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120話  嘘の番と草人達

後書き修正。

 日が沈んで2時間が経とうとしている。元々暗かったこの場所は既に真っ暗闇の中。コルキスがはしゃぐからこのままにしてたけどもう限界だ。死ぬかもしれない。


 なぜなら闇に乗じた可愛い弟に吸血されまくっているからだ。俺とルトルの()は、逆さまに引っくり返ったってもう出てこないんじゃないだろうか。


 命を救う明かりを求めて未だ眠りこけるロポリスを全力で揺さぶる。人形の腹は食い破られたままで、あの大量に食べたオムライスはどこへいったんだろう、とは思うけど今はそんことどうでもいい。


『ふぁ~あ……あら暗い。さしずめ明かりが欲しいっところかしら』


「頼むよ」


 ロポリスはあくびと伸びをしながらルミナスバブルを使い、俺の鞄からお菓子をくすねると、あとはドリアードに任せると言ってまた寝てしまった。


 ちょっとのあいだ綺麗に光る泡を見ていただけなのに、野良猫に喰い破られた人形の腹は綺麗になっていた。


『あとは任せる、か……』


 ドリアードはグルフナから出てテーブル状の木にルミナスバブルを集め始めた。


『アルフは草花と花木(かぼく)どっちの気分だ?』


 どっちの気分? 特に今そんなの意識してないんだけど……


「うーん、草花?」


『りょ~かい』


 ちょいちょいと動かすドリアードの指に合わせてルミナスバブルがテーブル状の木に入り込んでいく。


「ああ、そういうこと。改造するのか」


 この改造っていうドリアードの特技は、材料があれば植物に思うままの性質を持たせたり好きな姿にできるんだ。まあ、例によって俺の魔力がすんごい消費されたけどな。


「なにが始まるのかなー?」


 淡く光り始めたテーブル状の木を見て、コルキスが興味津々な声でディオスに話しかけた。ルトルも俺の横でハンサムスライムを可愛がりながら見ている。


 ハンサムスライムはさっきからずっとルトルにべったりだ。今は触手をルトルの首に伸ばしてネックレスっぽい形状になっている。ドリアード曰く、ああやって首にキスをしているつもりらしい。


 つか首にキスされるとかくすぐったくないのかな。何の反応も示さずただハンサムスライムを撫でているルトルは凄いと思う。これが経験値というやつなんだろうか……俺はコルキスに吸血される度にビクッとするんだけどなぁ。


『ん、ん、ん、よし、これでいいか』


 ドリアードが手をパンッと叩いた。と同時にテーブル状の木が弾け飛んで光る木片がそこら辺に散らばった。


「うわっ!?」


 コルキスがビックリしている。ヒストリアで確認しなかったのかな。いや、もしかしたらドリアードはコルキスにヒストリアで自分を探ることを許可していないのかもしれない。


「凄いですね」


 飛び散った木片から植物が生えてくる様子にルトルが目を見張っている。俺もだ。それからそれは50センチくらいまで伸びると青白い蕾をつけた。


『よーし、完成だ』


「わぁ、綺麗だねディオス」


 連鎖するように蕾が開き、儚げな花から光る泡がポンッポンッと小さな音を立てて浮かび上がっていく。花自体もうっすら光を帯びていてとても幻想的だ。


「弾けると魔方陣ができる泡もあるんですね」


 へえ、そんなのもあるんだ。どれだろう?


『よく気付いたなルトル。たまに弾けた泡が植物魔法の魔方陣を描くようにしてあるんだ。あれを模写すれば魔法のスクロールとして使えるんだぞ。チャンスは2秒しかないけどな』


 悪戯っぽい笑顔でドリアードが教えてくれる。


 魔方陣って複雑なのがお決まりだ。2秒なんてチャンスとは言えないだろ……これは何かの罠かもしれない。


「名前は何て言うの?」


 コルキスが光る花を突つきながらドリアードに聞いている。

 泡が浮かび上がる瞬間を狙っているようだ。


『そうだな、ドロセラフォスフォレセントなんてどうだ?』


「きっと素敵な意味なんでしょうね」


 ルトルは光る泡を食べようするハンサムスライムを嗜めながら呟いた。でも、俺は違う思いだ。たぶんコルキスも気付いたんだろう、立ち上がってドロセラフォスフォレセントから離れて行った。


「被害は少ないんだろうな?」


『長居すると体力を吸いとられるくらいだ。気にするほどのことじゃない』


 ……そうかよ。

 俺は草人(グラース)を待つのはあと少しだけにしようと決めた。




 ##########




 結局、草人をは戻って来なかった。いや、戻って来てたのかもしれないが間に合わなかったんだろう。


 あれから30分待ってみたけど誰も来ず、俺たちは店仕舞いにした。一応、置き手紙をしてある。もしまだ買う気があるなら早朝に宿へ来て欲しいと。


「兄様と寝るの久しぶりだね」


 含羞(はにか)んだコルキスがベッドの上で枕を整えている。


 夕飯に俺の血液ソースをかけたオムライスが出てきたコルキスはご機嫌だ。ロポリスとコルキスがオムライスオムライスって煩いから、仕方なくルトルに作ってもらったんだ。確かに美味しいけど気に入りすぎだろ。


 てか、久しぶりではないだろ。一緒に寝たのは一昨日じゃないか。


「私は外でもよかったのですが……」


 ルトルはまだそんな事を言うのか。


「コルキス、ディオスとグルフナで……」


「うん、いいよ。ディオス!」


 よし! グルフナも昨日みたいにルトルをこっちへ引っ張って来るんだ!


「ギゥ!?」


 が、グルフナとディオスは伸ばした触手を止めた。


 ハンサムスライムがルトルの前に立って何かのポーズを決めている。なんだろう、守ってるつもりなのかな。


 しかしこうして見ると俺もコルキスもルトルも全員がグニュグニュした魔物を側に置いてるんだと改めて思った。


『おお! それがカッコいいポーズか!』


『確かに規格外ねこれ。そりゃ野放しにはできないわ』


 ドリアードとロポリスが森の水をがぶ飲みしながら笑っている。俺ものほほんと見ていたけど心中は穏やかじゃなくなった。だってステータスが836万倍になってるんだろ?


『何て顔してるんだアルフ。アイツはちゃんと私の支配下にあるから心配しなくてもいいぞ。ま、そんなことしなくてもアルフとルトルに危害を加えたりしないだろ。なんせ(つがい)認定済みだからな』


 は? 番……認定済み……だと? スライムの……番………俺が?


『1000回以上もお見合いを失敗した結果、番がスライムですって? なにそれ、面白すぎるじゃない。早くジールに知らせなきゃ』


 それは絶対止めてくれ! 母上にそんなの言わなくていい!


『しかも2番さんだ』


『ぶふぅ! ちょっと止めてよドリアード……く、苦しい』


 森の水を吹き出したロポリスが笑い転げてる。


 ふん、別に笑いたきゃ笑えばいいさ。そもそも魔物との番だなんて嘘に決まってる。それに見合い1000回は言い過ぎだ。100回くらしかしてない。


「ぼくだけ仲間外れ」


 何故かコルキスが不満そうだ。スライムの番とか言われて何が嬉しいんだよ。


『コルキスはあれだ。将来に期待って感じだろ。ショタはお好みじゃないんだとよ』


「ぼくショタじゃないもん!」


 ショタ? なんだそれ? 


 やけにコルキスがむきになっているけど……


「ショタってどういう意味なんだ?」


「知らないよ! でも絶対悪口だよ!」


 意味も分からず怒ってるのか。


『そういうところがショタなんだぞ』


『異世界語で未成熟な少年って意味よ、今のコルキスはそのまんまじゃないの』


「違うもん!」


 コルキスは頬っぺたを膨らませてディオスに抱き付いた。


 うーん、俺もロポリスに賛同かな。どう見てもコルキスは子供だよ。昼間だってスライム遊びなんかしてたしさ。


「ラ、ラグスノート……俺は大丈夫だよ。ディオス様もグルフナ様も俺に優しくしてくれるから。勿論、アルフ様やコルキス様、精霊様方もな」


「ラグスノート?」


 ルトルの言葉の中に聞き慣れないものがあった。それに……


「は、はい。私はこのスライムをラグスノートと呼んでいるんです。いけませんでしたか?」


「それは、いいよ」


 そう、それはいいんだよ。俺が気になっているのはそれよりも……


「なんでラグスノートには素の喋り方なんだよ!? ズルいぞ、俺にもそうやって話してくれよ!」


 俺はなんだか悔しくてルトルの方へ行く――ことはできなかった。


「兄様はぼくと寝るの!」


 コルキスが後ろから俺をがっちりホールドしてきたのだ。


「私は先に休ませて頂きます!」


 あ!! ルトルめ、ラグスノートを抱き締めてベッドに潜り込みやがった。くっそう、どうして俺にはずっと敬語なんだよ……友達なのに。


「ぼくたちも寝るよ。ほら、お布団に入って」


 コルキスが……いや、ディオスが布団を捲って待っている。


「はぁ、わかったよ」


 明日はルトルに素の喋り方をしてもらおう。絶対だ。俺は決めたぞ。


「じゃあロポリスたちも早く寝ろよ」


『まだ寝られないわよ?』


「そりゃあ昼間にあれだけ寝ればそうだろよ」


 明かりを消したコルキスも布団にもぐりこんできた。足元から。不思議に思っていると俺の体を這い上がり、ばあっと顔出す。くそっ、可愛い。


「くふふ。おやすみなさい兄様」


「ああ、おやすみコルキス」


 相変わらず俺の胸の上で寝るコルキスの頭を撫でて目を閉じる。


 …………なんだ? 凄い数の足音が聞こえてくる。


「あった」


「本当にここなの?」


「うん。ここに泊まってりゅて書いてあった」


 この喋り方は買い物に来た草人? なんでこんな夜中に?

 

『おーおー、団体様のお出ましだぞ』


 ドリアードが勝手にドアを開けて姿を消す。ロポリスは人形に入ってニヤニヤ顔だ。


「遅くなりぃました。買い物をさせて下さい」


 何の遠慮もなく部屋に入ってきた草人がぺこっと頭をさげる……それだけなら可愛かったかもしれない。


「ちょ、何人いるんだよ」


 ルトルも飛び起きて俺の側に来た。グニュグニュ3体が草人を威嚇している。


「うわっ外にもたくさんいるよ」


 窓の外を見てゾッとした。この窓はヒュブクデールの南門に面していて、そこから明かりを持った数えきれないほどの草人がヒュブクデールの町に押し寄せている。


「これはクーデターか何かか?」


 しかも南門は派手に破壊されていた。

~入手情報~


【名 前】ウィリアム=ラグスノート(new)

【種 族】ハンサムスライム

【性 別】男

【職 業】ハンサムの守護者

【年 齢】15歳

【レベル】8

【体 力】3

【攻撃力】6

【防御力】8

【素早さ】3

【精神力】100000

【魔 力】6

【通常スキル】

 体当たり/叩く

【固有スキル】

 ハンサム/カッコいいポーズ/消化/粘液/短命/新婚気分

【先天属性】

 植物

【適正魔法】

植物魔法


~~~~~~~~~


【名称】ルミナスバブル

【分類】上級聖光魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆☆

【詠唱】ロールポナリスⅥ型魔法言語/乱文不可

【ロポリスの盗み食い解説】

発光する泡を作り出す魔法よ。アンデッド系の魔物や邪悪なものに絶大な浄化効果を発揮するわ。他にも汚れを完全に除去することも可能だし美容にもいいのよ。Aランク以下のアンデッドを一瞬で浄化できる威力だから、美容目的なら月1くらいにしといた方がいいわよ……あら美味しい。アルフったらこんなお菓子を隠し持ってたなんて薄情だわ。こっそりおかわりしようかしら。


~~~~~~~~~


【名称】ドロセラフォスフォレセント

【分類】食人植物

【分布】ヒュブクデールの町-名も無き裏路地の空地

【原産】ヒュブクデール

【属性】植物/聖光/闇/月

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ドリアードのドヤり解説】

夜に花を咲かせ、花から燐光を放つ泡を無数に浮かび上がらせる新しい植物だ。弾けた際に植物魔法の魔法陣を形作る泡も混じっているが2秒で消えてちまうよう調節してやった。それらは大変幻想的な光景を作り出し見たものの足を止め、その隙にこっそり体力や魔力を吸収していく。中には精神力を吸収するのもある。少々危険だが様々な薬の効果を高める副原料になるぞ。

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