128話 3人の朝
本文と後書き修正。
ミュトリアーレで迎える2回目の朝。朝ごはんを用意してくれてるミラ兄様と、隣で寝てるシュナ兄様がぼくを1人にしてくれない。
ネックレスを使って兄様ところへ行ってもいいんだけど、そうすると大捜索が始まるんだもん。面倒ったらないよ。
「はぁ、つまんないな」
ミュトリアーレにいるあいだ、基本的に兄様とは別行動することになってる。母様とミラ兄様、それにシュナ兄様がいるからね。
母様ってばぼくがミュトリアーレの近くまで来たのを察知して、シュナ兄様達を連れてヒュブクデールまで迎えに来たんだよ。予想はしてたけど、母様が近付いてるからってロポリスが兄様たちを連れて行っちゃったときは寂しかったな。
う~ん、紛らわしいな。他の兄様が近くにいるときは、兄様のことはアルフ兄様って呼ぼうっと。ちょっとくすぐったい気持ちになるけどね。
昨日の夜、2つ目の秘密基地から自室に戻ったあとはちょっと大変だった。
ぼくの部屋に来た母様とミラ兄様に、小さな木片のネックレスのことがバレそうになるし、ドリアにもらったネックレスも調べられちゃうし。
しかも、あとから来たシュナ兄様がクソ勇者を拘束して連れて来ちゃうんだもん。しっちゃかめっちゃかだよ。クソ勇者は母様に連れて行かれからどうなったかは知らない。
そのあとはシュナ兄様とミラ兄様に挟まれて、まるで拘束されるみたいに寝たんだ。
それでもシュナ兄様は種族特有の魔力でぼくを包んで癒してくれたし、ミラ兄様は魔法と固有スキルで室内の環境をヴァンパイア好みにしてくれたんだけど……
「しっくりこなかったんだよね。どう思うディオス?」
こっそりジュースを持って来てくれたディオスについ、愚痴っちゃった。
たぶんぼく、もうアルフ兄様と一緒じゃなきゃぐっすり眠れないのかもしれないなぁ。だってアルフ兄様って夜は魔力の質が変わるんだもん。それがすっごく心地良いんだよ。
ぼくも夜は魔力がヴァンパイア寄りに変わるんだけど、アルフ兄様のは……う~ん、今度モーブ様に聞いてみよう。
「え、ディオスの中で寝れば良いって? それいいかも。今日はそうしようね」
ディオスはぼくに優しく触れるとミラ兄様の手伝いに戻った。ぼくだってやられっぱなしじゃないからね。ちゃんとアルフ兄様の役に立つ情報を手に入れるんだ。
「コルキス、朝ごはんができたぞ。シュナウザー兄上を起こしてこっちに来い」
「は~い」
きっとミラ兄様は完璧な朝ごはんをテーブルに並べてるんだろうな。シュナ兄様を起こさなきゃだけど、寝起きはちょっと機嫌が悪いからなぁ……少し離れてから起こそう。
あ、でもその前にジュースジュースっと……うん、美味しい。
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目が覚めると感じの悪い人形が2体、顔の前に浮かんで踊っていた。目を擦ってみてもやっぱり2体。
「なんだこれ……」
とりあえず両方を掴んでみたら、どちらも可愛らしい顔から俺の心を抉る不快な表情に変化した。
『どう、アルフ? 上手に分裂できたと思わない?』
『これで私たちが自由に過ごせるな』
ロポリスとドリアードが得意気な声が発せられた。不快な表情のままなだから違和感が半端ない。
つか、もしかして新しい頭が生えて双頭になってたのはこのためか?
「本当、無駄なことに力使うよな」
俺はテキトーに精霊組を褒めて人形を解放してやった。
「もうちょっと寝たい」
昨夜は一向に捗らなかった商品作り。それでもかなり夜更かしして作った卵を孵化したり、出てきたものをドリアードに鑑定してもらって説明書きまで作ってたからまだ眠い。
「起きられましたか?」
ルトルが寝室に入ってきた。隣で寝てたのにいったいいつ起きたんだろう。
「朝食より、もう一度寝ますか?」
「うんにゃ食べる……だからあれ、お願いしてもいい?」
「もちろんです」
ルトルは朝食の準備をドリアに任せて近付いてくる。そして俺を立たせると、いつものように身体をくっ付けて呪文を唱え始める。この呪文、耳元で囁かれてるのに全然聞き取れないんだよなぁ。
そいこうしてたら足下に光る砂が現れて、それは2重螺旋を描いて俺たちを包むと数秒で消えた。眠気はばっちり吹き飛んで気分爽快。しかも朝風呂のあとみたく全身がすっきりしている。
「ありがとう。やっぱりルトルのアースヒールってすごいな」
「お役に立てて嬉しく思います」
あ、光の粒を伴った笑顔だ。良かった、今朝は普通だ。昨夜のルトルは途中から微妙にツンツンした態度だったからなぁ。罰ゲームがしつこかったのかもしれない。
ん、ハンサムスライムが少し物言いたげな雰囲気だ。けど悪いな。今はルトル一人占めさせてもらうぞ。
『なんでルトルはアルフに引っ付いて魔法を使ったんだ?』
『ルトルの魔法はそうしなきゃ効果が半減するのよ』
ロポリスがそう言ってドリアードの肩に手を回す。可愛らしい人形のはずなのに、とんでもない悪巧みをしているように見えるから不思議だ。やっぱ中身の性格が滲み出てるんだろうな。
「で、では朝食にしましょう。アルフ様の好きなものばかりですよ。着替えはあと回しで……」
背中を押されるように寝室を出たところでドリアが待っていて、席まで案内してくれた。ほんの数歩なのに一生懸命やっているのが微笑ましい。しかも背伸びしながら椅子まで引いてくれる。
「どうぞ」
「ありがとうな」
ドリアの頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める。
「今朝はドリアが給仕を担当したいそうですよ」
「頑張りゅの」
ドリアは、というかドリィアド族は皆背が低い。給仕は難しくないか?
「ドリアの給仕方法は面白いですよ」
ルトルも席につきながら、ドリアの向かった調理場の方を見た。
「そうなんだ」
草人と同じで料理という概念がなかったドリィアド族は、短期間だがミュトリアーレに到着するまでルトルに料理を教えてもらっていた。ただ、給仕まで習っていたのはドリアとアリアだけだった。
「最初はスープ」
ドリアの声が聞こえた。するとテーブルから草が生え、花が咲いた。
「へぇすごいな。花が器で葉っぱがスプーンなんだ」
「スプーンは茎かりゃ千切って使ってね」
「わかった。いただきます……うん、美味しい!」
ドリィアド族は9人が9人とも好みがハッキリ別れていて、ドリアは淡く優しい味付け好んでいる。このスープもすっきりした味わいで、旨味が優しく舌を流れていく。
そも後も出てきた料理はどれも美味しいかった。ドリアが自分で運ぶものもあって、それは床から生やした葉っぱを階段にしたり、空中に咲かせた花に乗って給仕するという方法だった。
「ふぅ、ご馳走さま。どれも美味しかったよ。給仕も可愛らしいくて素敵だったぞ」
「えへへ。ありぃがと」
もう一度ドリアを撫でてから視線をあげると、寝坊してきたグルフナが所在なさげに浮かんでいた。
「よしよし。おはようグルフナ」
「げぃぃ」
「グリュフナ君はあっちでドリアと食べよ」
卵あるよ、とグルフナを掴んでドリアは調理場の方へ行ってしまった。
「ところで、今日からお店を開くんですよね?」
「ああ、うん」
それについてちゃんと考えてある。英雄の物語や冒険者の物語なんかでも、必ずと言っていいほど出てくる隠れた名店として店を構えるんだ。ああいう知る人ぞ知るってお店って格好良くて大好きなんだ。
もちろん今回はあらかじめミュトリアーレの商人ギルドで店舗場所の登録手続きをしている。何でわざわざこんな場所でと言われたけど、押し通した。それと宣伝はするけど万が一店舗の場所を聞かれても、ヒントしか伝えないで欲しいとも伝えた。職員さんは最後まで不思議な顔してたけど、まあそうしたいならと言ってくれた。
ミュトリアーレでは、商品はどの店舗で販売したか分かるようにしなければならい規定がある。そこでロポリスに頼み込んで、ヒュブクデールで宣伝した時と同じ精霊文字で、全商品にアルコルトルと書いてと頼みこんだ。
そしたら、文句の雨あられ。仕方なく今後もセントに宝石グミをもらったら半分譲るという条件を出すと、やっと引き受けてくれた。「字は教えるしあとで不可視にするから自分で書け」ってね。これも夜更かしの原因。
ちょっと勿体ない気もするけど、ミュトリアーレではジュエルランク商人でも規定違反を犯せば、罰金に加え商品の没収と労役を強いられるから、きっちりしとかなきゃだ。
「ドリアはこの町にある植物を見て回りたいと言ってましたが、どうしますか?」
「いいんじゃないかな。でも1人だと心配だから……ドリアード、一緒に行ってくれないか?」
『いいぞ~』
『私は寝てるわ。次のご飯まで起こさないで。誰かさんが昨晩遅くまで重労働をさせるから疲れたのよ』
何言ってやがる。俺が書き終わるまで寝てたし、不可視にする魔法の消費魔力だって俺から吸収して回復してるじゃないか。
「ではそろそろ行きましょう。もうじき学生の登校時間です」
ロポリスに言いたいことは山ほどあったけど、ルトル急かされて隠れ家を後にした。
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先月、私は母国メゴゼック王国の第2王子ダーニルヤン殿下に婚約破棄を言い渡された。なんでも真実の愛とやらに目覚めたそうで、元平民の女性ネリテと結婚するそうだ。
まあ、それはどうでもいいの。鬱陶しいのはそのネリテが私を亡き者にしようとしていることよ。彼女の恨みを買った覚えなどないのに。
別に何てことない相手だけれど、それを口実に国や実家から解放されたくて、ミュトリアーレで身を潜めている。私にしかできない仕事は山のようにある。だけど大勢の前で私に恥をかかされたんだし、これくらい許されるでしょ。
まるでテンプレものの異世界漫画みたいだと思ったわ。そして、その異世界漫画の世界からさよならできるかもしれない人物を見つけたのが昨日。
「お待ちくださいプフヘネ様!」
「どいてちょうだい。私は行かなければならないの」
「どきません。プフヘネ様は今、学外実習へ行っていることになっているんですよ、誰かに見られたらどうするんですか!?」
毅然さと心苦しが混ざったような表情のシェムナ。侍女で護衛の彼女はドアの前に立ちはだかったまま動こうとしない。
「彼は私がずっと探していた人物なのよ。この機会を逃すわけにはいかないの」
「それでもです! 昨日プフヘネ様を訪ねてきた男がいると報告がありました。ミュトリアーレで何でも屋なるものを出店予定ですが、店舗は異常なほど見付かり難い場所にあり、もし誰かに場所を聞かれても教えないようにと商人ギルド職員に伝えたそうです。しかも寝泊まりしている場所は不明ですよ。暗殺者かもしれません」
シェムナの心配は杞憂なのよね。私、誰にも言ってないけど強いんだもの。でも彼女は真剣に私のためを思ってくれているから……どうしようかな。
「お願いシェムナ、どいて」
「なりません! よりによって魔法王国の第2王妃が連れていた男など危険すぎます!」
「仕方ない、わね」
「わかってくださいました――かっ!?」
10歳のときに発現した固有スキルを使ってシェムナの意識を刈り取り、ベッドまで運びそっと寝かせる。ついでに用心のための魔法もかけておこう。
「……ごめんなさい、あとで癒してあげるから」
確かあの第2王妃、今は使われていない地下牢の方へ向かっていたはず。急がなくちゃ。
~入手情報~
【名前】プフヘネ・シエヌワトラ
【種族】ドラゴニュート
【職業】聖女
【年齢】19歳
【レベル】121
【体 力】7211
【攻撃力】19271
【防御力】9127
【素早さ】10021
【精神力】8913
【魔 力】22100
【通常スキル】
貴族の嗜み/お菓子作り/発掘/思考/研究/飛行/怪力
【固有スキル】
アナザーリンク/リグレットワールド/十字架/閲覧/異質な知識
【聖女スキル】
プラクセディス/ホーリーワルツ/聖光属性吸収/闇属性半減/癒しの微笑み/女の聖域
【先天属性】
聖光
【適正魔法】
聖女魔法
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【名前】シュナウザー・クランバイア
【種族】キッズドラゴン(人間形態)
【職業】王子/神話学者
【年齢】18歳
【レベル】99
【体 力】3333
【攻撃力】9999
【防御力】3333
【素早さ】9999
【精神力】9393
【魔 力】33333
【通常スキル】
消費魔力激減/高速移動/結界術/本術/速読/全威力5倍
【固有スキル】
飛行/博識/覚醒/形態変化/溺愛/睡眠不足/火属性無効化/吸血鬼好き/異なる神話/ドラゴンエナジー/ドラゴンフィールド/フォティアミソロギア/キッズブレス/キッズソング/ブレイズスクリーム
【先天属性】
火
【適正魔法】
火魔法
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【名称】閲覧
【発現】プフヘネ・シエヌワトラ
【属性】聖光
【分類】感知型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆
【効果】
目に写った者のスキル、固有スキル、先天属性を知ることができる。魔力を消費すればスキルや固有スキルの詳細も読み取りも可能。
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【名称】リグレットワールド
【発現】プフヘネ・シエヌワトラ
【属性】聖光
【分類】魔力消費・心理作用型/固有スキル
【希少】★
【効果】
後悔や思い通りいかず残念に思った気持ち等を何百万倍にも増幅し、任意の者の心を破壊することができる。反対にそれらを癒すことも可能。また、精神力を1消失させて触れれば、最長で1年間その者が必ず後悔する選択をさせ続けることができる。その場合、毎朝最大魔力の3割と最大体力の2割を消費することになる。
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【名称】聖女魔法
【分類】特殊魔法
【効果】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【詠唱】不要
【解説】
精霊に聖女として認められたものに発現する魔法。
通常の聖光魔法をより強化した魔法とされおり、とても珍しい魔法である。
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【名称】アースヒール
【分類】複合魔法-初級土魔法+初級光魔法+初級聖魔法
【効果】☆☆☆
【詠唱】アドロッポナルルⅨ型魔法言語/乱文不可
【ロポリスのこそこそ話】
癒しの砂を作り出して体力と軽い状態異常を回復できるわ。肌を寄せあって使用すれば効果は増大。浄化効果と魂に作用するほんのわずかな魅了効果も加わるのよ。