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122話 ブラウンスライムパイ

本文と後書き修正

 うへぇ……草人を手伝うってドリアードがじゃなかったのかよ。どうして俺の魔力が消費されるんだ。それも1/3くらい減ったぞ。


『シャキッとしろよアルフ。いつまで私の根に張り付いているつもりだ?』


「俺の魔力が消費されたのは納得できない……」


 魔力を一気に消費したせいで怠いんだよ。もう少しくらいこの柔らかい木に寝転がっててもいいじゃないか。


『草人が絶滅しそうだって心配をしてただろ? そうならないようにしてやったんだ、アルフのためにな。だからアルフの魔力で私が回復するのは当然じゃないか』


 目の前に、にょきっと生えてきたドリアードが鼻をピンっと叩いてくる。


「そんなことは言ってない」


『言ってないが、考えてただろ? アルフは顔に出やすいからな。最も優しい特級精霊の私が察して行動してやったんだ』


「ふはっ」


『どうした?』


「ロポリスも自分のことを最も優しい大精霊だって言ってたからちょっと面白くて」


 なんだろう、そういう言い回しが精霊の間で流行ってるんだろうか。


『ロポリスが? 冗談きついな。あんな残酷なやつ大精霊の中でもそういないぞ』


 残酷? ロポリスが? 怠惰の間違いじゃなくて?


『な~に、私の悪口?』


 噂をすればなんとやら、ロポリスがコルキスたちを伴ってやって来た。


「ち、違うよ」


『ふーん……』


「げぁ~」


 木の網目から入ったグルフナが俺にすり寄ってくる。


 ルトルは……あ、ルトルは飛べないからディオスと一緒か。ただ体内ではなくちょっと格好良い感じで絡み付かれていて、とても絵になっている。


 おまけにラグスノートがディオスに対抗しているつもりか、精一杯身体を伸ばしてルトルに巻き付いている。もちろん格好良い感じで。あの格好良さ、ちょっと羨ましい。


「ねえ兄様、地上の死にかけた草人たちはどうするの? 放っとく?」


 ドリアードの根っこからやや離れた場所でコルキスが声をかけてきた。


「う~ん……」


 生きているなら助けたい。


『助けたいと思ってるだろ』


 ドリアードがしたり顔で見てくる。その通りだよまったく。


『よしっ! じゃあ特別に私の葉を分けてやろうじゃないか!』


『よっ、太っ腹! じゃあ私は寝るからご飯時になったら起こして』


 雑にドリアードを太鼓持ちしたロポリスがもぞもぞと鞄に入っていく。やっぱり残酷っていうのは想像できないアホそうな動きだ。


『また落とされたくないなら、さっさと出て行くんだな』


 ドリアードが木の網目を大きくして促してくる。あんな怖い思いは二度とごめんだ。


「コルキス」


 いつもコルキスが抱っこして欲しいときにやる、両手を広げておねだりする仕草を真似てみた。


「くふふ、それ子供みたいだよ」


 可笑しそうに笑ってコルキスが俺に抱きつく。あの不完全変身の尾も出してくれている。


「あ、待って。全快は無理だけど魔力を回復してあげるね」


 さっきと同じように尾の上に立とうとしたら、コルキスがかぷっと首筋に噛じりつき吸血を始めた。なんとみるみる怠さが消えていくじゃないか


「けぷっ。これで良しっと」


 吸血の仕組みってよく分からないけどこれは本当に助かるな。


「ありがとう」


「いいよ。ほら行くよ兄様」


 少し照れたコルキスが浮かび上がって根っこの外に出た。心なしか、いそいそとしているコルキスから地上へ視線を移すせば、無数の瞬く光が地平線の向こうまで広がっているの見えた。


「壮観だな~。もしかして、あの光ってるのが全部が草人なのか?」


『そうだぞ。じゃあ久々にやるか。アルフ、しっかりコルキスに捕まっとけよ』


 ドリアードの声がする方へ振り返る――え? えぇぇぇぇ!?


 なんで元々の木の姿になってるんだ……ってそういや葉っぱを分けるとか言ってたな。にしても前に見たときも巨木だったけど、さらに10倍くらい巨大になってるじゃないか。


『たぶんアルフの魔力が全部無くなるから、落ちないように気を付けろよ』


 魔力が全部? ちょ、待って――


 制止は間に合わなかった。ちょっとした小屋より大きくて緑色の美しい葉がばっさばさと舞い落ちて、地上付近で緑の粒子となって遥か遠くまで広がっていく。


「うわぁ、すごーい!」


「草人の魔方陣も凄かったですが、これも壮大な景色ですね」


「ギュギ!」


 コルキスもルトルもグルフナもディオスもラグスノートもドリアードの葉に見とれている。


 でも俺は――


「うぷっ、おえぇぇ………」


 ドリアードの言った通り魔力が空っぽだ。最悪。気持ち悪い……おげぇぇ。


「わっ、兄様汚い。吐くなら地上に向かって吐いてよ」


 弟が冷たい。まあ知ってたけど。


「大丈夫ですか?」


「ギョグガー」


 ごめん。ちょっと無視する。ルトルとグルフナの優しい声すら煩わしく感じられるんだもん。


 確かロポリスがかっさらっていった宝石グミの中に、魔力を大幅に回復できるのがあったはずだ。こんなときこそ使うべきなのに、ロポリスは寝ている。鞄を叩いて起こそうとするも、全然反応がない……も、もう無理。


 俺は吐瀉しながら意識を失ってしまった。






 ##########






「あ、起きた」


「起きたね」


「アリュフ様カッコいい」


「コリュキス様を呼んでくりゅ」


 ん? 


 目をあけると、動く緑色のものが見えた。パタパタと聞こえる足音が遠くなっていく。


 俺を覗き混んでいるのは……草……人?


 いや少し違うな。小柄だし顔は葉っぱや草でできているけど、それはそれは美しい緑色のローブのようなもので体ができている。ベッドから起き上がってよく見ると、それはドリアードの葉っぱにそっくりだった。


「アリュフ様ありぃがと」


「僕たち草人は生まりぇ変わったの」


「ドリィアド族って名前をもりゃったのよ。見て!」


 女の子っぽい1人が、嬉しそうにクルっと回って全身を見せてくれる。すると光る小さな葉っぱが数枚、ふわっと舞って消えた。


「綺麗だ」


「でしょ!」


 俺の言葉を聞いたドリィアド族は誇らし気に笑った。


「やっと起きた」


「大丈夫ですか?」


 さっき走って行ったドリィアド族に連れられて、コルキスとルトルがやって来た。


「うん、大丈夫。それで……色々聞きたいけど、先ずはコイツらは何だ? あとここはどこ?」


「これは草人が進化したドリィアド族で、ここはモネールの家だよ」


「本当に良かった。アルフ様は2日も寝ていたんですよ」


 他にも気になることを聞くとコルキスが教えてくれた。


 先ずドリィアド族。大規模魔法に参加した草人が、ドリアードの力で進化した新しい種族。全部で9人しかいない。驚いたのは進化したのが9人ではなく、25,371人が超倍増で10万倍に増えた草人が融合して9人になったということだ。


 次いで草人たちの目的。それはアノアアオムシの駆除と探し人を発見することだった。


 実はアノアアオムシの被害を食い止めるため、隣国の草人たちが勝手に異世界からアノアアオムシを殺す”勇者”を5人召喚したらしい。その召喚の為に110,042人の草人が犠牲となった。


 しかし、5人は逃げ出してしまった。5人がヒュブクデールのスライム平原に逃げ込み、突然風変わりなスライムに変身したところまでは目撃者がいたがそこからは消息不明。


 そこでヒウロイト王国の草人へ捜索要請がきた。半ば脅迫のような要請だったが、唯一アノアアオムシの被害を受けていないヒウロイト王国の草人たちは、後ろめたさや同族の苦しみを取り除きたい思いもあって快諾。


 だが、捜索するも勇者たちは見つからず困り果てていた。そんなときに、俺の店でスラポルタの苗木を見付けたと報告が入る。


 事態を早くどうにかしたかった草人たちは、大規模魔法でスラポルタ木を《スライムに変じている者を元に戻す》《アノアアオムシをスライムに変じさせる》という効果に変質させることにしたらしい。


 巨大魔方陣に馬鹿みたいな量の魔力が必要な転移を組み込んでいたのは、変質させたスラポルタの木をアノアアオムシの被害が出ている大陸全土に転移させるためだったとか。


 結局、魔力が足りずに失敗しかけたが、先の通りドリアードが手助けしたのと魔力だけでは色々足りなかったから、超倍増の対象に草人たち加えそれらを賄ったお陰で成功。スライムは別として、確実にアノアアオムシがスラポルタの木を潜るようにもしたらしい。


 んで死にかけていた草人たちを助けるついでに、ドリアードが思い付きで草人を改造、もとい進化させたと。


 ちょっと待て。


 今、怖いことに気付いてしまった。だってそうだろ。大規模魔法の手助けで減った魔力は、俺の最大魔力の1/3って感覚だった。そこからコルキスに回復してもらったとはいえ、25,371人の10万倍に増えた草人たちを改造できるなんて……


「コルキス。俺の最大魔力って今どれくらいなんだ?」


 恐る恐る聞いてみた。するとコルキスが手招きしてくる。ベッドの端に移動すると、そっと耳打ちしてきた。


「だいたい4500万だよ、凄いね。本当はあともう5万あるけど、兄様にとって5万なんて誤差の範囲でしょ?」


 最大魔力4500万!? 5万が誤差の範囲!?


 え、何だそれ……Sランクのドラゴンでさえ魔力は300万くらいだって母上が言ってたぞ。


「他に聞きたいことは無さそうだし下に行こう。ちょうどお昼ご飯食べてたんだよ」


 愕然とする俺の手をコルキスが引っ張る。


 お腹は空いてる。けど、このまま皆の前に出るわけにはいかない。なぜなら俺は寝間着。死んだとことになってるとはいえ一応まだ王族の感覚はある。それに髪も寝癖がついてるっぽいし。


「着替えさせてくれ」


「それなら私が」


 ルトルがスッと着替えを出してくれる。


「じゃあドリーたちは先に下へ行ってて。ぼくたちは兄様と一緒に行くから」


「はい、コリュキス様」


 コルキスと俺に礼をしてドリィアド族が部屋から出て行った。1人だけ俺と一緒にいるんだとやたら粘っていたが、他のドリィアド族たちに引きずられていった。


 ドアが閉まると同時にルトルが俺の服を脱がせ始める。


「えっと着替えさせてくれって言ったのは、ルトルにやってくれって意味じゃないんだ……」


 自分で着替えるって意味だと言っても、ルトルは自分がやると譲らなかった。まあ身の回りのことを任せるって仕事を頼んだからそうなるか。


「そういえば兄様自分の最大魔力を聞いて驚いてたよね? なんで?」


 フンスフンスとやる気の凄いルトルに促され、シャツに手を通していたらコルキスの質問がとんできた。


「ヴァロミシアと戦った後で卵を孵化させてたときだって、魔力を2000万くらい使ってたのに……普段から非常識な量の魔力を使ってヘラヘラしてるくせに自覚ないの?」


「え、あのときそんなに魔力を使ってたのかよ。つかヘラヘラってなんだよ。俺はいつもシャキッとしてるだろ」


「してるよ。兄様はヘラヘラしてばっかりだもん」


 魔力をたくさん消費してる自覚はある。だけど、細かくどれくらい使ったとか考えるのが面倒なだけだ。


「魔力量に関しては、ちょっと、まあまあ、けっこう、たくさん、くらいしか考えてないな。あと絶対ヘラヘラなんてしてない」


「……そんなテキトーさでどうしていつも必要量ピッタリに魔力を消費できるの? なんかズルいよそれ」


 ズルいって言われてもなぁ。魔力操作っていうか自分の魔力感知っていうか、そういうのだけは自信あるんだよ。


 コルキスの向けてくるジトッとした目には、ズル以外にもヘラヘラのことも含まれてそうだけど、なにも言わなくなったから俺の勝ちだな。


「アルフ様はいつも凛々しく愛らしい顔をされてますよ。この服もお似合いですし。あとは寝癖を――」


「グエィ」


「あっ!?」


 いつの間にか隣にいたグルフナが俺を触手で一瞬だけ覆った。どうやら寝癖を整えたっぽい。嬉しそうな雰囲気で俺にくっついてくる。


「へえ、グルフナってそんなこともできたんだ」


 ころっと表情を変えたコルキスはグルフナに興味が移ったらしい。対してルトルは不満顔になった。自分が直したかったようだ。


「じゃあ行こっか」

 

 コルキスに手を引かれ1階に降りると、モネールが人目を憚らずドラゴニュートとイチャついていた。が、ドリィアド族が無関心もいいとろこなので、俺も気にしなくていいのかもしれない。そもそもここ、モネールの家だし。


 それよりも俺はロポリスとドリアードに物申したい。何故か感じの悪い人形に入り、顔を器に突っ込んで食事をしている。


「うわぁ……」


 一瞬顔を上げこっちを見た人形は、頭がぱっくり放射状に割れていた。コルキス曰く、グルフナのモグモグを参考にしたらしい。


 何をトチ狂ったのか知らないが、全くもって意味が分からない。食べるなら普通に食べればいいのに。


「もう大丈夫なの?」


 モネールがドラゴニュートの膝の上から声をかけてくる。


「ああ、迷惑かけてすまない」


「いいのよ。あなたがいなければ、ヒュブクデールはもっと被害を受けていたんだし。なにより、父さんと妹たちを守ってくれてありがとう」


 おん? いったい何のことだ?


「とりあえず座ってくれ。腹が減ってるだろ? 食べながら話そう」


 ドラゴニュートが尻尾を使って席を勧めてくれる。


『あ、ちょっと! 私、まだあれが――』


『私もだ、あれを――』


 俺が席に座るとさっき引きずられていたドリィアド族が、感じの悪い人形を鷲掴みにして持ってきた。


「アリュフ様。アリュフ様のアイテムボックスに食事を入りぇてありゅよ。好きなのを食べて」


「あ、ありがとう」


 そういえばそんな話をしたな。照れ臭そうに、でもニコニコ笑っているドリィアド族から人形を受け取る。


『ちょっとアルフ! あれよあれ、あれ取って!』


『次はステーキだろロポリス! アルフ、早くステーキを取れ!』


 人形の中に入っているロポリスとドリアードが、口喧しく指図してくる。頭はそのままに手足を動かしてるから、その……頭をカチ割られて死ぬ直前のような動きに見える。赤いソースのパスタを食べていたのも良くない。


「それ凄いね。とっても気持ちわりゅいけど、自動で動くなんて。流石クリャンバイア製だね――ふぁ!?」


 言いながら俺の隣に座ろうとしたドリィアド族だったけど、サッとその席を奪ったコルキスに、口をあんぐりさせている。


「こっち――」


 あんまりにもショックを受けた顔をしてるから反対の席を勧めようとした。でも今度はルトルが座ってドリィアド族ににこりとする。


 潤んだ目を向けてくるドリィアド族を哀れみを覚える。膝にくるかとジェスチャーしたらパッと笑顔になった。が、コルキスに指示された他のドリィアド族に再び引きずられて部屋の隅っこに追いやられてしまった。


 そしてコルキスは無言で俺の前に皿を置き、何故かシャドーウォールを唱え周りから俺が見えないようにした。


『ちぇっ、コルキスのやつ余計なことを』


 ステーキステーキ煩かったロポリスとドリアードが皿の縁に立っている。


『しょうがないから先にアルフのご飯を出してあげるわ』


 人形が俺に背を向けしゃがむ――


「待て待て待て待て!! 今、どこから出そうとした!?」


『何よ、食べないの?』


『せっかく好物を取っといてやったのに?』


 精霊2人が人形の頭を元に戻し、可愛い顔で首を傾げる。口元に手を当てているのも癪に障る。


 食べるさ。でも――


「おい、その中腰を止めろ! 力んで腹と尻に力を入れるのもだ!」


「兄様諦めなよ。2人とも昨日から楽しそうに下品なことを言って計画してたんだよ」


 揺らぐ影の向こうからコルキスの声が聞こえる。


「断固拒否――あ、待て! 待てってば! 絶対駄目だぞ! そんなこと許されると思ってるぁああああああ!!」


『ほら、アルフのだ~い好きなブラウンスライムパイよ』


 ブリブリと皿に盛られた、昨日振る舞われたというパイは、ほかほかのままだった。

~入手情報~


【ドリィアド族】

草人が進化した新しい種族。

木の特級精霊であるドリアードの葉と魔力を大量に浴び、超倍増で10万倍に増えた草人が9ヶ所に集まり融合し誕生した。9人が全く違う固有スキルを持っている。大きく動くと、身体から淡く光る葉が舞い落ちる。それは数秒で消えるてしまうが、植物の成長を促す効果があるらしい。美しい緑色の葉でできたローブを着ているように見えるのが特徴的である。1人だけちょっぴり臭い個体がいる。


~~~~~~~~~


【名称】ブラウンスライムパイ

【分類】家庭スライム料理

【属性】土/植物

【希少】☆

【価格】-

【アルフの悲しみ解説】

ブラウンスライムをパイ生地に加工したパイ包み焼き。

中身は魚など海産物の場合が多い。ブラウンスライム特有の芳醇な香り、外はパリッと中はふっくら仕上げ旨味を閉じ込めている。海産物の汁を吸ったブラウンスライムはトロみを帯びるので食感の変化も楽しめる。が、今目の前にあるものはどう見ても……。色はもちろん茶色だ。うん、美味しい。美味しいけどさ……。

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