表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/201

130話 お菓子を作ろう!

本文ミス修正。

 お客さん来ないなー。


 あれだけラグスノートとグルフナが競うようにして、登校する学生の鞄にチラシを忍び込ませたのに。


「はあ、さっきからカンコドリが鳴いてるし」


 客入りが全くない店にやって来て、その物悲しい雰囲気を食べるという小鳥。


 暇で暇でしょうがない俺は無気力にカンコドリを眺めている。いっそ、カンコドリが満足するまでお客さんが来なければ珍しい物が見られて良いかもな。


「ゲーァ?」


「ん、どうしたグルフナ?」


 何か言いたそうに訴えたかと思ったら、慌てて隠れるように俺の服に入ってきた。


「アルフ様、グルフナはいったい……」


 服からはみ出たグルフナの柄を見てルトルは不思議そうにしている。


「ルトル、俺も」


「え?」


「俺も様を付けないで呼んで欲しい」


 サラッとグルフナを呼び捨てにしていたから聞き逃すところだった。


「あ、いや、それは……」


 何で顔を赤くするんだ。俺をアルフと呼ぶのがそんなに恥ずかしいんだろうか。


「じゃあ、せめて夜だけでもいいから」


 夜ならルトルは割りと素の喋り方をしてくれる。そのときに期待しよう。

 

「夜だけ!? ぜ、善処します……」


 何故かいっそう顔を赤くしたルトルは買い物をしてくると、店から飛び出してしまった。


「へぇ、土魔法ってあんな使い方もできるんだ」


 なんだかんだ言うけど、ルトルって魔法を上手に使う。あんな風に岩を出したり消したりして高所から駆けて降りていくんだもん。それに複合魔法だって使えるんだから、それだけでクランバイアの宮廷執事見習い相当だと思う。


『ふぁ~あ。寝てるつもりだったけど今のはないわアルフ。引くわ~』


 生き人形が死んだような格好で寝転がっていたロポリスが浮かび上がりデコピンしてくる。感じの悪い人形に入っているから、わざわざ指先を硬くしてだ。


「痛いな。なんだよ」


『あのねぇ、アルフ。夜だけ名前を呼び捨てにしてっていうのは、タイタンの間では今夜はめちゃくちゃになるまで抱いてって意味なのよ』


 なんだって!?


 俺……久々にやらかしてしまったのか。種族特有の言い回しっていうあれを。そりゃ、真っ赤な顔になるわけだ。


『善処してくれるらしいわよ。どうするの?』


「あとで謝っておくよ」


『そう。でも抱かれる気がないなら、今すぐルトルを追いかけて買い物を止めた方がいいわよ』


「なんで?」


『アルフを抱くには準備が必要でしょう? ぺぺスライムの粘液とかインキュバスキノコとか、まあ色々よ。ああいうのって高いじゃない』


 準備? よく分からないが、無駄使いさせてしまうから止めた方がいいのは分かった。


「でもお店が……」


『誰も来ないわよこんな所。来たとしてもカンコドリくらいでしょ。ほら、もう2羽ご来店よ』


「げっ、本当だ」


 俺の道楽商売じゃなきゃこの店は廃業まっしぐらだな。でも店を留守にするなら一応、休憩中って札は下げておこう。


 よし、じゃあルトルを追いかけ――いや、やっぱり止めた。


『行かないの?』


「コルキスとメファイザ義母上がいる。ほら、あそこ」


 かなり離れた場所ではあるけど、2人が追い魔法かけっこをして遊んでいる。


『あんな遠くで……やれやれ、コルキスも苦労してるわね。あとで血でも差し入れしてあげなさい』


 店のカウンターに降りてきたロポリスが言う。血の差し入れってなんだよ、怖すぎるだろ。


『そうだ、いいこと思い付きましてよ。ルトル卿が帰ってくるまでコルキス王子のためにお菓子作りをしましょう。そうしましょう』


 な!? ここで姫プだと……まあ暇だしいっか。


「面倒臭いが、どうしてもってならやってるよ」


『ええ、どうしても』


『オラおかす作りなんてぇしぃたことなんべやさ』


 ぶふっ、いきなりそれはズルい! 


「アハハハ! ちょっと、今のは無しだロポリス! ドリアードの昔モノマネなんて卑怯だぞ!」


 草の精霊時代のドリアードは独特な喋り方だったらしい。お酒を飲むと他の精霊たちがドリアードをからかってよく真似するんだ。それは今のドリアードからは想像できないし、さっきのはものすごくドリアードの声っぽかったらから笑いが止まらない。


『そんなに笑ってくれるとは、身を削ったかいがあるぞ』


「は?」


『私は何も言ってないわよ?』


 ロポリスはニヤっと笑い1歩横にずれる。そこには小さなラッパ型の花が1輪咲いていた。


『罰だぞアルフ』


 花からドリアードの声が聞こえる。この声色、ちょっと怒ってるのかもしれない。笑いすぎたか?


 ていうかドリアードはドリアと一緒にミュトリアーレの植物を見て回ってるんじゃ……。


『え、アリュフ様? どこどこ、アリュフ様どこー?』


 んん? この声はもしかして。


『こら大人しくてろ』


『アリュフ様、アドイードだよ。アドイード来たよ』


 やっぱりアドイードか。なんで一緒にいるんだ?


『とにかく、中断したからアルフは罰ね』


『そういうことだ、じゃまたな』


『え!? アドイードもっとアリュフさ――』


 花は枯れドリアードたちの声は聞こえなくなった。


「もしかして、嵌めた?」


『そういう遊びでしょ、これ』


 ぐっ、確かにそうだけども……今日は短時間で決めにきたから予想外だったんだよ。


『じゃあ、お菓子の材料はアルフの血ね。これが罰よ』


「え?」


 ロポリスが言い終わると同時に人形の頭が割れ、目にも止まらぬ早さで首に噛みついてきた。


 みるみる人形が血に染まっていく……あれ、思ったより痛くないな。


「なぁ、気を使ってくれるなら魔法で痛みを消すより、他の方法のが良かったんだけど」


『そしたらアルフ、それは嫌あれは嫌って面倒臭いに決まってるもの。私は出来る子だから効率良く動くのよ』


「そうかよ」


 まあ、これから作るお菓子はコルキスにあげるんだろう。頑張ってメファイザ義母上や兄上たちを騙まくらかしてる可愛い弟のためだ。もう何も言うまい。


「って、おい! ちょっと吸いすぎだろ!」


『平気、平気。ルトルにもあげるんだからもう少し要るのよ』


「はあ? なんでルトルに?」


『ああ見えてルトルは結構な上級者なのよ。呼び捨てにして欲しいんでしょ? なら文句言わないの』


「意味が分からない」


『いいから、いいから』


 俺の血で作ったお菓子と呼び捨てに何の関係性があるっていうんだ。文句を言っても全然止めないから、その間に道具や別の材料を揃えることにした。


『これくらいあればいいかしらね。じゃあ私を捻ってちょうだい』


 鮮血色に染まり膨れあがった人形が大きな寸胴鍋の上に移動した。


「うわっぷ!?」


 人形を捻ると破裂。血は一瞬で鍋いっぱいに溜まり、周囲にも飛び散ってどえらいことになった。もちろん俺も血まみれだ。ていうか普段からコルキスに吸血されてて感覚が麻痺してたけど、こんな大量に血を抜かれても平気な俺って……。


『ちょっと、もっと優しく捻りなさいよ! あ~あもったない』


 破裂したはずの人形はいつの間にか元に戻っていて、ゲシゲシ俺の頬を蹴ってくる。言動と表情が一致しているのは案外珍しいかもしれない。


 そのまま着替えもさせてもらえずお菓子作りにうつった。


 ロポリスに言われるがまま作り、出来上がったのは綺麗な磨りガラスのようなもの。聞けば干錦玉(ほしきんぎょく)っていう異世界のお菓子に似せたらしい。でも材料が血だから血錦玉(けっきんぎょく)ね、だとさ。


「げぇい?」


「まだ食べちゃ駄目だぞ」


 お菓子作り中に服から出てきたグルフナが興味津々で血錦玉(けっきんぎょく)を見ている。


 それから余った血で作ったのはアルフキャンディと――


「って余ってるじゃないか、血!!」


『ごめんごめん。ほら、お詫びに宝石グミ(マリアライトグミ)あげるから文句言わないの』


「そもそも俺から掻っ攫ったものだろこれ」


『つべこべ言わない』


 ちぇ、分かったよ。ん、味はよくわかんないけど香りが素晴らしいな。


「……あれ? 俺、なんでロポリスに文句を言ってたんだろう?」


『さあ? お腹でも空いてたんじゃない? もうすぐお昼だし』


「あー、そうかもな……うわ!? なんだこれ、そこらじゅう血まみれじゃないか!」


『もう何言ってるのよ。アルフがこぼしたからでしょ』


 そうだっけ。ああ……なんかそうだった気がする。じゃあルトルが帰って来たらご飯にするか。にしてもついさっきルトルが買い物に行ったと思ったのになぁ――あっ!!


 急いでカンコドリが鳴いていた場所を見る。そこには完璧な状態の脱け殻が並んでいた。


「そんな、カンコドリが脱皮するところを見たかったのに」


『やだ……カンコドリが脱皮するなんて、この店もいよいよ終わりね』


 うるさいやい。


「ゲブゥーゥ」


「お、もう綺麗にしてくれたのか。ありがとな」


「げぎゃぃ~ぅ」


 んん? 心なしかグルフナがうっとりしている……あ、お菓子を摘まみ食いしたんだろ。行儀悪いぞ、まったく。

~入手情報~


【種族名】カンコドリ

【形 状】小雀型

【食 用】可

【特 徴】

客のいない店が大好きな小鳥。

1人もお客がいない店にやって来ては哀愁を誘う鳴き声をあげる。店の寂れた雰囲気や物悲しい雰囲気を主食にしており、1つの店で満足するまで食事をすると脱皮、マネーキネーコという金運を招く猫に成長する。しかし、食事をした店に金運を招くことは決してしない。脱け殻は錬金術等に使用される比較的珍しい素材である。魔物と混同されがちだがただの動物である。


~~~~~~~~~


【名称】ペペスライムの粘液

【分類】魔物粘液

【属性】植物/水/毒

【希少】☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨5枚/1瓶

【ルトルのドキドキショッピング】

ペペスライムが吐き出す粘液、これは必需品だな。物の滑りを良くするだけでなく、粘液の触れた場所が敏感になるし、これが粘膜に触れると抜群の催淫効果を発揮する。すごい効果なんだよなこれ……ゴクッ。


~~~~~~~~~


【名称】インキュバスキノコ

【分類】魔物茸

【属性】影/毒

【希少】☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨6枚/1本

【怪しいお店の体験バイト君の話】

これは抜け落ちたインキュバスのインキュバスから生えるナニかで……。確か研修では、インキュバスのあれは使い捨てとなっており、1人相手にすると生え変わるって聞いたっけ。通常、抜け落ちたモノは溶けて失くなるが、稀にその場所からキノコのようなモノが生えてくる。それがこれ。大きさや形を自由に変化できるだけでなく、如何なる状況でも清潔な状態を保ち続ける優れモノ。非常に高価な大人のアイテムとして重宝されてるって話だけど、こんなの買うひといるのか――あ、え、これですか? はい、入荷したばかりです。あ、はい。ありがとうございます。うわぁ、まさかあんな超絶男前な人が買っていくなんて……なんだろ、すごくドキドキする。あ、店長。えと、あの、もしよければこれからもここで――。


~~~~~~~~~


【名称】血錦玉(けっきんぎょく)

【分類】精霊菓子

【属性】無し

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】―

【ロポリスのモグモグ解説】

アルフの血を材料に異世界の菓子に似せて作った甘い食べ物よ。赤い宝石のように美しく、表面はシャリっと中身はしっとりしているわね。アルフが好意を抱いている者には素早さと魔力を強化する効果が、そうでない者には数分~数日意識を失う効果があるのよ。ま、私にはただの美味しいお菓子だけど。


~~~~~~~~~


【名称】アルフキャンディ

【分類】精霊菓子

【属性】無し

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【価格】―

【ロポリスのモグモグ解説】

アルフの血を材料に作ったドス黒いキャンディよ。

甘さ控えめな血液味ので、アルフに好意を抱いている者には絶大な回復効果が……あ、状態異常もその範疇なのね。そうでない者には遅効性の猛毒になるちょっぴり危険なとこもあるわ。う~ん、これはあんまり好きじゃないわね。


~~~~~~~~~


【名称】マリアライトグミ

【分類】宝石グミ

【属性】光/月

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨550枚

【ロポリスのにんまり解説】

ミツギカラスが作り出すマジックアイテムよ。

淡い紫色のグミで独特の爽やかな香りが特徴的。食べると月光のような味が口一杯に広がるわ。その味がネガティブな感情を浄化してくれるの。あんまり知られてないけど、一時的な極軽度の記憶障害も引き起こされるのよね。うふふ。


~~~~~~~~~


【追い魔法かけっこ】

魔法を使った危ない遊び。

クランバイア魔法王国ではポピュラーな遊びであり、兵士役と泥棒役に別れ互いに魔法を放ちながら相手を無力化していく。泥棒役は兵士役に触れられると無力化されたことになり、兵士役は泥棒役の魔法が当たると無力化される。無力化されると兵士役は人質に、泥棒役は罪人として双方の陣地に囚われる。どちらか全員を無力化する、泥棒役が罪人を3回解放する、兵士役が泥棒役のリーダーを無力化する等をすれば勝敗が決まる。罪人解放の方法や人質の使い道等、地域によってルールが異なる場合がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ