたび強力になっていく。
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【名称】セイクッタチェリー
【分類】雷植物
【分布】イドゥ高原/ニリジア山/セイアッド帝国全域 など
【原産】セイアッド帝国
【属性】雷/植物
【希少】☆☆
【価格】
葉:セイアッド銅貨1枚/1kg
枝:セイアッド銅貨1枚/1kg
幹:セイアッド銅貨5枚/1kg
根:セイアッド銅貨5枚/100g
花:セイアッド銅貨15枚/1輪
実:セイアッド銅貨20枚/1個
樹液:セイアッド銀貨1枚/1g
【ルトルのドキドキ解説】
数年に1度しか花を咲かせない灰色の樹木。棄てるところのない樹木といわれ、様々なものの副原料に使われている。実は艶やかな紫色で、人間の人差し指と親指で丸を作ったくらいの大きさがある。意外と知られていないが、実には食べると軽い性的興奮を誘発する効果がある。樹液はさらに効果が高い。ア、アルフ様が俺にこれを……ゴクッ。
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【種族名】三角兎
【形 状】帽子兎型
【食 用】可
【危険度】D
【進化率】☆
【変異率】☆☆☆
【先天属性】
必発:土または風
偶発:影/水/火/氷/雷/植物/光
【適正魔法】
必発:-
偶発:土/風/影/水/火/氷/雷/植物/光
【魔力結晶体】
すべての個体に発生
【棲息地情報】
ポティラ草原/ニフォン森林/デモクィブ坑道 など
【魔物図鑑抜粋】
耳が魔女の愛用する帽子のような三角形になっている。中型の魔物であり、後ろ足による攻撃は小岩を砕くことができる。また、先天属性の初級魔法や中級魔法を使用する個体も存在する。血液が減ると味が落ちるので、食材にする場合はできるだけ傷つけずに仕留める方がよい。
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~裏話【ドリアとドリアード】~
「ねぇドリィアード様。リュトリュ君すごい荷物だったね」
日陰にひっそりと生える珍しい草を撫でながらそう言ったのはドリアだった。とても小さな声でうっかりすると聞き漏らしそうになる。
ドリアの言うとおり、一緒にミュトリアーレの植物を見て回っている途中でルトルと出くわした。喜びの感情を隠しもしないルトルとは少し話をして別れたが、確かに馬鹿みたいな数の荷物だった。
「くくっ、そうだな」
あのほとんどはアルフを抱くためのものだろう。確か秘密基地の部屋には花を飾ってあるからあれで覗けるはずだ。ルトルにはサービスしてやったし、アルフがどんな顔するか楽しみだな。
「アドイード遅いね」
アルフが慌てふためく様子を想像していたら、またもドリアが声を発した。撫でていた草とまったく同じ草を両手から発生させながら。それは途切れることなく空に飛んで行き、日の光に当たると透明になってあまり目立たなくなった。
「どこまで昼飯を買いに行ったんだか」
「ドリアはご飯食べたりゃ第7植物研究所に行きたい」
「第7か。私だけなら簡単に忍び込めるんだがなぁ……」
「ダメ?」
なおも草を発生させ続けるドリアが見上げてくる。
「駄目じゃないぞ」
「やった」
ドリアはほんの少し表情を綻ばせ、また草に視線を落とした。