117話 美しきジュエルランク商人
後書きのオルトロス小屋を修正。
うーん、耳を触ってるのは誰だ? くすぐったいよ……
「やだ、本当にいる……」
ん? 知らない声だ。
「アルフ様。アルフ様、起きてください。お客様が来ましたよ」
お客様……はっ!?
「ごめん、寝てた……んんー!」
ルトルから離れて伸びをする。いったい何時から寝ていたんだろう。
「あの、ここってお店……なのよね?」
遠慮がちに声をかけてきたのは浮かんでいる女性だった。正確には魔書から上半身だけをだしている。ミラ兄様ゴードン兄様と同じグリモアニアだ。
この人の魔書凄く綺麗だ。それにすごくお洒落。
「アルフ様?」
「あ、はい。そうです。お店です」
グリモアニアに見とれていたらルトルに肩を叩かれた。
「もしかしてグリモアニアを見るのは初めてかしら? だとしたらようこそ、グリモアニアの町ヒュブクデールへ。私はモネールよ」
俺の無遠慮のせいか恭しい仕草でお辞儀をされてしまう。
「ものすごく綺麗だったので見とれてしまいました。こちらこそ、ようこそお越し下さいました。何でも屋アルコルトルのアルフです。こちらはルトルです」
ルトルがペコリと頭を下げる。
実はルトルが加わったから店名も少し変えたんだ。コルキスは少しムッとしていたけど、一緒にやるんだからと押し通した。
代償として吸血は勿論、今日はコルキスと一緒に寝ることになった。つまりルトルに全身を揉み解してもらえない……楽しみにしてたのにな。
「今日限定の掘り出し物屋とか、何でも屋アルコルトルこっそり営業中とか、美しきジュエルランク商人、なんて胡散臭い謳い文句ばかりで不安だったけど……その通りかしら。商品はどこ?」
モネールが目を細めて言う。
ん、最後のは知らないぞ……まさかコルキスか?
でもまあモネールの言う通りで、商品は並べていない。いや、正しくは隠してある。
「盗難対策ですよ。こちらへ」
「よくもまあこんな場所見つけたわねって所にいて、さらに盗難対策。成る程、面白いじゃない」
モネールは小さく頷き俺の隣へ来る。
「さあ、どうぞ」
俺は何もない空中に手をやりドアを開けた。そしてパーティー招待客を招き入れるようにしてモネールを店内に通す。
「っ!? なにこれ……」
ふふふ、驚いただろう。これは隠れ物置小屋という見えない小屋だ。ミステリーエッグの卵から出てきたアイテムで、手の平に乗る大きさからオルトロス小屋くらいまで自由自在。寝泊まりするには設備が整ってないけど、こういう店舗としてはとても便利。
それに今回は陳列にも力を入れてある。とにかく、全てが美しく見えるように並べたんだ。向かって左側がコルキス担当、右側がルトル、そして中央が俺だ。
「ごゆっくりお選び下さい」
モネールの邪魔をしないよう入り口横に作ったカウンターに入り椅子に座り、必要があれば声をかけてもらうよう伝える。
たまに商品を選んでる最中に声をかけてくる店員がいるけど、俺はそういうのが大嫌いだ。だからしない。
「ええ!? 上級治癒薬が共通銀貨2枚!? 嘘、こっちはシーキャッスルの魔力結晶体とレッサーガルーダの卵ですって!? 両方クランバイア金貨40枚ってどこの馬鹿がこんな値段をつけたのよ!」
えっと、そのハイポーションは左側だからコルキスだな。レッサーガルーダの卵はルトルだ。で、シーキャッスルの魔力結晶体は俺……馬鹿って言われた。
「ほ、掘り出し物ですので。今日限定の……」
「偽物なんじゃないでしょうね?」
モネールが胡乱な目で見てくる。
「ジュエルランク商人が偽物を扱うわけがありません」
少しイラッとした俺は冒険者兼商人ギルドの登録証を見せた。
「その宝石は……本当にジュエルランク商人なのね。へえ、冒険者としてもDランクじゃない。種族は人間、ね」
モネールは俺の登録証をまじまじと見ている。
「悪かったわ。あなたを信じるわ。でも本当にこの値段でいいの? 安すぎるわよ?」
「構いませんよ。独自のルートで仕入れているので、その値段でもしっかり儲けがありますから」
ほぼミステリーエッグの卵から出てきたアイテムだから、ボロ儲けもいいとこなんだよな。だから正規の値段で売るのは憚られる。毎度のことだけど経済のうんたらがとかは無視だ。
「アルフ様、お客様がいらっしゃいました」
モネールが落ち着いて商品を選び始めた頃、小屋の外からルトルが声をかけてきた。
「ありがとう。案内してくれ」
返事をしてほんの少し間があってから小柄な草人が顔を見せた。
「すごーい!」
商品を見た草人がパタパタと小屋の中を駆け回り始める。
「安い! こりぇも……あ、ありぇも! ねえそこのドブス、ありぇ取って!」
草人がモネールの魔書部分を叩いて言った。
「……は? ドブス? それは私のことかしら?」
額に血管を浮き上がらせたモネールが火魔法を草人の周りに展開させた。えらい迫力で草人を睨んでいる。
おいおいおい、店内で火魔法とか勘弁してくれ。
「ちょ、モネール!?」
「ありゃ? 怒ってりゅ?」
草人はキョトンとして首を傾げている。
「あ、そうか! あのね、ドブスは草人の言葉できりぇいなお姉さんって意味で、目が潰りぇるほど醜いって意味じゃないよ」
「そ、そうだよ。モネールは凄く綺麗だ。種族間の些細ないき違いで魔法攻撃は良くない。そんな野蛮なことは美人のモネールに似合わないよ!」
俺は慌てて草人に加勢した。店内で火魔法だなんて、火事になったらどうするんだよ。しかも草人の弱点でもあるのに。
「あら、そう? もう。言葉には気を付けなきゃダメよ、ぼくちゃん。あとアルフだっけ? その喋り方の方が親しみが持てるわよ。冒険者同士、ね」
モネールはコロッと表情を変えて魔法を消し、草人に言われた物を取ってあげた。そして俺には冒険者登録証を見せてウィンクする。へえ、グリモアニアの冒険者登録証は本が捲れてる形で石は紫色か。
「うぅぅぅ。手持ちのお金じゃこりぇが精一杯だよぅ」
草人が残念そうに選んだアイテムを精算しに来た。ポーション系と薬草系に植物系魔物の素材を中心に選んである。安いとはいえ量が量。それなりに高額だぞ。
俺も人のことをとやかく言えないが大金を持ち歩いてるんだな。しかも大容量のマジックバックまで……。
「今日だけだよね? 今日の何時まで?」
俺のズボンを引っ張って聞いてくるのがなんだか可愛い。
「日が沈んで1時間したら閉店かな」
「むむむ……あのね、ちょっと遅りぇるかもしりぇないけど、絶対また来りゅから待てて! ありぇは売りゃないでね!」
草人は早口で言いきると走り去ってしまった。
「待てて、か……」
可愛い。
俺は草人が売らないでと言った苗木を棚から下ろす。たぶんニヤニヤしていると思う。
「ちょっとー? 私も精算したいんだけど」
「あ、ああごめん」
モネールは上級治癒薬と対物理攻撃薬を50本ずつ、イギンの栞、サクリファイスピアス、モジェダスチョーカーをお買い上げだ。
「これだけ買ってもこの値段……私も家族を連れてまた来るわ。父がテイマーなのよ。だからレッサーガルーダの卵は取っておいて。あとシーキャッスルの魔力結晶体もね」
「了解。待ってるよ」
「ふふ、やっぱりその方がいいわ。美しきジュエルランク商人さん?」
モネールも急いで帰って行った。
それにしてもコルキスやつ、いったいどんな宣伝をしてるんだよ。
「皆様にお茶を淹れたのですが……帰ってしまいましたね」
小屋を出るとティーセットを持ったルトルが困り顔で立っていた。
「また来るみたいだから。そのお茶は俺たちで飲もう。次のお客さんが来るまでティータイムだ」
「はい」
ルトルが俺に背を向けて歩きだす。
どうしてか分からないけど無性にその背中を抱き締めたくなる。オムライスを食べてからどうにも変だ。何か特別な効果があったんじゃないだろうか……。
「え?」
ルトルが何かに驚いている。
「よーアルフ。今からお茶か? ならエピーダの樹液とか入れたらどうだ? たぶん旨いぞ」
この声は……ドリアード!?
「ちっ、この箱固いな」
樹木を司る特級精霊のドリアードが木箱を優しく蹴った。すると木箱がにょくにょく動き始め変形する。小さな木から大きな卵を縦半分にしたような物がぶら下がっている……なんじゃこりゃ。
ポカンとする俺たちを尻目にクッション代わりだと、ドリアードが自分の手からフカフカンリーフを生やして千切っていく。
「……あ、ドリアード!! え、もう交代なの?」
突然のドリアードに驚いて声をかけ忘れていたけど、ハッと我に返った。
「ラズマとな。あいつ、大精霊になったってのにいきなりアドロススルのババアからお説教だろ? 長引くみたいだから私が来たんだ。予定より長くアルフと遊べて嬉しいぞ」
ドリアードが頭をくしゃくしゃ撫でてくれる。
「俺も嬉しいよ! そうだドリアード、俺ついに精霊以外の友達ができたんだぞ。ルトルっていうんだ」
何が起こったか分からず固まっているルトルをドリアードに紹介する。どさくさに紛れて背後から抱き付くようにだ。
「おっと……せっかくのお茶が台無しになるところだったじゃないか。嬉しいのは分かるけど落ち着けよ」
ルトルが落としそうになったティーセットをドリアードが受け止めてくれる。そして爪先で地面をぐりっとする。おお、テーブルの形をした木が生えてきた。縁から垂れる葉っぱもテーブルクロスのみたいだ。
「も、申し訳ありません!」
「たいしたことじゃないから気にするな。それよりお前、アルフの友達なんだよな? 何で敬語なんだ? それに……」
「ルトルは長い間奴隷だったから敬語が染み付いちゃってるんだって。今は少しずつ慣れていってるとこ」
「はーん、そうなのか。ま、座れ座れ。私特製の揺れる椅子だぞ」
おどおどするルトルにも改めてドリアードを紹介して、2人と俺の関係をそれぞれに伝える。
初めは口数の少ないルトルだったけど、ドリアードの気さくさのお陰か段々と喋るようになった。
「うぐぅっ!?」
ドリアードに会えたのが嬉しくて油断していた。
何の警戒もせずにお茶を飲んでしまった。あらかじめ聞かされていたのに、エピーダの樹液が混入されたお茶をだ。これまでの樹液入り茶の中で5本の指には入る……。
俺を見たドリアードが爆笑して次はお前だとルトルに飲ませようとしている。
そうだな。この味を俺だけが堪能しては勿体ない。
俺はドリアードを止めなかった。
~入手情報~
【ヒュブクデール】
グリモアニアが多く住んでいる町。
丘陵地帯の広々とした谷のような地形だが、実は町自体が寿命を全うした巨大なグリモアニアであり、亡骸の魔書から町が生えている。土地の魔力を活用して町を維持しており、留まった場所が荒れないよう定期的に移動している。また、特殊な魔道具を持っていない場合、一定の距離まで近付かなければ発見する事ができない。
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【草人】
草や葉でできた身体をもつ種族。
火や雷に触れると燃え上がって死んでしまう。それ故、常に薄い魔法障壁で身体を覆っている。葉っぱ1枚に魂を凝縮し、残りの葉を全て強化して攻撃する雑草魂という固有スキルを持っているらしい。食べた草や植物の葉が身体になる。
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【共通銅貨】
冒険者ギルドが価値を保証している仮想通貨。
正式名称はヒウロイト銅貨といい、冒険者登録証に記録される。ヒウロイト王国及び冒険者ギルドで買い物をする際にも使用できる。また、世界中の冒険者ギルドで、任意の国の通貨に両替できる。レートは日々変わるので損をしないように気を付けた方が良い。
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【名称】オルトロス小屋
【分類】使い魔の家
【属性】住まわせる個体と同じに設計
【希少】☆
【価格】クランバイア金貨150枚
【アルフの非常識解説】
ただの犬小屋。
ちょっと狂暴だけどアホっぽくて可愛い双頭の犬、オルトロスを使い魔にすると建設するこぢんまりした犬小屋だ。ロポリスたち精霊は広くて豪華な2階建ての家って言うけど、どう見ても小さな庭付きのロッジなんだよなぁ。たった5000平米しかないんだぞ。ちなみにオルトロス1頭につき1軒必要だ。
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【名称】隠れ物置小屋
【分類】伸縮家
【属性】風/植物/無
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【アルフの聞きかじり情報】
見えない伸縮自在の小屋。
俺の卵から出てきたもので所有者と許可された者しか見ることができない。小屋の煙突から空気を出し入れすることで、手の平サイズから広々としたロッジほどのサイズまで大きさを変化できるぞ。
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【名称】上級治癒薬
【分類】魔法薬
【属性】各属性のものが存在
【希少】☆☆☆
【価格】共通銀貨2枚
【アルフの聞きかじり情報】
大怪我を治癒できる魔法薬。
俺の卵から出てきたもので、通常のものより味も効果も格段に良い。指1本くらいなら欠損してても再生できるらしい。飲んでも傷にかけても効果がある。無色透明だが少量の金の光粒が煌めいている。
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【名称】対物理攻撃薬
【分類】魔法薬
【属性】各属性のものが存在
【希少】☆☆
【価格】共通銅貨250枚
【アルフの聞きかじり情報】
一定時間物理攻撃が軽減されるようになる魔法薬。
俺の卵から出てきたもので、物理攻撃を軽減できる薄緑色の薬液だ。通常とは異なり効果が重複する。
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【名称】イギンの栞
【分類】魔道具
【属性】無し
【希少】☆☆☆☆☆
【価格】共通銀貨560枚
【アルフの聞きかじり情報】
魔書使いイギンが作り出した15枚セットの栞。
魔書に挟んでいるとそのページの魔法を1/10の消費魔力ですべて同時に発動できる。数回使用すると消滅するとのこと。
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【名称】サクリファイスピアス
【分類】召喚具
【属性】水
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨20枚
【アルフの聞きかじり情報】
生け贄を捧げることができるようになるピアス。
俺の卵から出てきたもので、あらかじめ生け贄になる者を登録しいていると、自身に向けられた攻撃を生け贄に擦り付けることができるらしい。このピアスの効果で死んだ生け贄の魂はどこかにいる悪魔に捧げられ、いつか悪魔が召喚される。なお、装備者の体液を付着させると生け贄登録完了……こんなもん売っていいのか?
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【名称】モジェダスチョーカー
【分類】モジェダス装備
【属性】火/氷
【希少】☆☆☆
【価格】共通銅貨510枚
【アルフの聞きかじり情報】
黒い2つのチョーカー。
チョーカーを装備した者同士のステータスが入れ替わる。どちらかが装備を外すと効果が切れる。
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【名称】魔力結晶体
【分類】準魔核
【属性】魔物の先天属性と同じ
【希少】☆~
【価格】共通銅貨200枚~
【アルフの聞きかじり情報】
生き物の魔力がその体内で結晶化したもの。
特に魔物に発生しやすく、進化に関係しているのでは言われている。魔道具や装備品に加工されたり、装飾品としても需要がある。先天属性等の相性がよければ魔力結晶体を取り込むことができる。
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【名称】エピーダの樹液
【分類】樹液
【属性】植物/土
【希少】☆
【価格】共通木貨3枚/1g
【アルフの聞きかじり情報】
エピーダの木の樹液。
青緑色の樹液であり、そのまま舐めると甘く美味しい。お茶に入れると味は一変、強烈な臭みと苦味酸味が襲ってくる。特殊なマニキュア等の主原料になる。
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【名称】フカフカンリーフ
【分類】シフォン植物
【分布】黄色い墓標/エデスタッツ樹海/ペール森林など
【原産】緑髪のゆりかご
【属性】植物/火
【希少】☆☆☆
【価格】共通銀貨820枚/1枚
【アルフの聞きかじり情報】
フカフカンの葉っぱ。
短い茎とフカフカした分厚い2~3枚の葉を持っているフカフカンという植物の葉である。色はベージュやピンク多い。フカフカンの近くには危険な魔物が生息している場合が多く、大変高級な葉っぱである……確かにふかふかで気持ちいいけど共通銀貨820枚は高級かなぁ。
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【種族名】シーキャッスル
【形 状】海底城型
【食 用】可
【危険度】S
【進化率】☆☆
【変異率】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【先天属性】
必発:水/植物/土/命
偶発:氷/雷/火/風/毒/影/闇/光/聖/聖光/竜/死
【適正魔法】
必発:水/植物
偶発:氷/雷/火/風/毒/影/闇/光/聖/聖光
【魔力結晶体】
すべての個体に発生
【棲息地情報】
ニャジディ湾/トレズ海/メルベクィ球海など
【魔物図鑑抜粋】
城の魔物。
シーハウスが進化の果てにたどり着く魔物。海に棲息しており城の形をしている。棲息地に近い国の城を模していると言われており、体内に自分より弱い魔物を無数に住まわせている。そのためシーキャッスルの棲息している海域は魔物が異常に多い。極めて防御力が高く先天属性の特級攻撃魔法を放ってくる他、住まわせている魔物を強化する補助魔法も得意とされる。また、非常に変異しやすいことでも知らている。