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126話 鍵と笛と印と子

本文と後書き修正。

 第13王子たちと合流する前にやらなければならないことがある。エテリの眷属になっている俺のコピーを消すことだ。


 エテリの眷属は元となった奴が死ぬと消滅する。だから最も簡単な方法は俺が死ぬことだろう。当然だがそれはできない。だから例の鍵を手下に使わせることにした。


 本当なら自分の手でコピーを殺したいが、あれはエテリの付与魔法で強化されていて俺より強い。これまで何度死にかけたか……そのお陰で固有スキルのフェイトオブブレイブの強化値が跳ね上がったのは複雑な気持ちだ。しかし、それも今はアトスに付けられた印によって封じられている。


 初めは印の禍々しさから呪印術かと思ったが、カースチェンジに反応しなかった。聖印術でもなさそうで、おそらく別の印なんだろうと結論付けた。


 もちろん鑑定で確認した。が、効果や解除の方法はどうも理解できなかった。《印使い》という職業がこの世界にアトスしかいないからか、専門用語や固有名詞らしきものが多く難解すぎるのだ。ミュトリアーレへ行き研究者に伝えればあるいは……。


「勇者様、鍵をお返しに参りました」


 考えていると夜の闇からローブを目深に被った手下が現れた。こいつはクランバイア王族専用のっていうあれだが、あの便利な笛を使い、今は俺に仕えさせている。


「呪われた箇所を見せろ」


「はっ!」


 なるほど腕か……よし、カースチェンジに反応がある。念のため鑑定で確認してもやはり強力な呪いだった。


「良くやった。お前は城へ戻り王妃たちを探ってこい」


「畏まりました」


 スッと姿を消したあいつは本当に……あ、しまった。買ったものを寄越せと言うのを忘れてしまった。まあ安全に俺のコピーを殺せたかもしれないんだ、良しとするか。


 だが本当にあの鍵でコピーを始末できたのか少々不安が残る。コピーに魂があるのかどうか……これも念のために確認しに行くか? いや、しかし……。


 結局俺はエテリたちの拠点へやって来た。


 ふむ、エテリが怒り狂っている。やはり俺のコピーが消滅したらしい。


「もっと早く鍵のことを思い出していれば楽だったのにな。魂を対価に悪魔の店で買い物ができるこの鍵を」


 確認も済んだことだし、そろそろ行くか。それともこの笛で奴らを――なっ!?


「あら、おしい」


 この声、アトスか!! クソッ、茜色の魔笛が……


「もう少しで心臓に直撃でしたのに、妙な笛に当たってしまいましたね」


 笑いの混じるアトスの声は聞こえるが姿は見えない。


 ふっ、いくつか固有スキルを封じられたとはいえ甘くみられたものだ。声のする位置くらい――


「わかるってんだよ!」


 俺の攻撃とアトスの追撃はほぼ同時だったらしい。互いの姿が露になる。俺の反射と隠蔽の魔法(ハイドミラー)を打ち消すとはやるじゃないか。


「貴方、思ったよりやんちゃですのね」


 扇子で口元を隠しながらクスクス笑うアトスは随分楽しそうだ。


「エテリの眷属を殺したのでしょう? 彼女泣いてらしたわよ? 女を泣かせるなんて酷い男……皆さん、ここに勇者がいましてよ!」


 アトスが言い終わるや否やクランバイアの宮廷魔法師たちの魔法が一斉に襲いかかってくる。エテリの付与が凄まじいのだろう、どれも威力がえげつない――(いつ)っ!?


 新たに付けられた印の効果は素早さと勇者魔法に作用したらしい。相殺すべく放った魔法はことごとく暴発し、続けて奴らの魔法をこれでもかと食らってしまった。


「あらあら、随分とみすぼらしくなりましたわね」


 アトスはまたクスクスと笑う。そしてより妖しさを含ませて、無数の印を浮かべて、次はどれにしようかと悩む素振りを見せる。


 あのすべてを食らうのはさすがにまずい。今の俺は絶対防御もフェイトオブブレイブも封じられているのだ。しかも最悪なことにエテリとジール、おまけにハイラルとアーシャまで出てきやがった。


「クソッ!!」


 懐からモリナディ式転移装置を取り出し起動、ミュトリアーレへ逃げた。


「ジルから奪っておいて正解だったな」


 壊れた転移装置を仕舞い、ぱっくり割れた額部分とズタズタになった胴体に応急処置を施す。


「さて、アルフを探してとっととずらかるとするか」


 それにしても俺、近頃は逃げてばかりだな。




 ##########




 あら?


 今、モリナディ式転移装置の気配が……あれはヴァンパイアの血が材料の1つだから近くで使用されれば分かるのよね。


「誰かしら」


 モリナディ式転移装置はとても希少。もし、クランバイア王家以外の者だったなら(譲ってもら)わなくては。


 闇と同化して空を進み、ミュトリアーレで1番高い研究棟からモリナディ式転移装置の気配がした場所を見下ろすと思わぬ人物がいた。


「ふふふ、勇者じゃないの。なんだかボロボロね」


 額が妙な雰囲気を纏っているのは気になるけど、これは色々チャンスじゃないかしら。


「ん? あの印……」


 やだ、アトスとやり合ってたのね。あんな性悪女と戦うなんて、良い趣味してるわ。


「母様どうしたの?」


「えっ?」


 振り向くと昨日ミュトリアーレに到着したコルキスが、研究棟の屋上に植えられた樹木の向こうから顔を出していた。


 勇者に気をとられすぎたかしら、全然気が付かなかったわ。コルキスったらこんな時間に研究棟でなにを……しかも外で………つきなたぼっこでもしてたの?  


 なんてね。コルキスは新しい固有スキルでも発現したのか、時々まったく認識できなくなる。ヴァンパイアオーラを使っても、近くにいるかもしれないって程度にしか感知できない。


「ちょっとね。勇者が転移してきたのよ、ほら」


「あ、本当だね。ぼく、あいつ嫌いなんだ」


 コルキスは私が指差した方を見て顔をしかめると、さっさとミュトリアーレの客室棟へ飛んでいってしまった……バレバレね、今の態度。ミュトリアーレへも1人で来たって嘘を付いていたし。なんでも秘密にしたい年頃なのかしら。


「メファイザ義母上、コルキスから勇者が来たと蝙蝠で連絡が……」


 コルキスを追いかけようか考えていると、シュナウザーとミラが来た。このタイミングの良さ。コルキスは私たちを遠ざけてなにをしたいのかしらね。モーブ様の試練関係か、もしくは……。


「勇者はいつでも始末できるから後でいいわ。アトスの印がいくつも付いてるんだもの。それよりコルキスはどこ?」


「アトス義母上の? それは勇者も気の毒ですね。コルキスはあちらですよ」


 そう言ってミラがコルキスの所へ案内してくれる。


 天候魔法以外にも便利な固有スキルを持っているのよねこの子。母親のイステもそうだけど、グリモアニアは有能揃いだわ。


「私は念のために勇者を監視しておきます。コルキスに何かあったら大事ですから」


 シュナウザーは別方向へ飛んでいく。


「兄上は心配性ですね。さ、行きましょうか」


 私に隠し事が多くなってきたなんて、コルキスが成長したと喜べばいいのかどうなのか。子育ては難しいわね。

~入手情報~


【名称】ハイドミラー

【分類】勇者魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆

【詠唱】不要

【現象】

使用者を周囲の景色に溶け込ませ隠すことができる。また、魔法や物理攻撃を反射することも可能。動くと、ほんの少しだけ景色が歪むため注意が必要である。


~~~~~~~~~


【名称】カースチェンジ

【発現】勇者ソウタ

【属性】呪

【分類】変換型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【効果】

呪いを祝福に、祝福を呪いに変換できる。連続使用は6回まで。インターバルは60分。


~~~~~~~~~


【名称】呪印術

【発現】アトス・ペトラ・クランバイア

【属性】呪

【分類】印型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【効果】

自身が作成した印に呪いを込めることができ、もとの印の効果をよりマイナスであったり邪悪で禍々しいものにできる。その際、自身に降りかかる呪いの負担をゼロにすることもできる。但し、呪いの負担をゼロにしない方が印に込める呪いの効果が高くなる。


~~~~~~~~~


【名称】聖印術

【発現】アトス・ペトラ・クランバイア

【属性】聖

【分類】印型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【効果】

自身が作成した印に祝福を込めることができ、元の印の効果をよりプラスであったり清らかで聖なるものにできる。但し、発動には許可を得た他者の魔力を消費する必要がある。

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