124話 大赤字販売会
本文と後書き修正
コルキスが教えてくれた移動方法はあまりにも簡単だった。
なんと冒険者登録証を持っていれば、魔力か体力を消費して行きたいページを口にするだけなんだ。ランクや立場によって行けるページが制限されているもののかなり便利だと思う。
このヒュブクデールの冒険者ギルドは少し特殊で、本に描かれた絵が実際の空間として使えるらしく、小さな町1つ分くらいの施設があるとか。モネールやホノリウスがページと言っていたのはその為だ。
ちなみに冒険者登録証を持っていない人は、受付、市場、酒場にしか行けない。お金を払えば1日限定である程度のページを行き来できる。それか冒険者登録証の所持者は3人まで同行者を許可されているので、その人に連れていってもらう。
「約束だからね。もう怒っちゃダメだよ」
コルキスが念押してきた。
「分かってるよ」
『本当かアルフ? コルキスが言ってるのはこの先永遠にって意味だぞ』
は? なんでそうなるんだよ。
「それは無理だろ。俺が怒るのはコルキスのためを思ってだ。コルキスがまともな大人になる手助けなんだから」
「ぼく8歳だけどもう兄様よりまともだと思うよ」
真顔で言うな。どう考えても俺の方がまともな常識人だ。
「そんな可愛くないことを言うコルキスには、もう吸血させてやらないぞ」
「えぇ!? なにそれ!? いつでも吸血して良いって約束したもん! 約束を破るなんて最低だよ!」
おっと、思いの外コルキスが本気で怒りだしてしまった。
「じょ、冗談だよ」
「世の中には言って良い冗談と悪い冗談あるんだよ。その区別もつかないなんて、やっぱりぼくの方がまともだよ」
コルキスがぷんぷん怒りながら「美味しいジュースがある場所」と言って姿を消した。
ディオスが去り際に威嚇のようなポーズをしていた……あいつは近頃俺に対する態度が酷い。何か気に障ることしたっけか?
「ん? どうしたんだルトル?」
なぜか微笑んでいる。
「あ、いえ、お2人を見ていたら私も妹のことを思い出してしまって……」
「妹? リュトリュ君には妹がいりゅの? どこどこ? アドイードまだ会ってないよ」
テーブルの下でアドイードがきょろきょろし始めた。一瞬、空気が凍りかけたけどルトルが優しい声で説明していた。
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今日は大赤字販売会だ。俺、コルキス、ルトルに加え9人のドリィアド族と非番の冒険者ギルド職員総出で店番をする。グルフナは……マスコットかな。
ちなみにディオスはドリアードに連れられて挿絵の森というヒュブクデールにある小さめのダンジョンへ行ったので不参加だ。
「良い天気だな~」
「ガブェ」
「そうですね。ラグスノートもそう思うよな」
相変わらずルトルはラグスノートにだけ素の喋り方だ。胸のあたりがすごくモヤモヤする。
「この天気は絵だけどね、ここ冒険者ギルドだから。でも本当に興味深い仕組みだよ。真似できればいいのに材料がなぁ……」
俺もそう思う。コルキスには材料が何か分かっているっぽい。なら、ミュトリアーレに着いたら研究者に伝えて譲ってもらえないかお願いしてみればいいと思う。あそこはゴミから超希少素材まで色んなものが勢ぞろいしてるからな。
「アドイード頑張りゅ!」
アドイードが大きな声で言うと、ドリーもリイアもとドリィアド族たちが続いていく。さっき外を見てみたら長蛇の列ができていた。それはもう覚悟しなければならないほど。頼んだぞお前ら。
今日は冒険者ギルドに特別エリアが設けてあり、冒険者コーナーと一般家庭コーナーに別れている。誰がどこを担当するかは事前に決めてあるのでそろそろ移動をお願いしよう。
俺は冒険者コーナー担当だ。万が一商品が足りなくなったときのために、昨夜コルキスとアイテムを作っていたせいで少し眠たい。最後まで体力が持つんだろうか。
「大丈夫だよ兄様。倒れそうになったらぼくが吸血して回復して……あ、そういえばもう吸血しちゃダメなんだっけ?」
隣に立つコルキスがニヤニヤしている。
「いや……そんなことない」
「え? よく聞こえないなぁ」
分かったよ、俺の負けだよ。
「いつでも好きなときに吸血していい。いや、して欲しい」
「くふふ、そうだよね。素直な兄様がぼく大好きだよ」
コルキスは勝ち誇った表情で自分の持ち場にフワフワと飛んで行った。まあすぐそこだけど。
『あ~あ、もうちょっと頑張ればコルキスも遠慮を覚えたでしょうに。アルフはもう駄目ね。もうコルキスの甘え地獄から逃げられないわよ』
ロポリスがオムライスを食べながら呆れている。
だ、大丈夫だ。この先もチャンスはあるはずだ。
「そろそろ開店するわよ? 皆殺気だってて、これ以上は待たせられそうにないから」
小さな立体魔方陣からモネール声が聞こえてきた。ちょっと珍しい作りだったからもっと見ていたかったけど、すぐに消えてしまった。
「じゃあ、皆! 気合い入れていくぞ!」
「はい!」
「おー!」
予想通り大赤字販売会はてんやわんやだ。いや、予想以上だった。みるみる商品は無くなり、怒号が飛び交っている。そのうち昨夜作った物も底をつくだろう。
途中から俺とコルキスはヒドゥンシェードに入ってミステリーエッグでアイテムを作ることにした。
ロポリスは孵化したアイテムを鑑定し、種類毎にまとめる。そして瞬時に値段と説明書きを付けるという凄業を見せている。
見返りはレグルスの道標をいう魔法具。これが出てきたとき、手伝いもせずダラけていたロポリスが突然それ欲しいと騒ぎ始めたんだ。
卵から出てくる物に規則性がない。だから装備品以外はある程度の数が揃ったら各売場へ移動させている。誰々の所へと言えば勝手に運ばれるので非常にありがたい。
大赤字販売会は深夜になっても終わらなかった。
手伝ってくれた非番の職員とドリィアド族、そして業務終了後の各ギルド職員たちが買い物させろと騒いだから。
コルキスに何度吸血してもらったか……うう、もう寝たいよ。
~入手情報~
【名称】挿絵の森
【種別】コアダンジョン
【階級】☆☆☆
【場所】ヒュブクデール
【属性】植物/芸術
【外観】仕掛け絵本型
【内部】森林
【生還率】90%
【探索率】97%
【踏破数】30回
【踏破者】モネールたち他複数人
【特記事項】
等級指定:D~
固有変化:時間経過で挿絵の表現技法が変化
特殊制限:探索者は火属性・雷属性の攻撃不可/地図消失
帰還魔法:使用不可
帰還装置:無し
最高到達:第21頁 逆さ森の魔牢獄
安全地帯:緑光の泉/夢降る騎士の丘/忘れじの花畑 など
【ダンジョン大図鑑抜粋】
ヒュブクデールの領域にある小規模なダンジョン。
かつてヒュブクデールが取り込んだコアダンジョンであり、特殊な結界でダンジョンコアを封じ成長を止めている。表紙を除いた全21頁からなるこのダンジョンは、すべてが挿絵になっており写実的なものから子供の落書き、抽象画であったりと様々。さらにそれらが一定時間で変化していく。頁を跨ぐ場合は状態異常を付与する文字の上を進む必要がある。また、魔物がただの挿絵なのか襲ってくるのか分かり難く、ドロップ品や宝箱の中身はダンジョンから脱出するまで本物かどうか判別できない。このダンジョンでしか出現しない魔物やアイテムも多く、リターンスペルが使用できないダンジョンでもある。
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【名称】レグルスの道標
【分類】魔法具
【属性】星
【希少】★★★★
【価格】-
【ロポリスのコソコソ話】
小型種族の王や幼君がいる場所へ導いてくれる美しいコンパスよ。どんな手段で存在を隠されていた場合でも、それが所持者の力量以上でない限り必ず導いてくれるわ。でも正しい使い方は別にあるの。この魔法具の裏には獅子型魔物が描かれてるんだけど、その魔物の心臓を魔法具に捧げれば、1度だけ望みが叶う場所へ導いてくれるのよ。ただ、導いてくれるだけで望みが叶うかどうかはその場所へ行ってみないとわからないけどね。獅子型魔物の絵は日によって変わるから少し面倒臭いのよね。